太い男だった。
腕が太い、足が太い、体が太い。
男として並々ならぬ太さをもった男。
男の名は杉山雄紀と言った。
襟元をたてた白いスーツに身を包み、足には綺麗に磨かれた皮靴をはいている。
しかし身につけるどれもが、膨張した筋肉のせいで今にもはち切れそうだ。
杉山は自慢の天然パーマをかきあげる。
何気ない日常の一シーンのように。
「なに余裕かましてんだコラァー!!」
男の怒号が鳴り響く。
杉山の周囲には十数人の男たちがそれぞれ武器を構えて包囲している。
割られた瓶、1メートルほどの長さをもった鎖、一尺ほどの短刀に釘バットなど多種多様だ。
見るからに危険な状態である。
「てめぇ~は今から死ぬんだよ。わかってんのか~」
見せびらかせるように男は武器をひらつかせる。
下卑た笑みを浮かべる男たち。その姿が杉山には滑稽に見えて仕方なかった。
「笑ってんじゃねぇ~」
杉山が漏らした笑みに激怒してか一人の男が襲い来る。そしてその動きに呼応するように、周囲を取り囲む他の男たちも怒声をあげながら杉山に向い走り出した。
最初に仕掛けた男の釘バットが杉山の頭部めがけて振り下ろされる。
また、間髪入れずに他の男たちの攻撃もことごとく杉山に襲いかかり。
そのすべてが杉山に直撃した。
あまりにも簡単にことが進み男たちは拍子抜けしたようにたたらを踏んだ。確かな手ごたえがその手に残っている。文句のつけようもなく杉山を殺してやった。
はずだった。
男たちの顔はすぐに蒼白へと変わり、中には腰が抜けてしまう者もいる。目の前で起きたことが信じられないというように皆、その眼を見開いている。
「なんだこれは」
その眼前で起きている事実を男たちは受け入れることができないでいる。
渾身の一撃だったのだ。皆が放ったその一つ一つが致命の一撃であり、必殺の威力を秘めていた。
杉山は倒れ、苦しみ、死を待つほかないはずだったのだ。
だが今彼らの目の前には悠然と立つ杉山の姿がある。
釘バットで頭部を殴られ、短刀で腹部を突き刺し、致命の攻撃を受けたはずの杉山は血の一滴すら流れていない。
杉山の姿を見て、男たちは自分のもつ武器におっている事態を察知した。
武器のどれもがへし折れ、ねじ曲がり、そのようをなさなくなっていた。
彼らの武器は杉山という一人の男に屈したのだ。
平然と立ち尽くしていた杉山がゆっくりと動き出す。
「俺の自慢のヘアー乱れちまっただろうが」
杉山の眼光が男たちに向けられる。
もう男たちは逃げることすら許されなかった。杉山というあまりに強大な恐怖に背を向けることすらできないでいたのだ。
杉山の正面に立つ男が腰をぬかしその場で失禁する。
杉山という強烈な雄の前では男たちのプライドなど容易に砕け散っていた。
ゆっくりと振り上げられる巨大な右拳。
そんな何気ない動作でも杉山が行うと天地を揺らす威圧感を与える。
男になすすべはない。あとはただその拳が振り下ろされるのを待つだけ。
風を切り裂き、轟音を引き連れ杉山の拳が放たれる。
拳骨を落すように男の頭部に杉山の拳がめり込んでいく。
そして男は一瞬の間に砕け散り、地面へとこびりついた肉片とかしていた。
杉山という名をもつ男。
その男に手をだした時点で男たちはこうなる定めにあったのかもしれない。
ただ男たちに運が残っているのだとしたら。
杉山が周囲を見回すと男たちは皆死んでいた。余りの恐怖に肉体が耐えられず心停止を起こしたのだ。
男たちは死んで恐怖から解き放たれたれることになる。
それはきっと、この空間にいた彼らにとって、それ以上を望めぬほどの幸福だっただろう。
「スーーーーーーーーーーン!!」
その唸り声とともに杉山の全身が隆起していく。
揺られる電車の中。その車両には杉山以外の姿は見えない。
椅子に腰かけることなく仁王立ち男の周囲には異様な空気が漂っている。
「N駅~、N駅に到着します。お降りのお客様はお忘れ物ないように……」
こと杉山に限って忘れ物などするわけないのだが、念のため羽織ったコートのポケットを確認する。
そこには物々しい厚さをした財布と電車の切符が入っている。あまり多くを持ち運ばない杉山にとってはきょうびの出銭が百万ほどあれば十分なのだ。
電車が停止するとドアが開かれ、杉山がN駅にと降り立った。
瞬間駅のホームにいた人々の背筋が凍りつく。見るからに屈強な男の空気にみなのまれてしまっている。
全員が全員、視線を杉山から逸らし距離をとっていく。
杉山が下りるとその後に続いて別の車両からぞろぞろとガラの悪い男たちが下りてくる。
そして乗っていた全員がホームに降り立つと、杉山のプライベート列車はドアを閉め、動くことなく停車していた。そのせいでこの日、走るはずの電車の一部がN駅を利用できず運航を見合わせたという。
「ついに来たか、N市」
杉山はそう呟くとゆっくりと歩を進めた。
プライベート電車に乗ってきた杉山だが、律儀に改札へと切符を通した。
その懐の大きな行動にその場にいたほとんどの人たちが涙をこらえることができずにいた。中には泣き崩れてしまうものもいるが杉山はどこ吹く風、気にとめることなく歩き出していた。
杉山に続くようについてきた連中は駅のホームで待機している。ここから先は彼のプライベート。みな遠慮しているのだ。
「うっま、うまぁ、まっまっ」
杉山のすぐ側で醜悪な鳴き声がした。
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某国SUGIYAMA。そこは屈強の男たちが競い合う地。この地において杉山は、最強の証明となる。
(未完。まだまだ続くよ!!)