※この作品は魏endで一刀が"完全"に消滅した事を前提としているため、
記憶が戻るとかは無いので御容赦下さい。
後、オリジナル設定もあり、登場人物の行動や言動が原作と一致しない場合も
多々ございますので、その点も御容赦下さい。
何とか洛陽に到着した桂花達であったが、事後処理でやらなければならない事はどんなにやっても
一向に減る様子を見せなかった。
桂花、風は政務をこなす事に専念するため、武官の取り纏めを春蘭の部下である張郃と韓浩に、
文官の取り纏めを秋蘭の部下である司馬懿と許貢に一任し、真桜がその四人を監督する事となった。
秋蘭は洛陽に到着してすぐに目を覚ましたが、犯人の事は何も覚えていないという。
突然兵の一人が血に塗れた制服を見せた事で動揺した隙を狙われたらしい。
血が相当減っている事から、まだ寝台から動くのは無理だろう。
沙和は蜀に向かっているため、戻るまで後数日かかる見通しだ。
あれから凪は寝込む事が多くなり、軍に所属している医師に見せたが著しく生命力が落ちている
という事しかわからない。
「────凪も、華佗が来るまでどうしようもないわね・・・」
報告書をカランと投げて、桂花は本日何度目か分からない溜息をついた。
今、この政務室には桂花一人だが所狭しと置かれた書簡、竹簡等で足の踏み場も無い程だった。
風は兵達の指揮の為、今日はもう戻れないかもしれない。
稟、霞、春蘭、季衣、流琉は行方不明のまま。
華琳も未だ目覚める様子は無い────
「・・・たった数日でボロボロね・・・これが三国同盟の覇者の姿・・・」
新しい書簡を取ろうとする手が止まった。
桂花はその手を机の脇に置かれた抜具の中に入れ、抜具の奥にある隠しポケットからある物を取り出して机の上に置く。
それは・・・いつか一刀が落とした生徒手帳だった。
何度も眺めているから表紙はボロボロであちこち擦り切れ、十文字の印もやや霞んでいる。
くるりと引っ繰り返せは、そこには"アイツ"の顔写真が────
苦しかった事も、恥ずかしかった事もあった。
激戦に次ぐ激戦で、どうにかなってしまうのではないかと思った事も一度や二度ではない。
だが、華琳様がいた。他の者達もいた。
そして────"アイツ"がいた。
華琳様にちょっかい出す憎い"アイツ"
女と見れば誰彼構わずヘコヘコする"アイツ"
何度も落とし穴に落としてやろうとしたけど失敗した。
何度も殺してやろうと思ったけど、いつもヘラヘラして逃げながら私をバカにした。
悔しい思いも何度もした。
大事な初めての相手も"アイツ"だった。
"アイツ"が消えた日、私は笑い続けた。ずっと笑い続けた。
ざまぁみろ、と笑い続けた。
誰も止めなかった。
嬉しい事の筈なのに、涙が止まらなかった。
誰も、止めてくれなかった。
「まったく・・・!、こんな時にいないくせに、変な時には出てくるのよね!」
その声は、誰もいない政務室に空しく消える。
「"アイツ"がいるだけで騒がしくて、スケベな事に巻き込まれて散々迷惑していたから
いなくなって清々したのに!」
一刀の顔写真の上にポツ、ポツ、と何かが落ちた。
「いっつもいっつも笑ってばっかりで!あんたの顔、笑い顔しか覚えてないのよ!」
声が震えていた。
「バカ!バカ!バカバカ!、あんたってホンッとに迷惑だったんだから!」
"アイツ"がいるだけで賑やかだった。
周りにいつも誰かいて、必ず大騒ぎになった。
一人になりたいと思えば、いつも邪魔が入った。
全部"アイツ"の所為。
でも・・・楽しかった。
「う・・・うう・・・」
嗚咽が漏れる。
もう、限界だった。
「助けてよ・・・一刀・・・」
その声を聞くものは、いない────
「郭嘉様・・・やはり、誰もいないようです」
「ふむ・・・」
稟は数十人の親衛隊と共に北の街から落ち延び、ようやく許昌の街に辿り着いたがそこには誰もいなかった。
既に火はあらかた鎮火しているが、未だに黒い煙を出している所もある。
許昌の城もその半分が消失しており、戦いに敗れたのは明白だった。
だが稟はすでに狼狽する事もなく状況を見る。
「それにしても・・・死体がほとんど無いとは・・・」
親衛隊の一人が不思議そうに呟く。
確かに街の有様は散々だ。だが、街の中には死体が一体も無かった。
最初は死体がどこかに晒されているのかとも考えたが、そんな様子は無い。
街の外には大急ぎで逃げた時に打ち捨てられた馬車や、家財道具が散らばっているだけ。
激しい戦いがあったが死者が見つからないという事と、奇妙な違和感に稟は不思議な吐き気を覚えた。
────嫌な予感がしますね・・・。
「郭嘉様!華佗様です!華佗様がいらっしゃいました!」
親衛隊の一人が青い顔をして走ってくる。
その怯えたような様子に、まさか華佗が死体で見つかったのでは・・・と思ったが、様子がおかしい。
「そ・・・それと・・・筋肉の化け物が・・・!」
「だぁーーーーれがぁ!!小説なのに表現するのが嫌でしばらく書く手が止まった程の化け物じゃとー!!」
青い顔で走ってくる親衛隊の後ろから現れたのは、半裸でマッチョの白ヒゲがマッスルポーズの一つ
『アブドミナル&サイ』をしている卑弥呼だった。
その姿を見て親衛隊が一斉に剣を抜いて構える。
「やぁ、郭嘉。君は無事だったか」
卑弥呼の後ろには華佗の姿もあったが、その手には数枚のボロボロな札が見えた。
「ああ・・・お前達、その者は大丈夫だ。化け物だが、敵では無い」
稟の言葉にうろたえながらも親衛隊が剣を下げるが、鞘にしまう事はしない。
「華佗殿も御無事でしたか、態々こちらから御呼びしたのに申し訳ない」
「いや、それよりも随分大変な事になっているようだ。これを見てくれ」
華佗が手元にある札を稟に見せるが、何やら奇妙な記号のような物が書かれているだけに見える。
「これは・・・符・・・ですか・・・?」
「ああ、昨日この街に到着した俺達は人形に襲われて、慌てて撃退したんだけど・・・手応えが変でね。
倒した人形をしばらく見ていたら砂のようになって消滅したんだ。そこで調べてみたら、これが見つかった」
「続きはワシが説明しよう」
卑弥呼がスッと厳しい顔になる。
「これには妖術の効果を上げる為の記述と、幻覚を見せる記述がある。これを使えば数人の兵があたかも
数千の兵のように見えるじゃろう。これが街のそこそこに貼っておった形跡がある。殆どは術の発動と共に
燃えたが、手元にあるこれだけが残っておりそこから札の正体が分かった」
「なんと・・・!?」
「この札が貼ってあった場所じゃが、屯所のあった場所全てに貼ってあったわ」
卑弥呼の言葉に稟は目の前が真っ暗になる。
屯所は警備の者達のつめる場所だ。当然一般人は入れないし、地区によって担当がまったく別になる為
全ての、という事はそこを回れる者は絞られる。凪、真桜、沙和、警備隊の上官の数人・・・そして秋蘭だ。
さっきの違和感────
一瞬、凪、真桜、沙和の顔が浮かんだが、即座に否定する。
火は城を中心に"普段人気の無い所"を重点的に燃やしていた。
まるで人々が逃げる時間を稼いでいたように・・・。
これは街の事を熟知した者でなければならない。
死者がいない・・・そこまで計算出来る者・・・。
「しゅう・・・ら・・・ん・・・?」
その呟きはただ、風に流れた。
お送りしました第10話。
桂花のイメージとしては、華琳(母)の側にいれば態度の悪い子供。
というのがあったので、その華琳から離れたら脆いんじゃないかと。
さーて。今回のお話は予想ができましたかな?
ネタバラシはまた後で。
ではちょこっと予告。
「蜀」
では、また。
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真・恋姫無双の魏end後の二次創作SSになります。
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