「……なぁホントにやる気なのか?」
「当たり前よ! レティの仇を取るまで絶対あのメイドを逃がさないんだから!」
(返り討ちに遭うのがお約束だと思うけどなー)
あれからレティを埋葬……は冗談だが雪の積もった地面にそのまま放置して横島とチルノは先を進んだ。
横島としてはもう帰りたくなってきたのだが、当のチルノが離してくれそうにもないもあるが、何だかチルノを一人にしておくのも心配になってきたのですぐに抜け出せないでいるのであった。
「ところで俺たちは一体何処に進んでるんだ?」
「さぁ? あたいもこの辺りに来たこと無いもん」
「おいまてコラ」
衝撃的なチルノの一声に横島は声を荒げた。
「自信満々に堂々と道を進んで行くから、てっきりこの辺りの道を知っているのかと思って大人しく着いて来た結果がこれだよ!」
「誰に言ってんの?」
「大きな独り言だ、気にするな。しかし参ったなぁ、一応雪は凌げそうだけど寒さばっかりはどうにもならないぞ……」
いつの間にか人里に似たような住居が多く並ぶ場所に来ていたことに気付いた横島は頭を掻いた。
ただし家を見れば所々ボロボロでとても人が住んでいるとは思えない……というか廃村っぽい。
「……焚火でもするかー」
震える体で枝や枯葉、ついでにボロボロの住居にあった薪を持ちだし、広い所に置いて火を付けようとした所で横島は気付いた。
「……火種になるもの、と言うか荷物すら無いじゃねーか」
そう言えば神社に荷物置きっぱなしだったなぁ、と思い出しながら現在背負っている籠の中を見ても火打石の一つも見つからない。
(霊夢の)晩御飯の買い物をしていたんだから当たり前と言えば当たり前だが、溜め息を吐いた。
「……もうこうなったらコレ(文珠)を使うしか……」
「……こんな所で一体何やってるのよ?」
頼みの虎の子文珠を取り出そうとした所で声を掛けられ、横島は振り向く。
そこにはマフラーを首に巻いた霊夢(腋モロなのは当然)と冬服の魔理沙が立っていた。
極 楽 幻 想 郷 (妖)
妖々夢編 その2
「あー! いつかの紅白とついこの間の白黒!」
「……巫女は炬燵で丸くなってるんじゃなかったのか?」
「何よ。私がどう動こうが勝手でしょ」
「コイツが『そろそろ天ぷらが食べたいから春にしましょう』とか言い出してやっと動き出したんだぜ」
チルノが指を差して二人を見て驚いた表情を浮かべた事に対して、横島は霊夢を見て身体を震わせた。
何せ横島でさえ厚着なのに首にマフラーを巻いただけの何時もの格好と変わらなかったからだ。
「色々と言いたいことはあると思うが、冬になっても良く見かける光景だぜ?」
「マジか!? と言うか色々とチャレンジャーだな、霊夢は!」
「それよりさっさと火を点けなさいよ。寒いじゃない」
「だったらその腋モロをなんとかしたら良いんじゃないとか思うのはあたいだけ?」
「……お前にまで言われるとは思わなかっただろうぜ」
ボソッと魔理沙は薪に点火しながらそう呟く。
まさかのチルノからの思わぬ一言に霊夢はその場で落ち込んでいた(しかし焚火には当たる)。
そんな霊夢の様子を魔理沙は哀れに思いつつもフォローを入れてやることは無いのであった。
話題を切り替える為に横島はとりあえず先ほど見つけた鍋を掲げる。
「そこの廃屋から鍋見つけたからここで鍋作って食べようぜ」
「何時の間に……しかし良い案だ! よし、霊夢は再起不能状態だからこの私が腕を振るうぜ!」
「紅魔館の惨劇を引き起こすなよー」
「だから、あれは何かの事故だって!」
ボソッと横島が呟いた一言に魔理沙は必死に弁解した。
そこまで必死にならなくてもと思いながらも横島は冗談だと弁解し、魔理沙は拗ねたまま廃屋の台所へと向かった。
「そう言えば氷の妖精なのに鍋食べて大丈夫なのか?」
「さぁ?」
何気なくチルノに聞いてみた横島だったが、返ってきた答えは予想していたものだったので溶けても知らないぞとだけ言い残し魔理沙を追いかけ台所へと入って行った。
「……私って、変なのかな……?」
「気にしたら負けだって大ちゃんが言ってた!」
慰めになっているのか分からないが兎に角噛み合っていない二人を残して。
―――閑話休題。
鍋が爆発したり調味料をブチ撒けたりという事も無く鍋も出来上がり、横島が速攻で作った椅子に全員が腰掛けた。
「運良く調味料があって助かったぜ!」
「煮汁だけかと思ってたら台所にあるんだもんな。これはもうありがたく使わせて貰おうってことで」
「それにしてもホントにこの椅子アンタが作ったの?」
「ん? おう。基本的には廃屋の椅子を修理しただけなんだけど、結構丈夫だぞ」
「ねー、あたいお腹減ったんだけど」
「まぁ待て。鍋奉行魔理沙さんはアクを逃さないんだぜ。ほら、もう少しで美味しく出来上がるぞ」
「お魚入ってますか?」
「あぁ入ってるぜ。魚は出汁にも具にもなるからな……って、ん?」
アクと格闘していた魔理沙は一旦鍋から目を離し、辺りを見回す。
焚火を中心に左から霊夢、横島、チルノ……そして謎のネコミミ娘。
「……お前、誰だ?」
「猫の妖獣の橙(ちぇん)だって! さっきあたいと友達になった!」
「……そーかい。
まぁ鍋は大勢で囲ってこそ美味いからな、ほら出来たぞ。さぁお椀を用意するんだぜ」
チルノの自信満々の笑みに苦笑しながら魔理沙は再び鍋へと向き合った。
頃合を見てお椀と箸(これらも横島製)を用意させ、おたまで鍋をかき混ぜ盛ってゆく。
「おー、これが鍋……」
「まだ食べるなよー。全員に行き渡っていただきますをしてからだ。
それとちゃんと手洗い嗽をしてくるんだぜ」
「じゃぁ私が井戸まで案内しますね」
「あ、待ってよ橙!」
橙が立ち上がり井戸までの道を案内するべく先に行き橙を追いかけるようにチルノは走り出した。
「……なんだか魔理沙、お母さんしてるなぁ」
「な、なんだよいきなり……。そりゃぁ、私だって女の子だぜ。
これぐらいできないと笑われるだろう」
横島の一言に顔を赤くしながら、照れたように頭を掻いた魔理沙に対して霊夢は幽鬼のようにユラリと立ち上がった。
「……そう、それは私への当てつけね。いいわ買ったわ、その喧嘩」
「はいはい、良いからさっさと手洗い嗽をしてくるんだぜ。
横島、霊夢を連れて先に行っててくれ。火を止めてから行くから」
なんだかヤバい表情の霊夢を横島は顔を引き攣らせながら羽交い絞めにして橙たちを追う。
当の霊夢は横島に抱えられていることも気にせず魔理沙に向かって強烈な霊圧を放っているが魔理沙は飄々と火を消しに掛った。
一同が揃い、全員が手を合わせて頂きますと鍋を食べ始めた。
「熱っ! やっぱ鍋は出来たてが美味いぜ!」
「身も心にも染み渡るわぁ……」
「あむあむ……お魚美味しいです」
「むむ、熱いわね。でも箸が進むのは何でだろう?」
「こら美味い! こら美味い!!」←(一心不乱にお椀を掻き込む)
鍋を突いて具も少なくなった所で魔理沙はうどんを取り出した。
「備えあれば憂いなし。シメはうどんで決まりだな」
「あら、雑炊にするのも美味しいわよ?」
「今回はうどんしかないから次な。それ、いくぜー」
うどんを鍋の残りに投下し、数分経つと魔理沙のできたぜー! の一言で鍋の争奪戦が始まった。
まぁ箸と箸がぶつかり合う程度で血は流れたりはしない……多分。
汁まで飲み干し、手を合わせて面々はごちそうさまを宣言した。
「……ところで何でこんな所で鍋食べてるんだっけ?」
「さぁ? それよりちょっと魔理沙表出なさい。さっき言った事後悔させてあげるわ」
「もう表だぜ。食べたばっかりにそれか……やれやれ。
横島、ちょっと腹ごなしに霊夢と戦ってくるぜ」
既に戦闘準備が整った霊夢に呆れながら魔理沙は箒を担ぎ振り返る。
「別に良いけど、流れ弾だけはホント止めてくれ」
「安心しろ。お前がバカを言わない限り撃つ事は無い」
キッパリ言い放つ魔理沙に横島は不安を感じながらも二人を見送るのであった。
「……あれ? 何だか私の立ち位置が変わってるような……?」
「気のせいじゃないの? それよりアンタ! あたいたちと遊びなさい!」
「え? 俺? 弾幕ごっことか痛いのは嫌だぞ!」
ゲーム的にボス交代してしまったような……と呟く橙を引っ張ってチルノは横島へと遊ぶ事を強要する。
最早上空で自機VS自機と言う別に珍しくも何ともない激しい弾幕ごっこと関係なく、地上は平和な一時が訪れるのであった。
つづく
あ と が き
「妖々夢一向に進まないけど本当に大丈夫か?」
うん、大丈夫問題無い。ニコニコがあるもの。
橙はこのような感じになりましたが……だ、大丈夫だよね?
次回はアリスさん登場予定。アリスさんマジ美人。
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神は問うた。
「こんな内容で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題無い。……多分」
まぁ、多分大丈夫だと思う……よね?