※この作品は魏endで一刀が"完全"に消滅した事を前提としているため、
記憶が戻るとかは無いので御容赦下さい。
後、オリジナル設定もあり、登場人物の行動や言動が原作と一致しない場合も
多々ございますので、その点も御容赦下さい。
男が槍の石突で稟の体を薙ごうとした瞬間────
ギッイイィィン!
という激しい火花が散り、男が騎馬ごと後ろに大きく後退する。
男と稟の間に割り込んだ騎馬が猛烈な槍の攻撃で男の槍を弾き、稟の体を掻っ攫う。
「何やってんねん!稟!」
そこに現れたのは霞だった。
油断無く五胡の男に対峙したまま小脇に抱えた稟を揺するが、稟は呆けた様にただフランチェスカの制服を
抱きしめるだけ。
その瞳は焦点があっていない。
「貴様に用は無い」
「────くっ!」
男の槍が凄まじい速度で霞を狙い、次々と急所を狙って突かれる。
辛うじてそれを防ぐが、稟を抱えたままではとても対応できない。
「なめんなやぁ!」
攻撃の合間の一瞬を見逃さず放たれた霞の槍が、男を大きく後退させる。
「稟!しっかりしろっちゅうねん!稟!」
必死に呼びかけるが返事が無い。
(しゃあない・・・)
「おい、お前!稟を頼むで!」
近くにいた親衛隊の一人に稟を投げるように渡すと、再び男と対峙する。
「お前らは一刻も早く稟を連れて許昌まで逃げぇ!」
「し・・・しかし、張遼様!」
「ええから、はよう逃げぇっちゅうねん!」
「し・・・あ・・・?」
親衛隊に抱きかかえられた稟が、のろのろと顔を上げる。
今にも張り裂けような哀しみの表情で・・・。
(なんちゅう顔してんねん・・・ウチも・・・こんなんやったやろぅな)
霞も、一刀の消えた日の事を思い出す。
ただ、・・・ただただ、目の前が真っ白になった。
それ以外は何も覚えていない。
その日からしばらく酒びたりだったが、凪に殴られた。
えらい驚いた。自分と同じように苦しんだ筈の凪に元気付けられるとは思わなかった。
「隊長は絶対に戻ってきます!私達がそれを信じないでどうするんですか!」
その言葉でなんとか立ち直れた。
(今度はウチが仲間に渇を入れる番やな)
「稟!よう聞け!こいつら五胡の狙いは魏の頭脳や!あんたを欲しがったのがなによりや!
他の連中も危ない!ウチは考える事とかできん!何とかできんのは稟!あんたや!」
「あ・・・あぁ・・・」
「ええから、逃げぇ!!!」
霞の怒号が戦場に響く。
親衛隊は即座に行動に移す。
「し、あ・・・霞!!」
引き摺られる様になりながらも、騎馬に乗せられた稟が叫ぶ。
「みんなをまかせたでぇ!!!」
五胡の男に霞が突撃を始め、その姿が物凄い速さで遠ざかる。
親衛隊が撤退を始めたからだ。
「霞!霞ーーーー!」
稟の悲痛な叫びが、霞の耳にいつまでも残った────
秋蘭を襲撃した犯人は見つかっていない。
親衛隊をほぼ総動員する形で捜索させているが、そもそも不審者の侵入の形跡が無い。
秋蘭から何か話を聞ければ犯人が分かるかもしれないが意識不明の重体だ。
何より疲労していたとはいえ、あの秋蘭が声も出せずにやられた。
犯人の力は相当なものの筈。
八方塞。
桂花は急ぎ、風と流琉を集める。
春蘭と季衣は新たに現れた黄巾党対策に街を出、凪と真桜は街の警備と他国への連絡、
沙和は蜀の異変の調査に向かった。
机の上に置かれた、切り裂かれた聖フランチェスカの制服を前に桂花と風、流琉の三人が揃っていた。
「春蘭様と季衣に・・・兄様の服の事を話さなくてよかったんでしょうか・・・?」
「唯でさえ、秋蘭が倒れた事であれだけうろたえたのよ・・・これであの全身精液男の服の事を話したら
どうなるか・・・わかるでしょう?」
流琉の言葉に桂花が溜息まじりに答えながら答えると、流琉が俯く。
風はまじまじと制服を手にとって見ている。
頭の上の宝譿も、んー?という感じで見ていた。
「それよりもこの報告だけれども、これはどういう事なの?」
桂花が書簡を広げると、流琉がああ・・・という声を出した。
「そうなんですよ。最近、蜀の国から全然食材が入ってこないんです。おかげで街の人達が困っています」
「風は何か聞いていない?」
「ぐぅ・・・」
「寝るな!」
「おお!」
ペシッと頭を叩かれて風が起きる。
「あまりにも驚きすぎて、寝てしまいましたー」
「驚いたって、食材が入ってこない事が?」
「いいえー。この服はニセモノなのですよ」
桂花と流琉が驚愕の表情をする。
「どういう事よ!」
詰め寄る桂花に対して、
「いやーん、桂花ちゃーん、私を襲わないでくださいねー」
軽く流す風。
「それどころじゃないでしょう!」
キィーッ!と桂花が頭を掻く。
「ものすごく精巧にできてますねー。凪ちゃんが作ったヤツより本物に近いですけれど、
この部分に書かれている文字・・・本当であればお兄さんの国の言葉で書かれていますのですよ。
私はお兄さんの国の言葉が少し読めるんですけれど、これはこちらの言葉で書かれていますよー」
そういって風が指差したのは、服につけられた洗濯用のタグ。
見れば、確かに桂花でも読める。
ニセモノだった事に心底ホッとした桂花だったが、
(あ・・・あいつの心配してたわけじゃないのよ!)
と心の中でもツンデレ。
「それと────報告といえば気になることがあるんですがー・・・」
「やはり、障害になるのは貴方でしたか────程昱」
扉が開かれ、そこには一人の兵が立っていた。
「誰だっ!」
流琉がいつの間にか出した伝磁葉々を構える。
「そうそう・・・十文字の旗印の事を報告に来た兵士さん・・・どうやって"華琳様のお部屋"に男の方が直接
これたんですかねー」
桂花がハッとする。一刀以外の男が華琳様のお部屋に来た事など無い。そもそも来れるわけが無い。
何故、それに気がつかなかったのか。
(気がつけなかった・・・?違う!)
突然、桂花の頭の中にあったモヤのようなものが晴れた。
「くっ・・・そちらも術を解きましたか・・・」
男の顔が歪む。一瞬の隙。
「てぇりぁああああああ!」
その隙を見逃さず、流琉の伝磁葉々が高速回転して男を弾く。
「なんのっ!」
だがその攻撃はギィン!という音と共に、数枚の札が防いだ。
男が大きく後退した間をぬって三人が外に駆け出す。
「逃がしませんよ」
男の姿が切り替わる。そこにいたのは兵士の姿をした男では無く、白い神事服のようなものを着て
眼鏡をかけた優男。
その手には数枚の札が握られている。
逃げる三人の背を見ながら男が小さく呟く。
「時間が無いのですよ・・・待っていてください、左慈────」
その顔は・・・何故か悲痛に歪んでいた。
同時刻────
許昌の街中に突然数え切れない程の人形が現れて人々を襲い始めた。
ギャイイイイ!!という真桜の螺旋槍が数体の人形をなぎ倒すが、減った様子は無い。
街のあちらこちらから、わらわらと現れるのだ。
「ああーっもうっ!どっから湧きでてんねん!!」
再び近づいてきた人形に螺旋槍をぶち込みながら叫ぶ。
すでに街のあちこちで火災が発生しており、兵や人々が協力してなんとか火を消そうとするが、
その人達にも人形が向かう。
「はっあああああ!!」
ドガアアアアアン!!という一際大きな爆発の音は、凪の気の攻撃だ。
「ハァッ・・・ハァ、ハァ・・・」
だがその凪は脂汗を流しながら肩で息をして、ついには片膝をつく。
「凪!」
真桜が駆け寄り、凪に取り付こうとした人形を砕く。
「だぃ・・・じょうぶ・・・だ・・・」
「何いってんねん!数日前から具合悪いゆっとったやないか!」
真桜が凪に肩を貸して立ち上がると、そこにもう何度目かの人形が群がる。
「だぁぁぁ!!しつっこいねん!!」
真桜は懐から数本の筒を取り出し、人形に投げつけるとそれは大爆発を起こした。
土煙がパラパラと舞う中、二人は城に下がる。
動けない華琳や秋蘭が気になるからだ。
「行くで!!」
「わかっ・・た・・・」
叫び、走る真桜に抱えられるように凪も走る。
凪のその右手に着けられている筈の閻王は────無い。
お送りしました第5話。
一話6kb~7kb縛りで書いているんですが、オーバーしたので前編です。
ではちょこっと予告。
「魏国・壊滅 後編・折れた魏武の大剣」
では、また。
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真・恋姫無双の魏end後の二次創作SSになります。凪すきーの凪すきーによる、自分の為のSSです。ご注意ください。