No.182917

恋姫無双 ~天帝の花~ 13話

夜星さん

し、汜水関の話しまでいきたかった・・・・

2010-11-06 14:58:01 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2712   閲覧ユーザー数:2351

 

「こうしてみると、さすがに爽快というものだな」

「はい、ここまで集まるのも二度目はあってほしくないものです」

 

 反董卓連合軍。

 兵数はおよそ三十万。

 己が天下へ存在を認めさせようと群雄集結となる。

 北平太守――公孫讃。

 平原の相――劉備。

 南陽太守――袁術。

 長沙太守――孫策。

 西涼太守――馬騰。

 そして、三公を輩出した総大将である袁紹。

 そのほかにも、上党太守等が集まり数は膨れ上がっていた。

 

 栄花はその風景を冷めた眼で見つめていた。

 誰もが目の前の欲に眩み薄笑いしているのが手に取るようにして見える。

 だが気分を害する事はなかった。

 董卓を打ち倒し世に平和を心から求めるものにとっては、不愉快かもしれないが結局はどちらも大して変

わらないと栄花は思っていた。

 自分の欲を全面に出し生活を優雅にしたいと思う一方、皆が平和の生活を送られるように我はと名乗りを

上げようとする者、しかしそれは結局は自分自身がそうしたいと思い勝手にやっていることだけのこと。

 ほら、どちらも欲に縛られている。

 栄花はどちらこというと後者側だ。

 それが、自分自身が望んでいない事であったとしても。

 

「君よ、見えてきました」

「・・・・・・麗羽嬢は変わらず成長しているようだな」

「全くよ、あんなに旗を高く上げて・・・・・・折れないかしら」

「だが姉上よ、それも麗羽嬢の可愛いらしさではないのか」

「へー、あなたも言うようになったものね。私もあれはあれで可愛いものとは思っているけれども私は嫌い

だわ」

「無能に心遣いは無用か」

「当たり前よ。私は人を才を愛するわ。力に溺れる者は好かないわ、もちろん力無き者も必要ないわ」

 

 華琳は一言残し先頭に戻っていた。

 最後に残した言葉が、栄花自身に対しての言葉であるということが分った。

 

「いい気味ね、栄花。くれぐれも華琳さまのお顔をに泥を塗るようなことはしないように隠れていなさい」

「おや、荀彧殿はこの身を心配してくださるのか」

「ふん、そんなことは華琳さまに誓ってありえないわ。私がここに来たのは忠告に来たのよ」

「・・・・・・」

「あんたが何を考えている事なんて私にとって知ったことではないけど、おかしな行動はしないことね。華

琳さまもどうしてあんたのような男を置いておくか分らないけれども、春蘭や秋蘭の信頼を得ているからとい

って調子にのらないことね」

「ほう、それは我がよからぬことを企んでいるとも?」

「その薄気味笑いをしていることが、なによりもの証拠よ」

「これは失礼した。荀彧殿の言葉を身に刻んでおきましょう」

「ふん、せいぜいその首があるうちにそうやって笑っていなさい」

 

 その言葉に流星は警戒心を強め、栄花はただ笑っていた。

 

「おーほっほっほっほ、この私が名家の誉れ高い袁家の袁本初ですわ」

 

 甲高い声が回りに響きまわる原因の主がこの場で一番の力をもつ袁紹である。

 髪は両髪くるくるに巻かれておりきらきらとした宝石を身に纏い誰がみてもお嬢さま育ちという事がみて

わかる。

 周りの者たちは、呆れたような顔をしながら最後の待ち人が来るのを願っていた。

 

「相変わらずその声はどこにいてもうるさいわね」

「あらぁー、華琳さん。遅いですわね、皆さんあなたのことを待っていましたのよ」

「そう。でも、約束の刻限は過ぎてないからいいでしょ」

「全くそんなものだから、品にかけておりますのよ。私なんて一番でしたのよ。それに比べて、華琳さんは

最後でしたのよ、最後」

「はいはい、わかったから本題に入って頂戴」

「これだから、人の話しを聞かない小娘は困りものですわ」

 

 袁紹の挑発も軽く流し周りの者も早く本題に入りたいようだ。

 

「それでは皆さん今回は、この私のためにお集まりにいただいて感謝いたしますわ」

 

 その言葉に対して聞くこともなく皆の顔からは微妙な表情が読み取れる。

 不安を抱えつつも今回の反董卓連合についての話しが進められていった。

 内容はいたって簡単な話しだった。

 都で董卓という悪者が裏で帝を操り好き放題に暴れているという。

 そのことを知った袁紹が退治しようと声を掛け集まってもらったという。

 

「そうでしたわ、紹介がまだでしたわね。猪々子さん、斗詩さんご挨拶なさい」

 

 そういわれ二人の女性が前に出る。

 猪々子といわれた女性は文醜と名乗り身の丈と同等の大剣を背負っていた。

 髪は短く緑色で第一印象は活発な女性といったところだろう。

 次に斗詩と呼ばれた女性は顔良と名乗り大槌を装備していた。

 物腰柔らかい言葉からは、想像できない得物をもっているが二人とも袁家の看板を背負っている。

 

「妾は袁術じゃ、よろしく頼むぞよ」

 

 袁術と名乗った女性が袁紹とは従姉妹同士でありこの場にいる二番目に高い勢力をもつ者である。

 袁紹と同じく金髪の髪であり長く腰辺りまで伸びている。

 次に呼ばれたのが張勲である。

 袁術の側近であり常に袁術の側にいる。

 周りからは袁術の世話役に見られがちだが、軍師として名も上げており衝車を用いた攻城戦が得意らしい。

 

「孫策よ」

「周瑜だ、よろしく頼む」

 

 言わずとしてしれた江東の虎の娘である孫策である。

 そして、その補佐を勤める軍師の周瑜。

 栄花は二人の対応を見て、馴れ合いは好まないといったどころだろうと感じた。

 続いて

 

「劉備といいます、よろしくお願いします」

「しょ、諸葛亮孔明でしゅ! あわ、かんじゃった」

「あわわ、鳳統でしゅ」

 

 三人ともこういった席に馴れていないせいか、おどおどしていた。

 栄花は新しく顔をみる両名を観察していた。

 身体をみるかぎり、武官ではないということが見て取れる。

 もし、あのような細い腕で剣が振り回せるような怪物がいるのならばぜひに拝みたいところだ。

 武官でなければ、軍師の立場であることが妥当なのだろう。

 この場に二人も連れて来るということは、それぞれに役割が振られているのだろうと思う。

 

「私が曹孟徳よ。そしてこれが――」

 

 春蘭と秋蘭と順調に紹介が進んでいき、栄花の紹介になるときにここにいる全員の視線が集まった。

 

「栄花と申します」

「?! そ、そんななぜあなたが――」

「あら、栄花が生きているとおかしいのかしら」

「な、なんでもありませんわ」

 

 栄花という言葉を聞いて一番に過剰に反応したのが袁紹だった。

 華琳はその慌てている姿をみて楽しんでいた。

 実際に亡くなっているはずの人間が目の前にいたら驚きはするだろう。

 劉備もその言葉に少なからず驚いた。

 自分が話していた人物とあまりにもかけ離れていたのだから。

 

「やはり麗羽嬢が、総大将に決まりか」

「はい、ただいまの現状では妥当かと思われます」

「北郷様も参加したようですね」

 孫の旗の下に十の字が見える。

「当然であろう、風評を得るには絶好の機会だ」

「―――」

 流星は栄花が十の字を見る姿が昔を懐くしむような眼でみているような感じがした。

 ただそう思った。

「・・・・・・君よ、なにかありましたか?」

「流星、我が幼き頃に筋肉の友人に覚えがあるか」

「は?」

 

 その言葉で精一杯だった。

 

「少し前に我のことを主と呼ぶ全身を筋肉と表現できる男がいて――」

「君よ」

「我の話しの途中であるぞ、流星」

「申し訳ありません、風が強かったために聞こえませんでした。もう一度お願いします」

「ならば仕方あるまい。筋肉という男が我の事を主・・・・・・なにをする流星よ。避けなければ、当たっていた

ぞ」

「失礼しました。あまりにも突拍子のない言葉に体が反応してしまいました。ちなみに、筋肉という男とは

名前でよろしいのですか」

「・・・・・・細かいことは気にするものではない」

「いえ、解釈がだいぶ異なりますので流す事はできません」

「ふむ・・・・・・絵空事の話しのように聞こえるが我慢して聞いてくれ」

「それは我慢しなくてはならないものなのですか?」

「我なら迷い無く殺せるだろう」

「・・・・・・」

 

 こうして話しが始まった。

 自分は管理者という外史の否定者であるということ。

 外史とはこの作られた世界のこと。

 その外史には北郷一刀が天の御使いとして生き、最後には北郷一刀が思い浮かべた外史を提供をしそれが

肯定されるならば新たな外史に否定されれば消滅する。

 簡単に栄花は流星に説明した。

 

「そうですか」

「・・・・・・このような馬鹿げた話しを信じるのか」

「君が話す姿は真剣でしたから。それに君がどんな存在であったとしても今はこうして生きているんです、

余計なモノに縛られずにむしろ良くなったのではありませんか?」

「縛られずにか・・・・・・」

 

 ならば自身(北郷一刀)を否定する必要はないはずだ。

 縛られていなければ、初対面の相手に黒い感情を持つはずが無い。

 いや、そもそもあるかわからない天を憎む必要も無い。

 どうして自身(北郷一刀)は、こんなに人が世が憎いのであろう。

 もしかしたら、この思いも縛られているのではないだろうか。

 それにあの男は自分と同じように記憶を失う・・・いや、消えていたという表現が正しいのだろうか。

 前世? の記憶が元に戻ったとしても自分を殺しに来る必要はあるのか。

 否である。

 前は前で今は今である。

 ましてや同じようなことが、何回もいや何十、何百と続いていたことに過ぎないうちの一つとして捕らえ

“いま”を生きればよいではないか。

 いや、そもそも自分は北郷一刀なのだろうか―――

 栄花は思考を放棄した。

 

「? なにかいいましたか、君よ」

「・・・・・・いや、少し迷っていてな」

「あのような話しをしておいて、迷う事はないと思いますけども」

「そうだな、推測ではあるが我は北郷一刀の生まれ変わりか、それまた北郷一刀自身だと思っている」

「その言葉に驚いていない私に呆れますが、いや、むしろ呆れているのでしょうか?・・・・・・どうしてそのよ

うなことを?」

「決して間違えてはいないな。まずは筋肉男だが我の事をご主人様と呼んでいたことだ。それと主は二人も

いらない・・・・・・この主とは同じ立場として北郷一刀を指しているのに違いないと思う」

「あの時の深い傷をお合わせた男ですか・・・・・・あの時は賊に隙をつかれて出来た傷だとおっしゃっていまし

たがそのような出来る男がその立場ならば北郷一刀が主であるという可能性も考えられますね」

「それともう一つが頭痛と夢だ」

「あの時の君は尋常じゃないぐらいの汗を掻いておられました」

 

 痛々しい顔をしながら流星は顔を沈める。

 もしこの会話から聴いている者がいるとすれば、大事態となるだろう。

 

「関羽殿を覚えているか」

「はい、とても勇猛な方でなによりもお美しい方でした」

「それが頭痛と夢の原因だ」

「?!」

 

 流星の顔に焦りが見える。

 もしかしたら、栄花と関羽は天敵ではないのかと流星は思う。

 なにせあれほどまでに尋常じゃない汗を掻き、ひどい時は気絶さえしたぐらいだ。

 医者でさえその原因はわからなかった。

 そのときは、日ごろからの疲れということでわかったが原因がもしかしたら敵対するであろう者だ。

 栄花は記憶が全く無いといった。

 だが身体は、いやこれは、魂が覚えているといったほうが適切だろうか。

 何かしら、前に苦い思い出があったに違いない。

 もしかしたら、殺された可能性もあるのかもしれない。

 流星はそっと栄花の顔を覗く。

 心なしか苦い顔をしているように見える。

 だから、次の一言が出てくるとは思わなかった。

 

「関羽殿の炒飯を食べる夢などを見る」

 

 何も口にすることは無かった。

 ただ開いた口が閉じなかった。

 

「そのほかにも張飛殿と拉麺を食べたりと・・・・・・星を覚えているか? 星と一緒にメンマを―――」

 

 突然に視界から栄花が消えた。

 それもそのはずである、華琳の蹴りによって倒れたのだから。

 

「ハァハァ、反省していると思って来てみれば・・・・・・栄花! 分かっているんでしょうね、栄花ぁ」

「くっ・・・・・・下手をしたら骨に皹が入ったところだ」

「おかしいわね、折るつもりでやったのだけれども。足りなかったかしら」

 

 華琳をはじめ春蘭・秋蘭が冷めた目で栄花を見つめ凪は可哀想な目で見つめていた。

 もちろん流星にいたっては、汚物をみるよな目だった。

 

「栄花! お前には見損なったぞ! いや、華琳さまを好く者が減るとなるといいことだな。よくやった、

栄花!」

「私が従者の任を解かれたのもそれが原因だったのかもしれんな・・・・・・流星も時間の問題か」

「栄花さま・・・・・・私は尊敬していますが・・・さすがにそれはどうかと思います」

「死んでください」

 

 各々から非難の声が飛び交った。

 一部最後に従者関係が崩壊しそうな言葉があったが。

 

「普段から冷めた目でみているとは思ったけれどもこれほどまでとはね・・・・・・あなたの兵が生気を感じられ

ないのは、あなたのせいでしょ!!」

「? 何をいっておられる姉上、兵の調練を任したのは姉上のはずであろう」

「確かにそうだけど、あなたが男好きならばこんな事態にはならなかったわ!」

 

 華琳の言葉と同時にみなの視線がさらに強まる。

 一部殺気が入っているのは気のせいであろう。

 栄花は全員の顔をみたあと

 

「なにか誤解があるようだな」

 

 と、ため息をついた。

 

「全く相変わらず、分かりづらいわね。違うならそういいなさい」

「姉上がなにも確認せずに、したのが悪いと思っているのだがな」

 

 凪に兵を任せ、華琳一行は歩いていた。

 一応筋肉男の主人である北郷一刀と似ていて勘違いをして栄花を殺そうとしていたということを説明し事

態は収拾した。

 筋肉男の印象が強かったためか夢に至っては栄花の妄想として片付けられた。

 春蘭はがっかりしたような顔をしていた。

 敵が増えるとおもっているのであろう。

 秋蘭は微妙そうな顔をし流星にいたっては殺気を常に感じている状態である。

 

「さっきからこっちをみて、なにかついてるのか秋蘭」

「本当に男好きではないのか」

「・・・・・・いまも我の下にいたのならば、罰を与えていたところだ」

「黒髪が好きなのか?」

「・・・姉上、秋蘭は熱があるそうだ」

「ないわよ」

 

 秋蘭が変わっしまったことに栄花は心配した。

 

「それにしても胡散臭い男と栄花が似ているかしらね? 春蘭はどうおもう?」

「はっ、全く似ていないと思います」

「秋蘭は?」

「私も姉者と同じです。その男と似ているとするのならば、髪だけでありましょう」

「流星は?」

「死ねばいいと思います」

 

 華琳もみなと同じだ。

 流星の意見についてはいき過ぎな感じもするが、栄花と長くいる流星があれでは話しも聞けないだろう。

 一度だけ顔をみた天の御使いの顔を思い出し比べる。

 黒の瞳に聖碧の瞳。

 身長にいたっては、栄花のほうが高い。

 体つきにしても栄花のほうが鍛えられている。

 目つきも天の御使いのほうが優しく栄花は鋭い。

 性格はわからないが、おそらく御使いは温厚な性格であろう。

 そして、人を斬ったことがないような感じがした。

 それに対して栄花は得物を扱うことには長けていた。

 春蘭たちに一度も勝つことはなかったが、何か引っかかっている気がする。

 急なことで戦場に出す事はなかったが、それも今回の戦で解決するだろう。

 三つ子の魂百までというが、これが本当なら栄花は冷徹な性格である。

 幼少の頃にあれほどまでに冷めている人間は彼だけであろう。

 

「ところで、どこに向かっているのだ」

「あら言い忘れたかしら、あなたの大好きな関羽のところよ」

 

 華琳には一生頭が上がらないのではないかと栄花は思った。

 

 

「我が主、曹孟徳が関将軍に用があって参った。関将軍はどこか!」

 劉の旗の下に到着し、春欄は声を張り上げた。

「なに・・・・・・・いきなり我が陣地に乱入し、人を呼びつけるとは無礼であろう!」

「なんだ、貴様は」

「我が名は関羽! 桃香さまが一の家臣にして幽州の青竜刀。貴様、呼ばれる謂れはない!」

 我が陣地に誰一人として通さないよう、守っているのが美髪の関羽の姿だった。

「失礼したわ、あなたが関羽――」

 華琳はまるで人を値踏みするかのように、視線を頭の先から足の先まで動かす。

 事実、そうであった。

「初めまして、というべきかしら。関羽。我が名は曹孟徳。いずれ天下を手に入れる者よ」

 胸を張りながら傲慢とも言える態度をとり名乗りをあげた。

「それがどうした」

「あなたにはこのような貧乏軍には勿体ないわ。私のモノになるというのなら、あなたの理想を実現できる

わ」

「―――」

「資金、人材、資材、と三つを自由に使い貴方の理想を叶えなさいと、言っているのよ」

「ふざけるなっ!」

 華琳の言葉に関羽は、迷いなく声を荒げた。

「我が主は、桃香さまただ一人、貴様に頼らずとも我が理想は桃香さまと共に実現してみせる!」

 迷いない言葉は、ただひたすらに純粋に理想を求める姿はただ美しかった。

 その姿を見て華琳はほそく笑みを浮かべる。

「素晴らしいわ、理想に殉じるその姿。私の手で撫でてあげたいわ」

 艶がかかった声に、春蘭と秋蘭に朱が差す。

「まぁ、いいわ。今回は、あなたの主、劉備に用があって来たの。通してもらえないかしら」

「なに用があって、参られた」

「貴様! 華琳さまが直々に出向いていられるというのに、その態度はなんだ!」

 いまにも飛び掛りそうな、言葉を後に桃色の髪をした女性が走ってきた。

 

 

「ちょ、ちょっと、愛紗ちゃん。なにをやっているの」

「こ、これは、桃香さま」

 本陣の前で騒いでいては、このようになることは必然だった。

「って、曹操さんじゃないですか?! どうしたんですか? こんなところで」

「いえ、先鋒を任されたあなたに助力をしてあげようと思ってね」

 平原の相となった、劉備たちであるがこの連合の中ではまだまだ、弱小の分類に入っているので大きな力

の前では無力であった。

「だけど、いいんですか? 曹操さんにはなんの利益もないのに」

「なにいっているの、華雄、張遼、高順と汜水関を守っているのよ、あなた達だけでどうにかなる問題では

ないでしょ?」

「で、でも」

 華琳が言うとおり、相手は猛将揃いで城攻めとなっては攻略するには無謀というに等しかった。

「言い方が悪かったかしら私に力を貸しなさい。後のことは、栄花に頼むわ。しっかりね」

「・・・・・・趣味が悪いな」

「ふふふ、今日は気分が良いから許してあげるわ」

 流星を残し華琳たちは去っていった。

 

「久しぶりだな、劉備殿」

「えっ?! やっぱり栄花さんなんですか?!」

「ふむ、我が全部隊である三千を劉備殿に預ける」

「え、え、えっでも」

 彼女はいまだに混乱していた。

「不服か? 確かに数は少ないが我ながら良い動きをする者たちと思うが――」

「待ってください」

 劉備の横に控えていた小柄な少女が声を掛けた。

 

「お主は」

「名を諸葛亮、字を孔明といいます」

 真っ直ぐに見つめる視線は綺麗だった。

「ほぉ、いい目をしている。その孔明殿が我になにようだ」

「その前にあなたの名前を聞きたいのですが、よろしいですか」

 即座に声を入れる。

「栄花、と呼んでもらえば構わん」

「・・・・・・あなたは、初めての者に真名を授けるのですが、ましてやどんな――」

「そんな意味もない問いのために、我に質問をしたのかつまらん者よ」

「・・・・・・・・・」

 彼の言葉に周りは唖然となる。

 真名は、自分自身といっていいほどに大事な物だ。

 それをつまらないモノ、といっている彼はどこか狂っていると感じざる負えない。

 

「ですが――」

「孔明殿、そなた達は真名を大事にするように我は名を大事にする、そう思えば問題なかろう」

「・・・・・・わかりました、栄花さんが私たちに力を貸してくれる事はわかりました。しかし、その真意が知り

たいのです」

「困っていたら手を差し伸べる、可笑しいか」

「・・・はぁ」

 と、その言葉だけしかでてこなかった。

 普通ならば何かしらの要求をしてくるはずだが、彼は何もしないという。

 あまりにも嘘くさい話だった。

 こういうものには、絶対に裏があるに違いないと朱里は確信した。

「ん? 我は人として当然の事をしたまでだが流星、我は間違えているのか」

「いえ、君は間違えてなどおりません」

 漆黒の彼と純白の彼女は、可笑しそうに笑みを浮かべている。

 

「孔明殿は聡明な方ということはわかった。なら、こういえば納得するだろう」

「なんでしょうか」

「我らはこのようなところで倒れるわけにはいかない。そのために三千の兵を貸すかわりに“役目”を果た

せ」

「貴様ぁぁ!!」

「我は孔明殿と話しているはずだがな・・・・・・関羽殿よ」

「貴様は自分の部下に死ねというのか!」

「話しにならんな・・・・・・どうであろうか、孔明殿よ。信用ならないというのならば、別に構わんが」

「いえ、少しですが私たちが生き残る可能性は出てきましたのでありがたく了承します」

「朱里よ! このような者たちの力を借りずとも我らだけで――」

「残念ながら、愛紗さん。そうは、いきません。わたしたちは、これから“先”のことも考えなくてはいけ

ないのですから」

 

 朱里から放たれた先のこと。

 この言葉を聞いた関羽は納得はできないという顔をしながら渋々引き下がった。

 

「なら、用件はこれにて終了だ。ただ、我の兵たちには命を獲るまではさせんからよろしく頼むぞ」

「ま、まってください。それでは、せっかくの戦力が台無しではありませんか」

「それならば心配ない。使えないと分かれば、盾にするなり特効させて構わん」

「本気でいっているのですか?」

「今の状況で冗談だと思うか」

「・・・・・・栄花さん、あなたとは一生相容れないと思います」

「残念だな、そちらの考えの通りに運んだつもりなのだがな」

 

 栄花は卑しい笑みを浮かべた。

 その言葉に朱里は驚きを隠せなかった。

 

「おやおや、人が集まっていると思えば栄花ではないか」

「あっ! 栄花さまも参加されたのですか?」

 声のほうを向けば、星と天和の姿が見えた。

「久しぶりといったところか、星よ。天和も元気そうでなによりだ」

「まさか、本当に天和の恩人は栄花なのか。それにしても、話しがちとおかしくないか」

「ふむ、皆にいわれるがそこは触れるな」

「ははは、何があったが分からないが変わっていなそうで安心したぞ」

「星も相変わらずだな」

 

 二人して笑いあう姿は友という言葉が似合っているに違いない。

 その二人をみて天和が声を掛けた。

 

「お二人はどんな仲なのですか?」

「そうだな、酒仲間といったところではないだろうか? 栄花よ」

「ああ、違いない」

「へぇー」

「天和、興味がないことに質問をするな。姉妹も連れてきているぞ、会ってくるが良い」

「あ、ありがとうございます」

 

「驚きだな、天和に姉妹がいようとは。まさか、良からぬことをしているのか」

「そう思われても仕方ないが、彼女の罪滅ぼしのためだ」

「天和もそのようなことをいっておったな。これは失礼した」

「なに気にしてはいない」

 

 

「まさか栄花が曹操殿の下にいようとはな・・・・・・嫌っているのではなかったのか?」

「そうなのだがな、数奇な運命というのはやってくるものだ」

「全く本当におもしろいな、栄花よ」

「こちらこそ驚いたものだ星よ。まさか、白蓮殿の下からはなれて、劉備殿の下にいようとはな」

「ああ、桃香さまのお考えに賛同してな。栄花はなぜ曹操殿についていこうと?」

「やはり答えなければ、ならぬか。そうだな、あえて言えば約束という事だ」

「約束だと・・・・・・曹操殿と栄花はよほど深い仲のようだな」

「残念だが星が考えているものではない。むしろ結果がだせず、居場所がなくなりかねん」

 

 その言葉にまたしても星は大笑いした。

 少なからず自分を恐怖させた男がそのようなちっぽけなことについて悩んでいるといったからだ。

 なぜ結果がだせないかは、わからないが一つだけ心当たりはある。

 全くもっておかしな男である。

 ここまでいきすぎると、笑うしかないだろう。

 だから、こういった。

 

「この道化師め」

 

 星はいつもどおりに口を袖で隠し呟いた。

 

「おー、なんちゅう兵の数や少しぐらい手加減してくれてもいいちゃうか」

 連なる兵の数を見て、呑気そうな声を上げるのが張遼。

 彼女の力は、用兵として騎馬を使った速度には誰にも追い付かれる事はない。

 そして、武人として一騎打ちを好み心の根までが武人としての鏡に近い人物だ。

「ふん、これほどの数、我が武があれば関係ない」

 張遼の言葉に反応したのが華雄。

 彼女の力はなんといっても、突破力だ。

 戦斧を振り回し、敵兵の中に飛び込み勇を振るう姿は、自他共に認める猛将として恥じない働きをする。

「私の武がどこまで通用するか知りたい。絶好の機会」

 流れるような言葉で話すのが高順。

 飛将として恐れられ、天下無双の呂布と同等の武を持つ彼女。

 とにかく、純粋に力を求めて戦場で戟を振るい武の頂点を目指す者。

「さすが、高順。私と同じ考えだ」

「全くあんたら二人には敵わんなぁ」

 そんな二人を見て呆れる張遼。

 

「だが、孫の旗がある以上私は討って出たいものだがな」

「おいおい華雄。まさか、賈駆っちにいわれたこと忘れてないやろうな」

「分っている。だがな、武人として黙ってはいられまい」

「うちらの仕事はここを通さない事や、勝手な行動はしないでくれや」

 張遼の言葉に渋々と言った感じで納得する華雄。

「夜襲する」

 高順の言葉に驚きを隠せない二人。

「ちょと、まちぃや。さっき、華雄に説明――」

「夜襲する」

「あんなぁ、ここが突破されたら正直な話し、お陀仏や。それが分っていていうんか」

 額を押さえながら苦労が絶えない張遼だった。

「ここは、突破される。それなら、これからのためにも減らす」

 戦場を睨むように見つめながら高順は言う。

 ここで食い止める事ができないのなら、少しでも数を減らし虎牢関にて向かい討つと。

 

「まぁ、高順の考えも一つやな」

「お、おい! どういうことだ! 先ほどは私に出るなといったではないか!」

「ま、まぁ、華雄とりあえず落ち着こう」

「これが黙っていられるかぁ!!」

 隣ではいつものようにやり取りが続けられる。

「しかし、なぁ。ひっかかるんよな」

「いきなり、真剣な顔をするな」

「はっきりいって、兵数で負けているとはいえ、汜水関を突破する力が連合にはないとおもっているんよ」

 張遼は高順の考えも分かるが、どうしてもいまひとつ納得できない様子だった。

「まぁ、この私がいるからな」

「この際、華雄はなしにして。高順、あんただってそれなりに考えがあるんやろ」

「嫌な予感がする」

 その一言を口にし、視線の先には曹の旗が悠々と靡いていた。

「ん? 曹操かぁ。なんや、夏侯っていう姉妹がそんなに気になるんか?」

 曹操の片腕として活躍する二人のことを知らない者は誰もいないというぐらいに、色々なところで噂され

ていた。

「なんとなく」

「恋の事といい、あんたの考えている事もわからんなぁ」

 同じように、曹の旗を見つめ時は過ぎていく。

 

「それにしても、厄介なことになったわね」

「私たち(連合)は負けることはありませんが今日のように何も反応ないと食料のほうがいつかは底をつい

てしまいます」

「・・・・・・・・・」

 

 既に日は落ち汜水関攻略の一日は過ぎようとしている。

 いや、実際には二日目になっているのであろう。

 汜水関には猛将華雄が控えていることが分かり、華雄と陽蓮は因縁があり雪蓮が華雄を弱者呼ばわりした

がとうとう出てくることはなかった。

 猪武者としても有名だったため、期待していた部分もあったためか落胆は激しかった。

 このままでは攻略をすることは不可能であろう。

 それをなんとかしようと、この場に華琳と桂花と栄花の三人が天幕の中にいる。

 流星たちは劉備たちの下へといっており、連合が終わるまでは再会することはないだろう。

 

「ちょっと聞いているのあんた! あんたもなにか言いなさいよ!」

「あぁ、雨が激しいな」

「このー!! 私を馬鹿にしているんでしょ! そうでしょ!」

「少しは落ち着けばよかろう荀彧殿。怒鳴ってもどうにもならん」

「そんなことはこの私が一番わかっているわよ! あんたを見ていると虫唾が走るのよ!」

「それは失礼した」

 

 うがーと桂花は頭を抱えていた。

 その二人の様子を楽しそうに華琳は見つめていた。

 

「ふふふ、遊びはこれぐらいにしておきましょう。本当に何も思いつかないのかしら、栄花」

「ふむ、我が相手側ならばどうするかと思っていたところだ」

「ちょっと! 考えているんじゃないの!」

 

 無視である。

 

「それで、栄花ならどうするつもりかしら」

「我はどちらかというと武人よりであるからな、こういうときは強敵と手合わせを願いたいものだ」

「ただの馬鹿じゃないの」

 

 無視である。

 

「で、本当は?」

「このままいけば、こちらが崩壊しない限り確実に我らの勝ちだろう。あちらには増援もなければ食料もい

つかは底を尽きる・・・・・・もし勝ちにいくとするならばいつかは出てくるしかあるまい」

「ふん、こっちのほうが圧倒的に有利なのよ。そんなことしたら、全滅になることが目に見えているわ」

 

 無視である。

 桂花の眼に涙が浮かんでくる。

 

「・・・・・・夜襲」

「可能性があるということだ、あるとするなら“いま”が最適であろう」

「こんな激しい雨なのよ、前もろくに見えないというのにそんなことをするなんて考えられないわ」

 

 無視である。

 啜り声が少し聞こえ始めた。

 

「悪くはないわね」

「本来ならばそのようなことは起きてほしくないものだが、備えておけば万が一に対応できるものだ。聞け

ば向こうには軍師の姿がないようではないか・・・・・・荀彧殿よ」

「ふ、ふぇ?」

 

 突然の栄花のふりに情けない言葉が出てしまった。

 

「軍師というものは、常に利がある戦いをするのではないか?」

 

 栄花はこれから起きる戦いに喜びを感じていた。

 

 どうも夜星です。

 できれば、汜水関が終わるまで書きたかったのですが思ったよりも長くなってしまったので次につなげた

いと思います。

 汜水関の戦いを楽しみにしていた方には申し訳ないです。

 次の話しでは汜水関を攻略するところまでやっていきたいと思っています。

 

 最近色々な公式ページに流れているBGMを流しssを書いています。

 どうでもいいことです。

 次回もできるだけ早めに上げれるように頑張りますのでよろしくお願いします。

 

 

 
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