「プレゼント?」
目的を聞いて、それが比較的意外だったせいもあってか、少年二人は目を丸くした。今日の主役だという金の髪を纏った黒いワンピースの少女、フェイトが、二人の親友に背中を押されながら、緊張気味に告げる。
「はい。リ、えっと母さんにって聞いたら、えっと、このせか、えっと」
「あぁ問題ないで、フェイトちゃん。この二人、魔法のことよぅ知っとるから」
最初から躓いた彼女に、暢気な声が優しいフォローをくれる。
ただ、それは聞いていなかったのか、なのはも目を丸くした。
「えぇ、そうなの?」
果たして「魔法」について、残念かなあまり好印象を持っていない太一とヤマトは苦笑いしか浮いてこないが、その辺りの事情を彼女たちに語るほど野暮ではない。
「っつーか、よく知ってるのはミッドチルダだけどな」
「てか管理局ってとこだな」
「もしかして二人とも魔術師なんですかっ」
なのはの問いは酷く純粋で……いうまでもなく、ぞっとしないものだった。
「「まさか」」
思いのほか力強く否定されて少女たちはたじろぐが、フェイトはちゃんと自分のコトを話した。
「えっと、ともかく、その、この世界で母の日っていうのがあるって聞いて」
聞いて、はいい。それは別段構わないし、覚えておいて問題ない知識だ。
わすれてても街中歩けば時期を把握することはできるが。いや、それよか。
「・・・・・・随分時期がずれてるような」
「でもでも、こういうのはあげたいって思ったときだと思うんですっ!」
なのはがぴょんぴょん跳ねながらそんなツッコミに声を上げる。
純粋な少女らしき思考。行動力がモノを言う説得。
それに水を差していいものじゃない。
「あぁ、まぁなるほど」
「わかったけど、おかーさんてあの人だよな?」
「そっか。クロノを知っていれば母さんも知ってますよね」
それは、勿論。
とはいえ、立ち話もあれだ。
移動には時間を費やしたのだしと、とりあえずと近いチェーン系の珈琲ショップに寄った。
そこでコンビニで買ったいくつかの地元ガイドブックを広げながら、今日の予定を組もうという流れ。
好奇他さまざまな目線を浴びながらも全く気にせず彼らは当初予定立てに集中していたが、ふと思い出したようになのはが話題を振った。
「そういえばはやてちゃん」
「ん?なんや~」
それは多分、本来ならもっと早く、彼女ならば言葉にしていただろう事。
「侘び、ってヤマトさんが言ってたけど」
「あ」
単にタイミングで今になっただけではあるが、当然彼女が無視できない話題であったことは言うまでもない。
しかし、敵もさるもの。
この場合、彼女が味方側なのが大きいのだが……
「あ、えっとな?前に鳴海一帯で大きな電波障害があったんおぼえとる?」
突然の話題転換。
そしてそれは、ある意味でビンゴだった。
「へ?え、あと、えと電車とまった、やつだよねぇ?」
果たして彼女の対応が、異様に鈍くなった。
にやり、とはやてが笑ったのを、角度で太一だけが見て取れた。
ちょっと、自分の血に不安になりながら。
だがその笑みの理由は判らない……
「そん時、二人がたまたま鳴海にきとってな。
帰れんからってウチに泊めてあげたんよ」
「そう、だったんだぁ」
よかったねー、太一さん、ヤマトさん。
なのはの言葉が妙に渇いて、それなりに人の多い喧騒の中で融ける。
そのタイミングで、はやてが酷く不思議そうに声を滑り込ませてくる。
「んー?そーいやあん時ヴィーダがなんやみょーなこと」
「あ、あのあのねっ、はやてちゃんっ」
なにを言おうとしたのか彼女の声を脇に、当の本人たちが首を傾げた。
「それにしてもあれだけ大規模だったのに、殆ど騒ぎにならなかったよな、アレ」
「あぁ。5時間近く、しかも鳴海周辺だけって話だっけ。
はやてがいてほんとに助かったよ
家帰っても帰れなかったって信じてもらえなかったしな」
それくらい、件の「大電波障害」は報道を控えられていた。
東京の中心なら電車の遅延など珍しくはないともいえるだろうが、それにしても大きかったと語れるのは被害者たる人たちだけで、「まだ未成年なのに突然外泊」と(父親が帰ってこない日の多いヤマトはともかく太一は)まぁ今更っちゃぁ今更なことに怒られるところだったのを、いとこたる小学生の証言で回避できたのである。
閑話休題。
「そういや聞きそびれとったなぁ。なんで鳴海きとったん?」
「はやての見舞いに行ったときにさ、帰りにヒカリ…あ、妹な?・・・と少し街歩いたんだよ。その時雑貨屋であいつが欲しそうにしてたものがあって」
滑り出しは素直に話し出した割に、途中で言葉が途切れる。
フェイトが驚いたようにその話に食いついた。
因みにヒカリのことをわざわざ妹だと説明したのは、勿論なのはと彼女がその名前に不思議そうにしていたからに他ならない。
「わざわざソレを買いに?」
「あぁ。わざわざ、人巻き込んで」
ヤマトがこいつシスコンだからーと指を刺しながら友人を笑う。
お前だってブラコンのクセにーと切り返しながら、太一はその口元を尖らせた。
雑貨屋などと野郎には無縁のところに、わざわざ注目集めそうな野郎を誘った理由だった。
「だって一人じゃはずかしいだろーっ」
「だったら空でもミミちゃん…は向こうか、京ちゃんとか連れて行けばよかったろうに」
「タカられるのが判っていてか」
知らない名前は、だが言い方で彼らの共通する女性のものと知れる。
それにしても、あまりいい判断をしているとはとてもいえないが……
「・・・・・・・・・・俺が悪かった」
「とまぁそんなわけだ」
結局ヤマトは心からの謝罪を以って頭を下げ、おぅと太一はふんぞり返って話題を締めた。
が。はやてはあきれた声を隠しようが無かった。
「ヤマト兄もよぉそれに付き合ったんねぇ」
「んー、俺は別の目的もあってさ」
「別の目的、ですか」
そして意外な言葉が、果たして無縁そうな男から発せられた。
「あぁ。知ってるかな?
翠屋って喫茶店が鳴海にあって。そこのシュークリームが美味いってオヤジがいうもんだから」
「え?」
「ん?」
果たして。
「あのっ、それ、わたしの家ですっ!」
爆発したように挙手までしてなのはが主張する。
まぁ当然だろう。鳴海からお台場まで。距離の遠さは彼女自身が実体験した。
その中で自分の家までわざわざ(ついでとはいえ)で向いてくれたのだ。
嬉しくないはずがない。
なのはの中に、あの「みせ」が自分をひとりにした、家族を奪ったという思考はない。
あれは「高町家」の象徴。
護るべき城。
「あ、そうなんだ」
果たしてそんな内情なんぞ知らないヤマトは勢いに少々気圧されながらも納得したように笑った。
勿論、彼女はそれ以上にせっこんで聞いてくる。
「で、どうでした?!」
顔が近い近い。
いくつか舌打ちが遠くで聞こえた気がするくらいに近かった。
距離をやんわり離しながら、ギブアップするように手を上げて彼は肩をすくめる。
「実は、品切れ。こいつが店はいるのに相当渋ってさ。時間が遅かったんだ」
「う」
太一が申し訳なさそうというより、罪悪感に咽喉元を詰まらせる。
「そーなんですか」
そしてあからさまにがっかりしているなのは。
自分が導いたものだとなれば、太一とて罪悪感がわかないでもない。
完全にとばっちりではあるのだが。
果たしてフェイトは首を傾げる。あまり「ほかのひと」とのコミュニケーションが少ない彼女ではあるが、なのはの手伝い(しつこいようだが「翠屋の」ではない)で喫茶店のホールをやっている彼女は、男性があんまり甘いものを頼まないのをよく知っていた。
「甘いもの好きなんですか?」
「仲間が集まるときに創る程度だよ。せっかくなら美味いものがいいだろ?」
だから勉強のつもりで、と正直あんまり普通じゃない発想にはやてはそこにはつっこまなかった。
「仲間って、向こうの?」
「てか、つくるんですか」
なのはも少し驚いている。
ケーキやおかしの担当は、翠屋でも母の仕事だったからだ。
「あぁこいつ主夫だから」
「っさいぞ太一。必要に迫られただけだ」
「知ってる。
ま、そんなわけだからさ。調理器具とかならこいつが詳しいんだけど」
「おかあさんへのプレゼント」
選択としては間違っていない提案だ。が。
「リンディさんだろ?料理するのか」
「え、っと普通の料理は普通に」
フェイトが何故か申し訳なさそうにそんな疑問を訂正してくる。
意外そうに少年たちがそれを聞く。
・・・・・・・・・・・・ある意味、酷い話であるが。
「あ、そうなんだ」
「アレのイメージがあるからなぁ」
「あれって」
「あれ、やろなぁ」
「いや、ミルク宇治金時とか思えば間違ってねぇと思うんだよ。
思うんだが、日本人の宿命だよな。どうもイメージが」
「とりあえず、あの人気が若そうって意味じゃ、VポートとかFテレビとか」
「Fならオヤジに先にいっとけばよかったな。
失敗した。いくにしろしないにしろ、連絡しておけばよかった」
「え?」
「ヤマトのオヤジさん、Fテレビ勤めなんだよ。翠屋もその絡みだろ?」
「あぁ。取材先の美味いものめぐりは道楽だな」
「へぇ。テレビの人なんですか。それならアリサのことも知ってるかな?」
話題が飛んでいく。
突然の名前に、だがヤマトはにっこりと笑って問いかけた。
「友人?」
「はい。なのはのやらかしたこと、アリサが全部対応してくれて」
・・・・・・・・・・・・・
「にゃぁあああ!!フェイトちゃぁああんん」
「え?あ、あれ?」
突然のなのはの悲鳴と、それゆえに自分の失言を把握するフェイト。
「や、らかした?」
「対応って」
思わぬシュチュエーションに太一たちも戸惑った。
というか、なんの話だか……?と首を傾げるところで、双方に詳しい彼女が不安げに結論を口にする。
「まさかやけどなのはちゃん。あの騒ぎ、バニングス家の力で隠したんかい?!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おず、となのははその問いに首を振った。横に。
少々その表現には語弊があったから。
「いや、えっといつの間にか全部手配されたマシタ、マル」
にゃははははは。
渇いた笑いが白々しく響く。
果たしてこの状態で、「どれ」のことだと見当がつかない人間がここにいるはずが無い。
ごく、と太一の咽喉が鳴り、ヤマトが引き攣った笑いを零す。
「騒ぎって…」
「あれ、なのはがやったのか?」
「にゃははは。そ、でした」
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というわけで。
問題はこの後起こす事件でなぁ(起こすなよ
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デジアド×なのはシリーズ
本編とは全く関係ないところで電波のほうが絶好調。
目が覚めたらノートに走り書きで「マッチ売りの少女の父親とお話」とかいてありました。
多分にゃのはさんです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だめかもしれない。
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