バカテスト 日本史
【第二問】
問 本能寺の変の後、明智光秀を破った武将の名前を答えなさい
霧島翔子の答え
『豊臣秀吉』
教師のコメント
正解です、有名な彼のエピソードはほかにも墨俣の一夜城や冷えた草履を懐で温めたなどもありますね。一応、『木下籐吉郎』『羽柴秀吉』でも正解とします
木下優子の答え
『うちの弟じゃないほうの秀吉』
教師のコメント
その答え方はどうかと思います
坂本雄二、土屋康太、島田美波、姫路瑞希、他Fクラス男子の答え
『うちのクラスじゃないほうの秀吉』
教師のコメント
何故皆さん素直に『豊臣秀吉』と答えてくれないのでしょうか?
吉井明久の答え
『木下秀吉』
教師のコメント
最近日本史はできるようになってきたと思ってましたのに、これはどういった間違いなのでしょう。『木下籐吉郎』と『豊臣秀吉』が混ざったのか、君の中で『木下秀吉君』が天下人のごとき扱いになっているかで指導対象か否か変わるのですが
さて、吉井君を誘うためにFクラスの前まで来たわけだけど。
『おい、もっと釘もってこい。あるだけ全部だ』
『おれの鎌しらね?』
『そんなことより、張り付ける位置はここでよかったか?』
中から何やら不穏当な会話が聞こえてきた。
一体中で何してるの? 様子を伺おうにも窓はすべて段ボールでふさがれていて見えないし……。Fクラスの連中の行動っていまいちわかんないのよね。休み時間とかって何してるのかしら。そういえばいつだったか秀吉のふりしてFクラスに来た時は覆面つけた連中がうごきまわってたっけ。
……どうしよう、ものすごく帰りたくなってきたんだけど。このまま回れ右して帰ろうか?
いやいやそれはだめだ。愛子と代表に背中を押してもらって、それで何もせずに帰るだなんてありえない。そうよ、別にあの連中だって四六時中バカやってるわけじゃないだろうし、秀吉もいるはずだしきっと劇の小道具の話とかよ。よし、ここで立ってても始まらないし、いくわよ。
「しつれーしまーす」
なるべく明るい笑顔を意識して、Fクラスの扉を開き――
『これより異端審問会を取り行う』
――十字架に括り付けられた男子生徒と、その周りを狂喜乱舞する覆面集団に迎えられた。
「……またかぁ――――っ!?」
結局なかでは前回と似たような騒動が起こっていた。
一体何なのよこのクラスッ!? なんで教室で悪魔召喚の儀式みたいなことやってるわけ!?
そんなことしてる暇があったら勉強しなさいよ!? そんなんだからFクラスになるんじゃないの!?
あまりのことにFクラス入り口で立ち止まっていたら見知った顔が話しかけてきた。
「おや、姉上ではないか。Fクラスまで何の用じゃ?」
まあ、見知ったというか同じ顔なんだけどね。アタシの双子の弟の木下秀吉、二卵性のはずだけど見た目はアタシとそっくりだ。そしてそのくせなぜかアタシより男子に人気がある。この間も学級新聞にのってた付き合いたい女子ランキングでアタシより上位にいたし。
アタシは男子同士の恋愛ものとかよく読むけど、リアルにアタシと同じ顔でそういうことされると普通に腹が立つわね。
「秀吉っ、一体これは何事よ」
まあでも、今は現状把握が先かしら。ちょうど状況を把握してそうな知り合いを見つけたことだし、この状況について尋ねてみると、
「ん、何でも瀬戸――ああ、あそこに括られておる奴じゃが、隠れておなごと付き合っていたようでな。それを妬んだものたちに粛清されておるのじゃ。まあいつものことじゃな」
と、秀吉はこともなげに言った。
これがいつものことって……。
「で、あんたは何してるのよ」
「ワシはあのように騒ぐ気にはなれぬからの、女子二人と一緒に隅で寛いでおったのじゃ」
ほれっ、と秀吉が指さした先には二人の女の子。確か、ポニーテールのほうが島田さんでもう一人が姫路さんだったかしら。確かふたりとも吉井君に好意を持ってたはず。二人とも炬燵風に改造された卓袱台のところでお茶を飲みながら談笑していた。
「しかし、この状況で寛げるとか、あんたもだいぶこのクラスに毒されてきたようね」
「何、Fクラスもそんなに捨てたもんではないぞ。この設備には驚かされたが、畳にちゃぶ台と言うのも慣れてくれば結構落ち着くのじゃ」
まあ確かに、そばで覆面集団が騒いでるせいでおかしく見えるけど、あの二人のいる空間だけ見たらそんなに悪い感じじゃない。むしろくつろぐことを考えればこっちの方がAクラスよりいいかも。今度Aクラスの設備を和風にしてくれるよう頼んでみようかしら。
……ってそうじゃない、それもいいかもだけど今は吉井君を探さないと。こいつだったらどこにいるかわかるのかしら。
「ねえ、吉井君がどこにいるか知ってる?」
「なんじゃ? 姉上は明久に用なのか?」
「そうよ悪い? 知らないならいいけど」
使えないわねぇ、この愚弟は。
そう思っていたら秀吉はアタシの背後を指差した。
「明久ならそこにいるのじゃが」
「えっ?」
「秀吉、なにしてるの。こっちきちゃ危ないよ。ってあれ、そっちにいるのは秀吉のお姉さん?」
「吉井く――」
秀吉に指さす方へ振り返ってみると、覆面をかぶった誰かが立っていた
「あれ、木下さん。どうかした?」
「明久よ、覆面のままじゃだれかわからんぞ」
「えっ、ああしまった。これかぶったままだったね」
そう言って目の前の人物は覆面を外した。その下にあるのは確かに吉井君の顔だった。
しかし、秀吉はよくわかったわね。慣れてくると見分けられるようになるのかしら。
「……吉井君、なんでそんな恰好してるのかしら?」
「えっ、なんでって……、これがFFF団の正装だから」
キョトンとした顔で的外れな答えを返してくる吉井君。FFF団ってのはあの覆面集団のことでいいのよね。
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて……」
「明久よ、姉上が聞きたいのはなぜあの集団に加わってるのかということじゃと思うぞ?」
なんて聞いたら伝わるのか考えていたら秀吉が代弁してくれた。さすが、双子だけあってアタシの考えも分かるのかしら。それとも吉井君の扱いに慣れてるってこと? だとしたらちょっと悔しいけど。
吉井君は秀吉のセリフでアタシの聞きたいことはわかったようだが、そこで思いもよらない答えが返ってきた。
「えっ、だって許せないじゃない」
「はっ?」
「いやだって、僕だってまだ女の子と付き合ったことないのに、クラスのほかの人が彼女持ちなんて許せないよ。雄二だったらなおさらだね!」
……本気で言ってるのかしら。あれだけいろんなうわさが流れてるのに。でも、だとしたらチャンスじゃないかしら。吉井君が周りの女の子の好意に気付いてないならまだアタシの入り込む隙はある。
「吉井君は女の子と二人で出掛けたりとかしたいのかしら」
「うん、そうだよ!! 僕は普通に女の子が好きだし、決して受けなんかじゃあ……」
よし、言うなら今しかない。ポケットからペアチケットを取り出して、
「だったら今度の日曜日、アタシと一緒に……」
『報告!! Aクラスからの情報によると坂本雄二はペットとして霧島さんに飼われているらしい!!』
『待てっ、それは俺の意思じゃねぇ』
『なにぃーーーっ、うらやましい奴め。霧島さんにだったら俺だって飼われてみたいわっ!!』
『モウ殺ッチャッテイイヨネ~』
『チィッ、戦略的撤退だ』
『坂本が窓から飛び降りたぞっ』
『誰でもいい、奴を追いかけろ』
『だがさすがにここから飛ぶのはっ』
「僕が行くっ!! 雄二、逃がすかぁ!!」
「ちょっ、吉井君っ!?」
「あっ、お姉さん。ゆっくりしていってね。それじゃっ」
如月ハイランドへ行かない? そう聞こうとしたところでさっきから騒いでいた覆面連中のほうで動きがあったらしく、吉井君ははじかれるようにしてその渦中へ飛び込んでしまった。慌てて手を伸ばしてみたものの捕まえることはできず、アタシは吉井君の背中を見送ることしかできなかった。
『お義姉さん、だと?』
『あの野郎、すでに木下秀吉と家族公認の仲なのか……』
『それどころか毎日毎日木下姉妹とあんなことやこんなことまで……』
『許せん……。総員っ、命を惜しむな!! 何としてでも吉井明久を捕えろッ!!』
『ウォオオオオオオオッ!!』
『えっ、ちょっと、なんでみんなまで降ってくるのさ!?』
『ヨシイ,コロス』
『ほんとに何事ぉーっ!?』
するとほかの覆面たちもいきなり吉井君の飛び出していった窓に殺到した。
一体何なのかしら。アタシは秀吉の姉なんだし、さっきの吉井君の発言は特に問題なかったと思うけど。やっぱりFクラスの人の考えはよくわかんないわ。それよりも……。
はぁっ
思わずため息が漏れる。せっかくのチャンスだったのに、言いそびれちゃった。
軽く落ち込んでいるとなにやら視線を感じた。さっき覆面連中は全員窓から飛び出していったから、この教室にはアタシを除いて3人。その中の一人、秀吉が話かけてきた
「なるほどの、つまり姉上は明久を誘うつもりなんじゃな?」
「そうだけど? 何か文句でもある?」
「いや、そういうわけではないのじゃが……。また明久かと思っての」
呆れたように言う秀吉。
また? またって……、ああ、そういうことか。
「言っとくけど、あんただけにはぜっったい負けないからね」
「ワシじゃないのじゃっ!!」
まったく、油断ならない弟ね。あれだけ男子に告白されているくせに、吉井君に手を出そうっていうの? 吉井君の中でも割りと上位にいそうだし。アタシの真の敵は姫路さんとか島田さんじゃなくてこいつなんじゃないだろうか。そんなふうに弟に対する認識を改めていると
「木下さん、さっき明久君とお話してたみたいですけど、いったい何を? それに、その手にあるチケットって……」
今度は姫路さんが声をかけてきた。ペアチケットのほうをちらちら見ているようだけど……そっか、吉井君に近付くアタシが警戒すべき対象かどうか判断しかねているのね。見れば島田さんも似たような状態みたいだし、だったらはっきり宣言してあげましょうか。
「偶然如月ハイランドのチケットが手に入ったから今度の日曜に吉井君と行こうかなって思っただけよ」
「「「!?」」」
今はこれぐらいかな。まだはっきり人に好きっていうのは無理だけど、自分のしたいことくらいはちゃんと言おう。
3人とも驚いているようだ。って秀吉、なんであんたまで驚いてるのよ。さっき言ったじゃない。
「あ、姉上? そこに日曜日はまずいのじゃ。その日は――」
「だめですっ、その日明久君は私と映画を見に行くんですからっ!!」
「そう、姫路と映画を見に……なんじゃと」
「へぇ~、それってもう約束してるの?」
秀吉が何か言おうとしていたみたいだが、それを遮って姫路さんが普段から想像できないような大声を出した。そのことにも驚いたが内容にも驚いた。先を越されてた? でもさっきの吉井君の感じだと女の子とそんなどこか行くような予定があるとは思えなかったけど。
…………『誘おうと思ってる』あたりが妥当なところかしら。
そう思って聞いてみれば案の定、さっきの威勢はどこに行ったのか、またおとなしい感じに戻った。
「そ、それはまだですけど……でも、吉井君はOKしてくれるって信じてます」
「ちょっと瑞希ずるいわよ。だったらウチだってアキと一緒にショッピングしたりクレープ食べたりしたいんだから」
「お主ら、ちょっと落ち着くのじゃ」
つまり、現状誰も吉井君と約束しているわけじゃないのね。吉井君のことだから誘えば誰が相手でもきっと断らないだろうし、早い者勝ちってことね。
二人はまだ言い争ってるみたいだから今のうちに吉井君を探そうかしら。えっと、、さっき窓から飛び降りてったからとりあえず下に向かえばいいのかな。
そう思ってFクラスを出ようとしたところで殺気を感じバックステップ。次の瞬間ちゃぶ台と鉛筆数本が黒板に突き刺さった。あのまま進んでいたら直撃していたコースだ。
「ワシのちゃぶ台がぁ~」
秀吉がなにやらわめいているが、ほっといても構わないだろう。
「ちょっと、何するのかしら」
「すいません、手が滑っちゃいました」
「……うちもよ」
飛んできた方を睨みつけると、二人とも笑顔でそう返してきた。
「へぇ、手が滑ってものを投げ飛ばすなんて、Fクラスは野蛮ですのね。知性が足りなくて人類に進化できてないのかしら」
「そういうAクラスの方はこそこそするのが得意みたいね。まるでネズミのようよ」
アタシと島田さんの間に火花が散ったように見えた。一触即発の状況でどう動いたものかと思案していると、
「はいはい、3人ともちょ~っと待ってみようか」
この場に似つかわしくない明るい声が割って入ってきた。
「工藤さん、どうしてここに?」
「……私もいる」
「代表まで……」
ちなみに代表の後ろには今朝と同じ状態の坂本君が引きずられていた。
『雄二、お主は一体どうしたのじゃ』
『翔子に捕まった……』
『いや、それは見ればわかるのじゃが』
『奴らの狙いがなぜか明久に向いたからこっちに戻ってきたんだが途中で翔子に見つかって、このざまだ』
『なるほどのう』
『秀吉、助けてくれ』
『……雄二よ、人にはできることとできないことがあるのじゃ』
「どうしてって、優子がFクラスに行ったきり全然戻ってこないから心配してたんじゃん。そしたらなんか3人で喧嘩してるみたいだったし」
「別にケンカってわけじゃないわ、あっちが勝手に絡んできただけだし」
「なんですって!?」
「なによっ!!」
「あーもう、美波ちゃん落ち着いて。優子も、そんな言い方しないの。う~ん、どうしたものかなぁ……」
「話は聞かせてもらったよ」
アタシと島田さんがにらみ合い、愛子がどう仲裁したものかと悩んでいると、突然Fクラスの入口から声が聞こえた。
声のした方を振り返ると、久保君が扉にもたれかかって立っていた。
この場の全員が久保君に注目すると
「だったらどうだろう。ここは模擬試召戦争を行って決めるというのは」
「「「模擬試召戦争?」」」
「そう、まさに文月学園らしい決着のつけかただとは思うけどね」
「でも、どうして模擬なんですか?」
「さすがに個人レベルの諍いごとにクラス交換が絡むのはどうかと思ってね」
「……でも、ほかの人にとってメリットがない」
「まあそうだろうね、そこで、今回の戦争では相手クラスの代表を倒した人は一つだけ命令することができる、と言うのはどうだろうか。たとえば優子さんが坂本君を倒したら吉井君をデートに誘えばいいし、そちらの二人どちらかが勝てば優子さんに吉井君を誘うのを禁止する様に言えばいい」
なるほど、確かにここで無意味な言い争いしているよりは白黒はっきりついていいかもしれない。その条件なら少なくともFクラスのバカたちには受け入れられるだろうし。
「そしてもし僕が勝ったら吉井君をデートに誘えばいいというわけだ」
「「「……」」」
……それが狙いかこの野郎。
まあでも、久保君の狙いがなんであれ、試召戦争で決着というのはアタシにとって悪い話ではないわね。Fクラスが相手だから何をしてくるかわかったもんじゃないけど両クラス間での点数差はかなりのものだから。アタシ一人でこの二人を相手にするよりは勝率があるだろう。
「アタシはかまわないわ。約束を取り付ける日が今日か明日かの違いだもの」
「言ってくれるじゃない、Fクラスだからってなめてかかると痛い目見るわよ」
「そうです、私たちはAクラスには負けません」
「では明日のHR後から『吉井君争奪戦』を開始としよう」
そういうと久保君はFクラスから出て行った。アタシも一度Fクラスの女子二人と火花を散らしてから愛子や代表とともに教室を出た。
見てなさい、明日は絶対叩きのめしてやるんだから!!
「ところで代表? 坂本君はどこまで連れてくつもりかしら」
「そうだ翔子。おれはFクラスなんだからとっとと解放しろ」
「だめ、雄二はAクラスで飼う」
「まだ諦めてなかったのかてめぇ!! 工藤、お前からも言ってやってくれ」
「まあいいんじゃないかな。ペットくらい。あ、でも、ペットだからってワンちゃんみたいにいやらしいとこなめたりしちゃ駄目だからね」
「おい工藤!! そういうこと言うとまたこいつがぎゃあああっ」
「雄二、そんなことは許さない(バチバチッ)」
黒焦げになった坂本君が解放されたのはすっかり日も落ちたころだったらしい。(アタシと愛子はさっさと帰った)
あとがき
ということでいかがでしたか、第二問。
もうちょっと早く登校するつもりだったのですが、第一問を投稿したとき、それまで考えていた展開から今回の方向へシフトし、またその内容がまったく違うものだったためだいぶ時間がかかってしまいました。もっと早く書けるようになりたいですね。ですが、その甲斐あってか、わりと自分では納得いく展開になったと思います。
今回もまた優子視点で、明久を探しにFクラスに突入。そして女の戦いが開幕。何故久保君が出てきたとか、展開に無理がないかとか思わなくもなかったですが、まあ許容範囲かなと。序盤に出したFFF団のバカ騒ぎとかも好きなほうなので、次回の試召戦争ではもっと大人数でわいわいやらせてみたいです。できれば、ですが……。後は明久ですね、今回もちょろっと出てすぐどっかいっちゃいましたから、次回ではもっとばかっぷりを披露させてみたいです。できればですが……。
それと今回のバカテスト。思いついたものを適当に上げただけですがどうも既出ネタのような気がしなくもないというか、みんな思いつきそうな気が……。大丈夫なのでしょうか。
次回はさっきも言いましたが試召戦争編です。これまでと違って複数の視点で物語を進めていきたいと思っています。
それではまた次回お会いできることを楽しみにしています。
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どうも、naoです。
Fクラスへ向かった優子は無事明久と如月ハイランドへいけるのか。
といったところで、第二問をお楽しみください。