「今俺たちは生きている!!俺たちは勝ったんだー!!!」
歓声が鳴り止まない。
当然だ。長い事自分たちを苦しめてきた国王を打ち倒す事ができたのだから。
トーヤの心の中も内から湧き上がる歓喜で満ち溢れていた。
「やったぞ!勝ったんだ!!ミナは助かったんだ!!」
トーヤはその喜びを伝えるためにミナの家へと向かっていた。
ミナの家はトーヤの家の隣にあり二人は小さいころからの幼馴染である。
みなは戦うことには慣れておらず、
女という事もあり戦闘には出ず自宅で待機していた。
城から離れているとはいえ巻き込まれない保障があるわけではない。
その不安と勝利の喜びでトーヤの足は自然と速くなる。
後ろに通り過ぎていく人々の顔は笑顔であふれ、
城下町は祭りのときのように騒がしく夜を感じさせない活気が満ちている。
トーヤはみなの家に着くと同時に勢い良くドアを開ける。
「ミナー、勝ったぞー!!」
「本当に!?やったー、ってうわっきゃ。」
喜びの声の後叫び声とともに何かが崩れるような音が家中に響き渡る。
「ミナ?大丈夫か?」
みなは少し涙目だが傷も無さそうでトーヤはとっとする。
おそらくミナは自分で作ったトラップにでも足を引っ掛けたのだろう。
真夜中の明かりは月の光だけ視界も悪く本来ならトーヤもミナも寝ている時間だ。
ミナもこの中で息を潜めるのに疲れたのだろう、欠伸をこらえている。
「もう遅いし、それに今日は疲れた。もう寝ないか?」
ミナはうなずき相当眠かったのだろう、トーヤには見えなかったがおそらく
おやすみと言ったのであろう。
おぼつかない足取りで寝床に向かっていった。
トーヤも小さな声でおやすみとつぶやき自宅に帰り眠りについた。
次の日先の戦いで主軸となったメンバーで代表会議というものが開かれる事となった。
理由は簡単である。
この国の治安を守りそして統治していく人間と決める会議である。
それにトーヤも出席することとなった。
人数は全員で9人、みな知った顔である。
統治していく人間を決めるといっても実はもうほとんど決まっていた。
「アルフォード・・・でみんな異存はないか?」
全員が集まって早々集計がされる。
誰一人それに依存はない。
アルフォードは今回の戦いで中心になって動いた人物である。
最初に国王に不満をぶつけ同志を集いここまで大きくしていった人物だ。
「じゃぁみんなあらためてよろしく頼む。早速だがここにいるメンバーで
細かい役職を決めていく。」
挙がった役職は副頭・補佐、町を守るための警邏隊。
その中でトーヤは補佐に就いた。
今回の役職は先の戦いの持ち場を元に決められた。
トーヤは戦場において後方からの援護などを主な役割としてこなしていたのでこの職になった。
「トーヤ、あらためてこれからもよろしく。」
彼女はセレナ。
いつも遠くを見ていてなにを見ているのかわからない目線の女性というのが第一印象。
しかし、見るべきものはしっかりと見ており指示は的確ただ、武器はからきし。
しかも弟に対して過剰なまでに反応するといった欠点を持っていたりする。
トーヤより2つ年上でトーヤは彼女には頭が上がらない事もしばしば。
「はい、お願いします。」
挨拶を済ませると副頭のラド早速呼び出しがかかった。
ラドはアルフォードの古くからの友人であり先の戦いのもう一人の主役だ。
常に最前線で戦い兵を蹴散らし多大な戦火をあげた人で国王を討ち取ったのもラドである。
前衛や戦士の間での評価はアルフォード以上で比べ物にもならない。
「2人を呼んだのは他でもない。この国を今後どのように収めていくかについてだ。」
この国は一つの島でありどこの大国にも属さない独立国家だった。
そのため王を殺したからには我々で政をするしかなかった。
その大筋を決めるのだから容易ではない。
「大筋を決めるといいますが…『民にとって良い国になるように』ではないのですか?」
これは王はこうあるべきだというアルフォードの前々からの主張であった。
「それは当然だ。そうではなく、今この国はいろんな問題を抱えていると思うんだ。
その問題とは何か、そしてどの問題がもっとも優先して取り組むべき問題なのか
を調べて考えてほしい。」
「お前たちが調べている間俺とアルはこの城の資料室を調べてみようと思ってる。」
問題とは見るものの視点が変わればその問題も優先事項も重大さも変わってくる。
それを探すためにとりあえず今日1日は外に出て町をくまなく歩きそれを調べる事が
トーヤとセレナの仕事となった。
「さてと、いこっか。日が暮れる前に終わらせたいしね。そうだ、ついでに警邏隊のみんなにも
あいさつしておこっか。」
「それもそうですね。多分今警邏隊も体制を決めるためにどこかに集まってるはずですよ。」
警邏隊は町を守る人たちだ。
町の治安維持も補佐で仕事のため警邏隊の統制は2人がすることになった。
「あ・・・私たちも終わったら来てくれって言われてたんだ・・・。」
「…場所はどこですか?…まさか忘れたなんてことは・・・。」
「確か離れじゃなかったかな?」
離れは町にいちばん近い城の中の建物だ。
その頃離れではもう既に会議が始まっていた。
「交代制って言うのは決まりとして、重要なのはその中身ね。」
「一日三隊で回せば良いんじゃないか?順番決め手さ。」
話を進める2人はメイサとレイド。
メイサは女性だがとても剣の扱いに長けており、女性の中で唯一前線の指揮を任されたほどだ。
さらにメイサはトーヤのいわゆる上司であった女性で、
性格はきついものの命令はいつも的確であり
冷静沈着才色兼備をそのまま具現化したような女性だ。
男女ともに彼女に憧れを抱く者は多い。
レイドは元々国王側の剣士であったが、上官の処刑をきっかけに軍を脱退した。
警邏隊は主にこの二人が軸となって回される。
「質問!三隊で回すってことは残りの二隊は休み?」
「いや、一隊は休み、一隊は待機だろ、もしもの時のためのな。」
警邏隊は五つの隊で出来ており、
第一隊隊長がメイサ、第二隊隊長がレイド、第三隊隊長がポート、第四がルネ、第五がシィだ。
今質問をしたのはルネ。
ルネとシィは共にメイサの元で戦いその功績で警邏隊の隊長に選ばれた。
ポートはレイドの部下で口数こそ少ないがとても槍の扱いが上手くレイドと共に
最前線で戦果を挙げてきた。
「回し方はそれで良いだろう。それにしてもあの二人遅いな…
シィ本当に伝えたんだろうな?」
「ちゃんと伝えましたよ?…セレナさんにですけど…。」
・・・・・・
4人の顔がだからか…と悟ったような顔をしていた。
それからしばらくしてトーヤとセレナの二人が到着した。
その頃には大体のことは決まっており、2人はその確認をする。
決まっていなかったのは町の区分わけである。
広すぎては見落としが出てくる。
かといって、範囲を狭くし隊を細かく分けてしまえば本末転倒にもなりかねない。
結果騒動が置きやすいところを狭くしすぐ対処できるようにし、
そうでない所の範囲を広げる事で補う事に決定した。
「…一つ良いでしょうか?」
「なんだ?ポート、問題でもあったか?」
「危険、騒動が起きやすい範囲を狭めるべき場所とはどこになるんですか?」
「…大通り?…。」
案は出たもののここにいるのは今まで町で暮らしてきたとはいえ市民としてだ。
そんな町の隅々まで見てなどいない。
どこ?と聞かれて即答できるものはいなかった。
「じゃぁ俺たちと視察に向かうか?どうせ俺とセレナさんはそういう命を受けてるんだし。」
「そうだな。こういうのは話してたって分かるものじゃない、
目で見て確かめるのが良いだろう。」
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ひとつの国が終わりを向かえ
そしてその国にいろいろな問題が起こる話です。