No.173564 PSU-L・O・V・E 【緋色の女③】2010-09-19 23:00:13 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:593 閲覧ユーザー数:592 |
「彼の両親はキャストに殺されたのよ…」
衝撃的な言葉にユエルは一瞬息を飲む。
「ッ! ……ゲホッ、ゲホッ!」
―――ムセタ。
「……そう言ってしまうと刺激的すぎるわね。正確に言うと、彼の両親はキャストが支配する社会システムのせいで命を失った……と言った方が良いかしら?」
「……どう言う事ッスか?」
「そうね、簡潔に教えてあげる」
緋色の女が語ったヘイゼルの過去は、彼が少年の頃にまで遡る。
―――八年前、ヘイゼルの父親はホルテスシティで商社を経営していた。
それは彼が一代で興した会社で、規模は小規模だったが順調に業績を伸ばす優良な企業であった。
物心付く前から不自由なく、しかし礼節を尊ぶ両親に厳格に育てられたヘイゼル・ディーンだったが、彼の幸福な日常は突然終わりを告げる。
それは軽率な一つの過ち。
父の会社の脱税が国税局の立ち入りによって発覚したのだ。
事件はマスコミでも報じられ、社会的信用を失い融資を受けられなくなった会社は、資金繰りがつかなくなり経営が行き詰ってしまう。
キャストが支配する世界の経済は徹底した合理主義だ。
そこに人の情が入る余地は無い。
信用を損失した中小企業に生き残る手段は無かった。
その結果、父親の会社は倒産し、一家は路頭に迷う事になる。
重圧と責任に気を病んだ父はノイローゼの果てに自殺。
度重なる心労が重なった母も病に倒れ帰らぬ人となった。
両親を失い、他に頼る身内の無かった十二歳のヘイゼルに残された道は二つしかなかった。
ストリートギャングや犯罪者に身を落とし闇社会の中で生きる事か、ガーディアンズの幼年学校に入学し、将来的にガーディアンズとなる事である。
本来、この年頃の子供達は無限の夢と可能性を秘めた、研磨されない宝石の原石のような物の筈。
だが、理不尽に失った幸福と大切な者の命の果てに、ヘイゼルに残されたのは対照的な二つの選択肢。
限られた未来でしかなかった。
ヘイゼルのこれまでの発言が思い出される。
「俺がガーディアンズになったのは、自分が生きる糧を得る為だ……誰かを、何かを守る為にガーディアンズに入隊した訳じゃない」
―――それしか辿り往く道が無かったから―――。
「俺は人を助ける為に戦う気は無い」
―――自分も助けられなかったから―――。
「俺は……誰も守れない……救えないんだ……」
―――両親を救えなかった悔恨故に―――。
「今でも嫌いだよ……」
―――だからキャストを憎むのだろうか―――。
奪われた可能性の果てに行き着いた先は、望まぬ生き方を強いられる無慈悲な現実。
そうする事でしか生きる事が出来ない不甲斐無い自分。
だからヘイゼルは憎悪した。
社会を……システムを……それを構築した者達(キャスト)の全てを。
それがヘイゼルの心を永久に蝕む呪縛、過去から現在(いま)へと続く憎悪のリンケージ(連鎖)。
話しを終えた緋色の女性キャストが席から立ち上がる。
彼女の身体は痩身で鋭利な"刀"を連想させるシャープなシルエットをしていた。女性でも目を奪われる程、機能美すら感じる無駄の無い姿態である。
未だヘイゼルの過去に衝撃を受けているユエルの耳元に、彼女はそっと囁き問う。
「自分の製造(産み)の親を理不尽に奪われたり、殺されたりしたら……貴女だったらどうするかしら?」
記憶を失ったユエルに"製造の親"や"育ての親"の思い出は無い。
だが、もし自分がヘイゼルと同じ境遇に置かれたら……怒るだろう、恨みを持つかもしれない。その事は用意に想像できる。できるのだが……だが、何だろう? 妙に何かが引っ掛かっている。
答えを躊躇うユエルに緋色の女は微笑みかけた。
何故か満足そうな含み笑い。
「今は無理に答えなくて良いわ。でもいつか聞かせて、貴女の答えを……ね」
緋色の女性の艶やかな髪に髪飾りが揺れている。ユエルはそれを無意識に目で追った。
鋭利な刃物を連想させる女性が身に付けるには、とても、とても不釣合いな可愛らしい花の形をしていた。
「……ユ……ル……ユエル!」
遠くから自分を呼ぶ声にユエルは我に返った。
掛けられたの声には聞き覚えがある。聞き違える筈など無い、それはヘイゼルの物だ。
「ヘ、ヘイゼルさん!?」
ヘイゼルは駅前の通りを、ガーディアンズ支部の方角から歩いて来る所だった。
彼は必要以上に慌てるユエルを見て、怪訝な表情を浮かべている。
「何をそんなに慌てている?」
「いや、別に何も……ッスよ……」
慌てて取り繕うが、ユエルの表情は引きつっている。
断りも無くヘイゼルの過去に触れてしまったのだ。彼の性格から言って、それを面白いとは思わないだろう。
ユエル自身も彼との接し方に戸惑いがある。
だが、それを悟られるわけにはいかない。
何とか平静を装わないと……。
「まあ良い……カフェからの帰りか?」
挙動不審なユエルの様子を訝りながらもヘイゼルは訊ねた。
ユエルはギクシャクした動きで頷いてみせる。
「そうか、俺は部屋に戻るがお前はどうする?」
「あ……私も帰るところッスよ」
「そうか、丁度良かった。お前に話す事があるんだ」
「話す事……ッスか?」
「ああ……」
支部からの直接の指令を受け、作戦に向かう件をユエルに話さなければならない。
「一緒に帰るぞ」
「はいッスよ」
ヘイゼルの言葉にユエルは頷き、二人は並んで歩き出した。
その間にある見えない隔たりは、まだ自覚できる程では無かった……。
翌日―――。
ガーディアンズ宿舎の一室、都会的に洗練された調度類が配置された部屋。機能的なデザインとシンプルさはパルムのデザイナーが手掛けた物だ。
白いタンクトップに下着姿の少女が、ドレッサーの前で肩まである黒い猫毛を梳かしていた。
アリア・イサリビは髪を梳りながら小さく息を吐く。
彼女は最近ヘイゼルと一緒に居る時間が少なくなっている感じがしていた。
理由は何となく解っている。
アリアの脳裏に白い少女型キャストの姿が浮かぶ。
「あー、止め止め!」
アリアは頭(かぶり)を振ると少女の姿を頭から振り払い、ドレッサーの上の携帯ビジフォンを手に取った。
「こっちからばかりじゃなく、たまにはそっちからデートの誘いを寄越しなさいよね……」
アリアはヘイゼルを食事に誘おうと通信を試みる。しかし、通信は一瞬の呼び出し音の後、機械的な女性の物に切り替わった。
『通信の相手は現在任務中です。メッセージをお預かりします……』
アリアは目を見開いて驚いた。
「任務中って……ミッションに出てるの!? 私に何の誘いも無く!?」
通話を切ると、次にビリーに通信を入れてみるが、彼の通信も同じく任務中のメッセージに切り替わってしまった。
「二人で同じミッションに……テクターの援護も無しで?」
アリアの脳裏に再び白い少女型キャストの姿が浮かぶ。
「まさか……!」
ユエルに通信を入れるが、彼女の通信もまた任務中のメッセージに転送される。
あの三人で同じミッションに出掛けたの……私を置いて!?
ユエルが現れるまで、三人の中で唯一テクニックを使用できたのはアリアだけだった。
三人が初めて出会った、第三惑星モトゥブでのミッション。
あの時、任務中の危機をヘイゼルに救われたアリアは、彼に一目惚れをしたのだ。
単純な理由と笑われても構わない。
あの時から彼女は好きになった人の為に……彼の為に少しでも役に立ちたいと願い行動してきた……。
未熟な私だけど、少しでも彼の力に成れれば……そう思って一緒に戦ってきた。
(なのに……なのに!)
そこに加わったユエルと言う名の少女型キャスト。
近接戦闘からテクニックもこなす、自分より力のあるガーディアンズ。
(もう、私の力は……必要無いと言うの……?)
アリアの脳裏に再び白い少女型キャストの姿が浮かぶ。
(……貴女は……貴女が……貴女が!)
アリアの心に形容しがたい暗い何かが生まれようとしていた。
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EP09【緋色の女③】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)
【前回の粗筋】
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