No.180760

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(21)

自分には足りない物が多過ぎる!
それは。
情熱思想理念頭脳優雅さ勤勉さ!
そして何よりもォーーーーー速・さ・が・足・り・な・い!!

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2010-10-27 20:32:52 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:11017   閲覧ユーザー数:8069

 

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

 

夢を、見ていた。

 

もう遙か彼方に置き去りにしてしまったようで、実はすぐ傍にあるかのような、そんな夢を。

 

その夢の内で、私はたった一人の男の人が心底好きで、沢山の女性も彼が大好き。

 

なのに、私は全く嫌だとは思わなかった。

 

夢の中の彼は困った様でいて、皆を本気で愛していた。

 

・・・・・・そう、これは唯の夢。

 

だって、彼の側にいる筈の、いなければならない【あの人達】がそこにはいなかったのだから。

 

 

 

 

 

夢から覚めた桃香は、何故か涙を流していた。

 

桃香は目元の涙をグイと強く拭い、寝所から外に出た。

何故か、奇妙な程目が冴えていた。

 

洛陽を発ってから丸一週間かけて平原に辿り付いたものの、中央の命に反発した挙句、桃香を暗殺しようとした前任の相を、更に一週近くかけて追放して正式に相を引き継いで、その後はあらゆる政務を二週近くこなして、ヘトヘトになって眠っていた。

その筈だったのに。

真夜中にも関わらず、眠気が欠片も無くなってしまった。

 

首を傾げながらも桃香は歩き続け、遂には城壁の上にまでやって来てしまった。

そして何を思ったのか、城壁の向こうの平原郡の大地へと目を向ける。

そこには広大な大地、そして畑。

だが、然程発展はしていない。

それもその筈。

桃香の前任は、絵に描いた様な悪徳相。

酷い重税を民に課していた。

これからは、それを何とかしていかなければならないのだ。

しかし、そんなこれからを思うと、頭が重いのもまた事実。

溜息が無意識に吐いて出る。

 

 

「おや、こんな夜更けに出歩いていて宜しいのですかな?

明朝愛紗に絞られても知りませぬぞ」

 

「ひぅっ!?」

 

 

からかう様な口調で急に話しかけられ、桃香は文字通り跳び上がった。

それも当然。

星は桃香の姿を見とめた後、こっそりと気配を断ちつつ後を追い、最も気の抜けた瞬間を狙って話しかけたのだから。

 

 

「も、も~!」

 

「おやおや、随分と可愛らしい。

御遣い殿が見れば、見惚れるやもしれませんな」

 

「え、えっ? ・・・・・・えへへ~」

 

 

パタパタと両手を振りながらむくれていた桃香だが、星の言葉一つで両手を頬に当てイヤンイヤンと身体を左右に揺らす。

その度に、桃香の持つ一対の巨丘が左右にブルンブルンと揺さぶられるのも、最早愛嬌だ。

 

暫く待って・・・その間に既に星は酒の杯を傾け始める程は待っていたが、漸く桃香は落ち着いた。

その為に、自身の体調を感じる事も出来た。

 

 

「へくちっ」

 

「おや、風邪ですかな?」

 

「うう~ん、どうだろ」

 

 

可愛らしいくしゃみをして、少し身を抱えて震える。

今の時期は、冬に掛かり始めの秋。

寝間着のまま長時間外にいれば、それは寒いだろう。

 

 

「桃香様、ここには私がおりますので、桃香様はご寝所に・・・・・・むっ?」

 

「? どうしたの、星ちゃん」

 

「あれは、騎馬ではありませんかな?」

 

 

星に言われ、地の方に向けてジッと目を凝らす桃香。

成程、言われてみれば、確かに人の乗った馬が此方へ真っ直ぐに走って来ていた。

 

 

「門を開けて!」

 

「ははっ!」

 

 

大声で門の従来の見張りに命を出し、桃香自身は急いで城門前まで走る。

その後を、杯を保持したままの星が追いかけた。

されど、その身には隙が無い。

何時でも構えられる様、何処からともなく取り出した龍牙も同時に持っていた。

 

開けられた城門に、禁軍の鎧を着込んだ騎兵が駆け込んで落馬するのと、桃香達が門前に辿り着くのはほぼ同時だった。

そして、その兵は桃香の姿を知らないのか、桃香の眼前で番兵にかなり大きな声で自身が持つ情報を桃香に伝える様頼みつつ、話し始めた。

 

 

「霊帝閣下が崩御なされた! 董卓と御遣い、そして何進めが共謀し、毒殺したのだ!」

 

「・・・・・・え?」

 

 

思った以上に、平坦で抑揚の無い声が桃香の口から零れた。

何を言っているのだろう、と頭の中で兵の言葉を何度も何度も反芻する。

 

 

「挙句、その凶行を質そうとした宦官を殺戮、帝都洛陽は彼奴等の手に落ちた!

信じられぬと言うならば、見るがいい!!」

 

 

そう言って、上着を脱ぎ飛ばす兵。

桃香は愚か星ですら思わず息を飲んだ。

そこにあったのは、傷塗れの身体。

一際目立つ背中の傷は、凄まじく鋭利かつキレのある一閃で刻まれている事が判る。

そしてそのまま、兵は倒れて動かなくなった。

駆け寄った番兵が、力無さ気に首を振る。

死んだ、そう言う事だろう。

 

その一方、桃香の頭の中は絶賛混乱中だった。

何故、一刀達がそんな事を、と自問自答するばかり。

どんなに悩んでも、答えをくれる者等いる訳が無く、結局。

 

 

「桃香様っ!?」

 

"バタリ・・・・・・”

 

 

意識を手放し、眠りの世界へと逃避した。

 

 

 

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第二十話「蠢動」

 

 

 

―――時は、桃香の下に件の兵が現れる十日程前に遡る。

 

洛陽の、一刀に割り当てられた執務室。

そこに今いるのは、風と稟と一刀。

普段の主と臣下。

・・・の筈なのだが。

 

何故か一刀は頭を抱えていた。

その答えは、二人に原因がある。

 

 

「どうしましたか、御主人様?」

 

「稟ちゃん、野暮な事は言いっこ無しですよ~。

御主人様は、風達の艶姿を見て内心ムラムラなのですよ」

 

「・・・・・・なしてメイドっ!?」

 

 

そう、メイド服。

男のロマン、メイド服を着ているのである。

大切な事なので(略)

因みに稟がロングスカートタイプで、風が超ミニタイプだ。

何時もとは違って新鮮だと一刀が思ってしまった位に。

 

 

「そして、何でお前等呼び方が『御主人様』になってんの!?

何時も通りに呼べよ!」

 

 

いや、結構グラついてはいるのだが、一線を越えたくないと思っている一刀としては、避けたい所なのだ。

しかし、そう思っているのは一刀だけだと言うのがまだ分かっていないので、無意味である訳で。

 

 

「コホン・・・今の私達は【めいど】なのです。

ならば、主君を名前で呼ぶのはお門違いでしょう」

 

「そうですね~、知ってますか御主人様?」

 

「・・・・・・その姿のままで膝に乗るなー!?」

 

「ぶぅ~」

 

 

一刀と対面する様な座位で、膝の上に乗る風にタジタジになる一刀。

何せ、今の風は普段のよりも微妙ではあるが更に短い、超ミニスカート。

ふとした動きで、スカートの奥の桃源郷が・・・・・・と言うかぶっちゃけ何度か見えてる。

因みに水色だった。

その度にウェイクアップしそうになる息子を気合で抑え付けている状態だったり。

そして、それに気付いている風は、わざとらしく誘惑していると言う訳である。

 

 

「実はこのメイド服を着ようって言ったの、稟ちゃんからなんですよー」

 

「なん・・・だと・・・?」

 

「あっ! 風、それは秘密にして、って言ったじゃない!」

 

 

堅物の稟が、自分からこの様な服を着ようと言い始めたと言う事実に、多大な衝撃を受けた一刀である。

 

 

「御主人様、この間月さんがこの服を着ていた時、デレデレになってたじゃないですか。

だから、御主人様の気を此方に引き戻そう、って話になって~。

それで御主人様にご奉仕すれば、離れ離れになる事もないかな、と」

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

 

顔を真っ赤にして蹲ってしまった稟に温かい視線を向けながら、風を撫で始めた一刀は、何だか劣情を彼女達に対して抱いてしまっていた自分が堪らなく恥ずかしくなってしまっていた。

まぁ、次の瞬間吹っ飛ぶ訳だが。

 

 

「と言う訳で、どうぞー」

 

「ぶーーーーー!? 何やってんだはしたない!!」

 

 

一刀の膝の上に陣取ったまま、首元の留め具を徐に緩める風。

明らかに誘っているのだが、一刀からしてみれば唯の悪ふざけの様なものだ。

風の肩を抑えて、これ以上自分の方へと進めない様にする。

このままだと、まずい事になる。

そう判断した一刀の行動は速かった。

 

 

「少し息抜きして来る!」

 

「あっ・・・・・・む~、逃げましたね」

 

 

風を膝の上から下ろし、凄まじい速度で部屋から逃げ出した。

当然ぶんむくれる風であった。

 

 

「御主人様は甲斐性無しなのでしょうか?

いえいえ、そんな事は無い筈です。

風の直感通りならば、精力絶倫に違いないのですよ。

それはそうと、稟ちゃんそろそろ戻って来て下さいー、とんとんしましょ」

 

「はっ!? 私は一体今まで何を!?」

 

「稟ちゃんも遠くへ逃げ過ぎですよ。

そんなんだと、御主人様の寵愛を受けるなんて夢のまた夢なのです」

 

「あぅ・・・」

 

 

何時の間にやら鼻血の海に沈んでいた稟を助け起こし、風は溜息を吐いた。

先は長いと、そう思ったが故であった。

 

 

 

 

 

月は、宮廷中の廊下の一つを書簡を抱えながら、華雄と共に歩いていた。

一人で行動してもよさそうなものだが、それは止めた方がいいとの美里の忠告を受け、こうして軍師や戦う力を持たない首脳陣は、必ず信頼できる武人との二人一組以上で行動する事となっている。

そして、そんな二人の姿もメイド服である。

 

華雄は落ち着かないのか、少し恥ずかしそうにしながらも自身の主君に訊ねた。

 

 

「董卓様、何故私もこの様な姿をせねばならぬので?」

 

「華雄さん、この服素敵だと思いませんか?」

 

「は、はぁ、まあ確かに、可愛らしいとは思いますが、私の様な武骨者では到底似合う訳もないと・・・」

 

「そんな事ありませんよ、とっても似合ってますから」

 

 

そう言って、月はニッコリと微笑む。

言われ、華雄は顔を赤くする。

最近城下で大流行のメイド服。

そのデザインは何処から入って来たのか分かっていないが、月が運命的な出会いを果たし、それからは私服代わりに着るようになった次第。

一刀から、どういう人の服なのかと聞いた時には、顔を真っ赤にしてしまったが、今では寧ろそう言う意味でも着てもいいかも、と思っている。

二人はそのまま歩き続け、自分達の執務室の扉を開けた。

 

 

「だから、何度も言ってるけど、どうしてそうなるのかと説明なさい!!」

 

 

開けた直後、詠の怒号が二人の耳を打った。

一体何事かと不思議に思ったが、その疑問は即氷解する事となった。

具体的に言えば、机を挟んで詠の真向かいに立っている男の存在だ。

 

 

「それが、勅命だと言っているではありませんか、分からない人ですね」

 

「はっ、生憎とこっちはそれを信じる事が出来ないのよ。

勅命だってんなら、玉璽の印が付いた皇帝陛下直筆の書をここに持って来なさいよ、話はそれからよ」

 

「・・・チッ、分かりました、今日の所はこれで引き下がりましょう。

ですが、覚えておく事です、何時か貴女達は後悔する事になる。

私に付かなかった事をね・・・・・・小娘風情が」

 

 

扉の場所に立っている月を一瞥した後、張譲は苛立たし気にその横を通り過ぎようとした。

その際、月の肩に自分の肩を当てようとするが、それは華雄に止められた。

その事で更に憎々しげに顔を歪め、今度こそ部屋から出て行った。

月が部屋に入ってから、華雄が外から扉を閉める。

それを見届けてから、詠は安堵の溜息を吐いた。

因みに、彼女もメイド姿である。

と言うよりも、現在城内にいる女性の殆どはメイド服を着用中だ。

月が、詠に話しかける。

 

 

「また、来てたの? 張譲さん」

 

「ええ、相も変わらずしつこく自分に付けってね。

全く・・・ま、月が北郷を裏切る気が無いなら、例え勅命であってもボクは蹴るけどね」

 

「それはどうなのかな・・・」

 

「いいのよ、今の漢王朝に、ひいては皇帝に野心を持つ一豪族だって制する力は無いわよ。

大体、今霊帝陛下は病で床に伏せっているんだから、勅命を出せるのは十常侍か大将軍だけ。

けども、その命でさえ、玉璽が無ければ無理な物は無理と言えるものだしね」

 

 

ふぅ、と今度は呆れの混じった溜息を吐く。

そんな親友の姿に、苦笑せざるを得ない月であった。

 

 

 

所は変わり、此方は城下。

何度か登場している茶屋である。

 

 

「ふぅ、思ったよりも洛陽は平穏なのですね」

 

 

何処か気品を漂わす銀髪の女性が、茶を飲みながら一人ごちた。

素晴らしい美人である。

あちこちからチラチラと、人々が視線を飛ばしているが、その種類は美しいものを観賞する物では無かった。

それは、恐ろしい者を見る目。

そう、何故ならば、彼女の掛けている席の後ろの壁には、巨大な戦斧が立てかけられていたからである。

だが、そんな彼女の独り言に反応し、答えた人が一人。

この茶屋の女将だ。

 

 

「そりゃそうよ、これも全部『天の御遣い』様のご威光の御蔭!

あの御方の御蔭でうちも商売繁盛、一時潰れるかもと思ったけど、持ち直したもの!」

 

「かーさん、ちょっと手伝ってくれー!!」

 

「はーい、分かったよあんた! それじゃ、ゆっくりしていっておくれ」

 

「あ、はい、ありがとうございます。

『天の御遣い』様・・・・・・」

 

 

ボソリと呟き、戦斧を振り返る。

何かの決心を付けようとしているようであり、手はブルブルと震えている。

 

 

「大丈夫・・・御遣い様は、きっと私を虐めたりなんかはしない・・・・・・」

 

 

手だけでなく、身体全体にまで伝播した震えを止めるように、自分で自身を抱き締める。

その姿を見る人々の視線は先程までと違い、美しい芸術品を見る様な物へと変わっていた。

 

 

 

 

 

美里は苦々しげな表情で、眼前で眠る霊帝劉宏を見ていた。

その傍には美月と、劉弁と劉協兄妹もいた。

因みに彼女達はメイド姿ではない。

 

 

「そうか、もう治らないのか」

 

「ええ、華佗様の見立てでも最早手遅れ。

後一度か二度目を覚ませるか否か、と言う所と」

 

「・・・・・・もしかすれば、このまま目を覚まさないって事かい」

 

「うん・・・」

 

 

枯れ木の様に痩せこけた状態で眠る劉宏を見る美月の目は、とても優しく愛に満ちていた。

昔は唯自分を後宮に押し込めた憎いだけの相手だったにも関わらず、何時の間にか愛してしまった男。

それが、美月にとっての劉宏だった。

世間では暗愚と呼ばれていた彼だが、美月からしてみれば違った。

彼は、世の有り様を強く憂いていた。

なのに、病弱な体質を理由に十常侍に半軟禁状態にされていた。

夜の寝所で碁を打ちながら、美月と何度も語り合ったものだ。

庶民、所謂下々の家の出である美月の話を熱心に聞いて来た。

そんな事を経験している内に、何時の間にか・・・と言う訳である。

 

 

「美里様、皇后様、そろそろ時間が」

 

「分かった、円。

美月、ほれ行くぞ」

 

「ええ・・・陛下、それでは。

また、会いに参ります」

 

 

そう言い、劉宏の唇にキスを落とした。

劉弁と劉協の目は、美里が丁寧に隠していた。

 

皆が部屋からいなくなり、部屋の内には劉宏だけとなってから、暫くして。

再び扉が開かれた。

 

 

「ふぃー、危ない危ない。

危うく勘付かれるとこだった」

 

 

あちこちで暗躍する謎の男が、軽薄そうに笑いながら、滑る様に部屋に入って来たのだ。

目を凝らさねば見落としてしまいそうな程、希薄な気配で確かにここに居る。

 

 

「劉宏陛下、あんたはこのまま死んじゃいけないんだよ。

俺の観察する歴史に大きな揺らぎを加えてくれなきゃ、な」

 

 

ニヤリと笑い、懐から飴玉の様な小さな粒を取り出した。

そして、その粒を口の中へと砕いて撒いた。

少しだけ寝たままの劉宏は顔を顰めたが、すぐに元通りに戻る。

 

 

「これでよし、と。

気張れよ、北郷。

物語の終幕は確かに悲劇こそ美しいが、そんな結末はもう飽き飽きなんだよ。

未だにハッピーエンドが圧倒的に少ないんだ、少しくらい欲張ったって罰は当たらんさ。

ククク、あのホモ導師共が見たら絶対キレるだろうがな。

生憎と俺は狂言廻し、貴様等の描いた悲劇はもう食傷なんだよ」

 

 

狂笑を上げ、天井を見上げる男。

それでも声量をしっかりと自制しているあたり、相当だ。

 

 

「ハッハハハハ、と」

 

 

急に元通りになる。

見ている人間がいたら、かなり怪しく思うだろうが、生憎とそんな人間は此処にはいない。

 

 

「急いで逃げるか、今度は筋肉妖怪共が現れかねん」

 

 

扉を開けて、全速力で劉宏の部屋から遠ざかる。

後に残されたのは、先程よりもやや血色の良くなった劉宏の姿。

 

 

「さてさて、さてと。

まだ時間はあるが、段取りを巧くしておかんとな。

あすこは何処ぞ、此方は何処や、今は何時か?

何時も、何処も、我が手の内で記録される。

そう、我こそは・・・『歴史の記録人』であるぞ」

 

 

歌う様に語りながら、スキップするが如き足取りで去って行く。

そして、その姿を遙か遠方から監視する目が二対。

 

 

「ぬぅ・・・まさかあ奴が儂等の側に付くとは思わなんだ」

 

「きっと違うわよん、あの男の事だからねぇ。

でも、何かが変わって来てる事だけは確かねぇ」

 

「うむ、本来ならば、あ奴に外史を捻じ曲げる力なぞ無い。

絶対的な中立の筈じゃからな」

 

「と、なると・・・御主人様があれ程変わっているのも、何かしらの第三者の介入が有り得るわねん」

 

「うむむ・・・」

 

 

直視した瞬間心臓麻痺を起こしそうな程の奇怪な筋肉の塊二体が、そこにいた。

 

 

 

 

 

「御遣い様! 此方をお受け取り下さい!」

 

「いや、金は払うって」

 

「いえいえ、御遣い様からお代等頂けません!」

 

「そう言う訳にもいかないよ、俺は客で其方は店だ。

その間には、正しい関係性が無いといけないんだよ」

 

「おお、流石は御遣い様です。

我々の様な下々の者にまで公正であられるとは・・・」

 

「・・・・・・参ったな」

 

 

城下に降りて来た一刀だが、さっきからこの調子だ。

あちこちの店の店主から、代金はいらないから受け取って欲しいと言うお願いばかりをされている。

先程は、老若男女に囲まれて、身体のあちこちを触られまくった。

内何人かは、「股間」を触って行ったのだが・・・せめて女性であったと信じたいのが、一刀の精神衛生上の逃げだった。

 

閑話休題

 

律義に、どの店の店主もちゃんと説得して代金を払っている為に、一刀の財布は凄まじい勢いで軽くなってきていた。

若干泣きたくなった位である。

それも、食べ物がかなりだ。

仕方も無いだろう。

この辺りは元々そう言った部分で栄えた側面がある。

そして、その香りに釣られてやって来たのか、今の一刀の傍には恋の姿があった。

心なしか嬉しそうな恋に、抱えた肉まんの袋から一個取り出して、差し出した。

そして、受け取って一瞬で食べ尽くした。

 

 

「全部食うか?」

 

 

気持ちの良い食いっぷりに魅了された一刀は、持っていた食料品を指していった。

 

 

「・・・”フルフル”・・・・・・それ、一刀の"グゥゥゥゥゥゥ~~~"」

 

「腹減ってるんだろ? 俺の事は良いから、全部食べるといい」

 

 

少し躊躇していたが、最終的には恋は一刀の差し出した物を受け取った。

移動して公園まで行き、座って二人で食べる。

二人で、と言うのは、恋が「半分こ」と言って差し出して来たからだ。

空を見上げながら、束の間の平和に酔う。

そんな事が素晴らしい事だと、一刀は噛み締めていた。

 

 

「"チラッ”・・・・・・モグモグ"ポッ"」

 

 

時々横目で一刀を見る恋が、そんな熱い視線を送っている事にも気付かずに。

一刀は、靄の掛かる頭をフル回転させながら、記憶していた筈の史実を思い出そうとする。

但し、やはり巧くいかない。

良い所までは浮かびかかるのに、肝心の部分にはぼやけたままだ。

しかも、次第に症状の様な物が進行し続けている。

事実、以前までは起承転結における起と結しか思い出せないだけだったのだが、今では起の部分しか思い出せないときている。

無理に思い出そうとすると、酷い頭痛が起きる。

実際に、今も少し痛い位だ。

 

 

「大丈夫?」

 

「あ、ああ・・・大丈夫」

 

 

恋が不安気に一刀の顔を覗き込む。

後少しで額同士が触れ合いかねない程の至近距離まで近づいて来ていたのだが、一刀は平静を保っていた。

邪気が無いからなのか、と心中で思う。

そして、自嘲した。

ばかげている、と。

恋は唯此方を心配してくれただけだから、自分が邪な気を抱いていい筈が無いと。

 

 

「心配してくれてありがとな」

 

「ん・・・・・・・・・・」

 

 

思わず恋の頭を撫でてしまう。

ほぼ反射的にだった。

恐るべきは、撫でたいと言う欲求を我慢する事を許さない、恋の魅力か。

 

 

「それで、さっきから言おうと思ってたんだが・・・恋もメイドなんだな」

 

「・・・うん、恋だけじゃない。

ちんきゅもかゆも、霞も月も皆これ着てる」

 

「マジかよ、何その楽園(パライソ)」

 

「?」

 

「ああ、気にすんな。

こっちの話だから」

 

「ん、分かった・・・もっと撫でて」

 

「うし、任せろ」

 

 

結局、ねねのちんきゅーきっくが一刀に炸裂するまでの約十分間、一刀は恋を撫で続けていた。

 

 

 

 

 

―――漢中

 

張魯が店長を勤める、漢中最高の特級飯店。

しかも、その三階の、張魯が直々に料理を作る場所で、一人の女性が猛然と食事を平らげていた。

華佗からの紹介で、ここを訪れた碧である。

 

 

「驚いたわね・・・碧は別段健啖家という訳でもないのに」

 

「だが、料理としては邪道なのさ。

『食べたい』では無く、『食べねばならない』と言う強制力が半分働いているからな」

 

「・・・・・・美味しそう"ジュルリ"」

 

「こらたんぽぽ、私達はもう食べたでしょうが」

 

 

店主の張魯は当然として、碧の付き添いの朔夜と葵と蒲公英もいる。

 

 

「しかし・・・張魯殿、本当にこれが治療なので?」

 

「あぁ、病は生活を直せば治せる。

不摂生が祟ると、あっと言う間にあの世行きだ」

 

「・・・碧が不摂生だとは思えないのですが」

 

「酒は良く飲むんじゃないのか?

彼女は本来体質的に飲めないぞ。

もし良く飲むのだったら、それは酒好きなんじゃなくて、唯の中毒だ」

 

「!? そ、そうだったのか」

 

「ああ、無理を通せば、『やってはいけない』程度は簡単に踏み越えてしまえるのが、人間の恐ろしい所だ」

 

 

張魯の言葉に酷く落ち込む朔夜。

それもそうだろう。

義姉妹の誓いまでした親友の身体の事を分かっていなかったのだから。

 

 

「ま、いいだろうさ、これからはちゃんと処方通り安静に暮らしていれば、半年もすれば以前の健康状態に戻せる筈だ」

 

「すまない、貴公と華佗にはどれ程の感謝をしても足りない」

 

「気にするな、俺は医者だ。

病人を治療する、その目的の為ならば、例え流行病の渦中であろうとも潜る。

それが、五斗米道(ゴットヴェイドー)の医者だ!!」

 

 

突如として、熱弁を始める張魯にたじろぐ。

一方の張魯は全く気付いていないらしく、朔夜が引いているにも関わらずにまだ熱く語っている。

 

 

「店長ー・・・ってまたやってるし」

 

 

階下から上がって来た男が、熱く語り続ける張魯を目に止め、呆れた様に溜息を吐いた。

それに真っ先に気付いたのは、葵だった。

 

 

「えっと、貴方は・・・?」

 

「どうも、副料理長兼店長補佐の閻圃と申します。

かの高名な龐令明殿に出会えまして、幸運の極み」

 

「い、いえ、私はそれ程では」

 

「いやいや、貴殿の武勇はこの漢中にも広く知れ渡っておりますよ」

 

「そうなんだよね~、葵姉様ってば凄い実力があるのに、それ以上に謙虚過ぎるの。

だから、噂とかよりもずっと下に見られちゃうんだ。

実際に手を合わせてみれば、全然そんな事無いってすぐ分かるんだけどね」

 

 

あははと笑いながら言う蒲公英。

当の葵は顔を真っ赤にして否定するばかりだが。

 

 

「ま、それは置いといて、だ。

店長がああなったら、暫くはあのまんまだ」

 

「そ、そうなのか、では待つしか」

 

「だから、ちょっと荒っぽいけども・・・うりゃっ!」

 

“ガインッ!!"

 

「オゲフッ!?」

 

 

その光景に揃って唖然としてしまう三人。

仕方があるまい。

閻圃が何処からともなく取り出した中華鍋で、張魯の頭をどついたのだから。

 

 

「おおお・・・・・・いてぇ・・・」

 

「店長、客をほっぽって自分の世界に閉じ籠るのは下の下だ、って自分で言ってたじゃないですか」

 

「む、すまん・・・たた・・・いや、お見苦しいものを見せてしまった、申し訳ない」

 

「あ、ああ、気にしてない」

 

「う、うんうん」

 

「寧ろ、貴方が大丈夫ですか!?」

 

 

やはり引いている三人だった。

因みに。

 

 

「ガツガツ・・・・・・いかん、止まらん・・・・・・・・・ズズー」

 

 

碧はずっと食べっ放しだった。

 

 

 

 

 

―所は再び洛陽に戻る。

 

稟のテンションはずっと低空飛行であった。

しょうがない事とは言え、なけなしの勇気をはたいた誘惑(本人はそのつもり)は意味を成さず、結局恥を晒したのみ。

そうとしか思えず落ち込んでしまい、今もずっと引きずりっ放しだった。

メイド服を脱ぐ気も起きない程だ。

 

 

「稟ちゃん、御主人様の禁欲ぶりは今に始まった事じゃないのです。

まだ時間は存分にありますから、じっくりと攻めて行けば陥落は遠くないのですよ」

 

「じっくり・・・? 風、今がどんな状況か理解していない訳では無いでしょう?」

 

「・・・当然です」

 

 

急に緊張感が増した。

やはり二人は、一人の男に想いを寄せる女である前に、れっきとした軍師なのだ。

稟はずり落ちかかっていた眼鏡の位置を正し、姿勢も正した。

 

 

「今でこそ宦官達の専横を防いでいますが、やはりどう足掻いても一刀殿はこの大陸の人間ではありません。

それは即ち、地盤を持っていない。

引いては、しっかりとした後ろ盾を有していないとも言えます」

 

「そうですねー、正直今の状況は、御主人様が『天の御遣い』として皆に必要とされているからこそ成り立っている、かなり危ない状況ですから」

 

「ええ、その『天の御遣い』としての在り方に揺らぎが生ずれば、味方になってくれる者の方が遙かに少ないでしょう」

 

「んー、董卓さんは力になろうとしてくれるでしょうが、詠ちゃんがそれを許さないと思いますしー」

 

「賈駆は道理と合理性に長けた軍師です。

真っ向からでは、勝てる気がしません」

 

「そうですねー。

むむむ・・・」

 

「何が、むむむよ。

今の一刀殿は砂上の楼閣の様なもの。

何かが起これば、あっと言う間に崩れて果てるのみ」

 

「そうはしない為に、風達はいるのですよ?」

 

「貴女に言われずとも、充分に理解しているつもりよ」

 

 

そこまで言ってから、疲れた様に一息吐いた。

再び下がり始めていた眼鏡の位置を正す。

そして漸く気付いた様に、メイド服のスカートの裾を摘み上げた。

 

 

「・・・・・・馬鹿馬鹿しい、私は軍師。

この様な雑念に惑わされるとは・・・不甲斐無い」

 

「あれー? 稟ちゃん脱いじゃうんですか? 可愛いのにー」

 

『全くだ、それに今は止めた方がいいと思うぜ?』

 

 

風と宝譿の言葉を無視して、脱ぎ始める。

着替えは既に持ち込み済みだ。

もしかしたら、今着ているこの服が使い物にならなくなるかもしれないと言う、淡い期待を抱いていたが故の用意だった。

上半身の下着が丸見えになったのとほぼ同時だった。

 

 

"ガチャ”「ただい・・・・・・ま?」

 

「・・・・・・? どうしたの?」

 

 

時が、凍った。

上半身半裸の稟。

たった今帰って来たばかりの一刀。

そして何故か一刀と一緒にいる恋。

・・・・・・痛い程の沈黙が場を支配した。

 

 

『ほら、言った通りだったろ?

《今は》止めた方がいいと思う、って』

 

 

宝譿のその言葉で、空気は氷解。

直後、稟の鼻血が凄まじい勢いで、散水の如く一刀の顔にぶちまけられた。

 

 

 

 

 

「ふがふが・・・・・・」

 

「稟ちゃん・・・今回ばかりは自業自得なのですよ。

まぁ、しょうがありませんか、稟ちゃんの自爆癖は今に始まった事ではありませんし~」

 

「・・・一刀、だいじょぶ?」

 

「すまん、全然大丈夫じゃない」

 

 

鼻血砲の直撃を受けた一刀は、着ていたフランチェスカの制服を脱ぎ、今はインナーの黒シャツ姿になっている。

鍛え上げられた肉体美が眩しい。

血は乾くと取れなくなるので、全速力で制服と顔を洗いに行き、何とか間に合った。

跡は残らず済むだろう。

 

稟は先程起きたばかりだ。

今回は真剣に命の危機だった。

 

 

「全く・・・華佗が近くにいてくれて助かったよ」

 

「ああ、本当に神がかり的な偶然だ」

 

「も、申し訳ありません・・・」

 

 

そう、華佗もいる。

偶然王宮近くに用があったらしく、わざわざ診療所まで呼びに行く手間が省けたのだ。

 

 

「それはそうとして、二人の事だから何か考えていてくれたと思うんだが、どうだろう?」

 

「・・・信頼されている、と言っていいのか微妙ですね」

 

 

少し呆れた様に言いながらも微笑む稟。

元が整っている容姿だけあって、とても美しい。

・・・鼻孔に詰まった紙の栓の所為で、色々と台無しになっているが。

 

 

「む~、御主人様、膝!」

 

「そして何でお前はまだ御主人様って呼んでんの!? って、うお、押すな!」

 

 

風に押されて椅子に深く腰掛ける事となり、即座に風が飛び乗る。

結局何時ものポジションだ。

 

 

「むふー」

 

「ああもう・・・」

 

「・・・・・・御主人様?」

 

「!?」

 

 

恋がそう言った瞬間、一刀の脳髄に電流が奔った。

小首を傾げながら言われたその言葉は、一刀の脳にクリティカルヒット。

何時もの自制心が発動せず、気付けば恋を抱き寄せてしまっていた。

気付いた時には遅い。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・"ポッ"」

 

「・・・一刀殿?」

 

 

一瞬にして修羅場の空気となった。

一刀の背筋を滝の様な冷汗が伝う。

戦場で殺し合いをするよりも、遙かに強い恐れを抱かずにはいられない。

 

 

「凄いな、呂布を捕まえた瞬間がまるで見えなかった」

 

 

華佗のそんな空気の読めない一言の所為で、空気が比喩でも何でも無く軋んだ。

一刀の心がこれまでに無い程の絶叫を上げる。

次の瞬間にでも、自身の心臓が止まる錯覚を覚える程だ。

 

 

「・・・ゴロゴロ」

 

 

恋が懐いた猫の様に一刀に擦り寄った。

その為に、一段と空気が重くなる。

一刀はそろそろ呼吸が出来なくなってきた。

逃げたい、逃げて何処かで息を整えたい。

だと言うのに、身体のコントロールはプレッシャーの塊と化した膝の上の風に止められてしまっている。

正直、指一本動かせない。

苦しい。

まるで、地上に打ち揚げられた魚だ。

部屋の中だけ真空になったかと思える。

唯一の救いを求めて、必死に頭を動かして扉の方を向く。

そして、次の瞬間。

 

 

"バタン!!”

 

 

扉が開いた。

重くなった空気が解ける。

ホッと一息吐こうとしたが、それは無理となってしまう。

 

 

「霊帝陛下がお目覚めになりました!

御遣い様をお呼びになっております!!」

 

 

扉を勢いよく開けて駆け込んで来た禁軍の一兵のその言葉で、空気が今一度重くなったからである。

 

 

 

 

第二十話:了

 

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

・・・・・・約一ヶ月・・・だと・・・?

幾ら大学がてんやわんやだと言っても、これは遅過ぎるだろう。

 

と言う訳で、漸く投稿に漕ぎ着けました。

申し訳ないです。

しかも、暇が出来たのがつい最近だったので、相当駆け足で書きました故、色々とおかしな所があります。

お許し下さい・・・

 

レス返し

 

 

poyy様:所々に、正体に通じるキーワードは散りばめてあります。

 

ryu様:ありがとうございます!!

 

悠なるかな様:が、頑張ります・・・

 

nameneko様:いえいえ、どっちでも同じ意味です。

 

はりまえ様:実は、連載当初からルート名は決まっていました。 その名も・・・『英雄集結ルート』ッ!!! ・・・カッコつけ過ぎですね。

 

砂のお城様:ほほぅ、やはりギャグ補正はありですか。 となるとあれか? 火炎放射の直撃や雷の直撃を受けたのにアフロになるだけ、とか?

 

アラトリ様:今はまだポケモンで言う、「いかり」状態。 一気に解き放たれる時が来ます。

 

2828様:ええ、全く気にしないでしょう。 それが種馬クオリティー!!

 

mighty様:あー、そうですねー。 華蘭はIF現代編で最大限活躍の場を伸ばさせ、更には大躍進の場面があると言う事でどうか一つ・・・

 

Daisuke_Aurora_0810様:・・・ゴメンナサイ、その化け物達もやって来てしまいます。

 

瓜月様:翠は忘れている訳では無いです。 ・・・想いの暴走的なイベントが恋姫には欲しいとは思いませんか?

 

うたまる様:貴方の更新能力が羨ましいっ! 頑張ります!

 

takewayall様:ところがどっこい、メイドインヘヴンです。 ・・・寒いな。

 

U_1様:最近、平衡感覚がやけに右側に寄っています・・・何かの兆候かな?

 

F97様:ありがとうございますー! そう言った応援の御言葉が、連載を続けようという活を身体に叩き込んでくれます!

 

ue様:謎の男は、正体がバレてもトリックスターのままにしようかな、と。

 

 

・・・と言う事で、精神的に疲れ過ぎてますが、今回はここまでです。

あ、後、郁さんのキャラをインスパイアしました。

 

素敵なキャラ絵を描ける人が羨ましい・・・自分は描けないんで。

ではまた次回。

多分、また来月末になるかも・・・

 

 


 
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