No.182144

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART9~

戯言使いさん

さて、ついに蜀に来ました。
みなさんの期待に答えられる展開になるか分かりませんが、精一杯書きました。よろしくお願いします。

はぁ、明日は休日だって言うのに、何の予定もありません(´Д⊂グスン

2010-11-02 18:49:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:8971   閲覧ユーザー数:6321

 

 

七乃視点

 

 

 

「一刀、今頃蜀に着いているかしら」

 

 

「蓮華様。今日で3度目です。またあの男ですか」

 

 

「思春。あの男なんて言っては駄目よ。一刀は王としての私を気付かせてくれた、大事な恩人なんだから」

 

 

「はっ!失礼しました・・・・・しかし、お仕事をきちんとしてもらわなくてはなりません。先日は仕事から抜け出して、街の子供たちと遊びに行かれたとか。民との触れ合いもよろしいですが、お仕事もきちんとしてもらわなくてはなりませんよ」

 

 

「はーい・・・・・ふぅ、一刀、今頃どうしてるかしら・・・・」

 

 

「・・・・まったく、北郷のせいで、すっかり蓮華様が大人しくなってしまったではないか・・・・」

 

 

執務室、蓮華は仕事をしながら、口ぐちに一刀のことを漏らす。以前なら、仕事中に関係のない話をしようものなら、怒りだしていた蓮華だが、今ではすっかり牙の抜かれた犬。

 

だが、思春は以前の蓮華よりも今の蓮華の方が気に入っている。

今では何かあると自分を頼ってくれている。自分の存在が蓮華に認められている、そう分かった時の嬉しさは、今でも覚えている。

 

 

「一刀・・・・怪我してないかな。お腹壊してないかな・・・・」

 

 

「まったく」

 

 

これでは雪蓮や小蓮がもう一人増えたような感じだ。

 

思春は少し微笑みながら、ため息をついた。

 

 

コンコン

 

 

「報告があります!」

 

 

兵士が執務室へと入ってきた。

 

 

「何だ」

 

 

蓮華は一瞬にして王の顔になると、兵士に聞いた。この切り替えはさすが王と言うべきか。

兵士は一度頭を下げると

 

 

「はっ!逆賊、張勲を捕えました」

 

 

「張勲・・・・?となると、袁術も一緒か?」

 

 

「いえ、違います。と申しますか、捕えたと言うより、本人が呉の城に名乗り出たのです」

 

 

「??とりあえず、玉座の間に入れなさい。思春、武将たち全員を玉座の間に集めなさい」

 

 

「はっ!」

 

 

すぐさま命令通りに動き出した思春と兵士の後ろ姿を見つめ、蓮華は考えた。

 

どうして、わざわざ雪蓮の約束を破ってまでこの街に来たのか。しかも、どうして自分から名乗り出たのか。

 

 

「とりあえず、会ってみれば分かるか・・・」

 

 

蓮華はすぐさま玉座の間へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玉座の間にて。

 

 

呉の武将に囲まれて、縄で縛られた七乃がいた。

 

雪蓮はそんな張勲をみて、はぁとため息をつく。

 

 

「ねぇ、張勲。私と約束したこと、覚えてる?」

 

 

「はははは、はいぃ!も、もちろんですとも」

 

 

ぶるぶる、と涙目になりながらも答える七乃。その様子を見て、また雪蓮はため息をついた。

 

 

「怯えなくていいわ。もし秘密裏に城に潜入していたのならば、即刻打ち首だけど、あなたは堂々と門から名乗りを上げて入ってきた。それに免じて、理由ぐらいは聞いてあげる・・・ってあれ?袁術はいないの?」

 

 

いつも金魚のフンのようにくっついていた美羽が居ない。さては、何処かに隠したのか?と、孫策は気配を探ろうと神経を研ぎ澄ましていると、七乃はいともあっさりとネタばれをしてしまう。

 

 

「捨ててきちゃいました」

 

 

「えっ?あなたが?袁術を捨てる?」

 

 

「はいー。どうせ、お嬢様は何だかんだで生き延びれる人ですからねー。けど、私の探している人は、ちょっと危ないことを平然とする人なので、その人の助けになろうと・・・・・残念ながら、付き人の二人は頭脳労働には向いていませんからねー」

 

 

「へぇ、あなたに袁術を捨ててまで助けたいって人がいたのね・・・・それで、なんて名前の人?」

 

 

「えっと、北郷一刀さんって言う人なんですが、」

 

 

「一刀!?」

 

 

その名前にいち早く反応したのは、蓮華だった。先ほどまでの王としての蓮華は一瞬にして消え去り、今では顔を輝かして尻尾を振っている子犬のようだ。

 

 

「えっと、確か村人たちの話では、呉に行くって言っていたのですが・・・・まさか、お城に来てないんですか?」

 

 

「来てたわよ!今元気にしてるの!?お腹減ってないかな?怪我とかしてない?」

 

 

「あ、あの~、孫権さん。それは私が知りたいのですが・・・」

 

 

いきなり乗り出してきた蓮華に苦笑いの七乃。

 

そう言えば、一刀が七乃がどうのこうのと言っていた気がするわー、と孫策は思い出して、それと同時に最初に斗詩から聞いていた旅の仲間に袁術たちが居たことを思い出した。

 

 

「じゃあ、わざわざ一刀に会いにくるために、呉まで来たの?」

 

 

「はいー」

 

 

「それはどうして?」

 

 

「んー、そうですねー、分かりやすく言うと、私が一刀さんに首ったけってことですねー。それはもう、命をかけて会いに来ましたよ。だから呉なんて、二度と来たくなかったけど、頑張って来ました」

 

 

なるほど、と雪蓮は頷く。

 

美羽の世話人とばかり思っていたが、七乃も一人前の女だった、と言うわけか。雪蓮はなぜか、嬉しかった。理由は分からないが、もしかしたら、今まで敵として扱ってきた七乃と、同じ男に惚れた者同士、と言う奇妙な関係になったことが新鮮だったのかもしれない。

 

だが、残念ながら七乃の希望は叶えられそうにない。

 

 

「一刀なら、もうとっくに蜀に向けて旅に出たわよ」

 

 

と、雪蓮は事の次第を七乃に説明した。

 

 

「そ、そんな・・・・・」

 

 

七乃にとっては計算外だった。

 

七乃が雪蓮との約束を破ってまでも呉に来たのは一刀と会うためだ。仮に捕まったとしても、一刀が助け出してくれるに違いない、そう思ったからこそ、勇気を振り絞って呉に来たのだ。

 

だが、一刀がいないとなると、自分を助けてくれる人もいないと言う訳で。

七乃、絶体絶命のピンチだった。

 

 

「あ、あの・・・・孫策さん?」

 

 

「あら、何かしら」

 

 

「えっと・・・・・腕でも足でもお好きな方を差し上げますから、命だけは助けてくれませんかねー」

 

 

気の抜けた声ではあるが、それでもキチンと約束を反故にした罰を受けようとする七乃の言葉に、雪蓮は少しだけ感心する。以前はみっともなく命乞いをしたが、今回は違う。やはり一刀の影響か、と雪蓮は思った。

 

 

「ずいぶんと潔いけど、どうかしたのかしら?」

 

 

「私があの二人に勝っているのは、頭脳と話術ですからねー。だから、その二つさえ動いてくれれば、きっと一刀さんたちの助けになれると思うんです。手がなくても足があれば一刀さんに歩いて会いにいけますし、足がなくても手綱を持つ手があれば、馬にのって一刀さんに会いにいけます」

 

 

にっこり、と笑う七乃の姿に、雪蓮は一瞬だけだが一刀の姿とダブって見えた。

 

自分の運命を否定しない。それを受け入れ、そしてそこから打開策を見出す。一刀が、村人たちと対峙した時と同じだ。

 

 

・・・・・これは、負けたわね。

 

 

 

「いいわ。許してあげる。縄を解いてあげなさい」

 

 

「えっ・・・?いいんですか?」

 

 

七乃は自分を縛っていた縄が解かれるのを、不思議そうに見ている。そして雪蓮を見るが、雪蓮は笑顔で上機嫌だった。

 

 

「えぇ。あと、これからも呉に来ることを許可しましょう」

 

 

「あ、ありがとうございます・・・・・でも、どうして?」

 

 

「理由なんてないわ。けど、一つだけ言っておいてあげる」

 

 

「???」

 

 

「一刀は、渡さないわ」

 

 

雪蓮の言葉に、呉の武将たちが頷く。

 

それを見ていた七乃は一瞬にして一刀が呉でどのようなことになっていたのかを理解し、そして

 

 

「それはこっちの台詞でーす♪」

 

 

 

と、笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、七乃は呉の武将たちの見送りを受けながら、蜀へと旅だったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀視点

 

 

 

 

 

「なんつーか、蜀って穏やかだな」

 

 

「そうだな兄貴。なんか民たちが笑顔って言うか、平和そのものだな」

 

 

「えっと、確か劉備さんは仁義に厚く、民たちから慕われているらしいです。だからじゃないですか?」

 

 

一刀たちは現在、蜀の城のある城下町へとやって来ていた。

 

しかし、その街に入って来て一番最初に気が付いたことは、治安が驚くほどいいのだ。浮浪者も少なく、民たちはみな笑顔。まさしく、平和と言う言葉が一番似合っていた。

 

 

「ふーん、確かに劉備ってのは王としてはなかなかの奴らしいじゃねーか」

 

 

「そうですね。それに、蜀の武将たちは大陸に名を轟かす勇猛ばかり。おそらく、三国の中で武将の質は一番かもしれません」

 

 

「おぉ!あたいも楽しみだぜ!・・・・それよりも兄貴、お腹すいたー」

 

 

「呉に入った時も言ってたよな。しょうがねーな、俺が奢ってやるよ」

 

 

「やりー!斗詩もいいよな?」

 

 

「もぅ、しょうがないなー文ちゃんは」

 

 

と、その平和な雰囲気にあてられたのか、心なしか一刀の表情も柔らかい。

 

それじゃあ、何を食べようか、と話をしていると

 

 

「わー」

 

 

一刀の足に軽い衝撃があった。

 

何だ?と足元を見てみると、小さい女の子がぶつかって転んでいた。そして地面にはお菓子の入った袋が落ちており、中身が土だらけになってしまっていた。

 

 

「あー、どうしよう。大事なお客様が来るって言ってたのにー」

 

 

「おぃ」

 

 

「っ!」

 

 

女の子一刀を見て怯えたように震えたが、一刀は気にすることなく、その女の子を担ぎ、立たせると服に付いた土埃を払ってやった。

 

 

「怪我はないか?」

 

 

「う、うん。ありがとう」

 

 

「そうか。俺もよそ見しちまってて悪かった、これはほんのお詫びだ。これで代わりの菓子でも買ってこい」

 

 

と、一刀は自分の懐からお金を取り出すと、それをその女の子に渡した。

 

その女の子はそれを受け取っていいのかどうか悩んだが、結局は

 

 

「ありがとう!おにーちゃん!」

 

 

と、元気よく走って行った。

 

その光景を見ていた斗詩は、乱暴ならがも気遣いの出来る一刀に惚れ直している最中で、真っ赤になった頬を両手で押さえてくねくねしていた。

 

 

「おい。俺の奢りはなしだ」

 

 

「ふふ、分かってますよ。今日は私と文ちゃんが御馳走します」

 

 

「言っておくけど、あんま高い物は駄目だからなー」

 

 

「あぁ、分かってるよ」

 

 

 

3人はまた、ゆっくりと蜀の街を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人は充分に街を楽しんだ後、本題である蜀の城へと向かった。

 

 

門番に自分たちの存在を明かすと、それは笑顔で控室へと案内された。そしてしばしそこでお茶を楽しんでいると、また兵士がやってきて、玉座の間に招待された。

 

 

玉座の間には机と椅子が置いてあり、そして机の上にはお茶とお菓子が供えられていた。一刀たちが玉座の間に入ると、小さくて可愛らしい女の子と、眼鏡の少し気の強そうな女の子が席に案内し、そしてお茶をそそいでくれた。

 

 

一刀が座った対面には、蜀の武将がすでに座っており、何やら楽しそうにこちらを見ていた。

 

 

「まず自己紹介させてくれ。俺は北郷一刀。こっちは元袁家の武将の顔良と文醜な」

 

 

「うん!手紙で書いてあったから分かるよー!私は劉備、蜀の王様だよ」

 

 

対面には桃香、そしてその傍には軍師の朱里と雛里、そして蜀の五虎将が並んでいる。桃香の挨拶が終わると、それぞれ軽く一刀たちに挨拶をした。

 

 

「それじゃあ、さっそく本題だけど・・・・」

 

 

「あ、ちょっと待って。ほら、璃々ちゃん」

 

 

と、桃香が声をかけると一人の女の子が顔を出した。その女の子は一刀とぶつかった女の子本人だった。

 

 

「おにーちゃん、さっきはありがとう」

 

 

「ん?気にすんな。つーか、この子は何なんだ?」

 

 

「その子は私の娘、璃々です。お菓子を買いに行ったきり遅かったから、どうしたのかと聞いたら、白い服を着たお兄さんにぶつかって、助けてくれたと申しておりまして、まさか天の使い様だったとは・・・・ありがとうございます」

 

 

紫苑が頭を下げる。

 

 

「気にすんな。俺の不注意でもあったしな」

 

 

「ふふふ、初めて見た時は少し怖い印象でしたが、とってもお優しいのですね」

 

 

優雅に笑う紫苑に、一刀は視線を外すと照れ隠しに舌うちをした。素直じゃない一刀さんも素敵、と斗詩はまた一人で悶えた。

 

 

「いやー、天の使い様がどんな人かなって思ってたら、予想通り優しい人で安心したよー。蜀は武将みーんな、天の使い様を歓迎します!」

 

 

「ありがとよ。あと、天の使いって言うのは止めろ。名前で呼んでくれ」

 

 

「りょーかい。それじゃあ、北郷さん。さっそくお手紙をくれますか?」

 

 

「あぁ、ほら、これだ」

 

 

「ありがと。それじゃあ、朱里ちゃん。お願いね」

 

 

「はい。・・・・・ごほん」

 

 

朱里は孫策からの手紙を音読し始めた。

 

 

内容は以前も聞いた通り、魏の軍事力が拡大している。このままでは太刀打ちできないので、もう一度同盟を組み、軍事力拡大をしてほしい、と言う内容だった。

 

朱里が読み終え、そして手紙を再び桃香に戻した。

 

桃香はもう一度自分で手紙を読み返すと

 

 

 

「もぅ、孫策さんったらいけないんだー」

 

 

 

 

と言った。

 

 

「はぁ?」

 

 

「だって、斥候を放ったら駄目だよぉ。それぞれ関与しないって言うのが天下三分の計の取り決めだったのに、規則違反だよ」

 

 

「ま、まぁ、そうだな」

 

 

「うん!後で孫策さんにお説教の手紙書くよ!」

 

 

一刀はいきなり本題とはずれたところから言ってきた桃香に拍子抜けする思いだった。だが、すぐに気を引き締め直すと、本題を切り出した。

 

 

 

「それで、同盟についてなんだが・・・・」

 

 

「うーん・・・・・・・・うん。悪いけど、私は同盟に参加しないよ」

 

 

 

 

 

「・・・・・はぁ?」

 

 

 

 

 

 

一刀は思わず間抜けた声を出してしまった。

それほど、予想外の答えだったからだ。

 

しかし、桃香は気にせず続きを言った。

 

 

「だって、同盟を組むって言うことは、もう一度魏と戦争するってことだよね?そんなの、嫌だよ」

 

 

「嫌だよって・・・・だって、魏は軍事力を拡大してるんだぞ?」

 

 

「きっと盗賊団と戦うためとか、自分自身を守るためだよ。曹操さんだって、大陸の平和を願ってるに違いないし、せっかく平和になったのに、もう一度戦争なんて起こさないよ」

 

 

「い、いや、だけど、そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないだろ?」

 

 

ほぼ100%戦争を起こす気であろうが、そう言っては話が進まないので、一刀なりに優しく言ってみた。

 

しかし、それに対して桃香は満面の笑みで答えた。

 

 

 

 

 

「あのね、私は曹操さんを信用しているの。もちろん、孫策さんだってね。同じ大陸の平和を願う国の王として、むやみに血を流すことなんてしないって信じてるの」

 

 

 

 

 

「・・・・へぇ」

 

 

 

 

「戦争なんて嫌だよ・・・・みんなが笑って、みんなが幸せになれる世界を作るために私は王になったんだもん。それはみんな一緒だよ」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・かもな」

 

 

 

 

 

 

「もし、曹操さんが戦争をしかけてきても、私は絶対に戦わない。きっと、曹操さんも何か考えてるに違いないから、まず話し合いをして、そして戦争を辞めて貰えるように説得してみる。だって、曹操さんはそんなことをする人じゃないって信じてるから!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・ふーん」

 

 

 

 

 

 

「北郷さんも見たでしょ?街の人。みんな笑って、みんなが幸せそうで、きっとそれぞれの国が協力し合えば、大陸中の人が幸せになれると思うの。だからそのためにも、戦争はしない。だから、まずは曹操さんとお話してみようと思うの。それで、もし戦争する気なら、思いなおして貰って、仲良くしたいな」

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

「北郷さん。私、思うんだ。相手が殴りかかってくるのは、きっと怖いからだって。だから、怖くないよーって教えてあげれば、きっと仲良くなれるって」

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

「力だけじゃあ平和は来ないんです!だって、私たちは心を持った人間なんですから、話合えばきっと分かってくれるんです!」

 

 

 

 

 

桃香の力のこもった演説を聞いて、斗詩は言い知れぬ不快感が全身を襲った。

 

もし冗談なら冗談と言ってほしい。それなら大いに笑えるのに。でも、その演説で一番笑えるのは、それが冗談ではなく本気であることだ。

 

 

 

斗詩は隣で無言になった一刀を見た。

 

 

 

 

一刀は桃香の眼を見て、その演説に聞き入っている。一刀の表情は特に変化はなく、斗詩のように不快そうな顔でもなければ、怒っているわけでもなさそうだった。

 

 

 

「ねっ?北郷さんもそう思うでしょ?」

 

 

 

桃香がようやく演説を終え、一刀に聞いてみる。

 

 

一刀は何度か「うんうん」と頷き、そして一刀には珍しく満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「劉備の考えはよくわかった。人は信じあえる。人は助けあえる、か。なるほどな」

 

 

 

 

 

 

 

「分かってくれた!?やったよ!愛紗ちゃん!天の使いさまにも認めてもらえたよ!だからきっと曹操さんも分かってくれるね!」

 

 

 

 

 

隣に座る愛紗の手を取り合う桃香に、その場の雰囲気が一瞬にして穏やかになった。さきほどまで戦争の話をしていたとは思えないほどの変りようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あはは、と笑う桃香に、一刀も笑顔を返す。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。わりぃんだけど、関羽。頼みたいことがあるんだ」

 

 

 

「ん?なんですか、北郷殿」

 

 

 

「いや、別に大したことじゃねーよ。ちょっとの間、劉備を別の部屋に移動させてくれねーか?」

 

 

「はて、どうしてでしょうか」

 

 

 

愛紗は突然変なことを言いだした一刀に首をかしげる。

 

 

だが、お願いをしている一刀は笑顔で、それほど危険には思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、続けて一刀は笑顔のまま低い声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてかって・・・・わりぃ、思わず殺しそうになるからだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリン、

 

 

桃香の湯のみが、勝手にこなごなに砕け散った。

 

 

 

 

 

次回に続く


 
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