No.176824

おとなりの嵐さん過去編「凡田平一」前編

彼の一族は全てが普通である。
住居はそこらにある普通の家、食事も普通の料理
家系も普通に親子6人ほど、親戚も普通に数人
何もかもが普通、そしてこの生活習慣は家訓でもある。
しかしこの不変の生活に逆らう行動をすると・・

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2010-10-06 23:46:44 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:503   閲覧ユーザー数:498

「平一、お昼ご飯できたわよ」

「わかったすぐ行くー」

 

 

俺は凡田平一

この時の俺は18歳、受験を控えたごく普通の高校三年生

天道町に越してくる1年前、俺は実家で過ごしていた。

実家の大きさは普通の家の土地より少し庭が大きいくらい

構造は昔ながらの瓦の屋根、木の柱、畳、タンス、布団

庭では竿にかけられた布団が干されている

 

「今日はそうめんかぁ、もっと濃いのがほしかったけど・・」

「夏といえばそうめんだから、これが普通なのよ」

「ちぇっ いただきまーす」

夏休みが始まったばかりの頃、定番のそうめんを母とすすりながら来年の進学先を考えていた。

家から言われているのは近所のそこそこ評判の良い大学に入れといわれている。

「母さん、俺このままで良いのかなぁ 言われるがままにこの大学に行って・・」

大学パンフレットを見ながらため息まじりに進路への愚痴をこぼす

「それでいいのよ、普通が一番なんだから」

普通ねぇ・・、と不満げながらもパンフレットをパラパラとめくりながらそうめんをすする。

 

ふと目にとまったのは「天道大学」かなり高難度な大学だ。

しかしこの大学がある地域は第二の東京とも言われる天道町、すごく行きたい。

「母さん、俺ココの大学行きたいな・・」

 

食べ終わったそうめんの器をどかして母にパンフレットに書いてある天道大学の項目を指差す。

 

すると母は突然

「その話、お父さん達にはしないでね」

と一言、俺は少しキョトンとしたがとりあえず頷いてそうめんの容器を片付け、そのまま勉学に励んだ。

 

その日は何事もなく、いつもどうり一日が過ぎていった。

次の日

 

珍しく叔父と姉が家に遊びに来た。

 

俺は家族とは反発しつつも自分の立ち上げた企業を成功させて有意義に一人暮らしをしている姉と自由奔放に生きる叔父が羨ましくて、そして大好きだった。

「平ちゃんまた背伸びたか?」

「やだなー俺もう高3だよ、叔父さんが背低くなったんじゃない?」

「ははは、言うようになったなぁ」

叔父さんはとある有名な建設中の人工島の作業員をしていて、仕事に余裕ができるとよく帰ってくる。

 

「平一、お母さんは?」

軽い化粧と流行の服で着飾っている姉は俺に対してかなり無関心だけどそれなりに俺のことを気遣ってくれている。

「洗濯物干してると思うから多分庭の方じゃないかな」

 

「わかった、ありがとね」

そう言って姉はつかつかと庭の方に歩いていった。

 

「そうだ平ちゃん、今日は面白い話してやるよ」

「ほんと?どんな話どんな話!?」

「俺の仕事先で会ったお前と同い年の女の子なんだけどな・・」

 

「何しに来た、平二郎」

話の途中で割って入ってきたこの声の主は俺の父、凡田平一郎だった。

「実家に帰って何が悪いんだ?」

「此処は家訓に逆らって非凡な道を歩むお前の帰る場所ではない」

「またその話か、兄貴もいつまでも変わらないな」

「それがこの家の掟だ」

ピリピリとした空気の中、しばらくして父は黙って自室に戻った。

 

「悪いな平ちゃん、なんか空気悪くして・・」

申し訳なさそうに頭をかく叔父

「大丈夫だよ叔父さん」

父と叔父が出会うたびに喧嘩になるのは我が家の家訓にある。

 

それは「不変」

 

生まれてから死ぬまでの間、自分自身に課せられた運命に全て身を任せるという決まりがある。

そのため、自らの意思で伸し上がることは禁じられている。

自分の理想で仕事を決め、仕事をこなし、今に至る姉と叔父は家訓を重んじる父にとってはかなり不快なのだろう、姉たちが帰ってくると絶えず機嫌が悪くなる。

そのとばっちりなのか、大学の話になると「近くにある普通の大学へ行け」とよく念を押されている。

 

 

その日は叔父と色々な話で盛り上がった。

特に職場で出会った女の子の話は興味深かった、あと人工島の構造とか今注目されてる時事とか

 

 

夕食を済ませた後、叔父は夜ながらも職場に戻ると言い出した。

「どうせなら泊まっていけばいいのに」

残念そうに俺が言うと

「仕方ないさ、仕事の電話が着たんだからな」

「今度は何時帰ってこれるの?」

母が聞く

「わかんないな、予感ではしばらく無理かもしれない」

「平二おじさんも仕事サボっちゃえばいいのに」

姉は残念そうに肩を落とした。

「そうはいかないさ、これでも結構重要な役割だからな!」

叔父はそう言って姉の頭をなでる。

 

「また帰ってきたら話聞かせてよ叔父さん」

俺は名残惜しくも叔父にそう言った。

すると叔父が思い出したかのように

「そうだ、平ちゃんに言っとくことがあるんだった」

「ん、何かな叔父さん?」

 

「後悔しないように生きろよ」

 

そう言って叔父さんは自分の車に乗って帰っていった。

 

この言葉がどんな意味を込めて言ったのかは俺には言葉の意味以外はわからなかった。

「また次会うときに聞いてみよう・・」

そう思い俺はいつもの一日を過ごした。

 

 

 

けど

 

 

叔父さんと言葉を交わしたのはその日が最後だった。


 
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