No.173902

『薔薇石』

ココさん

ブログに載せていたものを、ワードの練習用に加工したもの。

2010-09-21 16:56:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:612   閲覧ユーザー数:592

『薔薇石』

 

薔薇石がゆっくりと冷えていく。

 

それは夏の氷から作った炎だ。モルテナ山脈では夏氷ができる。

 

夏氷は熱を吸収して冷えていく氷だが、モルテナ山脈の隣の

 

モルテナ砂地では薔薇石がとれる。それは石灰岩が風で風化したものだ。

 

暑い太陽によって、解けた雪が石となる。ともいわれていた。

 

この地方の特産の鍋である、タジン鍋に薔薇石と夏氷を放り込み、焚き火にでもかけると、やがて夏氷が熱を吸い、とてもよく冷えた薄い薔薇の味のシャーベットができる。

 

また、伝説では、モルテナ砂地で産出する薔薇石を食していたのはガンズモルグーという石造の巨人(ゴーレム)なのである。

 

 

 

サラディーヌと二人の少年【小説】

【掌編小説】

 

夏の夕暮れの熱気が二人をつつんだ。初夏の夕焼けに、

 

心地よい風が吹いていく。

 

静かな枯れ草の丘を、二人の少年が歩いていく。

 

今朝、叔母様が亡くなったのだ。二人の叔母はサラディーヌという名前だった。

 

サラは黒鶫を飼っていた。サラのアパルトマント(集合住宅)の二階の窓辺に置かれていた、その籠のなかの鳥はもう飼っておけない。

 

だから自然の残された丘陵で、離すのだ。という兄の説明を弟は素直に信じていた。

 

サラは独身だった。長い栗色の癖のある髪に、エプロンドレスが似合っていた。

 

もうサラが思い出すこともない夕焼けをかごの中の黒鶫が見ていた。

 

二人の少年、モルテアとテリスは小さながけを登った。あとは歩きやすい道が続く。夕焼けの気配がすこしずつ二人とサラの黒鶫を包んでいく。

 

二人はサラの葬儀には参列しなかった。サラの死を弔うために少年たちは鳥を空に帰そうとしているのだから。

 

――でも黒鶫は食べられちゃうよ。鷹や大鷲に。

 

――たとえ食べられてもいいじゃないか。鳥は鳥だ。

 

そういってモルテアは微笑んだ。

 

――ぼくたちは兄弟だ。そうだろう? テリスはぼくの考えに反対なのか?

 

――そうじゃないけれど。ともどかしそうにテリスはいう。

 

続けて。いってはいけないようが気がしたが。

 

――お兄ちゃんは、サラお姉ちゃんが好きだったのかい?

 

――そうじゃないさ。僕はサラが嫌いだ。

 

それは嘘だよ。とテリスは思った。そうでなければ長兄がサラのためにこんなことをするはずがない。

 

テリスはそれをイメージした。夕焼けのSummerAbendにサラの鳥が帰って行くのだ……。

 

丘の頂上には木が植えられて、枯れ草の草原特有の柔らかい風が吹いた。

 

二人が丘のてっぺんで立ち止まると、風がふわりとあたりをつつみ、ふと躊躇ったモルテアがやがて鳥かごを開く。サラの黒鶫は空に放たれた。戸惑っている黒鶫を、モルテアが乱暴に腕を振って脅すと、あわてたように鳥は逃げていく。

 

そう二人から。サラの鳥が。

 

――人間は勝手だよ。

 

モルテアは飛んでいった鳥を見て、そうつぶやいた。

 

そのとき小さなテリスはモルテアが復讐しようとしている意味を理解した。これは意味の無い復讐だと。

 

サラはやさしかった。と少なくともテリスは感じていた。自分はサラを悼まないことを後悔するだろう。兄の復讐からサラの黒鶫を守れなかったことを。

 

長兄の考え方の本質に気づいたとき、長兄のいっていたサラが嫌いだ。という感情はテリス自身の感覚にはまったく相容れぬものだと理解した。そして、その手伝いをするとはなんと惨めで愚かなんだろう。

 

夕焼けが迫っていた。

 

――サラの黒鶫はどうなるんだろう?

 

――ぼくたちは黒鶫さ。さあ帰ろう。

 

野生では生きてはいけぬものを生み出し、閉じ込めようとすること。モルテアもまた憎んでいるのだ。

 

やがて丘陵にも初夏の闇が来るだろう。草原の丘陵に二人の影が踊った。

 

 

 

 

『お空の永久で』

 

アクアマリンのような海を見ていたらお空のお船で旅立ちました。

 

「まあそれであなたはどこへいったの?」

 

友達の少女のトルテが私に聞いてきた。空の船にわたしたちはいるのだ。

 

「君たちは夢へ行ったのだよ。それはまるでお菓子のような世界だ」

 

モルテン船長が告げた。トルテとわたしこと、ユメリアに。

 

モルテン船長の部下の”人形たち”はゆらゆらと揺れるお空のお船をガス=プラズマ炉で加速させている。その夜の船には鳥の群れが近寄ってきた。

 

「あああれは天の川の星だよ。モルファネア=イグリーだ」

 

モルテン船長はこの世界の汎言語で答えた。

 

二人と乗務員たちを乗せた空の船は銀河を越えていた。

 

「わたしたちはパン=テラニアね」

 

「パンだから、テラニアね」

 

わたしたちはスチュワートの青年から配られたデニッシュ”パン”をいただく。

 

パンというものは「汎」という意味で、わたしたちはそんなナンセンスなやり取りを楽しんだ。

 

やがて船が月へと向かう。

 

「つれてくれてありがとう」

 

月を見ながら、トルテがいった。

 

その瞬間私は気づいた。空の船とは夢であったと。

 

空の船を操る、モルテン船長もトルテもユメリア(=わたし)も夢のなかの存在だったのだ。

 

やがてわたしはいつものようにアパルトマント(集合住宅)で目覚めたのだった。

 

 

『フォルテのカード』

 

妖精が描かれた聖五月(フォルテ)のカードをくれたのはサラディーヌ姉さんだった。

 

ぼくはサラが好きだった。やさしく、甘い大人の女性の匂いのするサラが。

 

それから長い年が経ち、ある朝、サラディーヌが死んだとき、その妖精の絵は消えていた。

 

飾り棚からカードを取り出したとき、薄衣の妖精は緑の草の文様を残して、いなくなっていたのだ。

 

フォルテのカードから妖精は抜け出していた。何のために?

 

サラとともに消えていったのだ。この世界から。

 

いや、単純にインクが弱かったのだろう。それはサラの手書きで、印刷されたものではなかったし。


 
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