―――魏領内山中、特級刑務所
ここは三国中のレジェンドクラスの犯罪者が送られ収容される牢獄。
一般民衆から隠された極秘施設のため、セミの幼虫よりもなお地中深くに存在している。
日の光も届かぬ牢の中、このオレ、北郷一刀の素晴らしきワンダフルな一日が始まる。
いつも通り5時間ほど遅くれた体内時計の午前6時に起床。
とっくに冷めた朝食を食べながら、正面の檻に住まう萎びれた老人とバターロールで高速キャッチボール。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ!」
この場所では運動や買い物もする機会が無いため、
狭く息苦しい檻の中でも体を動かすことはとにかく貴重なのだ。しかも朝食と兼ねることで時間の節約にもなる。
自分の檻の隙間と老人側の隙間、間隔にして中指を仲間はずれにした足の指4本分。
バターロールに爪を食い込ませ、手首のスナップを利かせながら、放つ。
歪な螺旋を空間に描きながら障害物の隙間をす~っと縫って
パッシ!
緑色の髪の緑色の老人の緑色の掌に収まる。
「なあ、旦那。あんたがここへ来てずいぶん経つが、一体何をやらかしたんです?」
「・・・・・・・うぃ」
足の指を弄くりながら、心のレコーダーで古びた思い出を再生させる。
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―――――――――――――
―――――――
――
―――あれは3年前の夏
暑かった。とにかく暑かった。国中が熱で浮かされていた。
大地は干ばつし、作物も枯れ果て、水源も枯渇した。
多くの人が生きたミイラとなっていた。
それでもなんとか生を繋げていけたのは、一つの巨大なダムの存在だった。
俺の脳に宿る神掛った現代知識と屈強な戦士でもある地域住民500人の尽力により、
専門家たちにはスーパー堤防並みに400年は掛かるであろうと鼻で笑われた所業を、
たった一夜で実用レベル以上にコンプリートさせてやったのだった。
完成して間もなくは、国中の人間が
「おお、秀吉様の再臨じゃ~」
と口を揃えて騒ぎまくったものだ。
その後、この国の存続をも揺るがす緊急事態に、ダムの水量は通常時の半分以下にまで減ってものの、それでも20年間は民の生活を賄える程にはあった。
そんな中、俺は華琳の命でこのダムに訪れた。
もちろんダムの現状を調査するためだ。
華琳曰く、造った人間が創造物に対して責任を負うのは当然のことらしい。
――調査後
オレンジ色の夕日の中、
この地へ再び来た記念にと、
慈善心から少しでも民の潤いに貢献しようとズボンとパンツを脱ぎ、ダムに聖水を放った。
俺の聖水が民の元気の素になると思うと、勢いがさらにレベル4くらい強くなった。
ああ、どこまでも広い無限の空に希望の橋が掛かる。
まるで民の願いを天へ届け送るが如く。
透明に澄んだ水溜りのキャンバスに、黄金色の聖なる水線が希望を描く、
すごく綺麗で幻想的だった。
・・・だがこの行動が最悪の結末へと導いた。
俺の聖水とダムの水が超反応を引き起こし―――ダムは大爆発、木っ端微塵に。
ダムを形成する外壁が大炎上しながら崩壊し、流れ溢れたとんでもない量の水が、近辺の村や人や畑や家畜を飲み込んでいく。
感情の機微さえも働かない、一瞬の出来事だった。
俺はその場で現行犯として取り押さえられ、そのまま有無を言わずこの牢獄へと投げ込まれた。
「・・・・・・・・・・・・・うぃ」
脳内回想が終り、気付けば俺はなぜか逆立ちをしていた。
心と体は別物なんだってつくづく思う。
「へぇ、世間様ではそんなことがあったんですか。あっしは7歳の頃からこの中にいたんで気付きもしやせんでしたよ。」
・・・・・あら?俺声に出していたのか。てっきり脳内限定上映だとばかり思っていたのに。
俺の過去に感化されたのか、
親指で串刺しにしていたバターロールが突如悲鳴を上げる。
「ギャグャアァギャアアアアアアアアアアアア――――――――――――!!!!!」
あとがき
いかがだったでしょうか?
聡明なる皆様は恐らくお気づきになられたと思いますが、
そう!この作品のテーマはずばり「真実の愛」!
このテーマの奥深さを、このシリーズを通してこれからも伝えていくつもりです。
ああ、この物語を読んでくれた全ての皆様に幸あれ。
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これから始まる物語のプロローグです。
いやっほおおおおおおおお!!!
かかってこいやーーーーーーーー!!!