呉の精鋭部隊の必死の捜索にもかかわらず、雪蓮、明命、一刀となぎの4人は発見できなかった。
思春は一度城に戻ったが、玉座の間にいる三人の鬼神の気配に即座に捜索に戻る。
そしてその日の夜。
魏の先発隊として桂花、稟、流琉が。蜀の先発隊として紫苑、桔梗が建業の街に到着した。
会議は明日の夕方から行われるが、その前段階の打ち合わせをするのである。
だがその本来の目的は一刀の状態の確認と情報の整理。
魏として得ている情報は、一刀の記憶が無い事と剣の力により恋と同じ力を持っているという事。
蜀としては、白蓮がいて負傷しているという事。
そして共通の情報としては、一刀が建業にいて愛紗が敵として現れたという事だった。
「どういう・・・事よ・・・」
桂花の搾り出すような声でさえ玉座の間に響く。
それほどまでに玉座の間は静まり返っていた。
今この場にいるのは蓮華、冥琳、祭の三人と桂花、稟、流琉、紫苑、桔梗の五人。
そこで冥琳から受けた話。
それは雪蓮と明命が一刀と『一刀と白蓮の間に産まれた子供』を連れて行ったという話。
そして愛紗だけでは無く、桃香と恋までもが敵となっている事。ならば当然鈴々と朱里も敵と考えられる。
更にはその桃香を五胡の王が主と呼んでいたという事実。
この場にいる者達を黙らせるには充分な話だった。
桂花、稟、流琉の三人が最も衝撃を受けたのは一刀に子供がいて、その妻が白蓮だという事・・・。
稟は眩暈がしてその場にへたり込み、流琉は呆然としていた。
本人に問い詰めたくてもその本人は連れ去られ、しかも記憶が無い。
紫苑と桔梗も言葉が無いが、三国同盟成立後白蓮が一人幽州にしばらく戻っていた事を思い出す。
その期間は約一年・・・。
てっきり孤児の子供たちの面倒を見る為だと思っていただけに、驚愕だった。
最悪だ────
桂花は震える足をどうすることも出来なかった。
問い詰めたい、真実が知りたい、でも・・・記憶が無い。
その間の事であれば責めることもできない。
記憶の無い状態でどんなに責め立てても無意味だ。
それどころか、"知らない人"から突然そんな事を言われたら一刀がどういう顔をするのか・・・。
想像するだけで全身を恐怖が襲う。
泣き叫びたかったが、ここは呉・・・そんな事は出来ない。
咽の奥が引きつるように痛む。
「・・・辛いと思うが・・・もう一つ重要な話がある」
静かな口調の蓮華に全員の目が集まる。
冷ややかとも取れるその姿に、稟は猛烈に嫌な予感がよぎった。
「『天の御遣い』は孫家の長男の可能性がある」
「「「「な・・・・!!!!???」」」」
「そんな筈ないでしょう!!何を馬鹿げた事を言い出すのよ!!!」
全員が驚愕する中、桂花が蓮華を睨みつけるがそこへ冥琳がすっと前に立つ。
「根拠としてまず一つ、一刀がもう一本の『南海覇王』を持っていたのだ。調べたが偽物ではなかった。
柄に仕込まれた"秘密"がまったく同じものだった」
冥琳が"一刀"と呼んだ瞬間、女の勘が働く。
「次に雪蓮とまったく同じ覇気を持っていた。それも古参の兵ですら雪蓮と間違えるほどのな。
実際私も"何度か"間違えた」
その言い方にイラついた。
まるでその後に「閨でもな」とでもついているような錯覚にさえ陥る。
これはもはや女の鞘当てだ。
それも随分な上から目線での。
稟もそれに気がつき、立ち上がる。
瞳の奥に燃えるのは嫉妬の炎か・・・。
「それは確たる証拠とはなりません。それに、そもそもにして一刀殿の肌の色は貴方方とは違います。
それはどう説明なさるおつもりですか」
眼鏡をクイッとあげた稟の冷たい声が響く。
「・・・こちらの恥部を晒すようだが、蓮華様方とは父が違うという考えが主流だ。それ以外にも肌の色が
最大の原因で捨てられたとも考えられている。事実、まれに肌の色が違う子が産まれ、殺されたり
捨てられているのだ。まぁ、一刀自身がその事を指摘して"そういう事もありえる"と今は広めている最中だ」
返す刀のような鋭さで冥琳が言い放つが、その表情がふっと和らぐ。
「一刀は実に優秀だ。一刀の知識のおかけで乳児の死亡原因がかなりの数判明した。我々では想像も
つかないような些細な事が原因だったとはな」
乳児のうつ伏せ寝が危険だと知れたのは現代でもごく最近の事。
それ以外にもこの時代は子供の死亡率が高く、子供が七歳まで育つのは物凄く困難な事だった。
主な原因は食事と衛生環境。
乳幼児でありながら両親と同じ布団で寝ていては、蚊やダニ、そしてノミに刺され、それが元で病気になる。
食事でも乳離れした時の離乳食に細心の注意を払わなければ、母乳の免疫が無くなった途端に病気になるのだ。
一刀はそこに注目した。
これは当時では考えられない事。
現代の知識を持っていなければ出来ない事だ。
そこで一刀が作り出したのは蚊帳とベビーベットと離乳食。
ベビーベットは床から高くする事と布団を別にする事でノミやダニから乳児を守り、柵もしっかりとつけた。
そして離乳食では乳児に食べさせてはいけない物である、蜂蜜や卵の白身、肉類を避けるように徹底して、
離乳食のリストも作ったのだった。
だがそれを話す冥琳の表情はまるで恋人の功績を喜ぶような────
「おかげで"私の読む育児の本が増えたよ"」
空気が────凍りついた。
「・・・白蓮さんに会わせてもらえませんか」
しばらく続いた沈黙を遮り、それまで俯き、黙っていた流琉が口を開く。
「いいだろう。白蓮は城の医務室にいる。祭、案内しなさい」
蓮華の指示に祭が答え、その後を流琉と桂花が続き、紫苑と桔梗も続く。
稟だけがその場に残った。
「どうした、稟は行かないのか」
「その前にお尋ねしたい事があります」
冥琳の目をしっかりと見て、稟が尋ねる。
「冥琳殿は明日の会議・・・どう見るおつもりですか?」
それは稟の宣戦布告。
「"私は現状維持だ"」
稟は即座に意味を理解する。
意味は同盟を崩す気は無いが、一刀を渡す気もさらさら無いという事・・・。
そして駆け引きでも一歩も譲歩するつもりは無いだろう。
「"私は変化も必要"と思うが、貴殿はどう見るか?」
その声は蓮華。
覇気が猛烈な勢いで溢れる。
背筋に氷の柱を差し込まれたような気がするが、華琳の事を想い、冷静さを装う。
(そうですか・・・やはり戦ってでも・・・という覚悟ですか・・・)
今の蓮華は途轍もなく危険と判断する。
以前のままであれば迷う事無く戦う事を選べたが、今はそれが激しく危険だと理解できた。
どちらかと言えば冥琳が穏健派、蓮華が推進派と見るが、真実か分からない。
「・・・本当に明日の会議までに一刀殿を取り戻せるのですか?」
「ああ、善処させている」
蓮華の迷いの無い言葉に逆に稟が戸惑う。
もしややはりグルで、我らに会わせないのが目的ではないかとすら勘繰る。
だが、今それは言えない。
「・・・では、私も失礼します」
一礼して玉座の間を後にする稟の心に警鐘が鳴らされる。
(今の蓮華様は・・・危険すぎる)
今の蓮華の覇気は、華琳を超えていたからだった。
お送りしました第35話。
・・・。
ちょこっとリアルが立て込んでおります。
本格復帰はもうしばらくお待ちください。
前話で書いた挿絵はもうちょっと先でした。
あの時は気持ちのままに書いたので、"今書いている"次話でした。
すみません。
さて。新たな問題が発覚しまして。
キュアサンシャインはむりぽ。
そしてここ一ヶ月のコスプレに使った金額54000円(コスプレのみ。他は除く)
vs
私の今年一年の服の代12000円ってどうよって話です。
自分の分のお金だからどう使おうが自由ですが、無駄遣いはダメだろと。
そして今度は"消失ブルーレイ"が来ると・・・。
どなたか体重差が倍の相手を仕留める方法知りませんか?
本編ではギスギスしてますが、リアルでもギスギスしています。
ではまた。
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必死の捜索を掻い潜り、雪蓮たちは逃れる。
そんな中先遣隊として到着した桂花、稟、流琉、紫苑、桔梗
の五人は・・・。