No.176065

PSU-L・O・V・E 【ディ・ラガン襲来(Assault of the Diragan)⑥】

萌神さん

EP09【Assault of the Diragan ⑥】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-03 00:58:51 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:767   閲覧ユーザー数:762

突如、飛来した巨大なディ・ラガンはユエル達が辿る天然の林道に着地する。慣性の乗った巨体は直ぐには制止せず、木々を押し倒し、地響きを立てながらユエル達に迫って来た。

ユエルは驚いた拍子に、手にしていた携帯ビジフォンを地面に落としてしまっていた。慌ててそれを拾い取ったユエルの腕をジュノーが引っ張る。

「ユ、ユ、ユ、ユエルさん! 逃げないと、走ってくだしあ!」

「ジュノーちゃん! 噛んでる、kんでるッスよ!」

同様に動揺して噛みまくる二人だが、戯れ合っている時ではない。

「と、とにかく逃げるッスよ!」

「は、はい、解りましたです!」

咆哮を上げて迫るディ・ラガンに背を向け二人は一目散で駆け出した。

「ユエルさん、出来るだけ林の中を逃げて下さい!」

「りょ、了解ッス~!」

ジュノーはユエルを誘導し樹林の中に逃げ込んだ。

ディ・ラガンは巨大だが、幸い地上での動きは鈍重だ。更に密生する樹木は障害物となりディ・ラガンの移動速度を鈍らせ、茂る枝葉がディ・ラガンの視界から身を隠してくれる。逃走経路としてこれ程適した場所は無いとジュノーは判断していた。

(これなら逃げられる。最低でもヘイゼル様達が救援に来るまでの時間は稼げる筈……大丈夫! 必ずヘイゼル様は来てくれる! だからそれまでは何としてもユエルさんを護らないと……)

ジュノーはチラリと後方を確認する為振り返る。木々の隙間から球状の形をした炎の塊が迫るのを視認した。これは―――!

「ユエルさんッ!」

「えっ? きゃ―――ッ!?」

ユエルはいきなりジュノーから本気の飛び蹴りを受け蹴り飛ばされた。

その直後、爆発が起こりユエルの身体は爆風で地面を何度も転がる。

「ひぇ~!?」

ジュノーはディ・ラガンが吐いた爆発火球の接近に気付いたのだ。しかし、ユエルに回避を警告する余裕は無く、彼女を突き飛ばすにしても、キャストとPマシナリーでは重量差が有りすぎる。止む無くユエルを蹴り飛ばす事で危機を脱したのだ。

「イタタ……ジュノーちゃん何をするッスか……」

そんな理由とは露知らず、ユエルは地面に打ち付けた鼻先を擦りながら振り返り、絶句した。

「ああああぁぁぁぁぁ――――――っ!」

絶叫を上げ、ジュノーが狂ったようにのたうちまわっていた。彼女の左腕は爆発の影響で二の腕の部分から吹き飛んでいる。

「ジュ、ジュノーちゃん!」

ユエルが血相を変え悲鳴を上げた。

ジュノー達はマシナリーとは言え、人やキャストと同じ様に感覚を備えている。

ジュノーは意味を成さない呻きを発しながら立ち上り、強引に痛みを伝達する神経回路を切り離し制御した。

片腕では長杖は使えないと判断したジュノーは、ナノトランサーから片手杖を転送すると、ユエルを背に構える。

「ユエルさん……は……逃げて……下さいッ!」

片腕を失い、ボロボロの痛々しい姿でジュノーは告げる。

「そんな! ジュノーちゃんを置いて逃げれないッスよ!?」

イヤイヤをするように首を振り、泣き出しそうな顔をするユエルにジュノーはふと微笑んだ。

「有り難うございます……でも、私の事は心配しなくて良いですから……早く逃げて下さい!」

「でもッ!」

食い下がるユエルに対してジュノーが語気を荒げた。

「私達は"パートナーマシナリー"なんです! ユエルさん達、ガーディアンズが一般の人々を護って戦うなら、私達はそのガーディアンズを護って戦うのが役目なんです! だからッ!」

ディ・ラガンが一瞬大きく息を吸い込む、次の瞬間の大きく開いた顎から紅蓮の火炎が噴き出された。

「ギ・フォイエ!」

ジュノーは片手杖を振るうと彼女を中心に取り巻くように円形の炎の壁が出現する。

炎系テクニックの一つ"ギ・フォイエ"対象者を中心に円状の炎を発生させる攻撃テクニックである。

ジュノーが発生させた炎の壁が、ディ・ラガンの噴いた火炎を遮った。

だが、このテクニックは本来、術者に近い敵を攻撃する為のテクニックであり、効果の発生時間も短く防御能力は無いに等しい物である。

ディ・ラガンの吐く火炎を封殺は出来ず、ジュノーの身体は炎に包まれ、服や髪が燃え上がる。

 

「逃げて―――ッ!」

 

炎に巻かれながらもジュノーは叫んだ。

その叫びは懇願と言うより命令。

ジュノーが目前に迫る巨大な影にハッとし我に返る。

ディ・ラガンは自らに楯突く小さき存在を、その前脚で踏み潰した。

ズシンという重い地響きがユエルの身体を揺らす。

「ジュノーちゃん―――ッ!?」

凄惨な光景にユエルは両手を顔に当て叫んだ。惨慄に全身が総毛立ち、膝の震えが止まらない。

(……逃ゲ……テ……ユエ……さン……)

耳(聴覚センサー)に届いたジュノーの言葉がノイズと共に消えていく。

哀れなジュノーを踏み潰したディ・ラガンは高らかに咆哮すると、次の目標をユエルに定めゆっくりと舐るように首を動かした。

「あは……あはは……あはははは……」

何処からか笑い声が聞こえる。

気付くとそれを発しているのは自分だった。

可笑しくは無い筈なのに笑いが漏れる。もう何がなんだか解らなかった。起こった事の全てが信じられない。悪い夢のようだ。

それでも逃げないと殺される。それだけは解っている。

 

殺される……。

 

殺される……。

 

殺される……!

 

ジュノーのように捥(も)がれて、焼かれて、踏み躙られる。

あのビーストのように肉を千切られ、臓腑を喰われ、無惨に、陰惨に殺される。

ジュノーが踏み潰された瞬間の光景が、肉塊と化したビーストの死体が、ユエルの脳裏にフラッシュバックした。

「嫌ぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁ―――ッ!」

ユエルは犇(ひし)と迫る"死"の現実に恐怖し絶叫した。

死にたくない。

こんな所で何も成さぬまま死にたくはない。

生きたいという本能(プログラム)が足を動かす。ユエルは脱兎の如くその場から逃げ出した。

ディ・ラガンを追って平原を駆けながら、ヘイゼルは独り言のように呟いていた。

「何故、ディ・ラガンは俺達ではなくユエルを襲撃した? 番を殺された恨みを向けるなら、それは俺達への筈だ」

『故にかも知れません……』

返事を求めた訳ではなかったが、イヤホンから聞こえたルウの言葉は、およそ現実的なキャストの物とは思えない物だった。

目には目を、歯に歯を―――。

番を奪われた恨みを、此方の仲間を奪う事で晴らそうと言うのか!

「馬鹿なッ! 復讐でユエル達を襲ったてのか!? 獣風情にそんな知性がある訳が無い!」

歯噛みし、ヘイゼルは吐き捨てる。

『確かにディ・ラガンにその様な思考があるとは思えませんが、現実に襲われているのは、別行動中だった貴方の仲間である事に変わりは有りません。一刻も早く合流し、可能であれば撤退して下さい』

「言われなくとも解っている!」

それ以降、言葉を発する事無く二人は走り続けた。

だが、口を開かないと悪い予感ばかりが浮かび、気だけが焦る。

不意にヘイゼルの頭を過ぎる血塗れのユエルの幻影。

白い身体が緋色に染まり、体中の肉(生体パーツ)は無惨に食い千切られ、光を失った緑の瞳が黒い森が湛える湖面のように暗く見開かれている。

その悲惨な姿がビーストの死体とだぶる。

ユエルの死―――。

(馬鹿な事は考えるな!)

ヘイゼルは激しく頭を振り、幻想を振り払う。焦る意志に反し付いて行かない足がもどかしい。

暫くして二人は、ユエル達が最初に襲撃されたと思わしき場所に辿り着いた。周囲の樹木が広範囲に薙ぎ倒されている。此処からユエルとジュノーの二人を追跡するのは簡単だ。ディ・ラガンが薙ぎ倒した痕跡を辿れば良い。

更に進むと爆発と思しき物で地面が抉られ、樹木が吹き飛ばされた場所に出た。吹き飛ばされた樹木は僅かに炎を上げ燻っている。

「ナパーム・ブレス(粘性爆発火球)の跡みたいだぜ……」

現場状況からビリーはそう断定するが、ヘイゼルは彼の言葉も耳に入らない様子で辺りを窺っていた。僅かに離れた場所には炎により地面が焼かれた跡がある。こちらはディ・ラガンのブレス(炎の息)により生じた物だろう。

「!?」

ヘイゼルはディ・ラガンの巨大な足跡が残された窪みに何かを発見し近付いた。辛うじて原型を留めているそれは、変わり果てたジュノーの姿だった。

「ジュノー!?」

ヘイゼルとビリーは慌てて彼女の元にしゃがみ込む。ジュノーの全身は黒く焦げ、顔面の人工皮膚は破れ機械部分が剥き出しになっていた。左腕は失われ、残った四肢もあらぬ方向に曲がり、身体も潰されひしゃげている。見るに堪えない酷い有様だ。

「ヘ……イゼ……ル様……」

ヘイゼルに気付いたジュノーはギシギシと軋んだ音を立てて、無理やり顔を動かし声を発した。辛うじて稼動できるようではあるが、ジュノーは大破状態だ。人で言うなら瀕死に等しい状態である。

「ユエ……ル……さん……を……おねが……です……」

「解ったから喋るな! 後は俺達に任せて、大人しくシャットダウンしてろ!」

大破して尚、ユエルの身を案じるジュノーをヘイゼルは叱り付ける。だがその言葉はジュノーを心配する彼の本心の裏返し。

(相変わらずですね……)

痛々しいジュノーの顔に僅かに笑みが浮かび、彼女の瞳から光が失われた。

「ジュノ―――ッ!?」

ヘイゼルはジュノーの小さな身体を揺さぶる。見兼ねたビリーがヘイゼルの肩に手を置いた。

「ヘイゼル……今はミッションを終了させてシティに帰る事を考えるんだぜ。ジュノーちゃんはパートナーマシナリーだ。そう簡単にくたばりはしない。モリガン女医ならきっと何とかしてくれるんだぜ!」

「そうだな……」

ヘイゼルは小さく呟くと、ジュノーの身体をナノトランサーに収納する為、ドリズラージャケットに付属したデバイスのスイッチを作動させた。

 

(番を殺された復讐か―――)

 

ジュノーの身体が蛍火に似たフォトン粒子に変換され、ナノトランサーに収納されて往く。その様は荼毘に付され、火の粉に包まれる亡き骸を連想させた。

 

(良いだろう……お前がその気なら、俺も覚悟を決めてやる―――)

 

ジュノーの身体をナノトランサーに収納したヘイゼルがゆっくりと立ち上がる。

 

(ディ・ラガン……ユエルは殺させない……だが、テメエは殺す……俺が殺してやる!)

 

うつむき加減のヘイゼルの双眸は、押さえ殺した怒りに吊り上っていた。

 

 

 


 
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