No.182638

真・恋姫無双~君を忘れない~ 十六話

マスターさん

十六話の投稿です。
前回が反董卓連合の導入かと思いきや、今回が導入です。
上手い具合に書きたかったのですが、淡々としたものになり、自分の文才の無さにうんざりします。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2010-11-05 00:38:05 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:14607   閲覧ユーザー数:11847

一刀視点

 

「おぉ、お館様、お待ちしておりましたぞ」

 

「……はい?」

 

 益州に戻ってきて、数日が経過した。紫苑さんの従者として、平穏な生活を過ごしていた俺に、桔梗さんから呼び出しがかかった。桔梗さんの馴染みの店に来るように言われた。

 

 店に入って、桔梗さんの名前を出すと、奥の一室に案内された。どうやら、ここだけ店内から隔離されたようになっているようだ。

 

 室内に入ると、桔梗さんの他に紫苑さんと焔耶もいた。何やら深刻そうな表情をしていて、俺なんかが入るのはどうにも気まずい感じがした。しかし、呼び出されたのだから、きっと俺にも関係することなんだろうな。

 

「失礼します」

 

 なるべく雰囲気を壊さないように、緊張感をもって部屋に入ったが、俺を見るなり、桔梗さんは俺をお館様と呼んだ。訳が分からなくて、茫然として立ったままでいた。

 

「まぁ、お座りください、お館様」

 

 そんな俺を見ながら、桔梗さんはわざわざ俺のために座るスペースを作ってくれた。

 

「え?あの……?」

 

 とりあえず言われた通りに座ってみたものの、相変わらず意味が分からなかった。頭を整理しようとしたが、俺が桔梗さんからお館様と呼ばれる理由が一つも見当たらなかった。

 

「お、お館、な、何か注文するか?」

 

 今度は焔耶が俺のことをお館と呼んだ。恥ずかしいのだろうか、口調は上擦っているし、動きもまるでロボットのようにぎこちなかった。

 

 いや、焔耶、言いたくないなら、無理して言わなくても……。と言うか、そんな赤ら顔をされると、こっちまで恥ずかしくなってしまうのだが。

 

「はい、御主人様」

 

 最後に紫苑さんが俺に盃を渡して、その中に酒を注いでくれた。

 

 いや、完全にアウトだろう。それは反則だろう。そんな満面の笑みを浮かべて、御主人様って……。何の罰ゲームですか?

 

 恥ずかしくて、顔を俯けると、桔梗さんが弾けたように笑った。腹を抱えて、涙を流すほど痛快に笑った。

 

「……済まなかったな、北郷よ」

 

「な、何だ……。桔梗さんも人が悪いですね。本気で焦りましたよ」

 

「いや、先ほど儂がお主をお館様と呼んだことは本気だ。謝ったのは事情を説明しなかったことについてだ」

 

「え……?」

 

 桔梗さんはさっき大爆笑したのが嘘だったかのように、真顔になってそう言った。

 

「北郷、いや北郷殿。お主にお願いがある。天の御遣いとして、儂らの宿願を担う旗印になってもらいたい」

 

 そう言いながら、桔梗さんは俺に頭を下げた。そして、初めて俺に語った。自分たちの宿願を、俺に託した想いを。

 

 

 益州の州牧、劉璋。桔梗さん達の主に値する人物。まずはこの人物について語ってくれた。劉璋は数年前に父親から州牧の座を継いだ。しかし、劉璋の姿を見た人間はほとんどいないという。

 

 劉璋から下される命令は、全て周囲の世話をしている廷臣たちが代わりに持ってくるようで、桔梗さんや紫苑さんすら、劉璋の姿を見たことがなく、年齢はおろか、性別までも分からないという。

 

 そもそも、先代に子供がいたことすら、周知の事実ではなかったという。ある日、何の前触れもなく、劉璋の即位が宣言されたらしい。全てが謎に包まれた人物。

 

「それでも、立派な君主であれば文句はない。しかし……」

 

 悔しそうに顔を歪めながら、話を続ける桔梗さん。劉璋の政治は、まさに己の欲望を満たさんとするものばかりだという。宮殿の造営、急激な増税、軍備の強化、民を想う気持ちなど、そこには一切見られない。

 

 それでも、桔梗さんや紫苑さんは民たちに頭を下げて、その命令に従うしかなかった。宮殿を作る労働力、軍備の強化のための兵士、それらは全て国の若者たちだった。

 

 そして、働き手がいないにも関わらず、急激な増税のために、老人や女たちが必死に働くのだ。その収入のほとんどが国に取られてしまう事を分かっているのに。

 

 桔梗さん達も、劉璋の行う政治に異論を唱えていた。しかし、それが反映されることはなかった。劉璋の住む宮殿は、常時数万規模の兵士に守られていて、例え臣下であろうと、許可なき者は入ることが許されない。それを破る者には、容赦なく極刑が下されたという。

 

 これまでにも何人もの人が、劉璋に直談判しようと、宮殿に駆けこもうとしたことがあったようだ。しかし、劉璋は姿を現すことなく、ただ兵士たちに命令を下したそうだ。一言、殺せ、と。

 

 怒りのあまり唇を強く噛み締めていた。そんな奴がこの広大な益州の地を治めているのか。桔梗さんも紫苑さんも、そんな奴のために働かなくてはならなかったのか。

 

「もう限界なのよ。民も……私たちも」

 

 とても悲しそうな表情でそう呟く紫苑さん。

 

「許せない。そんな奴許せるはずがない!」

 

 机を拳で叩いていた。民たちを虐げる劉璋を、忠義を尽くそうとした臣下を簡単に殺した劉璋を、そして、紫苑さんにこんな表情をさせた劉璋を、絶対に許すことなど出来ない。

 

「だから、儂らは決めたのだ。この益州を変えるため、益州の民を救うため、儂らは、叛旗を翻す!」

 

桔梗視点

 

 儂は、桔梗と焔耶とともにいつもの酒屋にて北郷を待っていた。ついにこの日がやって来た。今日は、儂らの望みを叶える為の記念すべき日となるだろう。

 

 黄巾賊の反乱により、朝廷は力を失った。今ならば、反乱を起こした所で、連中が征伐軍を送り込むことは出来ない。機は、今しかないのだ。

 

「……済まなかったな、北郷よ」

 

「な、何だ……。桔梗さんも人が悪いですね。本気で焦りましたよ」

 

「いや、先ほど儂がお主をお館様と呼んだことは本気だ。謝ったのは事情を説明しなかったことについてだ」

 

 入って来た北郷に対して、多少の悪ふざけも終わり、大いに笑わせてもらったところで、儂は本題に入るために、居住まいを正した。

 

「え……?」

 

「北郷、いや北郷殿。お主にお願いがある。天の御遣いとして、儂らの宿願を担う旗印になってもらいたい」

 

 北郷に頭を下げた。本来であれば、紫苑の従者という身分の者に頭を下げるなど、あり得ない事だが、こやつは儂らの希望だ。それで話が済むのなら、いくらでも頭など下げよう。

 

 それから、儂は自分たちを取り巻く状況について、手始めに我が主である劉璋の話をした。北郷は、真剣な表情で儂の話を聞いていた。

 

 儂らの苦悩、圧政に苦しむ民を目の前にしながら、何も出来ない自分たちの無能さに、何度嫌気がさしたことか。

 

 この日のために必死に耐えた。劉璋から下される命令を、例えそれが、儂らの愛する民を苦しめるものだと分かっていても、いつか好機が巡ってくると信じて、守ってきた。

 

 何度も宮殿に行こうと思った。例えそれで犬死しようと、己の信じる正義のために死ねるのなら本望であると。しかし、儂がいくら死んだところで、民が救われるわけではない。それは単なる逃げに過ぎないのだ。

 

「許せない。そんな奴許せるはずがない!」

 

 珍しく怒りを露わにした。こやつがここまで怒りを表現するのは初めて見た。良い傾向だ。その怒りは、民を想う気持ちから生じたもの。それでこそ、月殿や翡翠に合わせた甲斐があったというものだ。

 

「だから、儂らは決めたのだ。この益州を変えるため、益州の民を救うため、儂らは、叛旗を翻す!」

 

 儂の言葉に、北郷は大きく頷いた。その目は決意に炎に燃えていた。確認するまでもなく、北郷は儂らに協力してくれるだろう。

 

 それでこそ、儂が見込んだ男だ。やはり儂の目に狂いはなかった。儂らの想いを託すに値する男よ。

 

一刀視点

 

 桔梗さんの言葉に頷いた。それだけで俺の答えを分かってくれたようだ。もちろん、桔梗さん達に協力する。俺みたいな男に何が出来るかは分からないが、俺が出来ることをしたいと思う。

 

「そこで先ほどの話に戻る。儂らは少しずつ反乱軍を組織してきた。しかし、そこで問題が発生したのだ。儂ら反乱軍には首領となるべき人物がいないのだ。そこにお主が現れた」

 

「え?でも、反乱軍の首領なら桔梗さんや紫苑さんの方が……」

 

「儂らはその器ではない。前線に立ち、兵士を相手に暴れている方が性に合っている。それに天の御遣いという名前は、反乱軍にとって大きな力になるだろう。まぁ安心しろ、首領になるといっても、実務は全て儂らでやる」

 

 確かに、天の御遣いに率いられている、そう自覚するだけで、反乱軍の士気は大きく上昇するだろうし、民もこちらの味方となってくれる可能性も高まる。

 

「分かりました……」

 

「本当か!?」

 

「ただし、一つだけ約束してもらいたいことがあります」

 

「約束?」

 

「天の御遣いとして反乱軍は率います。しかし、今の関係性を壊したくないんです。俺は皆さんに命を救われました。その恩もろくに返していないのに、上の立場になりたくないんです。自分の理に反してまで、首領になることは出来ません」

 

「一刀くん……」

 

「儂らへの恩なら、首領になれた段階で十分に返せておるのではないか?」

 

「俺が首領になるのは民を救うためで、恩返しではありません。そんな中途半端な想いでは、首領になんてなれませんよね?」

 

「フフフ……そうだな。良いだろう。儂らだけで会う時は、これまで通りの関係でおろう」

 

「ありがとうございます」

 

「それでは、お館様、誓いの杯を」

 

「え?あ……う、うむ」

 

 慣れない呼び方におかしな反応をしてしまい、紫苑さんからクスクスと笑われてしまった。口調は今まで敬語でも大丈夫かなぁ?偉そうな口調なんて、俺には似合わないや。

 

「乾杯」

 

 俺たちは杯を交わした。これで俺も益州の反乱軍の一員、いや、反乱軍のリーダーになったわけだ。まぁ、もちろんそれが形式上と言うか、実質的に反乱軍を動かすのは、桔梗さん達なんだろうけど、皆に恥じないようにしないとな。

 

「それで、桔梗さん。具体的に、これからどんな動きをする予定なんですか?」

 

「ふむ、桔梗と呼び捨てて下されば良いものを……」

 

「口調はそのままでいさせて下さい。偉ぶるのは性に合わないですよ。それに今は四人だけです」

 

「まぁ、仕方ないの。それで、これからなんだが……」

 

「桔梗様!!」

 

 突然扉が開いて、室内に桔梗さんの部下らしき人物が現れた。その様子は尋常なく焦っており、肩で呼吸していた。

 

「何事だ!」

 

 桔梗さんも事の重大さに気付いたようで、その人に近寄った。部下の人は桔梗さんに何か耳打ちをしたが、その瞬間に桔梗さんの顔色が一気に変わった。

 

「桔梗、どうしたの?」

 

「……月殿が……」

 

紫苑視点

 

 一刀くんは、私たち、反乱軍の首領になることを了承してくれた。これまでの長い間、桔梗たちと耐えた甲斐があったわ。これで、やっと、私たちの手で益州の民たちを救う事が出来る。

 

 一刀くんは約束として、今まで通りの関係でいたいと言った。

 

「儂らへの恩なら、首領になれた段階で十分に返せておるのではないか?」

 

「俺が首領になるのは民を救うためで、恩返しではありません。そんな中途半端な想いでは、首領になんてなれませんよね?」

 

「フフフ……そうだな。良いだろう。儂らだけで会う時は、これまで通りの関係でおろう」

 

 翡翠たちに会って、本当に成長したようね。私たちに協力するのは、私たちのためではなく、民のため。自分自身の意志で行動しているということね。桔梗も嬉しそうに笑っちゃって。

 

 とにかく、一刀くんが私たちの宿願のために、天の御遣いとして協力してくれることも決まり、私たちは改めて杯を交わした。

 

「桔梗様!」

 

 そこに桔梗の部下が現れた。あの人は確か桔梗が放っている細作をまとめ上げている男だったわね。そして、桔梗に何か耳打ちをすると、桔梗の顔色が青ざめた。

 

「桔梗、どうしたの?」

 

「……月殿が……」

 

「月様が……?」

 

「袁紹を筆頭に反董卓連合が結成されたらしい。現在、諸侯が兵を引き連れて、続々と集まっているそうだ」

 

「!?」

 

 反董卓連合?どういうことなの?確か報告では十常侍の要請で、月様が洛陽入りを果たしたのは聞いていたけど、でも、月様のこと、きっと善政を布いて、洛陽を都として繁栄させているはず。

 

「そ、そんな……」

 

「諸侯にはこんなものが配られたそうだ」

 

 そう言って桔梗は私に書簡を渡した。そこには、月殿が洛陽で暴虐の限りを尽くし、民を虐げ、帝を蔑にしていると書かれていた。その檄は袁紹から発されたものだった。

 

「まさか!董卓さんが悪政を布いているわけがない!」

 

 一刀くんが声を荒げた。もちろん、そんなこと、私たちだってよくわかっているわよ。月様は何よりも民を第一に考える御方ですもの。

 

 そして、私の中で一つの疑問が浮かんだ。どうして、私たちはこの檄文が放たれたことを知らなかったのか。諸侯は兵を率いて集まっている?明らかに対応が早すぎる。

 

「……劉璋は、このことを?」

 

「はっ。すでに連合には参加せずとの回答をなさっております」

 

「くそ!月殿が優秀な君主であることくらい知っておろうに!ここにきて日和見を決め込むか!」

 

「今からでも洛陽へ!」

 

「ダメだ。儂らはあくまでも益州の将。主が参加しないと言っておる連合には参加するわけにはいかない。くそ!」

 

 桔梗は机を叩いて怒りを露わにした。当たり前ね。これでは私たちも何も出来ない。そして、仮に劉璋の命令を無視して、月様を助けに行こうとしても、今から兵を集めるのでは、とうてい間に合わない。

 

「……桔梗さん、俺に考えがあります」

 

 そんな中、一刀くんが再び口を開いた。その策は賭けに近いもので、上策と言うわけではなかったけれど、私達には他に手立てがあるようには思えなかった。その策に乗るしかなかった。

 

あとがき

 

十六話の投稿です。

 

いろいろ試行錯誤をしてみたものの、結局上手く纏められませんでした。

 

最近は恋姫のSSの面白い新作も増えたようで、他の作者様の文才が羨ましい限りです。

 

今回は桔梗さん達の宿願について書きました。

 

まぁ、予想はついていたとは思いますが、反乱軍の組織です。

 

そして、その相手になる益州の州牧、劉璋。

 

原作ではほとんど出ませんでしたよね?一応、男性らしいようですね。

 

この作品では、もう少し詳しく書きたいと思います。

 

今の所は全て謎に包まれています。登場するのは大分先ですけど……。

 

とりあえず、今の所分かっているのは、悪政を布く暴君といったところです。

 

そして、反董卓連合の結成。

 

劉璋は不参加を表明しています。桔梗さん達はあくまでも劉璋の武将。

 

主を差し置いて勝手に兵を率いるわけにはいきません。

 

そんな中、一刀が提案した考えとは?

 

月たちはどうなるのでしょう?

 

次回は反董卓連合をお送りします。

 

誰か一人でもおもしろいと思ってくれれば嬉しいです。


 
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