それは、暗い・・・一切の光も存在しない、真っ暗な闇の中
俺はその闇の中、ただただ沈んでいく
『一刀・・・』
ふいに・・・俺の頭の中、響いたのは『声』
『一刀』
誰かが、俺を呼んでいる
聞いたことがあるその声に・・・俺の胸が痛んだ
俺は、この声を知っている
『一刀』
『北郷』
「あ・・・あぁ」
ああ、そうだ
これは、この声は・・・
ーーーー†ーーーー
「一刀っ!」
「うわぁっ!?」
突然、耳元で響いた声
俺は驚きのあまり、その場に尻餅をついてしまう
そんな俺を見下ろすのは、一人の少女
褐色した健康的な肌に、桃色の髪をした少女
現在の呉の国王・・・蓮華だった
「もう、いったいどうしたの?
さっきから、何度も呼んでいるのに・・・」
「ごめんごめん・・・なんか、ボ~っとしてた」
言いながら、差し出された手をとり立ち上がる
彼女は『しっかりしてよね』と、優しげに微笑んだ
「今日は、久し振りに姉様たちのところへ行くんだから」
「っ、ああ・・・そうだな」
ズキンと・・・胸が痛む
微かな、だけど深い痛み
俺は彼女にはばれないよう、自身の胸を掴んだ
そして見上げた空
空は・・・少しずつ、朱に染まっていく
「あれからもう、三ヶ月も経つんだな」
そして思い出すのは、今から三ヶ月前
まだ、この大陸が『乱世』だったころ
あの赤壁での戦いに勝利した後、天下は蜀と呉によって二分される形となった
それにより、事実上乱世は終わったこととなった
『天下二分』
俺達が夢見たものが、実現されたのだ
それから三ヶ月・・・最近ではようやく国内も落ち着いたこともあり、今日は久し振りに『あの場所』へと行くことにしたのだ
・・・え?
二人だけで大丈夫かって?
大丈夫だって、こうやって蓮華のお尻に手を近づけてみればホラ・・・
チリーン♪
聞こえただろ・・・あれ、すごい殺気なんだぜ?
うん、冷や汗が止まんないもん
もうあれだ、完全にトラウマになってるねコレ
まぁそんなこんなで、今は二人(?)であの場所へと向かっている途中なわけなんだけど
「ん・・・」
「一刀、どうかしたの?」
「あ、いや何でもないよ」
「そう、ならばいいのだけれど」
そう言って、彼女は前を向き歩いていく
その後ろ、俺はゆっくりと続いた
「まいったな・・・」
俺は蓮華には聞こえないよう、小さく呟く
本当にまいった
胸元にそえた手を見つめ、苦笑する
確かに・・・乱世は終わった
俺達の望む平和だって、もう目の前まで来ているのかもしれない
だけど・・・さ
「胸が・・・痛い」
俺の心は・・・これっぽっちも、満たされてはいなかったんだ
ーーーー†ーーーー
「姉様、冥琳・・・お久し振りです」
そう言いながら、彼女は目の前に並ぶように立つ『石』を撫でる
雪蓮と、冥琳の墓標
その光景に、俺はまた胸が痛んだ
改めて、思い知らされる
二人は・・・もういないのだと
それが、たまらなく辛かったから・・・
「国内もようやく落ち着き、姉様達が夢見た国の姿に近づきつつあります」
そんな俺の様子に気づくことなく、蓮華は墓標に話しかける
愛しそうに、少しだけ・・・嬉しそうに
ああそうだ、確かに彼女の言うとおりなんだ
乱世は終わった
皆が夢見た国の姿は、もうすぐ実現されるだろう
皆が思い描いた未来は、もうすぐそこまで来てるのだろう
けど・・・
そこには・・・【彼女達】がいない
「雪蓮・・・冥琳・・・」
思い浮かべた、二人の姿
二人の笑顔
大切な存在
それがもう・・・この世界には存在しない
そんなの、俺は・・・
『一刀』
ドクン・・・!!
「ぇ・・・?」
ふいに・・・ぐらりと視界が揺れた
「な・・・んだ」
体から、力が抜けていく
意識が・・・飛びそうになった
「一刀っ!?」
蓮華の慌てたような声が聴こえる
だけど・・・その声に応えられる余裕はなかった
もう立っているのさえキツイかったんだ
これは・・・いったい?
「なん・・・だよ、くそ・・・」
意識が薄れていく
目の前が、真っ暗になっていく
同時に・・・独特の浮遊感を感じた
『一刀』
『北郷』
そんな中聴こえたのは、聞き覚えのある・・・優しげな声
今一番、俺が聴きたかった声
閉ざされていく視界
最後の力を振り絞って伸ばした手
その手が、夕焼け空の光を浴び・・・紅く染まっていた
「雪蓮・・・冥琳・・・・・」
零れ落ちたのは・・・愛しい人の名前
その声を最後に、俺は意識を・・・闇の中に捨て去ったのだった
ーーーー†ーーーー
夢
ああ、なんだ・・・また、この夢か
『一刀・・・貴方、何してるの?』
ある日、城壁の上
俺の隣にいた蓮華が、不思議そうな顔で俺を見つめながらそう言った
俺はその言葉に苦笑し、空を見上げる
紅く染まった、暮れていく空を
それから蓮華を見つめ微笑む
『何って、こうやってただ・・・手を伸ばしてただけだよ』
『・・・どうかしたの?』
『どうかしたのって・・・』
そう聞かれ、俺は視線を再び空へとうつした
『届かないかなって・・・そう思ってさ』
『ふふ、一刀ったら
届くわけないじゃない』
『だよね』
そう言って、お互いに顔を見合わせ笑う
そうだ・・・彼女の言うとおり
届くわけなんてないんだ
こんなちっぽけな俺達じゃ、この空に届く事なんて・・・一生ないのだろう
だけど・・・それでも俺は、手を伸ばすんだ
この暮れゆく空の向こう、叶えたい想いがあるから
もう一度・・・会いたい人がいるから
『雪蓮・・・冥琳・・・』
ーーーー†ーーーー
「ん・・・」
夢を・・・見ていたようだ
三ヶ月前から、毎日のように見るようになった夢を
「は・・・情けないな、ホント」
そう吐き捨てるよう呟き、俺はその目を開いた
同時に視界に入ってきたのは、強烈な光
目を細めたまま、ゆっくりと体を起こす
「なっ・・・!?」
瞬間・・・俺は驚愕する
無理もない
だって、ここは・・・この見覚えのある場所は
「俺の部屋・・・?」
俺の部屋
城の中の・・・じゃない
ここは、つい最近まで俺にとっての日常だった場所
『聖フランチェスカ』の寮にある、俺の部屋だったんだから
「嘘だろ・・・!?」
意識が、一気に覚醒する
それにあわせ、俺は思い出していく
確か俺は・・・蓮華と一緒に、雪蓮と冥琳の墓参りに行っていたはずだ
「ぁ・・・!」
そうだ
その時、急に意識が遠のいていって・・・気づいたら、ここにいた?
この見覚えのある部屋に?
「あ、あぁ・・・」
そこから導き出される答えは一つ
俺は・・・
「帰ってきたのか?」
なんてことだ
俺は・・・帰ってきてしまった
「なんだよ・・・なんでだよ・・・ちくしょう!」
涙が流れる
俺は・・・結局、全部失ってしまったのか?
大切な人も・・・大切な約束も、全部失った
「ちくしょう・・・なんで・・」
バフンと、再びベッドに体を倒す
直後・・・
「ん・・・」
「っ!」
聴こえた・・・小さな声
俺は慌てて、ベッドから体を起こす
「・・・っ!!」
そして・・・言葉を失ってしまう
目頭が・・・熱くなった
そこに眠る『彼女』の姿を見て
それが『誰』かということに気づいて・・・
『日常』から、ある日いきなり『非日常』へ
そんな『非日常』も、もうすっかりと『日常』へと変わりつつあった
そんなとき、俺はまた飛ばされてしまったのだ
『日常』でも『非日常』でもない
『日常』と『非日常』が混ざり合う、不思議な世界へと・・・
「しぇ、雪蓮・・・?」
「むにゃ・・・一刀ぉ~・・・」
暮れゆく空、見上げながら願った・・・叶わぬ想い
それが今、俺の目の前で幸せそうに眠っているのだ
いくら手を伸ばしても届かなかった存在が今、目の前にいるのだ
「雪蓮っ!」
「ん・・・かず、と?」
願いが、叶ったんだと
その時の俺は、馬鹿みたいにそう思っていたんだ
愚かにも・・・そう、思ってしまった
それが間違いだったと、気づくことなく・・・
~これは・・・暮れゆく空へと想い続けた、彼と彼女達の物語~
《暮れゆく空に、手を伸ばして-呉伝-》
開†幕
★あとがき★
初めての方は始めまして、御存知の方はぶるああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!
作者の月千一夜ですw
心機一転、てやつでしょうか?
まぁとにかく、これから本格的にこの新しい作品
《暮れゆく空に、手を伸ばして-呉伝-》
スタートしますww
これは少し修正が入った、所謂『正式連載版』です
古いほうは、近いうちに削除しますww
呉伝とは名ばかりの《雪蓮・冥琳√》ですがねw
今作でもまた、戦闘描写はほっとんどありませんwwほっとんどですwwww
他の呉キャラも、前半は全く出てこないというww
ま、こんなんもいいよねwwwwwww
なんかこう、純愛みたいな感じでしょうか?
夕焼け空に、想う物語・・・なんて、かっこつけて言ってみたりw
ともかく、新たなる外史の扉は開かれました!
今後はひとまず【呉伝】を中心として活動していきます!!
それでは、またお会いしましょう♪
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こんばんわw
《魏伝》も終わり、心機一転w
《呉伝》
正式連載版公開しますw
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