No.175991

『舞い踊る季節の中で』 第90話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 孫策の別れの言葉と、桜の花の精のような笑顔。 それが一刀の心奥に深く刻みつく。
 彼女の想いを。託された願いを胸に一刀は、彼女の居ないこの世界で力強く生きる事を決意する。
 自分は一人じゃない。 大切な人が。 大切な家族が。 この世界にあるのだからと……

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2010-10-02 19:40:50 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:16356   閲覧ユーザー数:10907

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第90話 ~ 連綿と連なる想いに舞う鎮魂歌 ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹操との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

  (今後順次公開)

        

一刀視点:

 

 

『 貴方に会えて本当に良かったわ。

  貴方に恋できたんだから、私の人生、幸福だったと自信持って言える。

  それと、こんな良い女より、二人を選んだんだから、幸せにならないと許さないわよ。

 

  さよなら一刀。 私の……… 』

 

 

 

 

「……っ!」

 

ガバッ

 

 誰かの名を叫びながら、俺は布団を翻しながら飛び起きる。

 だけど叫んだはずの言葉は声にはならず、唯空気を吐き出しただけだった。

 そして、……伸ばした手は、虚しく空気を掴むだけだった。

 

「……救え……なかった……」

 

 そう自然と声が零れ出てしまう。

 その意味を理解するも、その事を噛み締める前に俺を新たな衝撃が襲う。

 

「主様っ! 主様っ。 主様、起きたのじゃ。 やっと起きたのじゃ」

 

 金色の塊が。 いや、美羽が俺に跳び縋り、涙顔でそう何度も言いながら、俺をその小さな手で、ぎゅっと抱きしめてくる。 そんな美羽の頭を、少しで手も落ち着けるように優しく撫でながら改めて周りを見渡すと、七乃が『お寝坊さんが、やっと目を覚ましました』と珍しく何時もの笑顔ではなく、優しい微笑みを俺に向けながら状況を簡単に言ってくれた。

 どうやら、俺は大分長い間眠っていたようだ。 そして此処は多分、城の一画なのだろう。と言うか良く見たら、何時かの離れの庵じゃないか。

 

「はぁ~……」

 

 俺はその事に小さく息を吐き出しながら、彼女は救えなかったけど、二人を泣かさずに済んだようだなと想いを巡らしてゆく。 ……正直自分の力の無さに情けなくなるも、その事自体に落ち込みはしない。 俺みたいな人間は力その物を求めてはいけないと言う事が分かっているからだ。

 彼女の事は正直辛いし悲しいし、そんな言葉で言い表せない程の想いが俺の中にある。 だけど同時に彼女の想いを俺の中に確かに感じる事が出来る。 彼女の想いも、魂も…俺達の中で生きていると言う事が、はっきりと分かる。 だから彼女の事で落ち込むのは、もう止めようと心に誓う。 ……だって、彼女はそう言うのを一番嫌っていたから。

 

 そんな事を自分の中で整理しながら美羽を撫ででいると、美羽が一通り落ち着いた頃を見計らって、七乃が皆に俺が目を覚ました事を伝えるように美羽に頼み。俺と二人っきりになる。 もっとも、二人っきりになったと言っても、そう艶のある話では無い。 そもそも彼女達とは、そう言う関係ではないのだから当然だ。

 七乃の話では、曹操軍が攻めてきた日より三日が経過しており、その間俺は只管眠っていたと言う事だ。 そしてその間に事態に急変がした事もなく。 戦後の処理に皆は走り回っていたとの事だ。

 そして俺の奴隷である二人は、俺抜きにその手伝いをする訳にもいかず。 俺の世話をしていたと言う事らしいが。 七乃曰く『御主人様はただ眠っているだけですし、色々落ち着いて勉強できたので、ちょっとした休暇みたいなものですね~』と、何時もの調子でニコニコ笑みを浮かべながら言ってくれた。

 そんな七乃の心遣いが何となく嬉しくて、俺は感謝の気持ちを精一杯込めて。

 

「ありがとう。七乃」

 

 そう笑みを浮かべながら御礼を言うのだが、七乃は何故か下を俯きながら、

 

「後でお嬢様にも、きちんと言ってあげてくださいね」

 

 そうはっきりと言う傍ら『……本当御主人様のアレは反則です』と、小さな声で呟くのが聞こえる。

 

 

 

 

 相変わらず女性は時折訳の分からない行動をするなと首を傾げていると、庵の外から物凄い勢いで迫ってくる気配を感じるも、その事に身構える暇も無く。

 

「一刀さんっ!」

 

ガバッ!

ドサッ!

 

 部屋に飛び込んでくるなり、そのまま俺に飛びつく明命。

 明命に飛び掛かられるのは慣れているけど、流石に寝台の上で上半身を起こしている姿勢では、明命を受け止める事等出来るはずもなく。 俺はそのまま明命に抱きつかれる様に寝台の上に再び寝る羽目になる。

 なるのだが……。

 

「ちょっ、明命」

「一刀さん、一刀さん、一刀さんっ」

 

 明命は俺の頭を抱え込むようにしているため、その……慎ましいなりにそれなりにある明命の胸と、引き締まっているものの女の娘特有の柔らかさのお腹が、俺の顔全体に押し付けられ。 その事に俺は気恥ずかしさのあまりに明命を離そうとするのだが、明命は離してはくれず。 ただ俺の名前を呼びながら、どんなに心配したかを、嗚咽交じりに何度も俺に言ってくる。

 そんな彼女の嗚咽と顔に降りかかる涙の感触に、俺は明命を無理に離す気はなくなり。 また…泣かせちゃったな……最低だ。と心の中で自分に向かい吐き捨て。 俺は明命の髪を。背中を。申し訳なさと感謝の気持ちを込めて何度も優しく撫で続けて行く。

 どうやらこの三日間、偵察に駆け回っていたおかげで、城に戻れずに俺を心配しいたのに、今朝戻ってみたらまだ目覚めていない俺を、このまま目を覚まさないのかと本気で心配ていたらしい。 そんな事を明命は嗚咽交じりに『心配したんです』とか『一刀さんの馬鹿』とか何度も繰り返していた。

 そして明命が落ち着く頃を見計らって、『ごめん』と一言、明命に謝ると、明命は思い出したかのように、俺の頭をそのまま、"ぎゅ~~っ"と身体全体を使って締め付けてきたため、

 

「ごめんっ! 反省してるからっ! 痛いっ! マジ苦しいからっ! イ゛ィーーーッ!!」

 

 明命からしたら、相当手加減されている締め付けは、それでも俺の頭全体を、まるで孫悟空の緊箍児のように俺の頭蓋骨を締め付けた。 最期に一際強い締め付けに俺が声を上げるしかなくなると、やっとその戒めから解放される。

 しかし女の娘特有の柔らかい体も、ああなると立派な凶器だなぁと思っていると、いつの間にか来たのか、翡翠が優しい微笑みを湛えながら、でもその瞳を潤ませて俺を見詰めていた。 そんな翡翠に明命は場所を開けてくれたのか、俺の前から退くと翡翠は俺の頭を優しく包み込むように俺を抱きしめてくる。

 

「おはようございます。 一刀君。 心配しましたよ」

 

 そう優しい言葉を発しながら、俺の頭を翡翠の…まぁなんだ、とにかくそれでも愛しいと思える胸に押し付けるように。 俺の後ろ髪を優しく撫でながら、俺の感触を確かめるように、ゆっくりと。優しく。そして力強く抱きしめる。

 俺は翡翠のパット越しに伝わってくる胸の感触に気恥ずかしい想いと、息苦しさで一杯になるが、翡翠のされるが儘にしていた。

 

 俺の髪に降り注ぐ温かな感触が。 顔に伝ってくる水滴が。 何より俺の心を締め付ける。 二人への罪悪感が俺の胸を締め付ける。

 二人に二度と会えなくなるかもしれなかった。 と言う恐怖が俺の背筋を凍らせ震え上げさせる。

 だけど、翡翠の温かな感触が。 翡翠の俺を安心させる鼓動の音が。 どこかで、他人事のように思えていた現実を俺に受け入れさせた。

 家族の心が、凍りつかせた俺の心を溶かし始めた。

 

 

 

 

 怒りの感情に流され、多くの敵兵を殺めた事っ。

 

 あの感覚を思い出し、寒気どころか身体が強張るっ。

 

 人の殺した感触が体中に蘇って来る。

 

 今までで、一番最低な感触っ。

 

 そして本当に最低で反吐が出るのが。

 

 そんな風に、仲間に人を殺させた事っ。

 

 多くの仲間を殺した事だっ!

 

 

 

 それでも、せめてもの救いが。 街を、皆を守れた事。

 

 多くの仲間を失ったけど、それ以上に多くのモノを守る事が出来た事。

 

 そして、こうして二人の所に無事に帰って来れた事だ。

 

 ……ただ、……考えても仕方ないとは分かっている。

 

 ……それでもぽっかりと空いた心の部分が。

 

 彼女がいた部分が。

 

 彼女を救えなかったのだと。

 

 手を掴んでいながら、救えなかったのだと。

 

 

 

 そんな多くの想いと感情が、一気に俺を襲った。

 

 駄目だ、耐えるんだ。

 

 明命が、そして、美羽と七乃もこの部屋に居るんだ。

 

 こんな姿見せられない。 こんな弱い俺を見せられない。

 

 そう思っても、翡翠の優しい手が。

 

 翡翠の体温の温もりが。

 

 翡翠の胸の鼓動が。

 

 俺のそんな男の意地を。

 

 簡単に、溶かしてしまう。

 

 そうなれば、後其処に残るのは。

 

 ただ自分の罪に怯え。 暗闇に恐怖し。

 

 ただ、好きな娘の温もりで安心して泣き喚く。

 

 どうしようもないクソガキがいるだけだった。

 

 

 

 

 ……泣き喚き疲れのか、いつの間にか眠ってしまっていた俺は、目を覚ますと翡翠の膝枕で眠っていた。

 そしてそんな様子を、どこか面白くなさそうな顔で明命が見ているのに気が付き、俺は慌てて翡翠の柔らかな太ももから頭を起こす。 そんな俺に。

 

「ふふっ、今更そんな照れなくても良いですのに」

 

 と翡翠が悪戯っぽい、けど優しい笑みを浮かべながら俺をからかってくる。 確かに今更かもしれないけど。俺にだって一応男の見栄というものがある。 それにこういう皆の眼のある所で平気でそういう事をする度胸はない。いったい何処のバカップルだよ。

 心の中で照れ隠しに悪態をつきながら周りを見渡し直すと、部屋の明るさと影の大きさからして、寝ていたのはほんの少しの時間らしい。 まぁ、三日間も寝ていたんだから、そうそう寝れるもんじゃないよな。

 とりあえず。その間に美羽と七乃が用意してくれた桶一杯のお湯で、俺は汗臭い体を拭き、着替える事にした。 三日間も寝ていたおかげで多少身体がフラついたが、一度深く呼吸してやる事で、俺の体の隅々まで意識を通し直す事ができ簡単に戻った。

 ちなみに体を拭き着替えている間、皆には庵の外に出て行ってもらっている。 明命など『お手伝いします』とか言ってくれたが、流石にそう言う関係であっても、恥ずかしいものは恥ずかしいので、丁重に断りをいれた。

 その事を七乃が何か面白げに笑みを浮かべ、美羽が『何でじゃ?』と不思議そうな顔をして俺に請われるまま出て行ったけど、精神衛生上深くは考えない事にした。 ……うん、見られてない……よな?

 

「お待たせ」

 

 そう短い返事で庵の外に出た俺を、皆に俺が起きた報告と、心配を掛けさせた謝罪をするためと言ってつれて行かれた先で待っていたのは。

 

 

 

 

「やっほーっ、 やっと起きたわね一刀。 三日も眠りこけているんだから心配したわよ」

「………」

「どうしたのよ。 "ぼぉ~"として? まだ本調子じゃないの?

 なんなら一発蹴飛ばして、気合い入れてあげるわよ」

 

 そう、春の日差しが良く当たる部屋の一角で、日向ぼっこを楽しむかのように寝椅子に座った彼女が。

 何時もの能天気な笑顔を振り撒きながら、俺を出迎えてくれた。

 あまりの出来事に、俺は声も出なかったが、あまりにも彼女らしい言葉に。

 

「……そ・孫策ーーーーーーーーっ!」

「う゛っ、 何よ突然大声出して、頭に響くんだから少し控えてよね」

 

 そこまで大声出した覚えはないが、俺の叫び声に孫策は小さな呻き声を上げながら頭を押さえる。

 その事に条件反射的に、『すまん』と謝ってしまうが、そんな場合じゃない。

 俺はつかつかと彼女に歩み寄り。 彼女の身体を確認するようにペタペタと腕を叩いてみる。

 彼女の足が在るかを確認してみる。 彼女の手を握ってみる。 そして何故か顔を赤くしている顔を。

 

むにーーっ

 

 と頬を引っ張ってみる。 うん本物だ。

 

ドゴッ

「うごっ!」

 

 其処へ安心しきって、と言いうか事態について行けずにいた俺を、孫策の拳が俺の顎を突き上げた。

 くぅ、今のは油断していたとは言え、この問答無用さは確かに孫策だ。 と、我ながら無茶苦茶な論法で納得するも、顎を揺らされ、ふらついてしまう俺に孫策は。

 

「いきなり何をするのよっ! 大体、普通其処で人の頬を引っ張らないわよ。

 こういう時、それに相応しい事ってあるんじゃないのっ!? あぁ、やっぱり一刀は何処まで行っても一刀よねっ。 痛感したわっ」

 

 と、いきなり俺を罵倒して来る。

 まぁ確かに考えたら、俺らしくない行動だったとは思う。 だけど其れも仕方ないだろう。

 だってあの時、お前は……。

 

「最期にあんな所で、あんな言葉言われたんだっ、 疑いたくもなるに決まってるだろう!」

「ん? よく分かんないんだけど?」

「……へ? だから、あの真っ白な世界で」

「はぁ? 一刀もしかしてまだ寝ぼけてるの?」

 

 俺の言葉に孫策は、眉を顰めながら心底何言ってんのよ一刀、と言った顔をする。

 そんな孫策の態度に、俺は彼女が覚えていないのか、それとも彼女の言う通り唯の夢だったのか……。

 だけど、そんな事はどうでも良い。 大事なのは。 大切なのは。

 

ガバッ

 

「ちょ・ちょっと一刀っ」

「黙ってろ」

 

 突然抱きついた俺に、孫策は慌てるが、俺はそれを無視して彼女を抱きしめる。

 彼女が生きている事を確認するように強く抱きしめながら、彼女が生きていてくれた事に感謝する。

 先程、あれだけ泣き喚いたと言うのに、涙はあれくらいでは枯れないのか、自然と涙が零れてしまう。

 だけど構わない。 こんな嬉し涙なら、幾ら他人に見られても構わない。

 最初、彼女にしては力なく暴れていたけど、今は唯されるが儘にされてくれている。

 そうして彼女が生きていた事を長い時間かけて確かめていたら。

 

「北郷、雪蓮は病み上がりだ。 それくらいにして貰えると助かる」

 

 と言う冥琳の声で、我に返り慌てて孫策を離し、彼女を寝椅子に寝かせて布を掛けてあげる。

 孫策の事で気を取られた事もあり、気が付かなかったが部屋には主だった皆が来ていてくれた。

 そして、そんな皆を見渡す中、何故か明命と翡翠が、顔を引き攣らせながら例の黒い靄を身体から揺蕩わせながら俺を睨みつけているのに気が付き。 俺の本能は悲鳴を上げるが、まるで蛇に睨まれた蛙のように動く事は出来なかった。 二人は何も言葉にしない。 しないが目が確かに言っている。

 

『 一刀さん(君)、後でO・HA・NA・SHI・があります 』

 

 と、………えーと、俺孫策との再会を喜んだだけだよね?(汗

 

 

 

 

 取り敢えず冥琳の執成しもあって、二人が元に戻ってくれると、俺は安堵の息を吐く事で冷静さが戻って来た。 今思えば恥ずかしい事したと思っている。 孫策も恥ずかしさで顔を赤くして居るものの、俺の行動を怒っていないのは幸いだったと言える。 ……まぁ単に呆れられているだけだと思うけど。

 でも、生きているなら生きていると前もって教えて欲しかったと呟くと。

 

「あら翡翠から聞いていないの?」

「私は明命ちゃんが言ったとばかり」

「えっ・あのあのっ、私はその、それどころじゃなくて、その…あっそうだ七乃から聞いているとばかり」

 

 と責任追及のたらい回しの様な事が目の前で起こり、最後に行きついた七乃に皆の視線が集まる。

 まぁ確か七乃となら、それだけの時間も機会もあったはずだ。 と俺も彼女をどういうつもりかと視線を送ってみるが。 七乃は何時もの笑顔で、まったく悪ぶれもせず。

 

「御主人様には言いましたよね。 休暇みたいなものだったと。 でも一言も心配していなかったとは言っていませんよ。 私とお嬢様にあれだけ心配かけさせたのですから、これくらいはさせて貰っても罰は当たりません。 そもそも皆さんに心配を掛けさせた御主人様が全部悪いんですよ。 その辺り、しっかり自覚してくださいね」

 

 と、最期にしっかりと自分ではなく、全ての原因は俺にあると、皆の矛先を綺麗に俺に向けてくる。 さすが元大将軍の肩書きは伊達じゃない。 幼い袁術の代わりに一人で広大な土地を治めていただけの事はあって、その手際の鮮やかさは見事なものだ。 って、妙な感心している場合じゃないっ。 このままでは全ての元凶は俺になってしまう。 ……しまうんだけど、まぁ俺の馬鹿な行動で色々心配掛けたのは事実だけに、皆の無言の圧力に負け。

 

「すみません。 全部俺の早とちりが原因です」

 

 と素直に皆に心配掛けた事も含め謝罪する。 ……あぁ俺って立場弱いなぁ……。

 一応世間では『天の御遣い』で『王と同等』と言われているんだけどね。 ……まぁ現実なんてこんなもんさ。 トホホッ……。

 我ながら情けない現実に溜息を吐きつつも、そんな現実を快く受け入れる。 だって、皆が笑顔で居られるならそれで構わない。 ……まぁ一人だけ我関せずと言った顔で、蓮華の傍に突っ立っているけど。 それでも安堵した眼差しを向けて来てくれた事を俺は見逃さなかった。……その後睨まれたけどね。

 でもまぁ、それはともかくとして、

 

「本当に良かった。 孫策が助かってくれて」

 

 改めて、孫策にそう笑みを向けて言うのだが、何故か孫策は嫌そうな顔をする。 ……えーと何で?

 俺はまた何か怒らせるような事をしたのかと心配して声を掛けたり。 孫策の名を何度も呼んで、いい加減返事ぐらいしてくれと懇願するが、彼女はますます不機嫌になるばかりで、俺を無視したまま睨み付ける。

 ……なんか、この感じ何処かで経験したような気がするんだけど……何だったかな?

 そんな既視感を感じながらも、とにかく孫策が不機嫌になった理由を本気で考えていると、冥琳が何故か盛大に溜息を吐いて。

 

「北郷。 雪蓮は、お前が真名を呼ばないから機嫌を損ねているだけだ」

「そんな子供みたいな理由で?」

 

 この俺の迂闊な一言がいけなかった。

 真名はこの世界で魂とさえ言える神聖なもの。 俺のさっきの言葉はそれを軽視する発言。 ……まぁその辺りは皆俺の事情を知っているので、それなりに分かってくれて居ると思うけど。 それでも、この事が俺の立場を決定づける事になった。 すなわち、全員が孫策の味方に回った事を意味した。

 その事を自前の勘での良さで素早く察した孫策は、小悪魔の笑みを浮かべ。

 

「か~ず~と~。 もちろん呼んでくれるわよね~♪

 約束してくれたわよね。 生き抜いたら呼んでくれるって♪」

 

 俺が困る姿が嬉しいのか、それとも真名を呼ばせられるのが嬉しいのか、本当に楽しげに言ってくる。

 周りを見渡せば、いつの間にか皆が俺を包囲するように囲み、視線で俺に孫策の真名を呼ぶように促してくる。 察するに、冥琳が何時ぞやの城中巻き込んでの追いかけっこから学んだ教訓を活かし、事前に俺の行動パターンを察して先手を打ったようだ。 さすが天下に謳われし美周郎。 素晴らしい先読みと展開だ。 と、取り敢えず現実逃避してみたものの、それで立場が好転するわけじゃない。

 

 

 

 

 確かに、約束した以上呼ぶべきだと言う事は分かっているし、あの時は俺もそのつもりでいた。

 だけど、あんな別れ方をしたと言うのに、目が覚めてみれば能天気に俺を笑顔で迎え。 驚く俺にアッパーを喰らわせられて、普通素直に呼べるか? だいたい詐欺だっ! 詐称だっ! イカサマだっ! よし、取り合え得ず言い切った。 と、我ながら意味のない悪態を心の中で吐いた事で、心を落ち着かせる。

 

 まぁ、あの真っ白な世界での出来事自体が俺の夢かもしれないので、それは置いておくとしよう。

 笑顔で俺を迎えてくれたのだから、たしかに文句を言うのは筋違いだな。

 顎に一撃喰らった事も、まあ俺が悪いと認める。

 そもそも、俺の早とちりが生んだ事なんだから、反省すべきだと思う。

 ………うん、どう見ても俺が一方的に悪いよな。

 

 まぁ良い、これは百歩譲って、俺がもう一度謝罪しても良い。

 だけど、……だけど、

 

「ほれっ、ほれっ♪ 早く呼びなさい」

 

 こう、楽しげに言う孫策の見ると、抵抗がある。

 はっきり言って意味のない抵抗。 ……言わば男の意地とジャンル分けされるものだ。

 

つんつん♪

 

 挙句の果てに、寝椅子に寝転がりながら俺の頬を突いてくる。

 ………孫策。 ……絶対この状況を楽しんで居るだろっ。

 俺は孫策の攻撃から逃れるように、後ろを見ると。

 

「う゛っ」

 

 其処には皆の無言の圧力が……。

 何より堪えたのが、明命の『一刀さん、呼ばれないんですか?』と言う悲しげな表情と、翡翠の『一刀君、約束を破るんですか? なら後でお仕置きを追加しますよ』と訴える冷たい目だった。 ……それにしても、俺の推測の筈なのに、まるで直接言われたように感じるのは、俺の気のせいなのか?

 なんにしろ、それが止めだった。 二人に嫌われてしまうかも。 そう思ってしまったら、俺はあっさりと自ら男の意地を圧し折り。

 

「し・」

「し?」

 

 いかん。 改めて言おうとすると妙な緊張がある。

 俺は一度深く息を吸ってから、気を落ち着け、俺の素直な気持ちを彼女に告げる。

 

「雪蓮。 君が助かってくれて、本当に良かった」

「ええ。 私もそう思うわ」

 

 そう雪蓮は俺に特上の。 桜の花のような温かな、そして優しげな笑みを浮かべてくれた。

 その笑顔に俺は。 うん、此れで良かったんだよな。 と素直に思えるのだった。

 

 

 

 

「でもこうして助かったから良いけど。 一刀。

 華佗が言うには、相当な無茶したって言うじゃない」

「いや・その、あの時は夢中だったと言うか、その……」

「まぁ良いわ。 その事は後で二人にこってり絞られなさい」

「う゛っ」

 

 雪蓮の言葉に俺は呻くしかなかった。 ……やっぱりお説教待っているんだろうなぁ。

 自業自得とは言え、やはりその事を考えると気が重くなる。 ……重くなるが……二人の気持ちを考えたら、受けない訳には行けないなと、溜息を吐きながら覚悟を決める。

 結局あの後、皆は冥琳を残して仕事に戻って行った。 美羽と七乃も、俺専属の侍女とは言え、それなりにやるべき仕事はあるし『民の笑顔のため』にやる事や覚えるべき事は山ほどあるのだから、そうのんびりはしていられない。

 俺は、今日一日休めと言う冥琳の指示で、こうしてのんびりしていられる訳だが。

 ……まぁ、冥琳なりの心遣いだと思っている。

 

「で、結局あの後どうなったんだ?」

「北郷が、雪蓮の服を引き裂いた後か?」

「…いや、そう言う言い方されると、まるで俺が変質者みたい……説明無しじゃ、何言っても言い訳だよな」

 

 冥琳の言葉に、我ながら大胆な事をしたもんだと、自己嫌悪に陥っていると、冗談だ、と言ってくれる。

 結局、俺のやろうとした事は上手く行っていたようで、雪蓮と俺が力尽きる前に華佗が治療を終える事が出来たらしい。 ただ問題なのが、殆ど暴走していた俺を、華佗がどういう手段を使ったか知らないけど止めたものの。 何でも雪蓮と"氣"が混ざり合い過ぎていて、やばかったらしい。

 そこへ何故か雪蓮の身体に残っていた俺の"氣"が逆流して、事なきを得たものの、俺は三日間眠りこけ、雪蓮も何故か一時的に危うい状態になったらしいが、これもまた何故か持ち直したとの事。 ……まぁこの辺りの下りがあの夢の原因だったのかもしれないな、と自分を納得させる。

 後で詳しい話を華佗に聞いておこうと思っていると。

 

「私も一刀に裸にされて抱きしめられたって言われたけど、はっきり言って覚えていないのよね」

「う゛………すまん」

「良いわよ。 こうして助かったんだし。 責任取れなんて言いやしないわ」

「……重ね重ね、すみません」

 

 雪蓮が、少し意地の悪い貌をしながら、俺をチクチク苛めてくる。

 その後、雪蓮は病み上がりだと言うのに、酒が飲みたいだの馬鹿な事を言いだすので、冥琳と二人掛かりで黙らせ、俺はあまり病人の部屋に長居する訳にもいかない。と部屋を後にする。

 

 

 

 

 結局あの後する事もない俺は、ぶらぶらと散策した。

 まだ血や肉片の残るあの戦場を。

 離れた場所に出来た、まだ真新しい幾つもの小さな丘を。

 その前で、一つ一つ黙祷を捧げる。

 

 最後に、荒野の真ん中で俺は扇子を広げ鎮魂の舞を舞う。

 自己満足だと、欺瞞だと言う事は分かっている。

 でも舞わずには居られなかった。

 散って逝った仲間達のために。

 自分の主を守るため、散って逝った敵将兵達のために。

 例え憎むべき敵だろうと、死んでしまえば何の関係もない。

 赤子も。 男も。 女も。 老人も。 王も。 罪人も。

 死ねば等しく土に還るだけ。

 なら、その罪も等しく赦されるべきだ。

 

 だから俺は舞う。

 今度、人に生まれ変わる事があれば。

 その時こそ、平和な時代である事を祈って。

 彼等の死が、そのための力になる事を願って。

 彼等の想いと無念を、この背に背負う事を誓って。

 彼等の魂が少しでも安らげるように、舞いを舞う。

 

 

 

 

 そうして夕方まで、俺は自分の起こした事の一部を、この目に、そして心に刻みつけて回った。

 そしてその晩。 俺は昼間の件で、二人のお説教を受ける事はなかった。

 それどころか、黙って俺の部屋に来てくれた。二人はきっと、俺の状態を分かっていたのだろうな。

 あれだけ散々醜態を見せて来たんだ。分かって同然かもしれない。

 それに鎮魂の舞を舞ったのも、きっと二人の耳に入っている筈。

 俺が二人に心配をかけまいと明るく振る舞ったにも拘らず。

 そんな事は見通しだとばかりに、俺を優しく抱きしめてくれる。

 優しく、愛しげに、そして包み込む様に、……俺の心を包み込んでくれる。

 そして、二人の想いに応えるように。

 二人の想いに甘えるように。

 二人の優しさに逃げ込むように。

 俺は二人を抱いた。

 

 何度も、……何度も。

 力尽きても…抱き続けた。

 二人の優しさを良い事に二人を抱き続けた。

 まるで二人の魂そのものに、俺の魂を触れさせたいかのように。

 俺は二人の心と身体を求め続けた。

 

 ……そんな獣の様な、最低な行為だったと言うのに。

 翌朝、二人は俺に優しげな笑顔を向けてくれた。

 自己嫌悪に陥りつつも、そんな二人の眩しい笑顔に救われたような気がしたのだから、俺って結構単純なのかもしれないな……。

 

 ただ、二人に申し訳ないと思う。

 二人の優しさに甘えた事じゃない。 それはそれで申し訳ないと思っている。

 俺は今一番、二人に申し訳ないと思っているのは、あの言葉が頭の片隅に残ったまま二人を抱いた事。

 夢だと認めていても、心の奥に残ったあの言葉……。

 

 

『 こんな良い女より、二人を選んだんだから、幸せにならないと許さないわよ 』

 

 

 

冥琳視点:

 

 

『 華佗の許可が出るまで、絶対飲むなよっ 』

 

 そう言い残して部屋を出る北郷を目で見送ってから、私は目を瞑り深く息を吐きだす。

 そして気持ちが入れ替わるのを確認してから、改めて雪蓮に向かい。

 

「……大丈夫か?」

「ん……大丈夫よ。 少し疲れただけ」

 

 そう言う雪蓮は、先程とはうって変わって疲労の色を濃くし、疲れ切った顔で横たわっていた。

 無理もない。 北郷と華佗のおかげで、何とか命が助かったと言っても、毒で弱った体そのものが助かった訳では無い。

 華佗の話では、それ以外にも五斗米道の技を使い過ぎた事による体の衰弱は免れないとの事。 その上、北郷が雪蓮に送り込んだ"氣"は、北郷の持つ本来の"氣"ではなく。 自然の"氣"そのもので、その"意思"が強すぎて人には毒でしかないとの事だ。

 北郷はそれを己の身体を通して人の"氣"に替えてはいたが、その影響を完全に打ち消せてはおらず、身体を更に衰弱させると言う形で影響を残したらしい。 もっとも、その力のおかげで、一時的に雪蓮の身体が活性化したおかげで治療が間に合ったと言うのだから、何とも皮肉な話だ。

 華佗曰く、元々自然の"氣"などと言う物は、人の手で扱えるようなものではないらしい。 動物とか生き物同士ならばともかく、自然とは空気や水や岩などの無機物、そして花や樹などの植物も含まる。 そんなものの"氣"を捉え、僅かとは言え扱う北郷を、華佗は一種の化物だと称していたが、我等からしたら奇跡のような技を使う華佗も十分に化け物と言える。

 雪蓮を含めれば、化物が三つか……何時かの張角達の似顔絵だな……

 

「……何か失礼な事考えてない?」

「ふっ、……北郷のおかげで助かったと言うのに、そのおかげで此処まで衰弱したと言うのだから、何とも皮肉な話だなと思っただけさ」

「これは毒の影響よ。……間違ってもそんな事、一刀の耳に入れちゃ駄目よ」

 

 私の言葉に、目も開けていられない程疲労していると言うのに、雪蓮は疲労など微塵も見せずに、私を睨み付け覇気をぶつけてくる。 ……変わったな雪蓮。 ……王として、なにより人として強くなった。

 

「奴の事だ近いうちに気が付くさ。 それにお前の芝居も既に見破られている。

 お前が酒を飲みたいと言った時、言っていたろ『そんな弱りきった体で、馬鹿な事を言うな』とな」

「……本当、気が付いて欲しくない事は……しっかりと気が付くのよね……」

 

 全くだ。 だと言うのに救いようがない程の朴念仁と来ている。 ……だがまぁ、そのおかげで助かっている所もあるのだから、悪い事ばかりでは無い。

 それに、それを含めて北郷なのだろうと、今は自然と思える。

 

「寝るのか?」

「……えぇ」

「そうか。 ……今はゆっくり休むのがお前の一番の仕事だ」

 

 そう言い残して、私は部屋を後にしようと思った時、雪蓮が何かを言い始めた。

 

「……思い出したんだけど、あの時ね。 母さんの夢を見たの」

「……文台様の…か」

「……何言っているかよく分からなかったけど、……小さな子供の私を、怒鳴り散らしたわ」

「……あぁ、良く怒られたな」

 

 流石に怒られた原因の殆どは雪蓮に在って、私は巻き込まれただけとは言わなかった。

 言えば雪蓮の事だ。 子供のようにムキになって否定するに違いない。

 そんな事で、これ以上疲れさせるわけには行かない。

 

「……でね。 最後だけ聞こえたんだけど。 こう言うのよ『それでも孫呉の女かっ!』ってね。

 そして、人を蹴り上げたと思ったら。 手にした棍で……人を思いっきり吹っ飛ばすの。 酷いわよね…」

「ふふっ、文台様らしい」

「……笑い事じゃないわよ……本気で痛かったんだから。

 ……ただね。 …そのおかげで戻ってこれた気がする……なんとなく、そんな気がするだけなんだけどね」

「そうかもしれんな。 文台様に感謝せねばな」

「……そうね。 でも結局、母さんが何を言いたかったのか、分からなかったのが残念ね」

「夢とはそう言う物だ」

 

 それで本当に寝たのだろう。 そんな雪蓮を愛しげに一瞬見た後、私は今度こそ静かに部屋を後にする。

 雪蓮が何とか命を取り留めたと言っても、毒に倒れた事実になんの違いはない。

 豪族や諸国の監視と牽制。

 拠点の変更。

 街の住人達への説明と説得。

 奪われた土地に向けての新たな監視網。

 情報の改竄と焼却。

 なにより、魏への監視と報復の準備。 と、やるべき事は幾らでもある。

 北郷は今日は大事を取って休んでもらったが、明日から此方の方を手伝ってもらわねば、とても手が回らん。

 奴に余計な事を考えさせないためとは言え、雪蓮の命の恩人を扱き使わねばならんとは、つくづく優秀な人材が足りぬ事が惜しい。 せめて北郷の心が少しでも楽になるような仕事を積極的に回して行くしかないな……。

 それに、奴には幸いな事に優秀な助手が付いて居るから、この際倍近くの仕事を回しても構うまい。

 ウチの長老達との約束通り、我等は袁術達に政に関与させていない。 させているのはあくまで『天の御遣い』である北郷だ。 幾ら長老達でも孫呉の救世主で、王の命を救った相手に文句は言えまい。 そもそも、そんな恩知らずで、恥さらしな真似等が出来る連中では無い。 それに間違ってそうしたとしても、我等に長老達に裏の世界からも引退してもらう口実を与えるだけと言うもの。 どちらにしろ我等に損は無い。

 さて、まずは出来る事から指示を飛ばして行くか。

 

「だれかあるっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第90話 ~ 連綿と連なる想いに舞う鎮魂歌 ~ を此処にお送りしました。

 

 今回の話で一応曹操との防衛戦のお話は一区切り付きましたって、イタッ、痛いっ、物を投げないでください。

 前話であんな終わり方をしておいて、実は雪蓮が生きていたなんて、安易なオチにお怒りはもっともかもしれませんが、どうか物を投げるのは止めてください。 癖になりますから(嘘ですよw

 まぁ冗談は半分くらいにしておいて、原作において呉√最大のイベントで在った魏との防衛戦を、この外史なりに描いてみましたが如何でしたでしょうか? 一応、雪蓮はこれを機に蓮華に王位を譲る流れとなって行きますが、次回は少し休憩してから、魏からの使者の話を描くつもりです。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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