No.188548

真・恋姫†無双 北郷史 3

たくろうさん

真・恋姫†無双 北郷史 3です。

今回の策ですが実際にやるには色々と条件が重ならないといけないので割と無理めな展開ですけど気にしちゃダメよ。

カッコヨケレバイイジャナイ

2010-12-08 02:15:59 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:11642   閲覧ユーザー数:8255

「ほらほら~、もっと細かく砕いて。 粉になるまで砕かないと意味がないから。あと絶対に湿気らせないように!!」

 

「むー、風と稟ちゃんは肉体労働は不得意なんですよー…」

 

今一刀含めた街の人達は街の大広間に集められている。

皆同じように木をひたすら砕く、削る、粉状にするをひたすら繰り返している。

稟は手が疲れたのか、一旦手を休めて一刀に近付いて話掛ける。

 

「一刀殿、私には何がしたいのだかまったく分かりません。寝る間も惜しまずひたすら木クズを作り始めてからもう三日は経ってますよ。女子供問わず作業をやらせてますし…。そろそろ野盗がまた襲来してきてもおかしくないです。こんなことやってる場合では……」

 

「もう少しの辛抱だよ。大分木クズが溜まったし、これだけあればアイツ等を一掃できる。俺としてはいくら救いようのない悪党相手でもこんな残酷なことはしたくないけどね。でも手段は選んでられない」

 

「稟ちゃん、もうどうにでもなれ、ですよー」

 

風が木をゴリゴリと粉状にしながら稟をなだめる。

 

「おう、御使い様! 鉄屑と石灰っていう白い石を補充出来たぜ!!これでいいのかい?」

 

街の男が一刀に鉄屑と石灰が入った袋を渡す。

 

「おお! よくやってくれた。 これが有ると無いとでは大きく成功率が変わってくるからな。本当はアルミニウムがいいんだがアルミニウムは1807年に製造に成功した物だからなぁ……」

 

一刀は全員に鉄屑を渡してそれを木と同じように細かく砕かせる。

 

「さあみんな、もう少しの辛抱だ!! アイツ等に一泡吹かせたいと思ってるならばひたすら砕け、削れぃ!!」

 

おおぉ!!と全員が掛け声を上げる。

 

「張り切るのは良いことですが、少しは休憩なされよ」

 

星が一刀の背後に気配なく近付いて一刀が木を砕くのに使っていた石で作った道具を取り上げる。

 

「星、そうも言ってられないだろうに。返してくれ」

 

「お断りします。一刀殿は作業を始めてから殆んど寝ずの状態で作業を続けているではございませんか。戦に睡眠不足と空腹は大敵ですぞ?」

 

「でもみんな、それこそ子供だって頑張ってくれてるんだ。引っ張っていく役の俺が休憩してたら皆に示しが……」

 

そう言った一刀を星は声を出して笑う。

 

「その心構えがあれば充分です。そうでなければ皆このような意図の分からぬ作業を素直にやってはくれまい。一刀殿は充分統率者としての気構えを見せた。だから少し休んでおられよ。私が一刀殿がいない分、頑張りますゆえ」

 

一刀が星の言葉を聞き周りを見渡す。星と一刀の会話を聞いていたのか、ここにいる皆は一刀が休憩することに賛成してくれる。

 

「ああ、じゃあ有り難く休ませて貰おうかな。正直言ってもう眠いからね……」

 

一刀は肩の力を抜いた途端に大欠伸をする。皆がそんな一刀の姿を笑う。今この場には三日前にはなかった確かな生命力と活気に溢れていた。

そして翌日、一刀達の元に外の見張りをしていた男が騒がしくやって来た。

 

「ほ、報告します! 南方に煙が上がりました。盗賊達がこちらに向かって来ております!」

 

「来たか。 よし皆、ここ数日の地味な作業の成果を出す時が来たぞ!!」

 

一刀は自らの策が成功すると確信し、そして民の不安を拭い去るように心掛けて笑顔で立ち上がる。

 

「それにしても狼煙というものは便利なものですね。遠方にいる者からの情報の伝達にこうも役立つとは」

 

稟が感心の声を上げる。

 

「これは俺の生まれた国に昔いた武田信玄って名前の武将がよく使ったことで知られているんだ。先人の知恵ってやつだね」

 

と言ってもこの時代でいうなら遥か未来の人間だけど、と一刀は心の中で呟く。

そして、昔もこんなやり取りをしたな、と少しのノスタルジーを感じる。

 

「じゃあ風、稟は二手に別れて指定した位置に皆を配置してくれ。星と俺は盗賊達の真正面に行くから。あともう一度確認をとるけど三回銅鑼を鳴らしたら大急ぎで全員を撤退させてくれ。そして撤退が完了したら銅鑼を一回鳴らしてくれ」

 

「了解(ですー)」

 

二人の返事を得て一刀達は盗賊討伐に向けて出陣した。

一刀と星は、崖と崖に挟まれた狭い道の入り口からやや離れた位置に街の兵と、数合わせの為の屈強な男を布陣させている。

そして風の隊は左方の崖上に、稟の隊は右方の崖上に配置されている。そしてどちらも気付かれないように身を潜めている。

 

「風向き良し、湿度もこの地域特有の乾いた気候だから問題なし。酸素濃度は……わからないけどまあ大丈夫だろ」

 

一刀は周囲の環境を入念に確認する。

 

「一刀殿、我ら真正面からブツかる隊の兵数はわずか五百。私としてはこれはいかがなものかと思うのですが……。私だけなら生き残る自信がありますからよいですが」

 

星は一刀の兵力配分に不服のようだ。盗賊の数は約五千、一刀の隊の兵力では十倍の差がある。星がそう思うのは当然のことだ。

 

「大丈夫だよ。俺らの仕事はせいぜいお零れの清掃。上手くいけば俺と星だけで事は済む。隊はあくまで保険だ」

 

「ふむ、まあ一刀殿がそう言うのであれば私はそれに従いましょう」

 

「ああ、そうしてくれ……っと、盗賊達のお出ましか」

 

崖に挟まれた道の向こうからけたたましい音が聞こえてくる。音源は当然のこと大量の盗賊達が進行する音。盗賊は近くにいるものを押しのけてどんどん崖に挟まれた狭い道を入って行く。その様子は烏合の衆という言葉がこれ以上ないぐらいに似合っていた。

 

 

 

「やって来ましたねー。では皆さん、粉を盗賊さん達に向けて散布してくださいー」

 

風が緊張感のない間延びした声で隊に指示を出した。指示に従い風の隊の者達が袋に詰められた大量の粉を盗賊達に向かって振り掛け始めた。

 

 

 

「風が動き出しましたか。ではこちらも作戦開始。粉はムラがないように散布することと一刀殿から言づかっておりますのでぬかりがないように」

 

稟も隊に指示を出し粉を散布する。

上から振り掛け、または袋自体を崖下に落として落ちた衝撃で粉を広がらせ、後方の者が粉が入った袋を用意し前方の者が次々と粉を絶え間なく崖下の盗賊達に目掛けて散布する。それをひたすら繰り返す。

 

 

 

「うえっぷ……何だこりゃあ!?」

 

「目眩ましのつもりか!?」

 

盗賊達は突然の事態に驚くが直接害はないので進行を止めない。だから気付かない。粉が盗賊達全員を飲み込み始めていることを。粉が風に流されることなく崖下の道に滞留していることに。

 

 

 

「計画通り」

 

一刀が誰かを意識してか顔を邪悪に歪める。

 

「旅の時ここを通ってよかったよ。ここの崖下の道は真ん中に行くにつれて深くなっていくおわん型の地形。だから風が少し吹いた程度なら粉はしばらくの間滞留する。……さて、そろそろかな。あんまり粉の密度が高すぎても酸素との設置面積が小さくなるだけだし」

 

一刀はもう一度前方を確認する。そして大声を張り上げる為に大きく息を吸う。

 

「銅鑼を三回鳴らせぇ!!」

 

一刀の号令で三回の銅鑼が響き渡る。

 

 

 

 

 

「「合図が来ましたね、全員、至急撤退してください(ー)!!」」

 

風と稟の隊が撤退を始める。撤退といっても大仰なものではない。風や稟達にとってこれから起こる未知の惨事に向けて少し離れた場所で物陰に隠れるだけだ。

 

少ししてから一刀達の耳に二ヶ所から一回だけ銅鑼の音が聞こえた。

 

「よし、すべての準備は整った。 弓と火矢を一本用意。あと何か衝撃で飛んでくるかもしれないから警戒を怠らないように」

 

一刀の命令で兵の一人から弓と火の付いた一本の矢が手渡される。

それを受け取り一刀は迫り来る盗賊達に向かって矢を引き絞り構える。

 

「さて、これから見せるは天の業火。民を虐げし不届き者を浄化する炎なり。……まあただの粉塵爆発だけどね」

 

一刀は天の御使いの肩書きをより強める為にクサい台詞を言ってから盗賊達に向かって、狙いは適当に火矢を放った。

 

そして火矢が粉の雲に触れた瞬間に一瞬で粉の雲は激しく燃焼し、轟音を轟かせて盗賊たちを飲み込みながら爆発した。盗賊達は悲鳴を上げる間もなく焼き尽くされ、吹き飛ばされた。

 

 

後に残るは燻る煙と盗賊、一刀達の隊の沈黙。

 

「これは……凄まじい」

 

星は心のままに感想を漏らす。星を含めた隊の全員は、目の前で起こった一瞬の出来事に完全に呆気に取られている。無理も無い。先程まで凄まじい勢いで街に向かって進行してた盗賊たちが一瞬で焼き尽くされたのだ。

 

「ほら、何をボーっとしてるんだ。まだ残党が残っている。はやく決着をつけよう」

 

一刀は呆けている星の肩を叩く。

 

「む、承知した」

 

星は気を取り直して残党の征伐に向かう。

盗賊の残りは完全に先程の爆発で完全に闘争心がへし折られてしまっていたので一刀の言ったとおり一刀と星の二人だけで処理が終わった。

ある意味長く、そしてまたある意味短い一刀のここの外史においての初戦はこれで幕を閉じた。

街に帰還した一刀達は勝利の祝杯を上げていた。

戦いに参加した者全員が戦場で起こった出来事を家族に話している。一刀は一度潰された街とは思えない程の待遇を受けていた。

 

「御使い様!! 御使い様!!」

 

皆が口を揃えて奉るかのような言葉を一刀に送る。

一刀はそれを苦笑いで返している。

 

「さすがは天の御使い様といったところですな」

 

向こうで酒を飲んでいた星が一刀をからかい目的でおだてる。

 

「私も遠目で見ておりましたがあれは凄まじいの一言に尽きます」

 

「風もあの粉がまさかあんなことになるとは思いもしませんでしたよー」

 

稟と風も一刀の近付いて喋りかける。

 

「実際そう褒められるものでもないよ。結構あれは運とかも絡んでたからね」

 

一刀は性格からか簡単に賛辞の言葉は受け取らない。

 

「あれは一体どのような原理であんな大爆発が起こったのですか?」

 

稟は軍師として興味があるのか。すこしだけ身を乗り出して一刀に質問する。

 

「あれは粉塵爆発といってね、空気が豊富で大気中に細かい粉塵が舞っている状態で火を近づけると激しく燃焼して今日みたいな爆発が起こるんだ。炭鉱で石炭の粉末によって起こる粉塵爆発の事故がいい例になるよ。まあ意図的に起こすとなると今回みたいにいい感じに条件が揃ってないと屋外で起こすのはかなり難しいけどね」

 

「はぁ、天界というのは知識が豊富なのですね」

 

稟は素直に感嘆の声を漏らす。

 

一刀達が会話していると街の顔役である男が一刀達に近付いてきた。

 

「御使い様、実は折り入って頼みがある。ここの太守になってくれねぇか?実は先日ここらへんを治めていた官共はみんな纏めて逃げちまいやがった。頼む!俺達に頼れるのはアンタしかいねぇんだ!!」

 

男は頭を下げて一刀に懇願する。

 

「ああ、謹んでお受けするよ」

 

一刀はその言葉に何の躊躇いもなくあっさりと承諾する。

 

「ほ、本当か!? ありがてぇ!!」 

 

街の人達は一刀の言葉に歓喜する。

一刀としてはこの展開は願ったり叶ったりだ。これで一歩天下に近づいた。

「ならば私の腹は決まりましたな。一刀殿、私の槍、一刀殿に託させては貰えぬだろうか?」

 

星がこの展開を望んでいたように一刀にそう言った。

 

「いいのかい? 俺としては大歓迎だけど星はたしか公孫賛のもとで客将をするんだったよね?」

 

「いいのです。私の旅の目的は私が仕えるにたる主を見つけること。私は今日の戦で一刀殿の背中を見て直感しました。この方こそ我が主にたる人物だと」

 

星はそう言い切った。そこに何の躊躇も躊躇いもない、槍のように真っ直ぐな意思がある。一刀はその強い意思を肌で感じる。

 

「なら俺はもう何も言わない。趙子龍、君のその思い、受け取らせて貰おう」

 

一刀は星に差し出し、星はそれを握った。

 

「よろしく頼みますぞ、主殿」

 

手を握りながら星は妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

 

「星ちゃんもやはりそうでしたかー。実は言うと風と稟ちゃんもお兄さんに仕えようと思っていましたー」

 

風も一刀に仕えようと言う。

 

「理由を聞いてもいいかな?」

 

風はともかくとして稟は華琳に対して並々ならぬ敬愛の念を持っているのを知ってる一刀にはその言葉の理由がわからない。

 

「実は昨日稟ちゃんと風は不思議な夢を見たんです。日輪を支える夢です。そしてそれは曹操さんのことだと分かりましたー」

 

「……ならば曹操に仕えるんじゃないのか?」

 

これは前回聞いているので一刀は知っている。稟も同じ夢を見たことに関しては前回と違うが。

 

「実はその夢には続きがありまして。 日輪を支えていると何処か遠くから泣き声が聞こえるんです。そして周りを見渡すと独り寂しく隅っこで泣いている月がいるんです。その時思ったんです。風が手を差し伸べるべきは月なのだと。そしてその月がお兄さんで、月が無いと日輪は悲しむって」

 

「だから風と私はあなたに仕えることを決めました。まあ私は日輪である曹操様に一刀殿がいずれは必要になると感じたので仕えるだけですが……」

 

一刀は二人の話を聞き終えたら二人にも手を差し出した。

 

「俺が月かどうかはわからないけど、よろしくお願いするよ」

 

二人は一刀の手を握った。

そしてまた勝利の祝杯に戻る。この日が終われば街の復興に追われる日々が始まる。だから今の内に騒げるだけ騒いでおこうと思いながら。

 

~続く~

 


 
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