No.185341

【BL】王子と伴侶のまさかのハロウィン!

魔界の王子様シヴァは超偏食症。主食はなんとえっち中の相手の精気! そんな王子をトリコにしたのは「極上の精気」を持つ人間、深雪(♂)だった。
そんな魔界王子×人間のいちゃラブ(似非)ファンタジー『LET'S EAT!!』
2010年秋発行の同人誌(無料配布本)に掲載したものです。
なんとなく「伴侶とフィギュアと雷と。」に続いています。

2010-11-18 23:16:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:651   閲覧ユーザー数:651

王子様の名前はシヴァ・F・ジャヴェロット。

 伴侶殿の名前は桃鳴深雪。

 

 ちょっと普通と違う二人は、人間界でばったり出会い、うっかり恋に落ち、

 異文化の壁をひょっこり飛び越えて、いつまでも一緒にいることを決めました。

 

 そう。

 

 二人がちょっと普通と違うところは、王子様は超絶偏食症。

 ついでに言うなら、好物は性交渉中の伴侶殿の精気だったのです!

 

 

* *

 

 

 その日、桃鳴深雪が起きてから、なにやらずっと違和感があった。

「…………む~?」

 頭の上の、そう。ぴょこりと立ち上がったくせ毛……アンテナの当たりが重たい感じがするのだ。しかし、いつもと変わった様子はない……と思われる。

 恐る恐るちょいちょい、と触ってみる。

しかし、別段何かがぶらさがっているとか、垂れ下がっているようだとか、特に問題があるわけでもないようだ。

 いつもどおりだが、でもなにか違う。

「……なんか受信してるのかなあ?」

 深雪は首を傾げながら、ベッドから衣擦れの音だけをさせてするりと立ち上がった。

 首を傾ければそちらに引っ張られるように重いのだ。

 それでも、そんなことを気にしていても仕方ない。

 簡単に湯を浴びて、それから服を着て。その後に食事を済ませると、サガがやってくるはずだ。

 もちろん先日サガから出された宿題は、もうすでに済ませてある。

「はふ」

 深雪は眠そうに欠伸を一つ零して、その後の諸々の準備のためにバスルームに消えていったのだった。

 

 

* *

 

 

「おや、今日は荒れそうだねえ」

 いつもの通り、ずるずるの長いローブを引きずってやってきた魔界の大賢者が、のんびりとした口調でそう告げた。手には人間界で言うところの新聞を持っている。

 どうやらこれは毎朝、訓練された配達の飛竜が希望者の元まで届けてくれるものらしい。

 さほど大きいものでもなく、サガの話によると王都周辺の話題しかないので、どうやら地方紙と同じようなものらしい。

「……荒れる、って天気が?」

 サガの前で一生懸命に絵本を書き写していた深雪はその言葉に首を傾げた。

「うん、久しぶりに雷帝ウナギの大群が王都周辺の上空に来ているらしいから、結構大きな雷が鳴るかもね」

 これが結構な脅威なんだよ、とサガが告げるのに、深雪はかくりと首を傾げた。人間界で天気の脅威といえば、水害や災害しか思いつかない。

「ああ、うんと魔界では魔力は耳で司る話は前にもしたよねー?」

 いつだったか、深雪が何も考えずバルガの耳を掴んでしまったことがある。その後にサガから聞かされた話でそんなことを言っていたのを思い出し、こくりと頷いた。

「鰻(ばん)雷(らい)が鳴ると、気圧に変化が起こって大気中の魔力因子が乱れるのさ。魔法が発動しなかったり、暴発したりする。音の帯域にも干渉するから、中には具合の悪くなる人もいるしね。逆に元気になっちゃう人も。まぁ、天災みたいなものだよ」

「サガくんもどこか今日はおかしいの?」

「いやあ、俺は魔力がないからねえ、そんなこともないんだけど、肩は凝るかな~?」

 のんびりと他人事のように告げるサガの言葉は、どちらかというと人間界でよく聞くもので深雪は軽く笑ってしまう。

「ふぅん、じゃあ俺も大丈夫かな?」

「そうだね。深雪ちゃんは耳魔族じゃないから、魔力的には干渉されないと思うよ。気圧で調子が悪いなんてことはあるかもしれないけどね」

「なるほどねー」

 魔界では雨は魚が降らせるとは以前聞いたことがあるが、雷もウナギが落とすらしい。

 見たことのないものは意外と想像しにくいのか、深雪は眉を顰めて告げる。

「まあ、いずれ見れるよー、巧くいけば今日当たりいけるんじゃないかな?」

 まだ王都の手前の森で停滞しているみたいだから近づくのは夕方かな、と告げたサガの言葉に深雪はただ頷いてまた絵本の書き取りに向かう。

「シヴァなんかは体質上、鰻雷なんかには影響されにくいみたいだよ」

 サガの言葉を聞いて、深雪はほっとしたように小さく息を吐いた。

 

 

* *

 

 

 その日の夕方。サガの予想通り窓の外ではゴロゴロと雷が鳴り始めた。

 シヴァが公務を終えて執務室から戻ってきたのは、いつもよりも早い時間だった。

 実は最近、シヴァと深雪は、異文化交流という名目で互いの世界の行事や節句などを教えあうという二人だけの密かな遊びを行っている。

 当初は深雪に魔界の知識をつけさせる為に始めたことであったが、今では人間界の風習を逆に聞くことも増え、いつの間にか互いの文化風習について交流する機会となった。マンネリの防止にも大いに役立っているし、世界を捨ててきた深雪が少しでも寂しがることのないようにと考えているシヴァにとっては都合がよい。魔界で人間界の文化に習うことは深雪を気遣う上でのいいリサーチにもなるし、深雪の機嫌も上々だ。何より楽しい。

 本日も夜の食事の前に、シヴァは深雪を膝の上に乗せてお題、秋の行事について話しはじめた。

「……それで、人間界……日本では、秋にはどんなことをするんだ? 今日の格好は?」

「うん、あのな」

 シヴァの問いに深雪は、秋は主に、お彼岸、秋祭り、運動会、ハロウィンだと告げる。

 もちろん深雪の格好は、ハロウィンにちなんで自らのクローゼットから引っ張り出してきた、とんがり帽子とマント、ヘソ出しインナーにホットパンツというウィッチスタイルだ。要するに仮装である。

「はろうぃん?」

 聞きなれない単語にシヴァが首を傾げて、ひらがなで聞き返す。そんなシヴァに深雪は身体を摺り寄せて顔を覗き込んだ。

「仮装をして、かぼちゃに蝋燭灯す日」

 深雪がさも知っているかのように胸を張って答えることは、事実とは認識が大幅に間違っている。

 しかしハロウィン自体、縁の薄い日本育ちの深雪にとって、認識はそんなものだろう。

「ヘソを出して?」

「ちがうよー。これはしば用にこういう格好なの、サービス。本当はもっと、おばけっぽい仮装をするんだってば。なんだったかなぁ」

「かぼちゃでも被るのか?」

 ヘソが見えている服の隙間から、するりと手を差し入れたシヴァがさわさわと深雪の肌を探る。

「そう、そうだよ! あれ? 被るんだったかなぁ? とにかく、子供たちがね、……あっ」

 シヴァの手のひらが、胸元まで這い上がり、乳首を掠めるその刺激に深雪の声が跳ねた。

 ぴくんと小さく震えて深雪が身体を捩る。

「もうしばってば。ちゃんと説明できないだろ!」

「仮装と、かぼちゃはわかった。あと、深雪の仮装は、お化けというには愛らしいこととか……」

「うぅー」

 会話の途中に煽られると、ついうっかり言いたいことを全部言えずにいつも気持ちよくされてしまうのだ。

 今日はそうなってはいけないと、深雪は身体に灯りそうになった気持ちをぐっ、と我慢する。

 それからそれ以上気持ちよくなってしまわないようにじた、ばたと暴れていると、シヴァの唇がちゅ、と頬に触れた。

「話を続けて。深雪。それで? ハロウィンは何をするんだ?」

 何事もなかったかのように話すシヴァに、深雪の柳眉が悔しそうに下がる。

「むぅ。ヘソなんか出すんじゃなかった。……それからね、仮装をした子供たちが、大人に『トリック・オア・トリート』って言って」

「? 悪戯かお菓子か?」

「正しくは『お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ!』だよ」

 深雪は難しい顔をしたまま告げると、ふと悪戯を思いついたようにもう一度シヴァに身を寄せる。

 それから満面の笑みを浮かべて、シヴァの耳朶にちゅ、とちいさくキスを落とした。

 魔界人の弱点は耳。

 それはもちろんシヴァも例外ではない。突然の深雪の行為に、シヴァは珍しくもぴくりと片肩を震わせて、深雪の悪戯をやめさせようと腰に手を伸ばした。

「お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ」

 ぴ、とシヴァに指をさして深雪が可愛らしく告げた、その時だった――。

 

――どーん! ばふんッ!

 突然大きな音が響き、室内の明かりが全部、落ちた。

 

「ひゃっ!」

 あまりの大きな音に深雪が耳を押さえて、きゅっと瞳を閉じる。

 無意識に傍にいるシヴァにすがり付こうとした……のに何故か深雪はいつの間にかベッドのリネンと仲良くなっていた。

「あ、あれ? しば……?」

 ついさきほどまですぐそばにいて、温もりを感じていたシヴァが近くにいない。

 深雪はすぅっと背筋が寒くなるような心地を覚えて軽く取り乱してしまう。

「しば、しば……」

 室内は暗く視界が悪いけれど、深雪はただ手を伸ばして名前を呼ぶ。

「……ここだ、深雪」

 深雪の声に呼応するように、衣擦れの音の後にシヴァの声が聞こえてくる。いつもと同じその声を聞いただけなのに、深雪はほっと息を吐く。

 同時にふにゃりと泣き崩れそうになってしまう。

「なあ。どこ、しば?」

「ここにいるぞ。……参ったな、すっかり忘れていたが鰻雷が来ていたんだったな」

 呟くようなシヴァの声に、深雪も言われてみれば、と窓の外に視線を向ける。

 まだ雷がぴかぴかと稲光を放っていて、どうやらこの突然の消灯は雷が落ちた、ということなのだろう。

 ついうっかり二人きりの世界でいちゃいちゃしていたので、こんな形で干渉されるまで、深雪もシヴァも気づかなかったのだ。

「びっくりしたね、しば」

 窓の外に写る稲光を眺めながら、深雪はちいさく息を吐く。

 突然のことも原因がわかればなにも問題はない。

 しかし、伸ばした手にようやくシヴァの温もりが触れて、その手を握り返そうとした時、深雪ははた、と気がついた。

「……あれ?」

 シヴァの手は何故か、知っているそれよりも、ずっとずっと小さかった、のだ。

「ちょ、しば!?」

 慌てて手に掴んだそれを胸元に引き寄せ抱き上げると、それは仔猫程度の大きさでとても軽い。

 触った感じは体長約三十センチメートルほど。

 ミニチュアになっているようではあるが、その生物はいつものシヴァの匂いがした。

 そしてまたその時走った稲光が一瞬部屋を明るく照らす。

 

「!! しばが、しばがちっちゃくなっちゃったー!」

 

 

* *

 

 

 まだ室内は暗いままだ。

 明かりがつくまでにはもう少々時間がかかりそうだと言うシヴァと、深雪はとりあえず現在の状況をまとめてみることにした。動揺も激しく、現状でも確認していなければやってられなかった、というのは深雪の本音でもある。

 すると、『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』と深雪が決めゼリフを放った瞬間、通常ゆらんゆらんと揺らめいているアンテナに、びびびと何かが落ちてきて、人差し指を伝ってシヴァに何かが向かってきた、ということらしかった。

 

「……つまりこれは俺が深雪にお菓子をあげなかったことによる、ハロウィン的な悪戯……」

「なに言ってるんだよ、こんなときに暢気にボケないでよー!」

 のんびりと告げるシヴァに、深雪の容赦ない突込みが入る。そして深雪は困ったように腕の中のそれをぎゅむむ、と抱きしめた。

「こんなお人形さんみたいなしば……さらわれちゃうよ」

「それはないと思うが、とりあえず。問題は明日重要な来賓との謁見があることだ」

「な、なんだってー!」

 シヴァの言葉に、思わず深雪の顔が驚愕で固まってしまう。

「俺はこのままでもあまり困らないんだが……ただ一つだけ気がかりなのは、この姿で深雪を抱いたらどれだけ満足させられるのか、という重大な不安が……」

 あまりにもお馬鹿なことを告げるシヴァに「今はそれどころじゃない!」と、またしても深雪が突っ込みを入れようとした時だった。

 

――どんどん、どんどん!

 

 ドアを叩く音が、二人の寝室まで届いた。

『シヴァ様、深雪様、大丈夫ですか!? 鰻雷の影響で、ただいま城内は……』

 続いてシヴァの腹心である、騎士団長バルガの声が響く。

 

 その声に思わず、深雪はまたシヴァを抱きしめて、それから動揺したように問いかけた。

「どどどどど、どうしよう、しば……」

「ふむ、まずは第一関門だな」

「怒られるどころの話じゃないよー!」

 かつて、いや現在も深雪は騎士団長に『伴侶として!』と厳しく日々注意を受けている。

 しかも今の深雪の格好はヘソ出しで、シヴァはどこからどう見ても品のいい、可動式の六分の一スケールフィギュアでしかない。

 

「ううう、怒られない理由が見つからない……」

 バルガはまだドアを叩いている。安否確認を急いでいるのだろう。

「まあ、仕方があるまい。行くぞ、深雪」

 まだ躊躇っている深雪の背中を押すように、シヴァがその胸元をとんとんと叩く。

 深雪も不承不承といった風に、シヴァを抱いたまま立ち上がる。

 そして重い足取りのまま、応接室の扉へと向かったのだった。

 

 

 

 この後、鰻雷の轟音とともに、騎士団長バルガの悲鳴が鳴り響いたのは、言うまでもない。

 

 


 
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