No.173350

真・恋姫†無双~御遣いのバーゲンセールだぜ~第五話 薙沙編

おまめさん

この作品はオリキャラが出てきます。そして素人丸出しの文章です。これらに不快感をお持ちの方はひっそりとページを閉じてください

今回、更新が遅れました事、読んでくださっている方々にこの場で謝罪させていただきます。本当にごめんなさい

さて今回のお話ですが、薙沙さんのお話です。前回、陳留に曹操と共に帰還した所から始まります。

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2010-09-18 23:52:22 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:2619   閲覧ユーザー数:2071

賊討伐の遠征から陳留に帰還した曹操軍。陳留の民は沸きあがり歓声を送っていた

 

「曹操様!お帰りなさいませ!」

 

「曹操様のおかげでより安心して暮らせます!」

 

民の曹操を見る目には希望が宿り、各々が曹操達に声をかけている。この光景をみた張三姉妹は驚きを隠せなかった

 

「ここまで民から支持されている刺史はみたことないわ」

 

「あたし達もこれまで色々旅してきたけど、ここまでのは見たことないわね」

 

人和、地和がそれぞれ思ったことを口にする

 

「曹操ちゃんってこんなに人気者なんだー!」

 

薙沙も周りを見ながら言った

 

天和は曹操の人気に嫉妬したのか頬をふくらませながら言う

 

「お姉ちゃん達だって人気者になるんだもん~」

 

そんなやりとりをしているうちに城門に到着した薙沙は張三姉妹に問いかける

 

「三人はこれからどうするの?」

 

「私達はこれからしばらく陳留に留まって活動するわ」

 

「そかそか。あたしもこれから此処がお家になるのかな~。まだ曹操ちゃんと詳しく話してないからなんともいえないけど」

 

「じゃあ、暇な時、ちぃ達にも会いにきてよ。天の国の話まだききたいから!」

 

「お姉ちゃん達、そのへんの宿に滞在して、路上らいぶとかやるから薙沙ちゃんもきてね~」

 

「もちろん行くよー!季衣もつれてくね!」

 

四人は城門で喋っているのだが、門番の兵がどう対処していいものかと悩んでいる時、城内から声がかかった

 

「あら、北郷。まだこんな所にいたの?話があるからさっさと入って頂戴」

 

曹操こと華琳である

 

「曹操様・・・!」

 

人和達は曹操の出現に固まる。物怖じしない地和も曹操自ら薙沙を呼びにきた事に驚いて固まっている

 

「あら?あなた達は・・・旅芸人ね。姓は張だったかしら?そういえばあなた達も此度の賊討伐に貢献したわね。あとで褒美を送らせるから宿の場所決まったらそこの門番に言いなさい」

 

「はい。ありがとうございます」

 

固まり続けている姉達のかわりに人和が対応した

 

「三人はしばらく陳留に滞在するんだって。路上ライブする時に曹操ちゃんも一緒に見に行こうよ」

 

「路上らいぶ・・・?曹操ちゃん・・・?」

 

聞きなれない言葉とちゃん付けで名を呼ばれた事に華琳は眉を顰める

 

「・・・・・・まぁ、いいでしょう。あなた達はまだ駆け出しのようだけれど城に呼んでも恥ずかしくない位の実力をつけるよう努力なさい」

 

「はい。頑張ります」

 

「城に呼べる時がくるのを楽しみにしてるわ。北郷、いくわよ」

 

「ほいほい!じゃあ皆、またね!宿の場所決まったら教えてね」

 

薙沙は華琳の後をおいながら三人に手を振る

 

張三姉妹はそんな薙沙の姿を見送りながら呟いた

 

「薙沙ちゃんってすごいね~」

 

「さすがにちぃも曹操様をちゃん付けで呼べないわよ・・・」

 

「私も曹操様が眉を顰めたときは肝が冷えたわ・・・」

 

薙沙は華琳に呼ばれ城内の一室に招かれた。薙沙の横には季衣、机を挟んで対面に曹操、その両脇に夏侯惇、夏侯淵、荀彧が控えている。そこで薙沙は曹操達に会うまでの経緯を話した

 

「ふむ。話の内容は荒唐無稽ではあるけれど、このけいたい?かしら。その他にもぽりえすてるとかいう服を目の当たりにすると少なくともこの大陸にはない技術だということが判るわ」

 

華琳は興味深げにそれらを掴みながら言う

 

「華琳様!そのような怪しい人間を本当に召抱えるのですか?役に立つとも思えません!」

 

荀彧が薙沙を睨みつけながら華琳に発言した

 

「しかしな、桂花よ、そやつの武は華琳様の覇業にきっと役に立つぞ?貴様もみたであろう」

 

夏侯惇が荀彧の発言を否定するように言う

 

「あんたは黙ってて!」

 

二人のやりとりを見た華琳は夏侯淵に問いかける

 

「あなたはどう思うのかしら?秋蘭」

 

「はっ。姉者の言う通り北郷の武は華琳様の覇業の手助けになるでしょう。そもそも賊討伐終了の際にそこの許緒と共に華琳様自ら召抱えると仰ったのですから私は反対する意はありません」

 

華琳は秋蘭の答えにニヤリとする。華琳が先の賊討伐の際、召抱えると言ったのでそれは確定事項であった。華琳は薙沙の事を自分の部下達がどう思っているのかを確認する為に各々の意見を聞いたのであった

 

「さすがは秋蘭ね。その通りだわ。許緒と共に北郷にも私の覇業を手伝ってもらうのは確定事項よ。皆、二人に真名を預けなさい」

 

薙沙と季衣はそれぞれ真名を預った。それから薙沙は今後の身の振り方を華琳に相談した

 

「三国志とやらの話によるとこれからあなたはこの先、大陸で起こる事を知っているという事?」

 

「厳密に言うとね、三国志の史実と演義で話が少し違うからここがどっちに進むのか、それとも全く違う方向に話しがすすむのか判断しかねるよ。それにあたしが知識として知っている華琳ちゃん達はみんな男性だったよ」

 

「そう。ならば今後、三国志の話は私達にしなくていいわ。未確定の情報は判断を鈍らせるわ」

 

「りょうかい~!じゃああたしが出来る事は・・・むむむむ」

 

そういって何をすれば役に立つのか、唸り始める薙沙。そんな薙沙を見かねて華琳が提案しようとした

 

「あなたの武はかなり優秀だわ。さしあたり、その辺りの仕事を・・・」

 

「閃いたぁ!!!」

 

華琳が言い終わらない段階でそれまで唸っていた薙沙が大声をあげた。華琳は眉を顰めながら問う

 

「・・・・・・どうしたのよ?」

 

「あたしって千年以上も先の未来からきたのは事実みたいなんだよね。質問なんだけど、この時代って火薬ってある?黒色火薬」

 

「かやく?知らないわね?誰か知っている者はいるか?」

 

華琳の質問に皆、首を横に振るだけであった

 

「ってことは、この時代は三国志の史実に近い技術ってことか~。まぁ演義は宋代をモデルにしてるから火薬があって当然なんだけど・・・」

 

「薙沙、私達にもわかるように説明して頂戴」

 

 

 

 

薙沙は昔、夏休みの自由工作で祖父と共に火薬も含め火縄銃を作った事を話した。火薬の作り方、更には鞄の中にあった教科書にのっている火縄銃の写真を皆にみせながらどういうものか説明した

 

「これは・・・本当に作れたとしたらかなりの脅威になるわ。書いてある文字は全く読めないけど」

 

桂花が興奮した様子で教科書を見ながら言う

 

「作れたら、な。桂花。そこまでの技術私達の所にはないだろう」

 

秋蘭が桂花を宥めるようにいった

 

「でも秋蘭、完成品がある、という事を知っただけでもかなりの進歩よ。時間はかかるかもしれないけど開発をはじめるのも手ね。でも薙沙、火薬の絵はのっていないわ」

 

「火薬は、木炭、硫黄、硝石があればできるよ。ただこの時代はもちろん硝石なんて知られていないよね?」

 

「しょうせき?それはどうやったら手に入るの?」

 

「あたしがいた時代は硝酸カリウムって言って精製されたものが出回っていたけど、この時代では一から作らなくてはいけない。やっててよかった自由工作!あの時、先生にお爺ちゃんと一緒に呼び出されて怒られたのは無駄ではなかった!!」

 

意味がわからない言葉を連発し皆、首を傾げながら薙沙に注目する。周りと自分のテンションの温度差がある事に気がついた薙沙は話を元に戻す

 

「んとね。トイレ・・・厠って穴を掘った様なもの?」

 

「えぇ。簡単な建物の中に足場とその下に穴をほってあるわ」

 

「んじゃ、その穴の壁を採掘した物を精錬させたり、新たな穴を掘って雨が入らないようにしてそこに木灰、藁とか有機物を混ぜておしっこかけながら混ぜる作業を一年くらい続けてみて。銃の開発と平行してこれも着手しようよ」

 

「やってみる価値はありそうね。薙沙、今後もその調子で天の国の知識を教えて頂戴」

 

「思いついたら言うね。出来るか出来ないかは華琳ちゃんとか桂花ちゃんとか秋蘭ちゃんとか頭のいい人が判断してね」

 

この一言でそれまでぽかーんとして成り行きを見守っていた約二名が騒ぎ出した

 

「き、貴様ぁぁっ!!北郷!!!どうしてその中にわたしの名が無いのだ!」

 

「姉ちゃ~ん。ボクは名前が挙がらないのはわかるけど・・・その言い方は酷いよ!」

 

「ごめんね。春蘭ちゃんはともかく、季衣にはそんなつもりは無かったんだよ」

 

薙沙は季衣の頭を撫でながら言った

 

「季衣には、だと!?馬鹿にしおって!首を刎ねてやるからそこになおれ!!」

 

春蘭は薙沙に近づこうとするが

 

「春蘭ちゃん!ちょっと待って!!ここは華琳ちゃんの御前だよ」

 

と言い春蘭を押しとどめる。そして華琳に今日はもうやる事がないか確認する

 

「えぇ。今日は遠征から帰ってきたばかりだし、本格的な仕事は明日からよ。特に武官達は今日は身体を休めるといいわ」

 

「ほいほい。じゃあ町を見て回ってくるよ。天の知識も役に立てれるかもしれないし」

 

そう言ってから部屋の入り口に立って春蘭をみる薙沙。季衣を手招きで呼び寄せ華琳の隣にいる春蘭に聞こえるように季衣に言う

 

「さぁ、鬼のように首を狙う春蘭ちゃんは置いておいて町を見に一緒に行こう?季衣」

 

「え・・・?えっと姉ちゃん、いいけどそんな言い方春蘭さまに悪いよ」

 

季衣は春蘭の様子を伺うように視線を薙沙と春蘭に交互にあわせ薙沙に言った

 

「だぁれが鬼のように怒髪天を衝くようにも見えるが実は髪が後退しつつあるからそんなことはなかったぜ、だとぅ!?」

 

「天才だ。天才がここにおる!!」

 

春蘭のもはやいいがかりレベルの返しに大喜びしながら季衣の手をとって逃げ出した

 

「北郷!!待て!!待たんかーー!!」

 

薙沙を追いかけ小さくなっていく春蘭の声を聞きながら残された三人は会話を続ける

 

「あの二人、ずいぶんと気が合うみたいね。遠征から帰ってくるときも二人ではしゃいでいたようだし」

 

「はっ。姉者にとってはいままで全力でぶつかり合える者がいませんでしたからね。あんなに楽しそうな姉者は久しぶりに見ました」

 

「桂花の意見にも一番最初に異を唱えたのも春蘭だったしね。さて桂花、薙沙が提案した件の手配しておいてちょうだい」

 

「御意に」

 

それからしばらくの後、先の賊討伐遠征の功績がみとめられ曹操こと華琳は陳留の刺史から州牧に昇進した

 

引継ぎや手続きなどが一段落した所で華琳は賑わってきている町の視察を提案し、春蘭、秋蘭、薙沙を連れて行うことにした

 

「ふむ、以前より人が集まってきているようね」

 

「はい!華琳さまのご善政により安住を求めて民が集まってきております!!あのようなところにも露店が!」

 

「ふふ、春蘭。嬉しい事言ってくれるわね。でも今日は遊びにきたわけじゃないの。町のどこに何があるか、人の流れはどうか、治安はどうなっているか、それらを実際に目で見て確かめる為にきたのよ」

 

「はっ!おい、北郷。それでは華琳さまの為、これから町の視察にいくぞ。ついて来い!」

 

春蘭は薙沙をつれて行こうとするが、華琳に止められる。華琳は秋蘭に目配せをしてから言う

 

「春蘭、今日は薙沙は駄目よ。秋蘭」

 

「は。それでは町の左側を姉者、右側を私が。中央を華琳さま達にお任せしてよろしいでしょうか」

 

「そうね。一通り終えたらまた集合するわよ」

 

「「はっ!」」

 

夏侯姉妹は視察に出発した主と薙沙の背中を見送った

 

姉の少し残念そうな雰囲気を感じ取った妹が声をかける

 

「フフ、姉者。北郷と一緒に視察が出来なくて残念か?」

 

「そ、そんなことはない!華琳さまと共に行けなくて残念なだけだ」

 

「そのわりにはここ最近、仕事が無いときは北郷につきっきりではないか」

 

「あぁ!この間なんかな、町で狼藉者を二人でとっちめたたり、一緒に武の鍛錬をしたりした!」

 

「楽しかったか?姉者」

 

「ああ!楽しかった!!」

 

「フフフ、よかったな姉者。私も北郷と親しくしたいのだがな」

 

「ん?その事だが、秋蘭。北郷は悩んでおったぞ?なんでも、秋蘭は北郷の姉と雰囲気が似ているらしい。弓の使い手だとも言っていたな!仲良くしてほしいようだがどう話しかければ良いのかわたしに相談してきたぞ」

 

「北郷が?夜な夜な北郷の部屋から姉者の奇声が聞こえるかと思ったら、そのような事を話していたのか」

 

「そうだぞ。でもな秋蘭、聞こえていたのは奇声じゃないぞ!狼藉者を倒す前の名乗りの練習だ!」

 

「それでは今度はわたしも参加させてもらおうか姉者」

 

「間違いなく北郷は喜ぶな!!では秋蘭、視察にいこうではないか!」

 

春蘭と秋蘭は意気揚々と視察に出かけていった

 

 

 

華琳と薙沙は行き交う人々、町並みを見ながら歩いていた。人々はみな笑顔で此処には確かに平和があると物語っていた

 

忙しなく辺りを見回す薙沙に華琳は話しかける

 

「薙沙、あなたはこの町をどうみる?」

 

「うん。いい町だね~」

 

「どういう風に?」

 

「あたしはこの町しか見たことないけど、聞いた話から想像するこの大陸の町とは対極に位置する、って感じかな。人々に活気があっていいね」

 

「他には?」

 

「確かに平和ではあるんだけれど・・・例えるならこの町はこの大陸全土の縮図みたいな感じかな」

 

その一言に華琳は怒りを覚え、得物の絶を薙沙に向ける

 

「・・・・・・どういう事?あなたは腐りきった宦官共が治める大陸と私が治める町が同じだとでも言うの?」

 

華琳は確かに怒っている。だがむけられた気迫には殺気がこもっていない。薙沙は試されていると理解した

 

「武器をおさめてよ。華琳ちゃん。あたしが言いたい事わかってるくせに」

 

薙沙はぷくっと頬を膨らませながら言った

 

「あなたこそ、私を試すように回りくどい言い方して。まぁいいわ。最後まで聞きましょう」

 

華琳は意地の悪そうな笑みを浮かべながら武器をおさめる。薙沙は「ごめんごめん」と言った後話を続けた

 

「この大陸には少ないかもしれないけど、華琳ちゃんのように立派な人が治めている所はあると思うんだ」

 

「ふむ。それで?」

 

「そういう所はここみたいに平和だとおもうけど、そこからはずれると同じ世界なのかと思うほど酷い所もあるよね?」

 

「あるわね。それで?」

 

「でも此処だって同じだよ。この町の主だった所からはずれた所には貧しい人達もいるし、ならず者だっている。この前、春蘭と一緒に町を散策した時も結構そういう人達みたよ」

 

「・・・・・・」

 

華琳は驚いていた。薙沙が陳留にきてからわずか一週間足らず、たまにふらっと居なくなるかと思っていたらこの子はしっかりとこの町に暮らす民をみていたのだ

 

「これだけ他所からいろんな人達が来れば町としては活性化しやすくなるけど、治安も悪くなりやすいし、大通り以外の人の流れを把握しなくてはいけない。その辺を見て把握する為の視察なんでしょ?華琳ちゃん」

 

「ふふ・・・ふふふふ・・・あははははは!」

 

突然笑い出した華琳に薙沙は吃驚する

 

「え?なになに?今の面白いところあった?結構良い事いってたつもりなんだけど・・・」

 

「もう、最後の一言で台無しよ。くくくく」

 

目尻の涙をぬぐいながら華琳は言った。そしてこれは思った以上の人材だと確信する

 

「さしあたっては薙沙はどうすればいいと思う?」

 

「国を治める事とかやった事ないから適当に思った事述べるだけでいい?」

 

「えぇ。それでいいわよ」

 

「じゃあ、治安改善そして維持の為、警備を強化するとか、あとは思った以上に町がごちゃごちゃしてるから区画整理とか。区画整理するときはお店も利便性を高めるように配置したり競合店で競わせて活気をだすとか。ごめん。漠然とした事しかいえないや」

 

「そういう違った視点からでる案が生きてくるのよ」

 

華琳達はこのような会話をしながら視察をすすめていた。視察も終盤に差し掛かった頃、珍しい物を傍においている露店を見つけ、華琳は興味深げにみていた

 

「これは売り物なの?なんなのかしら?」

 

華琳は店番の少女に尋ねた

 

「あ、すみません~。コレは売り物やないんですよ」

 

申し訳なさそうに店番の少女が答える。そしてニヤリと笑って言う

 

「コレに目をつけるとはお目が高い!こいつはウチが発明した、全自動カゴ編み装置や!!」

 

「な、なんだってーーー!!!」

 

薙沙はそう声をあげるが華琳は表情を変えずにそのからくりをみている

 

「ちょっと、華琳ちゃん!ここは驚くとこだよ!こう、ドヒャーって」

 

「竹カゴをつくるからくりは確かに珍しいけどそこまで驚くことじゃないでしょう」

 

その華琳の発言に薙沙は人差し指を左右に振りながら言う

 

「ちがうよ~。このお姉さん、全自動って言った!という事は、このからくりは何処か操作して起動させると、からくりが自動的に動いて竹カゴを作るってことだよ!」

 

「え?そんなにすごいの?」

 

華琳も薙沙の説明にこのからくりのすごさに注目する。薙沙は店番の少女にたずねる

 

「ねね!これって動力って何?まさかの電気?」

 

「でんき、ってなんですの?それと・・・・・・」

 

店番の少女は聞いたことない単語に反応するが、このお客の少女達に申し訳ない気持ちで一杯になって言葉を続ける

 

「あの~実はこれこうやって動かします~・・・」

 

そう言いながら、からくりの取っ手をぐるぐるまわした。そして出てきた竹カゴをおずおずと二人に見せる

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

三人はなんともいえない気持ちでただ黙っていた

 

「これは・・・手動です・・・ね・・・」

 

「そうね」

 

「すみません~・・・」

 

ものすごく恐縮している少女を見かねた薙沙がフォローする

 

「でもさ、ほら!なんていうの?手軽に竹カゴが出来るからくり作れるなんてすごいよね?ほら、見てください奥さん!この立派なカゴ!ほ~ら中を覗いてみると・・・向こう側が見える!?」

 

「あ・・・底は自分でつくらなあきません・・・」

 

「誰が、奥さんよ・・・。何が、全自動よ・・・」

 

薙沙は華琳の機嫌が微妙な方向にむかっているのに気がつく。ここでなんとかしないといけない。しかしもうフォロー出来るすべは無い。苦し紛れに竹カゴの一つを手に取り頭に被った

 

「虚無僧!」

 

「「・・・・・・」」

 

あたりが静寂に包まれる。薙沙は思いっきり外した、と思い耳が熱くなるのがわかる。そもそも虚無僧は唐の時代。いくらボケても通じないのだ

 

「くらえ!虚無僧!!」

 

ガボッ

 

「うわ!なにしますのん!」

 

「もひとつ、虚無僧!!!」

 

ガボッ

 

「ちょっと!なにするのよ!!」

 

恥ずかしさのあまり混乱した薙沙は二人の頭に同じようにカゴを被せたのだ。さらに民を巻き込んで露店の周りは虚無僧だらけになり、混沌と化した

 

「全く、酷い目にあったわ」

 

露店を後にした華琳は薙沙を睨みつけながら言う。薙沙は華琳の視線の棘に気がついたが上機嫌でいう

 

「ふふふ~華琳ちゃん、カゴありがとう!」

 

薙沙は華琳に買ってもらったカゴを大事そうに抱きながら言った

 

「ただのカゴくらいでなんでそんなに嬉しそうなのよ?」

 

薙沙は立ち止まり、華琳に向かって言う

 

「この世界に来て、初めて友達から貰ったカゴだよ」

 

その言葉を聴き華琳も立ち止まり薙沙をみる

 

「友達?わたしは曹孟徳よ?そしてあなたは私の部下。さっきもそうだけど立場をわきまえなさい」

 

「部下だけど・・・友達だもん!」

 

「・・・ひかないのね?理由を聞かせてもらえる?」

 

「華琳ちゃんはこの世界では身分も高いし立派な人だと思ってるよ。それこそなんでも出来る人だと思うくらいに」

 

「わたしだって神仙の類ではないのだから、全て一人で出来るとは思ってないわよ」

 

「だから有能な人材、春蘭ちゃんや秋蘭ちゃん達をつかうんだよね?」

 

「えぇ、そうね」

 

「これから先、華琳ちゃんが覇道をいく中で同じくらい有能な人物が敵として出てきたら?そして苦戦して負けそうになったらどうするの?」

 

「そうならない為にも有能な人材をつかうんじゃない。例えそうなったとして、命を落とすことがあれば私の天命はそこまでということでしょう」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

二人の間の空気が凍る

 

「・・・今、なんと言った?」

 

「馬鹿、と言った」

 

華琳の気迫に負けじと薙沙も気迫をもって言い返す

 

「これから先、数ある戦の中で負けたらそれが私の天命?誇りある死を望む?ふざけないでよ。どんなに無様でも辛くても生き抜いて最後に立っていられたら勝利だよ。生きてさえいれば何度だってやり直す機会だってある。あたしは横に立ってひっぱたいてでも立ち直らせる。華琳ちゃんが望んでいる限り」

 

「・・・それがあなたが友にこだわる理由かしら?」

 

「そうだよ、ただの部下には出来ない事だよ。でも友達ならできる」

 

華琳は薙沙をしばらく見つめていたが、ふぅと息を吐き言った

 

「まぁ、他の世界から来たあなたをこちらの規格に則って判断しても無駄よね。この私を馬鹿と言い、引っ叩くと言いう」

 

「え?どういう事?」

 

華琳の雰囲気が変わったことはわかったが、言った事を理解できなくて薙沙は訊ねた。華琳はいたずらっ子のような笑みを浮かべ

 

「こ う い う こ と よっ!」

 

といいながら薙沙の手から竹カゴを奪い被せた。じたばたしながらふらふらと歩く薙沙を横目に華琳は呟く

 

「そして・・・わたしを友と呼ぶ」

 

そう呟いた華琳の顔は笑っているようにもみえた

 

町の突き当たりの門を集合場所としていたのだが、意外にも華琳達が一番乗りであった。春蘭たちがくるまで華琳と薙沙は色々な話をしながら待った。しばらくした後、全員が集合し華琳は皆、竹カゴを持っていた事に驚いたが、視察はしっかりとしてきたようなのであとで報告として提出するのを命じ帰還することとした

 

その道中、旅芸人が道端で芸を披露していた。見物人はまばらであり、おひねりもほとんど入っていないようだった

 

「あら、あの子達は・・・薙沙の友達だったわよね?」

 

「おー!天和ちゃん達だ~」

 

「この前の旅芸人たちですね。・・・芸はまずまずといったところですが、なにやら楽しげにみえませんね」

 

「薙沙。今日の視察の報告は明日の朝までに出してくれればいいから、あの子達の所にいっていいわよ」

 

「え?いいの?」

 

「見たところ見物人もほとんどいないようだし、元気もないように見えるからいってあげなさい。友に渇を入れるのは誰の役目だったかしら?」

 

華琳は薙沙に笑いながら問うと薙沙は

 

「友達の役目だね!」

 

と微笑みながら言い返し天和達の元へ駆け出した。華琳と薙沙にある空気が視察前とずいぶん変わっているのに気がついた秋蘭は問いかける

 

「華琳さま、薙沙となにかあったのですか?」

 

「たいしたことじゃないわ。あなた達を待つ間、昔話を聞いていたのよ」

 

「それはどのような?勿論我らに話していいことであればですが」

 

「全てを失った人が立ち上がり再起しようとする話よ。薙沙はその人物の悲しみや苦悩、それを支えようとする人達などを見て色々学ぶところがあったみたいね。本人は幼すぎて実際どこまで支えになってあげれたかわからないと言っていたけれど」

 

「それで、その人物は無事再起することが出来たのですか?」

 

「えぇ。一度失ったものをまた手に入れた。生き続けていれば・・・か」

 

「華琳さま?」

 

最後の方の言葉は呟くように言ったので秋蘭には聞こえず、そのまま薙沙が言った言葉に意識をもっていった華琳は秋蘭の呼びかけで我に返る

 

「あぁ。すまないわね、秋蘭。ちょっと考え事していたわ。そうそう、その人物は薙沙の姉であり、友であり、恋敵だそうよ。詳しくは薙沙からきいてごらんなさい」

 

「はい。わたしも北郷の事は気になっていましたので、話す機会を設けてみます」

 

「秋蘭!では今晩いくぞ!!」

 

「姉者。今日は駄目だ。北郷は帰ったら明日までの報告をまとめる作業があるだろう」

 

「そ、そうか・・・」

 

三人は旅芸人たちとはしゃぐ薙沙を遠目でみながらそのような会話をしていた

 

「おーい!天和ちゃん~地和ちゃん~人和ちゃ~ん」

 

張三姉妹を遠くから呼んで近づいてくる人物は薙沙であった

 

「あ~薙沙ちゃんだ~!」

 

天和が目ざとく発見し声をあげ手を振る。他の姉妹も続いて手を振る。薙沙は三人の元に到着し話しかけた

 

「みんな、お疲れ~!」

 

「薙沙ちゃんもお疲れ~!」

 

「薙沙ってばまたちぃ達にあいにきたの?案外暇なのね」

 

「もう姉さん、そういう言い方しないの」

 

薙沙の挨拶を皮切りにそれぞれ声を掛け合う

 

「あははー。あたしってば案外暇なんだよね。まだこの世界で出来る事少なくて」

 

人差し指で頬を掻きながら申し訳なさそうに言う

 

「薙沙さんは今自分に出来る事を一生懸命やっているんじゃないですか?私達が町で演奏してる時何度かみかけましたよ?」

 

「そうそう!ならず者をのしてるとこ見たわよ!なかなかやるじゃない」

 

「薙沙ちゃんたちが怖い人を懲らしめてくれるからお姉ちゃんたち安心して路上らいぶできるんだよ~」

 

張三姉妹はここ数日、町を駆け巡りながら活動していた薙沙を見ている。その上で思った事を言った

 

「ありがと!これからも頑張るよ!皆が安心して芸を披露できるような町作り!」

 

「えぇ。期待しているわ。薙沙さん」

 

「それはそうと、みんな今日元気ないね?遠くから演奏見たときいつもとノリが違って見えたよ?」

 

薙沙の言葉に三人は表情を暗くする。その変わりぶりに薙沙は慌てる。最初に口を開いたのは人和だった

 

「うん・・・私達、最近うまくいってないの」

 

「え?まさかの方向性の違い?」

 

「・・・?何の方向性ですか?」

 

「あぁ、違うんだ。よかったぁ。うまくいってないのは皆の仲じゃなくて活動がってこと?」

 

「そうなんです。曹操様からいただいた褒美はまだあるからここで活動はしばらくできるけど、このままじゃジリ貧なのは明らかなんです」

 

「お姉ちゃんたち、こんなに頑張ってるのにみんなみてくれないんだよ~」

 

「ちぃ達に魅力がなかなかつたわらないのよね・・・だからお客もあまりいないし、実入りがほとんど無いのよ」

 

三姉妹は口々に自分達の状況を薙沙に伝える。薙沙はどうしたものかと思考をめぐらせ、口を開いた

 

「よーし!皆のもの!ここは気分転換しようではないか!華琳ちゃんにお小遣いもらったから、これでおいしいもの食べよう!」

 

薙沙の提案に三人は表情を明るくする。特に地和が此処に行きたいと指定した店は高級感が漂っていて薙沙は冷や汗かきながら人和に相談する

 

「人和ちゃん・・・あたしこれしかもってないんだけど・・・?」

 

「すみません。薙沙さん。予算に見合ったお店を私が選びますね」

 

「いつもすまないねぇ・・・」

 

「それはいわない約束よ!おとっつあん」

 

薙沙と人和の会話にいきなり地和が被せてきた。わなわなした薙沙は

 

「なーんで、地和ちゃんがそれいうの!くらえ!虚無僧!」

 

ガボッとカゴを被せた

 

「ちょっと!ちょっと!なんなのよ!」

 

突然視界をおおわれた地和が慌てる。それをみた天和が

 

「あはは~地和ちゃんなにやってるの~?馬鹿みたい~」

 

笑顔で辛辣な言葉を浴びせていた。こうして四人は和気藹々?と茶屋に入っていった

 

 

 

「んー!おーいすぃ~!!」

 

薙沙が肉まんを思い切り頬張りながら言う。天和、地和、人和もつられて笑顔になる

 

「薙沙!あんた頬張りすぎ!すごい顔になってるわよ」

 

「あはは~薙沙ちゃんも馬鹿みたい~」

 

「ちょっと、天和姉さん。そんな言い方・・・プ、ククク」

 

薙沙は肉まんを飲み込み三人に言う

 

「それそれ!みんな、可愛いんだから笑顔わすれちゃだめだよ!」

 

薙沙の一言に三人ははっとする

 

「今日の演奏はなんかみんな辛そうだった。それって見てる人に伝わっちゃったらまずくない?」

 

「確かに・・・そうですね。一番大切な事を見失っていました」

 

「まぁ上手くいってないときは気持ちも落ち込むよね。あたしは芸に関しては素人だからうまく助言は出来ないけど、それでもあたしは三人を応援してる。煮詰まったら今日みたいに気分転換してさ、元気蓄えて明日から頑張ろうよ!あたしに出来るのはこんな事くらいで申し訳ないけどね」

 

「なーんで薙沙が申し訳なく思うのよ!ありがと。じゃあ今日は騒ぐわよー!」

 

「よ~しお姉ちゃんも楽しむぞ~!おかみさーん、お店の品全部もってきて~」

 

「薙沙さん、ありがとう。わたしも今日は羽目をはずします」

 

「ちょっと!人和さん!?あなたのお姉さん、すごい事いいましたよ?おかみさん、キャンセル!キャンセルで!!」

 

勿論、キャンセルという言葉が通じるわけも無く、全ての品までとはいかなかったがかなりの料理が出てきてしまい薙沙の胃はきりきり痛むのであった

 

薙沙との会食を終え、宿に戻る三姉妹は今日の事を話題にして盛り上がっていた

 

「今日は薙沙ちゃんに元気をわけてもらったね~」

 

「そうね。あいつ結構いいやつだわ」

 

「地和姉さんったら、薙沙さんがなかなか遊びに来なかった時、いつくるのよ!とか騒いでたじゃない」

 

「な、なにいってるのよ!」

 

「地和ちゃんは素直じゃないな~」

 

「ふ、ふん。まぁ薙沙の言うとおり、気分一新して明日からまた頑張るわ」

 

「そういえば~お姉ちゃん、薙沙ちゃんから見せてもらったしゃしん?の男の人がきになるなー」

 

「あー!ちぃもそれ気になった!確か薙沙のお兄さんの絵よね?」

 

「薙沙さんがべた褒めしてた人よね。わたしもあってみたいな」

 

「お姉ちゃんが薙沙ちゃんのお兄さんと結婚したらあのかっこいい人が夫で薙沙ちゃんが義姉になるよね~」

 

「ちょっと!ちぃも気になるって言ったじゃない!勝手に話すすめないでよ」

 

「お姉ちゃんが一番最初に言ったもーん」

 

「地和姉さん、それを言うなら薙沙さんの断りもなしに勝手に話をすすめないで、でしょ・・・」

 

薙沙の知らないところで一刀の話題で盛り上がり始めた三人に近づいてくる影が一つ。その影は三人の前に止まり話しかけてきた

 

「あのー、張三姉妹の方々ですよね?」

 

急に話しかけてきた男に三人は警戒するが、応対する

 

「はい。そうですけど・・・」

 

「あ、あの!俺、あなた達を応援してるんです。これ、つまらないものですけど売ったらそこそこ金になると思うんでよかったら使ってください!」

 

男はそう言って三人に竹簡を渡し去っていった。手元にある竹簡を訝しげに見る三人。おもむろに人和がそれの内容をみて絶句する

 

「大・・・平要・・・術?こ、これは・・・」

 

「なになにどうしたの?」

 

「姉さんたち。これに書いてあることすごい内容よ!この方法を使えば私達の転機になるかもしれない・・・!」

 

「え~お姉ちゃんよくわからないけど、人和ちゃんがそういうならそうなんだね~」

 

「ねぇねぇ、それって薙沙をびっくりさせられるくらい?」

 

「えぇ!私達が人気者になったら薙沙さんも喜んでくれるわ」

 

「そうよね!人気者になったら一番最初のふぁんの薙沙も鼻高々よね!」

 

竹簡を見ながら話をする三姉妹に再度近づいてくる人影があった。警邏をしていた季衣である

 

「あれ~、姉ちゃんたち。こんな所でなにしてるの?」

 

「あ!季衣じゃない!さっきまで薙沙と一緒に食事してたのよ。今からちぃ達は宿に帰る所」

 

「えー!いいなぁ。ボクもいきたかったよ・・・」

 

「次は季衣も一緒に食事しましょ?」

 

「うん!楽しみにしてるよ!ところで、怪しい人みなかった?」

 

「怪しい人・・・?わからないわ。というかここ物騒なの!?」

 

「うーん。お尋ね者がいるかもっていう事だから姉ちゃんたちもはやく宿に帰ったほうがいいよ」

 

「そ、そうね!危ないからはやく帰ることにするわ。季衣も気をつけなさいよ!」

 

「うん!ありがとう姉ちゃん。それじゃあねー」

 

季衣を見送った三姉妹は足早に宿に戻る事にした

 

【北郷 薙沙の陳留での日常 其の壱】

 

 

「北郷!邪魔するぞ!!」

 

部屋の扉を勢いよく開け春蘭が入ってきた。その後ろには秋蘭の姿が見える

 

「ちょっと春蘭ちゃん!レディーの部屋はいるときはノックしてよね」

 

膨れっ面で薙沙が抗議するが、春蘭は「れでー?のっく?」と首をかしげていた。薙沙は軽くため息をつき

 

「まぁ、いっか。それより秋蘭ちゃん、いらっしゃい!」

 

と、秋蘭達を歓迎した

 

「あぁ。北郷、邪魔するぞ。今、大丈夫だったか?」

 

「うん!春蘭ちゃんが開けた扉が元に戻らないこと以外は大丈夫だよ」

 

そういわれて扉をみた秋蘭は申し訳なさそうな顔をした

 

「ところでどうしたの?何かあった?」

 

と、薙沙が春蘭に尋ねる

 

「北郷がな、言っていただろう。秋蘭と仲良くなりたいと。だから連れてきた。思う存分仲良くするといい!!」

 

春蘭の言葉に薙沙は顔を綻ばせ春蘭に礼を言う。薙沙は部屋の備品でお茶を入れ二人をもてなしながら話をした。そんな中、秋蘭は思い出したことを薙沙に問う

 

「そういえば、視察の時に華琳さまから聞いたのだが北郷には兄と妹がいるそうだな」

 

「うん!自慢のお兄ちゃんとお姉ちゃんだよ!」

 

「華琳さまがなその話を聞いた後、なにか思う所があったようでな。私としてはどのような話をしたのか詳しく聞いてみたいのだが・・・あまり詮索をするのは北郷は迷惑か?」

 

「秋蘭ちゃんがあたしの事、北郷の事に興味を持ってくれるのは嬉しいからお話しするよ」

 

それから薙沙は姉の事を話した。幼い頃、姉は両親を亡くして北郷に養子として迎えられた事。義姉にとって世界の全てだった両親を亡くした事はあまりにも大きな喪失で、義姉はこのまま死んでしまうと思ったくらいだった事。そんな義姉を支えようとした兄、祖父を見て自分も何かしたいと思った事。それから時間はかかったけど義姉が本当の意味での家族となり姉となった事をかいつまんで話した

 

「お姉ちゃんがその頃、あたしに言ってくれたんだ。ありがとう、って。一度失ったけど私はまた手に入れることができた。生きててよかった、って」

 

薙沙は当時を思い出しながら言った。春蘭は「よかったなぁ・・・うぅぅ・・・」と涙ぐんでいた

 

「そうか・・・北郷も大変だったのだな」

 

秋蘭は薙沙の北郷家の絆を感じとってそれ以上のことは言えなかった

 

「でも、華琳ちゃん、思うところがあったって事はあたしの言いたい事は少しでも伝わってくれたのかなぁ?」

 

「それはどういうことだ?」

 

秋蘭が状況がわからず問う。そこで薙沙は家族の話をする前、視察も終盤に差し掛かったところで華琳と喧嘩状態になった事を告白した

 

「そうか。北郷は部下ではなく友だと華琳さまに主張したのだな。それで華琳さまは何と?」

 

「他の世界からきたあたしをこの世界の基準で判断しても無駄だって。カゴ被せられた。華琳ちゃん怒ってるのかな?嫌われたのかな?その後は普通に話ししてくれてるけど、今になって不安になってきた・・・」

 

秋蘭は思考をめぐらせ口を開いた

 

「いや、華琳さまが本当に怒っていたのなら今北郷は生きてはおらぬよ。北郷よ、私は思うのだがな。貴殿の気持ちは華琳さまに伝わっていると思う。北郷が華琳さまの為を思って言った事は部下であるわたしらにはできない事だ」

 

「そうかなぁ。うぅ胃が痛くなってきた・・・」

 

「北郷はどういう気持ちでその会話をしたのだ?」

 

「途中で挫折しそうになっても、生き抜いてほしい。大切な人には生きていてほしい。そして本人が望む限りあたしは力になってあげたい、こういう気持ちだったよ」

 

「北郷は戦のない世界から来たのだろう?この世界では誇りある戦死という考え方がある。考え方の違いでそのような状況になったのであろう。だが大切な人に生きてほしいという考えの根本はわたしらとてかわらぬよ。華琳さまは北郷の意図を理解したからこそお許しになったのだ」

 

秋蘭はそこで一旦、言葉を止め、薙沙の目を見て言う

 

「北郷、これからも我らと共に華琳さまの助けになるようよろしくたのむ。華琳さまは常日頃仰っているだろう?多様な視点からの意見は大切だと。貴殿には我らとは違う視点で華琳さまを支えてほしい」

 

薙沙は秋蘭の言葉で胸のもやもやが取れた気がした。そして笑顔で秋蘭に言う

 

「勿論だよ!」

 

そこまで黙って話の成り行きを見守っていた春蘭が口を開いた

 

「北郷ぅ・・・」

 

「春蘭ちゃんどしたの?」

 

「華琳さまに馬鹿とかいったり、引っ叩いたりしたら駄目だぞ。首が飛んでしまうぞ」

 

「姉者・・・北郷はそのような意味で言ったのではないぞ。華琳さまも北郷を処刑なぞせんよ」

 

「そ、そうか!そうだよな!!心配して損したぞ!はっはっは!」

 

薙沙の肩をバシバシ叩きながら春蘭は笑った

 

「痛い痛い!そういえば、二人共、あたしを北郷って呼ぶけど、できれば薙沙って呼んでほしいなぁ」

 

「そうだな。それではわたしからも提案がある。その・・・だな、ちゃん付けでなくてそのままで呼んでくれんか?少々こそばゆい」

 

「おぅ!わたしはどっちでもいいぞ!」

 

「なら・・・」と二人に改めて向き合う薙沙。そして口を開く

 

「春蘭」

 

「応!!」

 

「秋蘭」

 

「応!」

 

「これからもよろしくね!」

 

「こちらこそだ(ぞ)薙沙!」

 

【北郷 薙沙の陳留での日常 其の弐】

 

 

晴天の下、薙沙と季衣は町を警邏していた。季衣にいたっては賊討伐以外の仕事といえば、華琳の警護か町の警邏が主であるので町の治安はだいたい把握していた

 

「今日も忙しくなりそうだね~姉ちゃん~」

 

「そうだねー季衣ってば最近頑張りすぎじゃない?無理してない?」

 

「大丈夫だよ~!一杯食べて一杯寝れば元気でるよ!」

 

ここ最近働きづめな季衣の体を心配して薙沙が問うが季衣は元気いっぱい答えた

 

「とはいえ、警邏に人が足りないってのは事実なんだよね」

 

「心配しないで姉ちゃん!その分、ボクがたくさん働くから!」

 

(これは・・・華琳ちゃんに相談しなきゃね)

 

季衣の世の為人の為の健気な姿勢に胸をうたれる薙沙ではあったが、今後の事を考え華琳に提案する事を心に決めた

 

 

それから薙沙は華琳に事の状況を説明、桂花を通して警邏の人員強化と季衣の休養が約束された。しかし人員が強化されるのはしばらく後になりそうだという事だった。そこで薙沙は春蘭、秋蘭に相談しに部屋を訪ねた

 

「春蘭~秋蘭~いる~?」

 

「応!薙沙か!入れ入れ」

 

「やほー!お邪魔します!」

 

春蘭が招き秋蘭がお茶を入れ歓迎してくれた。そこで警邏の件を二人に話した

 

「と、いう事なんだけど、人員強化されるまでもうちょっと時間がかかりそうなんだよね・・・」

 

「ふむ。兵から警邏に簡単に回すと格下げだと腐る輩もでるであろうしな。人の確保も容易ではないのだよ」

 

「そうだよねー・・・」

 

「二人共、なにをそんな簡単な問題に頭を悩ませているのだ!!」

 

春蘭が勢いよく立ち上がり言い放つ

 

「我らがやればよかろう!!」

 

「・・・姉者、非番のときならいざ知らず、勝手にそのような事をしたと知れたら処罰されるぞ」

 

秋蘭が勢いだけで喋る姉を諫める。すると薙沙が続いて立ち上がった。そして春蘭を指差して「それだ!!!」と言った

 

薙沙はひらめいた事を説明する。要は素性が知れずに自分達が警邏を担えば多少ではあるがましだという事だった

 

「しかし都合よく皆が非番のときなど滅多にないぞ?」

 

秋蘭のもっともな言い分に薙沙は

 

「確かに、昼間は非番の人がそれぞれ警邏を手伝えばいいと思うよ。でも、夜は皆暇なときあるよね?次の日の仕事に差し支えない程度に夜間見回りを行いたいと思います!」

 

と言い、春蘭が同意する。秋蘭は「しかし勝手な事をしたと華琳さまに知られたらいろいろまずいだろう」という

 

「そこで、このカゴですよ!!みんな持ってるでしょ?」

 

「そ、そうか・・・」

 

秋蘭は目から鱗が落ちたかのような表情をした

 

「折角だから、悪党を懲らしめる名乗り口上みんなで考えようよ!」

 

「う、うむ!これは楽しそうだ・・・」

 

なんだかんだ言って秋蘭は春蘭の妹であった。もともと乗り気な春蘭に加え異常にテンションがあがった秋蘭と共に薙沙は意見を交換し合って口上を完成させた

 

 

「よーし、皆、リハするよリハ!!」

 

「りは?なんだそれは?」

 

「あーごめん。予行練習するよ!じゃあカゴ被ってさっき覚えた名乗り口上打ち合わせどおりにお願いね」

 

町に現れた悪党を眼前に見据えた状況を想像しながら予行練習が行われた

 

 

薙「ひとぉ~つ!人の世、生き血を啜り」

 

春「ふた~つ、淫らな悪行三昧」

 

 

 

「はい、すとーーーっぷ!!!」

 

春蘭の台詞の後すぐさま、薙沙が中断させる

 

「春蘭さん、淫らってなんですか。一番間違えちゃいけないところだよ!台無しだよ!」

 

春蘭の額を指で弾きながら薙沙はいった

 

「な、薙沙!なにも殴る事はないだろう!!」

 

涙目になりながら春蘭が抗議するが、秋蘭は姉を睨みながら言った

 

「・・・姉者。わたしは自分の台詞を言う瞬間を楽しみにしていたのだがな・・・?」

 

秋蘭がなぜそこまで怒っているのか理解できなかったが、薙沙と春蘭は秋蘭が怖すぎたのでそそくさと二回目に移行した

 

 

薙「ひとぉ~つ!人の世、生き血を啜り」

 

春「ふた~つ、不埒な悪行三昧」

 

秋「みぃ~つ、醜い浮世の鬼を、退治してくれよう!」

 

薙「我ら三人!!」

 

春「天に代わっておしおきよぉ~~~うっ!!」

 

 

「はい!すとーーーーーっぷ!!!おいこら春蘭、てめなにしとん」

 

「な、何故だ・・・!今のは完璧だったはず・・・!何がいけなかったんだ!!」

 

「何?おしおきよぉ~~~うっ!って。何で語尾あげるの?歌舞伎?歌舞いてるの?歌舞伎すぎだよ!!!!」

 

薙沙の苛烈な勢いに押され、春蘭は謝る

 

「す、すまない。なんだか気分が高揚してしまって・・・」

 

「・・・姉者、私よりも台詞が多いにもかかわらずこのような有様・・・次は無いぞ?」

 

また秋蘭の様子がおかしいのに気付いた薙沙は春蘭に耳打ちする

 

(な、なんで秋蘭、あんなに真剣なの・・・?)

 

(わ、わからん・・・!だがこれだけはいえる。これ以上秋蘭を怒らせたらまずい・・・!)

 

 

気を取り直し再度、予行練習をしようとした矢先、部屋を訪問した者がいた

 

「春蘭さまたち何してるんですか?」

 

カゴを被ったままの三人が固まる

 

「おい、薙沙、思いっきりバレているではないか!」

 

「いやだってここは二人の部屋だし、夜間見回りのときなら暗いし平気だよ!たぶん」

 

「仕方が無い。ここは季衣に説明しよう」

 

 

 

休みをとらされ仕事から干されたと思い悩み春蘭を訪ねてきた季衣に、今やっていた事の内容と理由を説明した

 

「春蘭さま、秋蘭さま、姉ちゃん・・・皆ボクの為に・・・?」

 

季衣は申し訳なさから俯いてしまう。そんな季衣に声をいち早くかけた者がいる

 

「何を俯いているのだ。季衣よ。お前はよく頑張っている。それは華琳さまもきちんと評価してくださっているだろう。しかしな最近は頑張りすぎだ。休めるときに休んでおかねばこれから先やってはいけないぞ」

 

「でも、ボクが休まずに働いていればもっと多くの人が助かるかもしれません」

 

「休まずに季衣が働けば今困っている民をたすけられるだろう。しかしお前が過労で倒れてしまったらその先で助けをまっている民を救えぬぞ」

 

「じゃあ・・・休んでいるときの民は見捨てるってことですか・・・!」

 

気丈に食って掛かる季衣を見ながら春蘭は静かにいう

 

「わたしは伝え方が上手くないのでどういっていいのやら・・・でもな、季衣よ。お前は一人ではないのだ。我らがいる。お前が休んでいるときは我らが、我らが休んでいるときはお前が。そうやって弛まず世の為華琳さまの為働こうではないか」

 

秋蘭と薙沙は信じられないものを見たという表情をする。その表情に気がついた春蘭は二人に話しかけた

 

「や、やっぱり上手く伝わらなかったか?しゅうらん、なぎさぁ、なんとかしてくれ!」

 

困ったように二人にすがる春蘭は腰に季衣が抱きついてきた事を知る

 

「ど、どうしたのだ?季衣?」

 

「春蘭さま、ありがとう。ボクやっと姉ちゃんや華琳さまが心配してくれてた事に気がついたよ。そうだよね。ボクは一人で戦ってるわけじゃないんだよね。えへへ」

 

「そうだよ!季衣。あたしと出会ったときまでは一人で戦っていただろうけど今は皆がいるんだよ」

 

「そうだな。しかし流石は姉者だ」

 

「今の春蘭、格好よかったね!!」

 

皆で和気藹々としていると季衣が皆に提案した

 

「あのね?ボクちゃんと休めるときに休むって約束するよ!だから、今、なんか練習してたのにボクもいれてほしいなぁ・・・ちょっと面白そうだなぁって・・・」

 

これは元々、季衣が休んでいる間に自分達が行うものであったのだが、この流れで否という者は誰一人としていなかった

 

「よし!では薙沙!口上をもうひとつ加えてもう一回やろう!カゴは・・・おぉ、もう一つ都合よくあったぞ」

 

そして再開した

 

 

薙「ひとぉ~つ!人の世、生き血を啜り」

 

春「ふた~つ、不埒な悪行三昧」

 

秋「みぃ~つ、醜い浮世の鬼を」

 

季「よぉ~つ、世の為人の為、退治してくれよう!」

 

薙「我ら四人っ!!」

 

春「天に代わって~」

 

秋「おしおきよぉ~~~~っっ!!」

 

秋蘭の熱い思いが炸裂した

 

 

「あの・・・秋蘭さん・・・?」

 

「いや、すまない・・・なんだか気分が高揚してしまってな・・・」

 

「そうであろう?秋蘭もかぶいてしまったのであろう?こやつめ、かぶきすぎだぞ!!はーっはっは!」

 

「姉ちゃん、かぶき、ってなに?」

 

「この姉妹みたいな人のことだよ・・・(違」

 

「それで?いつまでこの寸劇は続くのかしら?」

 

「この姉妹が歌舞かなくなるまでだ・・・よ・・・?」

 

「「「げぇっ!華琳さま!!」」」

 

突然の華琳の参入に焦る四人。薙沙はおそるおそる華琳に尋ねる

 

「あの、華琳大明神様、いつからそこに?」

 

「大明神ってなによ?いつから?そうね、季衣がこの部屋にきた直後、かしら」

 

「と、いうことはあたし達がなにをしているのかもご存知で?」

 

「えぇそうね。寸劇の練習ではなくて、勝手に夜中に警邏をする為の練習ってことくらいなら把握してるわ」

 

皆、カゴを外せず固まる。カゴを被った四人が俯いて黙っている状態はなんともいえない光景であった

 

「そこに正座なさい」

 

華琳の一言でおずおずとみな座る

 

「薙沙。これはどういうことかしら?」

 

「はい・・・警邏の人員強化までの間、あたしにできる事はないか考えた結果こうなりました」

 

「春蘭。あなたは?」

 

「こ、これは薙沙のやつが無理やり・・・!」

 

(春蘭、裏切ったな!!)

 

(うるさいうるさーい!元はといえば薙沙のせいだぞ!!)

 

正座しながら肘と肘をぶつけ合う二人にため息をはきながら

 

「秋蘭。あなたが参加するだなんて珍しいわね?」

 

「はっ。仲間の為にわたしも、というのが主な理由ですが・・・地味な印象を払拭してみたくなりまして・・・」

 

この秋蘭の告白に皆、目を見開き絶句する

 

(だ、だから、あんなに熱心だったんだ・・・)

 

薙沙は今まで腑に落ちなかったものがすとんと落ちた気がした

 

「しゅ、秋蘭?あなたは地味ではないわ」

 

「華琳さま・・・!わたしの目を見て言って下さい」

 

華琳は必死に秋蘭の視線を避けながら慌てたように季衣に言う

 

「き、季衣はもう無理する様子はなさそうね。今しばらくは休みなさい。そして勝手に夜間警備をしようとしたこの三人はこれから一週間、季衣の仕事の代わりをなさい」

 

(華琳ちゃん、スルーした・・・!)

 

「まぁ、皆、季衣の事を思ってしたようだから罰を与えようとは思わないけど勝手な事はしないようにね」

 

そう言った後、そそくさと部屋を後にした

 

部屋にはなんともいえない雰囲気が漂い、皆で秋蘭を盛り上げる会に移行したのはいい思い出である

 

【北郷 薙沙の陳留での日常 其の参】

 

 

薙沙が陳留に来てから半月ほど経過した頃、華琳に呼び出された。華琳の私室には春蘭も一緒にいた。入室してきた薙沙をみつけた春蘭は笑いながら言う

 

「薙沙め、華琳さまに呼び出されるなんて今度は何をしでかしたのだ?」

 

春蘭にそういわれ身に覚えがあるようなないような薙沙はぎりりと奥歯をかみ締める。得意げな春蘭を冷ややかな目でみていた華琳はおもむろに話しかけた

 

「春蘭、あなた何故笑っているの?呼び出したのは薙沙だけじゃないでしょう」

 

春蘭はまさか、と思い華琳に質問する

 

「わ、わたしもですか!?わたしは何もしていません!!全てはこの薙沙めが!!」

 

「ちょっと!春蘭!冗談はその頭だけにしてよ!」

 

「だぁれの冗談だとしても笑えないほど頭が眩しいだとぅ!?」

 

「いやいやいや!そんなこと言ってないってば!頭の中がおかしいって言っただけで頭そのものはいってない!」

 

「そ、そうか。ならいい」

 

二人はいつものやりとりをしているのだが、華琳の冷ややかな視線は継続中である

 

「あなた達これをみなさい」

 

華琳はそう言って二人に竹簡をみせる。二人はその内容を確かめる為に次々と目を通していった

 

「これは・・・?以前提出した報告ですか?」

 

「あれ?この字あたしが書いたやつだ。この汚い字のは春蘭の?」

 

「はっはっは!薙沙も人のこといえないだろう。なんだこれは豪快すぎて笑えるぞ!」

 

「二人共、気がついたのはそれだけ?他にはないの?」

 

華琳の問いに薙沙は

 

「真心をこめて作成した報告です!内容はそこそこ素晴らしいです?」

 

といいながらウィンクしながらぺろりと舌を出し答えた。横では春蘭が真似しようとして両目をつぶっていた

 

「なんで最後が疑問系なのよ・・・まぁ内容はいいわ。問題なのはね、誤字、脱字が多すぎる事よ!!ここまでくるともう暗号ね」

 

「そ、そんなに!?」

 

「なんと・・・!」

 

「あなた達の報告に目を通すときだけ時間がかかるのよ!通常の三倍くらいね!!もう頭痛が酷くなったわよ・・・」

 

そういいながらこめかみを押さえる華琳。薙沙はおずおずと持っていたものを差し出す

 

「これは?」

 

「あたしって生理痛がひどくてこれよく飲むんだけど、よかったらどうぞ?」

注:人に勝手に医薬品を処方してはいけません

 

「これ、大丈夫なの?」

 

「半分がやさしさで出来てる薬より上等なやつだから大丈夫!でも、飲むときは空腹時に飲まないでお腹になにかいれてから飲んでね。胃が荒れちゃうから」

 

「・・・?よくわからないけど、平気そうだから飲んでみるわね・・・そんな事より!!二人はこれからしばらく勉強をしてもらいます。桂花!」

 

「はっ」

 

どこに潜んでいたのか、桂花がすっと傍に控えた

 

「わたし直属の者がこのような有様では笑いものだわ。いい機会だから二人共、しっかり励みなさい。成果は一月後、私が作った問題を解いてもらい設定した基準を超えぬようなら更に半月延長します。頼むわね、桂花」

 

「御意に」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

答えたのは桂花のみ。春蘭と薙沙は真っ白になり固まっていた

 

 

 

それから春蘭と薙沙にとって地獄とも思える日々が続いた。日中の仕事に加え、夜間の勉強会。賊討伐の遠征時にも合間を縫って勉強させられた。寝る前に頻繁に行っていたお茶会ももちろん禁止。桂花は華琳からの命なので一切妥協しなかった

 

 

 

<開始から一週目の様子・桂花視点>

 

「ほら!さっさとするのよ!北郷!あんたはこれにこの文を口にしながら百回書いて。春蘭はこの兵法書を読んだ感想をこの竹簡二つにまとめて提出。終わるまで寝かさないわよ」

 

全く。この二人の相手をさせられるなんて思ってもみなかったわ。でもこの馬鹿二人に知恵をつければ華琳さまはお喜びになられる。どうせなら私にはむかわないよう調教すべきかしら

 

「竹簡二つ分だと・・・?これを読み終えるまでどれくらい時間がかかるとおもっているのだ!!」

 

「じゅんいくぶんじゃくじゅんいくぶんじゃくじゅんいくぶんじゃくぶんいくじゅんじゃく・・・・・・言い辛いよ!!!」

 

ふん・・・。反論できるなんてまだまだ二人共、余裕そうね。いいわ。だったらその余裕なくしてあげる

 

 

 

<開始から二週目の様子・桂花視点>

 

「なぁ、薙沙ぁ・・・今日は私達、頑張ったよな?このところ派手に暴れてた賊共の拠点も潰せたし。今日くらいは少し休んでもいいとおもうよな・・・?」

 

「そうだよー。今日はもうくたくただよー。桂花ちゃん、明日頑張るから今日だけはお休みにしようよー」

 

なんなのこいつら。確かに日中の仕事に影響を及ぼさないその体力は評価するけど、つかれたぁ~とか言いながら机の上に乗せているその無駄な贅肉は何?何なの!?見せ付けてるの!?

 

いいわ。だったらその無駄な贅肉が落ちるくらいまでしごいてあげる・・・

 

「何ふざけたこといってるのよ!!華琳さまの要求する基準なんてまだまだ先よ!あんたたちに休んでる暇なんてないんだから!」

 

「「うぅぅぅ・・・」」

 

 

 

<開始から三週目の様子・桂花視点>

 

「ょぼょぼ・・・ょぼょぼ・・・春蘭~、少し休憩ほしいよね~?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・春蘭?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「春蘭、ねぇ、お願いだから目を開けて?春蘭?しゅんらぁーーーん!!」

 

「うるさいわね!黙ってやりなさいよ!!」

 

ふふふ。春蘭は陥落したわね。次は北郷、あなたよ・・・!

 

 

 

<試験前日の様子・桂花視点>

 

「この世で一番美しく聡明な人物は?」

 

「何をいっておられるのですか、桂花さん。そんな人物は華琳さま以外いないでしょう。ね?薙沙さん?」

 

「その通りですわ。もう桂花さんってばそんな愚問をお聞きになられるだなんて意外とお茶目さんなんですね、うふふ」

 

機は熟した。この荀彧文若の最高傑作がここに誕生したわ・・・!

 

「明日はあなたたちの実力を華琳さまにお見せする日よ!・・・大丈夫。あなた達ならできるわ!あなたたちは私の最高の弟子なのだから!!」

 

「「先生・・・!!」」

 

あぁ、なんかいいわね。こういうのも。この二人もしおらしいと可愛げあるじゃない。明日、華琳さまに認められるといいわね。頑張ってね二人共

 

 

 

そして勉強月間最終日、二人は華琳と桂花の監視下のもと、問題を解いていた。一心不乱に問題にとりかかる二人。そんな二人をまるで愛しい子供達をみるかのような母親の顔で見守る桂花

 

華琳はこの異常な状況にややひいていた。そして試験終了の合図。すぐさま採点に取り掛かった

 

採点された答案を見た華琳は驚きを隠せなかった。華琳が設定した基準は六割であったのだが二人共、正答率が八割を超えていたのだ。特に春蘭の問題においては秋蘭でもここまでの点数を取れないであろう難易度であったのだ

 

「よくやったわね。二人共。桂花もよくぞここまで二人を育てた」

 

華琳はねぎらいの言葉を三人にかける

 

「はっ。有り難き幸せ。しかしながら私達がここまでこれたのも桂花先生のおかげです」

 

「そうですわ。華琳さま。桂花先生の優秀な指導のおかげで私達ここまでこれたんですのよ」

 

二人の喋り方に華琳の表情が引きつる

 

「ちょっと・・・桂花。これは一体・・・」

 

「はっ。二人共、以前と比べて少々かわっておりますが、今や武も智も一流の人物。華琳さまの覇道にお役に立つでしょう」

 

(桂花もちょっと様子がおかしいじゃない・・・一体どういう勉強方法したのよ)

 

一月でここまでの成果をあげた彼女らに対して華琳の疑問も最もであった。それもそのはず、春蘭、薙沙だけでなく桂花も日中の仕事に加え、夜間は勉強会と睡眠時間を削って強行していたのだから、影響がないわけなかった

 

「ま、まぁいいわ。とりあえずあなた達、今日は休みなさい。お疲れ様」

 

華琳からもらった休暇で三人はお茶会を開いた。そのお茶会を目撃した秋蘭、季衣曰く、うふふ、あはは、おほほという笑い声が飛び交うさぞかし上品なお茶会であったそうだ

 

そのお茶会の桂花の何気ない一言、「あなた達ってどっちが強いの?」により事態は急転する

 

冷静だが苛烈に打ち合う二人、一刻ほど打ち合い続けた時奇跡が起きた

 

二人の間で巻き起こる衝撃波によりお茶がこぼれ床が濡れる。それに気付かず踏み込んだ薙沙が足を滑らせ春蘭とお互いの頭をぶつけた。その勢いで吹っ飛んだ春蘭が近くで見ていた桂花の頭に直撃。三人はその場で失神してしまった

 

翌日、目が覚めた三人はここ一月の記憶があいまいで、元の状態に戻ったようであった

 

が、春蘭は少し賢くなり、薙沙は読み書きに不自由しなくなり、桂花は二人に対して少し険がとれたようだった

 

「薙沙。おはよう」

 

薙沙は部屋から出ると声をかけられた。声をかけてきた人物は華琳であった

 

「華琳ちゃん、おはよー。こんな所にいるなんて珍しいね」

 

「昨日のうちにやるべき事を終わらせたから今日は時間が出来たの。昼までだけれど。薙沙は今日は非番よね?何処かいくの?」

 

薙沙は城内に居るときは楽な格好をする事が多い。しかし町に出るときは御遣いの衣装を着ることを華琳から命じられている。薙沙の今きている服はフランチェスカの制服だった

 

「うん。なんでも天和ちゃん達が今日、陳留を発つんだって。だから見送りにいこうかと」

 

薙沙に予定があったとわかり華琳は残念な気持ちになった。そんな華琳の心中を察したわけではないが薙沙は提案する

 

「華琳ちゃん今日、時間あるんだよね?だったら見送った後、昼までどこかでお茶しようよ」

 

「そうね。それは名案だわ」

 

華琳はうれしそうに返事をした

 

 

 

 

所かわって、陳留の町の門の前。そこには荷物をたくさんもった天和達と見送りに来た薙沙、付き添いの華琳がいた。天和達は曹操まできているとは思わず恐縮していた

 

「わたしは薙沙の付き添いできただけだから、気にしないで頂戴」

 

華琳の言葉に更に恐縮する三人だったが、薙沙に伝えたい事があったので話しかけた

 

「お姉ちゃんたちね~薙沙ちゃんが、曹操様の下で一生懸命、働いてるのをみててね、色々考えたんだよ~」

 

天和が薙沙の手をとりながら言った

 

「薙沙に負けてられないってね!ちぃ達の夢は薙沙みたいに世の為人の為って大層な物じゃないけど、ちぃ達にも薙沙みたいな事が少しでも出来るかと思って」

 

地和が二人の手に自分の手を乗せながら言った

 

「私達の夢は大陸一の歌い手になる事。でもその夢に向かう道中、歌で希望を失っている人々を癒す事も出来るかもしれない。そのために私達は陳留で色々研究しました」

 

最後に人和が手をのせ言った

 

「その夢達成までの道のりの算段が出来たから、ちぃ達、いくわね!!びっくになって薙沙と季衣を驚かせてやるんだから!」

 

人和は強い意志を秘めた眼差しで地和が薙沙に言った言葉に心の中で同意する

 

(私達が大陸の人々を歌で癒していけば、有名になればなるほど反乱が起こる地域は減るはず。それは間接的に薙沙さんが目指す大陸平定の助力になるはず・・・!なんの力もない私達でもできる、この大平要術があれば・・・!)

 

三人から出会ってから今まで見た事ないほどの強い意志を感じた薙沙であったが、別れが惜しくてついつい泣いてしまう

 

「可愛い子には旅させろっていうけど・・・可愛すぎる子には旅させちゃいけないと思うよ・・・うぅぅぅ」

 

「また天の国の言葉?ちょっと薙沙、今生の別れじゃないんだから、な、泣かないでよ・・・」

 

「うぅぅぅ、薙沙ちゃんも頑張ってね」

 

「な、薙沙さん、私達も頑張ります。次会えるのを楽しみにしてますね」

 

薙沙に釣られて三姉妹ももらい泣きしてしまいながら、別れを告げ出立していった

 

三人の姿が見えなくなるまで薙沙はエールを送り手を振っていた

 

頃合を見計らって華琳は薙沙に近づく。そして布を差し出しながら言った

 

「ほら、薙沙。酷い顔になっているわ。これで拭きなさい」

 

「あでぃがどう・・・がりんじゃん・・・チーーーーン!!」

 

華琳が固まる。顔が引きつっている

 

「ちょっと・・・それわたしのお気に入りだったのよ!」

 

「ごべんばざい・・・チーーーーーン!!」

 

薙沙がお気に入りの手拭いに止めをさしたのを見た華琳は文句を言おうとするが薙沙が泣き止まないので言うのをやめた

 

 

「あの子達は薙沙にとって大切な友人なのね」

 

華琳は三姉妹が旅立っていった方を見ながら言う

 

「うん・・・この世界にきて初めて出来た友達」

 

「そう・・・」

 

「じゃあこれからは・・・天の国の言葉で、らいばる?だったかしら?」

 

「え・・・?天和ちゃん達がライバル?」

 

「そうよ。私達とあの子達、どちらが先に目標を達成できるか。私は負けるつもりはないわよ。そうでしょ?薙沙」

 

「そうだね・・・!あたしも負けるつもりはないよ!」

 

華琳の気の利いた言葉に薙沙は感無量となったので、華琳に感謝の気持ちを伝える為に抱きつこうとする、が、両手は空をきる

 

何度やってもひらりひらりと華琳はかわす

 

「なんでよけるの!?」

 

「そんなぐちゃぐちゃの顔で抱きつかれたら汁がつくじゃない」

 

笑いながら薙沙の猛攻を避け得意げに言った華琳だったが

 

べちゃり

 

その顔に何かが張り付いたのを察して引きつる

 

華琳の一瞬の隙を突いて薙沙が手拭いを投げつけたのだった

 

「こ、殺す・・・絶対に殺す・・・」

 

華琳の殺気に事の深刻さに気がついた薙沙は脱兎のごとく逃げ出した

 

「なぎさぁーーーー!待ちなさーーーい!!」

 

結局、昼まで逃げ続けたが城に帰った時に捕捉された薙沙はその晩、華琳に夜通しおしおきを受けた

 

翌日、「安産型になったよ!へへへ」と強がりながら腫れたお尻を庇う薙沙が城内で目撃された

少女達の世を憂う気持ち、人を思う気持ち、友を想う気持ち。それらを踏みにじるかのように物語は動き出す

 

黄巾の乱の始まりである

 

ご挨拶

 

今回、更新が遅れまして本当に申し訳ありませんでした!

 

ご報告した際、お言葉を頂けて感謝しております。ありがとうございます

 

さて、今回はあとがきはさらっといきます。今日この後、弓音編、一刀編を仕上げうpする予定です。休日ですし、夜更かしできます!!

 

一刀さんのお話はほぼ出来てるんですが、どうしても弓音さんのお話を先にうpしたく、しかしながら弓音さん編のお話の量が今回の薙沙さんのお話の量にくらべて少なく感じてしまいやや難航しております

 

薙沙編、文章の量はどうでしたでしょうか?多すぎますかね。メインのお話をからめ拠点っぽく各武将との絡みというか日常をおりまぜたのですが、分けた方がいいでしょうか?ご意見いただけたら助かります

 

他にもこうしてほしい、とか、こうしたほうが良い、読みやすいなどなど、前回同様ご助言いただけるとありがたいです

 

 

少しでも皆さんの暇つぶしになれれば幸いです。それでは作業にもどります


 
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