No.179414 PSU-L・O・V・E 【L・O・V・E -Juel The Dark-】2010-10-20 21:48:32 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:738 閲覧ユーザー数:730 |
側頭で結い上げた薄紫色のお下げ髪。
クリッとした大きな瞳。
だが、見慣れた顔が持つ、彼女の身体は漆黒の外装(パーツ)で覆われている。
其処に立っていたのは紛れも無く、黒い"ユエル"だった―――。
(いや、違うッ!)
否定し、ヘイゼルは改めて黒いユエルを凝視する。
ユエルの身長はもっと低かった……。
ユエルの目は、こんなに吊り上っていなかった……。
ユエルは、こんな魂を感じない瞳をしていなかった……。
それはオリジナルとは異なる、似て非なる存在(モノ)。
こいつは……この女はユエルでは無い、断じて!
「ユエル・G・トライア(Juel・Gunner・Trial)……」
緋色の女は黒いユエルをそう呼んだ。
「ユエル・シリーズの砲撃戦特化型試験機……。姉さんが本来のスペックを発揮していれば、生まれる筈だった可哀想な彼女の妹……今のその子は完成していたボディに、粗末な戦闘用人格を埋め込まれただけの只の人形(マシナリー)よ。演算力や自律思考力は私達には遥かに及ばないけど、私達と同様にハイブリッド・A・フォトンリアクターを内臓しているわ。貴方に勝てるかしらね?」
ヴィエラの言葉が終わると、黒いユエルは構えていたライフルをナノトランサーに収納し二挺の短銃を転送させ身構えた。
「悪いが……お前の相手をしている暇は無い!」
そう、全ての元凶はこの緋色の女―――!
ヘイゼルはハンドガンで黒いユエルを牽制し、緋色の女へと駆け寄った。右手を振り上げると同時にナノトランサーから転送させたGRM社製の片手剣、ジートシーンで斬り付ける―――。寸前、発射された光弾がヘイゼルの行く手を阻んだ。黒いユエルの横槍だ。
「クッ!」
「悪いけど、私も貴方の相手をしてる暇は無いの……トライア、代わりに貴女が彼の相手をして上げて」
「ハイ、姉サマ―――」
ヴィエラが顎で指示すると、黒いユエルは抑揚の無い無感情な言葉で頷く。
「さあ、待たせたわね、姉さ……」
ヴィエラはユエルを振り返り眉を顰めた。ユエルは胸元に手を翳し拳を固めている。彼女が身に付ける腕部外装(パーツ)レドミエル・アームには拳を守る為の装甲部が有るのだが、その先が不意に開閉し中からフォトン・スフィアが姿を現した。フォトン・スフィアはテクニック反応を生じさせる、言わば触媒となる物で、本来は短杖(ワンド)や長杖(ロッド)と呼ばれる法撃用デバイスに取り付けられている物だ。ユエルはそのフォトン・スフィアに凍気の法術を集束させると、ヴィエラ目掛けて一気に解き放った。凄まじい冷気が空気を軋ませながら、地を這う氷結の魔弾となりヴィエラに襲い掛かる。反応からして氷系テクニックの基本法術『バータ』かと思われるが、その法撃力は尋常ではない。精神力の高いニューマンにさえ、これ程の法撃出力は出せない筈である。
「流石は法撃特化型……と、言いたい所だけど―――」
ヴィエラは迫る氷結の魔弾をサイドステップで難なく避けると……。
「攻撃が単純すぎるのよ!」
何時の間にか転送していた片手剣を振り上げユエルに斬り込んで行く。切っ先の鋭い片手剣はGRM社製のクレアセイバーだろうか?
「はああああぁッ!」
「"アイギス"展開……」
裂帛の気合と共に斬り付けられたフォトンの刃にユエルが左手を翳すと、凍気を纏った局所型のフォトン・シールドを発生させ受け止める。緋色の女、ヴィエラと電脳の魔女、ユエルの闘いの火蓋は切って落とされた。
「待て、この野郎!」
その二人を追うヘイゼルの足を黒いユエルが阻む。
「邪魔をするな―――ッ!」
無視するには厄介な相手だ。先に、この女をどうにかしないと二人を追う事は出来はしない。ヘイゼルは止む無く黒いユエルに襲い掛かった。彼女は長い銃身(ロングバレル)を持つテノラ製の双短銃、アルブ・マガナを乱射し、弾幕でヘイゼルの足を止めよう試みる。だが―――。
「止められるかよ! その程度で―――ッ!」
ヘイゼルは巧みに弾幕を掻い潜ると、電光石火で黒いユエルの懐に踏み込んだ。
黒いユエルの攻撃は単調すぎる。ヴィエラは彼女には粗末な戦闘用人格しか組み込まれていないと言っていた。なるほど、それも頷ける。
(ガードマシナリーでさえ、もう少しマトモな動きをするぞッ!)
間合いを詰め剣を奔らせると、黒いユエルも反応して回避行動を取る。だが、遅い! コンマ数秒の遣り取りでヘイゼルは勝利を確信していた。その瞬間―――。
黒いユエルと視線が重なった。
やや沈んだ萌葱色の瞳は彼女と同じ色彩……。
白い少女の姿が二重となって映る。
(馬鹿がッ! こんな時に出るんじゃねえッ―――!)
刹那の一瞬、太刀筋が鈍る。だが、その隙は命取りだった。
黒いユエルの構えた銃口がヘイゼルを捕らえる。発射された光弾を寸前で交わした積りだったが、一発の銃弾がシールドラインの防御を抜けて、ヘイゼルの太股を貫いていた。
「ぐぁッ!」
激痛に上がった悲鳴を噛み殺すが、負傷によって機動力が奪われた、この状態ではまともに動けそうもない。黒いユエルはバックステップで距離を取ると左手にマシンガンを転送しヘイゼルに狙いを定める。
マシンガンの乱射で弾幕を貼り、こちらを逃がさぬ気か……確実に仕留める積りだ。
「ッソタレが!」
ヘイゼルの右手にナノトランサーから物質が転送される際に生じるフォトン光が輝き、同時に黒いユエルが構えるGRM社製ドラムラインから発射された銃弾の嵐がヘイゼルを襲う。だが、手応えが無い。気付くと、ヘイゼルの姿が掻き消えていた。黒いユエルは急ぎ索敵を開始すると、ヘイゼルは高速移動するスピアに捕まり、その場を逃れていた。
槍術フォトンアーツ "ドゥース・マジャーラ"
リアクターから発生するフォトン粒子を推進力として突撃する技なのだが、ヘイゼルはその移動力を離脱に利用したのだ。本来で有れば、突撃する槍の上に乗る形なのだが、足を負傷したヘイゼルにはそれが出来ない。やむを得ず、槍に捕まり引っ張られる格好になっているが、咄嗟の判断で窮地を凌いでいた。
その姿を目で追いながら、黒いユエルはマシンガンをナノトランサーに収めた。距離を空ければ射程、威力、精度共にマシンガンは欠ける。代わりに彼女はライフルを転送していた。
「ハイブリッド・A・フォトンリアクター、フル・ドライブ……オーバードライブ射撃モードへ移行……」
黒いユエルの胸元にあるシールドラインシステムが、過剰に出力されたフォトンエネルギーにより激しく輝く。フォトン粒子は彼女の身体を走る血脈とも呼べるフォトンラインを駆け抜け、フォトンエネルギーがライフルに収束して行く。外部から充填された許容量ギリギリの出力にライフルが本来持っているフォトンリアクターが悲鳴のように光を放ったいた。
「なっ!?」
尋常では無い様子にヘイゼルが絶句する。
「―――開放(フルバースト)」
黒いユエルはヘイゼルを捕らえて引き金を引いた。
銃口から放たれた光弾は尾を引く一条の光線と化しヘイゼルを襲うが、彼は寸前で地を蹴り、進行の方向を変えていた。
その脇を光線が掠めて過ぎる。
「熱ッ!」
この熱量、威力は通常のライフルの物とは比べ物にならない。グレードで言えば最上級ランク(Sグレード)に匹敵する携帯レーザーカノンか、それ以上のエネルギー出力である。
「携帯武器のカタログスペック以上のエネルギー出力を無理やり引き出す能力……」
ヘイゼルは理解し、苦々しげに顔を顰めた。
A・フォトンリアクター搭載型……これが彼女達(ユエル・シリーズ)が持つ特殊能力か!
ヘイゼルは二射目の光線を何とかドゥース・マジャーラを使って避け、間一髪の所で敷地と敷地の段差を飛び降り死角へと逃れた。
「イッ……テェ……!」
着地の衝撃に負傷した脚に激痛が走るが、泣き言を言っている余裕は無い。
ヘイゼルはナノトランサーからディメイトを転送した。
ディメイトは一般的に流通している回復薬品である。アンプルの成分は細胞再生促進薬と治療用ナノマシンで構成されており、重症ですら瞬く間に治癒する事ができるのだが……。
「マズイな……」
ディメイトを服用したヘイゼルは、メイト系回復薬の所持数を確認し小さく舌打ちした。
回復薬の手持ちが少ない。有事に備え最低限度の武器は所有していたのだが、回復薬の補充を怠っていた。中継地や街中でも簡単に入手する事が出来る手軽さが仇となった。だが、それは自らの失態であり、誰も責める事は出来ない。
それを踏まえても……。
「戦れるか? あの二人を相手に……」
緋色の女と黒いユエル―――。
何れもA・フォトンリアクターを搭載した、未知数の戦闘力を持つ相手、その二人を相手に万全の備え無くして勝算はあるのか……疑問である。
しかし、戦わなくては……勝たなくては……。
脳裏に白い少女の姿が浮かんで消える。そしてそれを覆い尽くそうとする緋色の女の姿も……。
「戦えるか……勝てるかじゃねえ……戦って、勝つしか……それしかッ!」
ヘイゼルが槍の柄を固く握り締めた時、何かが空気を切り裂く音がし、上の段差から光球が落ちてきた。
(あれは……フォトン・グレネード弾!?)
着弾後に爆発するよう調整されたフォトン榴弾……カテゴリー的にフォトン・グレネードと呼ばれる重火器から発射された榴弾である。
理解したと同時に目の前で閃光が弾けた。
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EP12【L・O・V・E -Juel The Dark-】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)
【前回の粗筋】
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