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ナンバーズ No.11 -ウェンディ- 「ラスト・リゾート」

ナンバーズも11人目。スケボー娘です。
後のナカジマ家の一員となる彼女は、仲良しのノーヴェと共にあるミッションに挑みます。
ウーノ姉様も手こずったライバルの女が登場します。

2010-09-13 01:31:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1113   閲覧ユーザー数:1070

 博士が生み出した人造生命体の9番目のノーヴェと、11番目のウェンディはよく行動を共にする事が多かった。二人ともどこか外見が似通っており、炎のような色の髪の色をしているのが特徴だった。ノーヴェはそれを少年のようにショートカットにしているが、ウェンディは本物の炎であるかのように、アップの髪型にしている。

 性格は似ても似つかず。ノーヴェはいつもアドレナリンが過剰に放出されているかのように感情的な性格をしており、ウェンディはというと、妙な口癖とひょうひょうとした態度、恐れを知らない子供の様な自信に満ちていた。ただ、子供じみた少年のようなものであるというのは似ている。

 兵士として、彼女達が存在するならば、そうした感情は正に不要である。子供じみた感情など、兵士としての彼女達が遂行する任務には全く必要ない。

 しかし、博士はまるで楽しむかのように、彼女達の性格を色づけ、それを任務よりも優先させていた。

 博士の目的は、この宴と言う名の計画の先にある、人造生命体の世の中への普及にある。そのためには、多様な性格は必要とされていたのだ。

 

 

 

 その宴も、最終段階へと近づいてきていた。ウェンディとノーヴェは、ある企業施設へと侵入して、計画の最後の段階で必要となる、ある物を入手しようとしていた。

「最後のカードキーッスか。ウー姉や、トーレ姉がパクって来たカードキーの最後のものを、あたしらが手に入れる事になるとはね」

 ウェンディは机の引き出しを引き抜いて、中にあった書類を床へと散乱させていた。そこには、ペンやらメモリーディスクなどはあったが、どれも彼女にインプットされているカードキーの形状とは一致しない。

「さっさと探せよウェンディ。警備が強化されたら厄介になるんだぜ」

 ノーヴェはそう言いながら、かなり乱暴に机をけり飛ばしたりして、カードキーを捜そうとしていた。

「その辺に置いてあるようなものじゃあないッスよ。多分、金庫とか、保管庫とか、そういう大切なものを入れてある所の筈ッスから」

「じゃあ、そうした所を探せよ。今回のカードキーの在り処はノーヒントだってからな!」

 ノーヴェがうんざりとしたような声でそう言って来た。そうしたノーヴェの怒りを持つような態度を他の姉妹達は腹立たしく思う事も多いようだが、ウェンディはそうではない。

 ノーヴェとはほとんど同じ時期に生まれており、あたかも双子であるかのように思って来ているし、ウェンディはノーヴェのそうした態度の背後に、相手を思いやるような気持ちが見え隠れしているような気がしていた。

 ノーヴェからは殴られた事さえあるウェンディだったが、彼女はそれさえも受け入れていた。

「ここで、ウー姉から貰っていた情報が役に立つッス。どうやらこの会社は幾つか隔離金庫を持っていて、その中に機密が隠されているようッスね」

 ウェンディがそう言うと、ノーヴェはまるで親の仇を見るかのような顔でウェンディを睨みつけてくるではないか。

「さっさとそれを言えよ!遊びに来たんじゃあねえんだぞ!」

 ノーヴェはそのようにウェンディに言い放つと、ウェンディが持っていた光学画面を奪い取り、それに目線を落とした。

「この目の前の扉の先じゃあねえか。まったくよ」

 ノーヴェはそう言い放ち、ウェンディに光学画面を投げ渡した。

「いや、色々とイベントがあった方が楽しいと思って」

 ウェンディはそんなノーヴェの態度を見ても、あたかも遠足にでもやってきた子供であるかのような顔をしてそう言った。

 ウェンディは自分でも、これが非常に重要な任務の一環であると言う事を気づいていたが、どうしても遊びとしての任務を好む癖があった。

 そんな事が、姉妹達の中でも特に厳しく、融通が利かないと言われているウーノやトーレに知られれば勘当される事は間違いなしだが、今はノーヴェしか一緒にいないし、結局のところ、カード一枚を手に入れる事ができればそれで良いのだ。

 ノーヴェはとっとと金庫室らしき扉へと向かってしまう。もう少し、このオフィスを荒らすという遊びもすれば、面白いものが見つかるかもしれないのに。そう思ったが、任務で遊び過ぎだと言うウーノ達の叱責や、任務自体が失敗するのはウェンディとしても嫌だったから、ノーヴェと共に金庫室へと向かった。

 金庫室は硬い扉によって閉じられている。それは強化素材で出来ているらしい。ドリルなどを使っても突き破る事は不可能だろう。

「この扉の向こう側にあるッスね。でもこの金庫室の扉は、厚さが10cm以上もあって」

 ウェンディがそう言いかけた時、突然ノーヴェはその拳を振り上げる。彼女の右腕についている大型のナックルの可動部分が、激しい音を立てて回転し出した。

「ちょっと」

 ウェンディがそう言いかけた時、すでにノーヴェはその拳を強化扉へと突き出していた。扉は大きくへこんでしまう。

 さすがは強化扉だった。人間離れをしているとはいえノーヴェの拳一発くらいでは壊れない。だがノーヴェは唸り声を上げるなり、今度は蹴りも加え、さらにもう一発拳を繰り出して、その強化扉を破ってしまった。

「さすがノーヴェッスね。でも、今ので、間違いなく警報装置は作動しちまったッス」

 ウェンディの言うとおりだった。深夜のオフィスルームの照明が突然赤い色へとなり変わり、警報アラームがけたたましくなり出した。

「細けえ事はどうだっていいんだよ!どうせ、カードを手に入れてずらかるだけだろうが!」

 ノーヴェは乱暴にそのように言いながら、金庫室の中に足を踏み入れた。金庫室の中は無機質な空間になっており、ただそこの中央に、ガラスボックスの中に収まった箱の様なものが置いてある。

「まあ、そうなんスけどね。ウー姉やトーレ姉が、以前にもカードキーをパクっているから、もしかしたら警戒が強まっていて、そう簡単に奪う事は出来ないかもしれないッス。それに今回の場合はノーヒントだって言ったじゃあないッスか。ウー姉からの情報は、金庫室の在り処だけであって、そこにカードキーがあるっていう保証は無いんスよ」

 だが、ノーヴェは何度も拳と蹴りを繰り出していき、その金庫扉を破壊してしまった。砕けた扉の留め金が弾け飛んで、扉が奥側へと倒れ込む。厚さ10cmあるという扉は重々しい音を立てながら倒れ込むのだった。

 そしてすかさず警報が鳴り響く。非常灯の赤いランプが点滅し出し、警報が鳴り響く。

「うるせえな、全くよ」

 その警報にうんざりとした様子で、ノーヴェは金庫室の中に入っていった。

「この会社のセキュリティは、完璧でスからね。そりゃあ、扉をぶっ叩けば警報ぐらい鳴るッスよ」

 ウェンディがその背後からゆっくりと、周囲を見回しながら金庫室に入っていく。

「スキャンするぜ」

 ノーヴェはそう言いながら、自分の頭に付けられているデバイスの一つを操作した。それは、彼女の脳に直結している機器であり、彼女の視覚をスキャンモードに変える事が出来た。

 目の前の視界をスキャンしていく。金庫室の中には銀色のケースに入れられた何かがあるばかりで、中には何が入っているか分からない。

「ちっ。これだけケースがあると分からないぜ。だけどよ、博士があたしに付けてくれたこのデバイスを使えば、銀色のケースを透過して、カードキーがあるかどうかを判別できるんだ」

 そのようにノーヴェは言い、金庫室の中を次々とスキャンしていく。だが、そこにあるケースは多すぎて、彼女はあっという間にいらいらとして来た様子だった。

「あったッスか?」

 ウェンディがそう背後から言うと、いきなりノーヴェはいきり立った。

「うるせえな!今、集中してんだろうが!」

 ノーヴェはそう言い放つ。しかしながら、その場で粘っていても、どうやらこの金庫室にはカードキーが無いようだった。

「クッソ、ねえぞ!」

 そう言い放つなり、ノーヴェは、側にあったケースを床へと叩きつけた。すると、ケースは砕け散り、中にあったコンピュータチップのようなものが散乱した。

「まあまあ、そんなに簡単には見つからないッスよ。ウー姉達も、相当苦労したって言うし」

 ウェンディはノーヴェをなだめながら、コンピュータチップの一枚を手に取った。

「ここは、研究中のコンピュータのチップを保管しておくだけの金庫室ッスよ。最先端のコンピュータチップッスか。一枚くらい持ちかえれば、博士も喜ぶかもしれないッスね」

 ウェンディは面白いものを見つけた子供であるかのようにそう言った。

「そんなものを持ちかえっている暇はなんだぞ!」

 そう言いながら、ノーヴェはその金庫室を諦めて、さっさと出て行ってしまうのだった。

 相変わらず警報機が鳴っている。そのうるさいほどの音を耳にしながら、ウェンディは声を発した。

「そろそろ警備員が駆け付ける頃かも知れないッス。急がないと」

 今度は少し慌てたかのような口調を見せるウェンディ。気分屋な彼女に、ノーヴェは少し呆れたかのように言葉を返した。

「あたしらはとっくに指名手配のテロリストさ。警備員の一人や二人ぶちのめした所で、あたしらを一体どうできるって言うんだ?」

 ノーヴェは全く恐れも感じさせないかのようにそう言い放つ。

「まあ、そうッスけど」

「その電子パット貸せよ。次はどの金庫室だ?しらみつぶしに調べるぜ」

 ノーヴェはウェンディから電子パットを奪い取るなり、乱暴な口調でそう言った。

「この建物だけでも、金庫室は10以上はあるッスよ。でも、一番怪しいのはこの通路の奥ッス。ここに行けば」

 ウェンディがそう言いかけた時だった。突然、激しい足音が通路の向こう側から聞こえてきたので、彼女達は目線を合わせた。

「そこで何をしている!」

「動くな!動くなよ!」

 と言い放ってくるのは、どうやらこの会社が雇っている警備員らしかった。警棒を構えているが、武器と言えばそれだけだ。

「やれやれ雑魚かよ」

 ノーヴェは拍子抜けしたかのようにそう言った。

「あたしらの敵じゃあないッスね。ライディングボードもいらないくらいッス」

 自らも戦闘スーツのグローブに包まれた拳を鳴らしながら、ウェンディは言った。

「3人いたはずだ。あと一人はどこにいるんだ?さっさと答えろ、大人しくしていろ、さもないと」

 警備員がそう言いかけた時だった。

 ノーヴェはそのナックルをつけた拳をいきなり警備員の顔面に殴りつけ、彼を倒してしまう。床に倒れ込む彼を、倒れるよりも前にひっつかみ、もう一人の方へとにらみを利かせる。

「大人しくしてないと、こうするってのか?」

 不敵な表情と共にノーヴェは言い放った。

 すると、叫び声を上げながらもう一人の警備員がノーヴェに向かって警棒を振るってくる。ノーヴェはその警備員に対して、蹴りを繰り出そうとしていた。

 だがウェンディは彼女に向かって叫んだ。

「待つッスノーヴェ。今、こいつ、あたし達の事、3人って」

 そうウェンディが言うのも遅く、ノーヴェはもう一人の警備員をも蹴りを食らわせて簡単にのしあげてしまった。

「ああ、大切な事を聴く前に!」

 ウェンディはそう叫んだ。しかしながらノーヴェは何という事もないような様子だ。

 自分が攻撃した者達を見下げて彼女はウェンディに言い放つ。

「あたしらの他にも賊が入り込んだって事だろうがよ。それが一体、どうしたってんだ?」

 ウェンディはノーヴェのその態度に少し戸惑う。

「それは、そうかもしれないッスけれども、一体、何者が紛れこんだって言うんスか?」

 ウェンディのその言葉にノーヴェは何も知らないと言った様子で、さっさとその場を後にしてしまうのだった。

「さあな、知らねえよ。邪魔するようだったら、こいつらみたいにぶん殴ってやるだけだ」

 ノーヴェはそう言い残して、その場に警備員2人をほったらかしにして、通路の先を目指すのだった。

 ウェンディ達が怪しいと踏んだ通路は、施設の中でもかなりの奥地になっていた。入り組んだ研究所内を進んで行くと、その先には一本道の無機質な通路が続くようになっており、一本道の通路の先には扉があった。

 その扉はすでに開かれている。先にあるのは厳重に封鎖された金庫室だと言うのに、その扉はすでに開け放たれている。

 赤い警告灯はここでも回転しながら、警報音を鳴り響かせていた。

 

 

「誰か、来ているッスよ」

 ウェンディが警戒心も露わにそう言った。

「何者だ?出てきたらのし上げてやるぜ」

 ノーヴェは腕を鳴らしながら金庫室へと近づいて行く。

「気を付けた方が良いッスよ、ノーヴェ。チンク姉の事を覚えているッスか?あのチンク姉でさえもやられてしまうような相手が、世の中にはいるんスよ」

 ウェンディは声をひそめながら、金庫室の前で身を潜める。開け放たれた金庫の扉から中を覗こうとした。

「何者が潜んでいようと、あたしらの目的に変わりはないぜ」

 ノーヴェはそのように言いながら、ゆっくりと歩を進ませる。そして彼女達はすでに感じていた。この金庫室の中には誰かがいる。自分達以外にも何者かがここにいて、同じようにカードキーを狙っているのだと彼女達は直感した。

 警戒しながら、ノーヴェは最深部の金庫室の中に飛び込んだ。

「そこにいるのは分かっているぜ。さっさと出てきやがれ!」

 ウェンディも同じように飛び込み、金庫室の中へと彼女の武器であるライディングボードの砲台を向けた。彼女の武器は大型で、普段はそれを背負う形でウェンディは持ち歩いている。

 金庫室の中は静まり返り、誰かがそこにいるという様子は無い。

 だが、それはあくまで人間の眼から見た場合だ。ウェンディとノーヴェは、まだその場に残っている人の気配を感じながら、慎重に歩を進めていき、部屋の中央のテーブルに開け放たれた銀色のケースが置かれているのを見た。

 ケースは開けられており、中身は無い。

「クッソ。持ち去られた後だ。からっぽだぜ」

 ノーヴェはそのケースをスキャンして、そこにあったケースにこそ、目的のカードキーがあったのだと言う事を理解した。

「ノーヴェ!まだ、そのカードキーを持ち去った奴は、この部屋の中にいるッスよ!」

 そう言い放ち、ウェンディは自分のライディングボードに取り付けられた砲台を、ロケットランチャーを発射する構えで周囲へと向けた。

「どこにいるッスか!いるのは分かっているッスよ!」

 ウェンディは言い放つ。

「こんな狭くて、見通しのいい部屋の中に隠れているってか!」

 ノーヴェもナックルを構えた。すると、

「やれやれ、ばれちゃったみたいね。でもお嬢ちゃん達。こんな所で何をやっているのかしら?子供のお遊びじゃあないのよ」

 そのような声が響き渡った。その声は、ウェンディ達の頭の上から聞こえて来ていた。

「上ッスか!」

 言い放ち、ウェンディはライディングボードを部屋の上の方へと向けた。

 するとそこにいた人影が、まるで大きな生き物が襲いかかるかのように降りてくる。素早い動きだった。ノーヴェとウェンディはその動きについていけずに思わず怯む。床に降り立ったのは、金色の髪をした女だった。

 その女はすぐに踵を返すと、部屋の出口へと突進するかのように走って行き、一直線の通路を駆けていく。

「あの女!カードキーを持っていやがったぜ!何としても逃がすなよ!」

 ノーヴェが言い放つ。

「あいよ!」

 ウェンディはすぐさまそう言い放って、ライディングボードを滑空モードに変えた。滑空モードに変わったライディングボードは、低空を飛行するスケートボードそのものの姿になり、彼女はそのまま女を追跡する。

 一本道を疾走していく金髪の女は結構足早だったが、ウェンディのライディングボードの瞬間加速はかなりのものがあり、すぐに女を追い抜いた。

 そして一本道の通路に立ち塞がるかのような位置で彼女はボードを止め、あたかもその場に立ち塞がるような姿勢を見せた。

「へっへ。駄目ッスよ。ここから先は行かせないッス。痛い目に遭いたくなかったら、さっさとそのカードキーをこちらによこす事ッスね」

 だがその女の表情にはどこか余裕があり、微笑さえしている。不敵な表情だった。

「お痛が過ぎる子達のようね。あなた達がこのカードキーをわたしから奪い取るなんて、10年は早いわよ」

 女はそう言って来た。その風貌は、姉妹達の中でもウーノくらいの年頃の女で、金色の髪が特徴的だ。

 だが、所詮はたった一人の女。ウェンディ達の姉、トーレやチンクには二人がかりでも叶わないが、目の前にいるのは姉じゃあない。ただの女でしかない。

 ノーヴェが、女の背後から追いつく。そのまま奇襲をしかければ、この女からカードキーを奪い取る事ができる。しかしノーヴェは足を止め、女の背後から一定の距離を保ったままだ。

(どうしたッスかノーヴェ。さっさと襲って奪っちまえばいいのに)

 ウェンディが自分に備えられている機能の、無線通信を使ってノーヴェに言った。それはあたかもテレパシーのようにノーヴェに伝わったはず。目の前の女には聞こえない。

(分かってんだよ。だけどこの女…)

 そう通信では言いつつ、ノーヴェは女に向かって言い放った。

「てめえ、管理局の奴らじゃあねえな?だけど、あたしらのカードキーをパクったって事は、あたしらの敵だって事だ。そいつをもらうぜ」

 しかしながら女はノーヴェに向かって言った。

「あたしらのもの?随分乱暴な言葉遣いをするものだわ。それに、まるで私からこのカードキーを簡単に奪い取れるものだと思っているようね?」

 そう言いながら女はカードキーをちらつかせる。

(さっさと、そのカードキーを奪い取るッス。ノーヴェ!)

 ウェンディは通信でそう言った。だがノーヴェは、

(この女。隙がねえ!)

 そのように通信から帰って来た。その激しいノーヴェの通信にウェンディが面くらった瞬間、女は僅かなノーヴェの隙を狙っていたかのように、彼女のライディングボードの滑空の下をすりぬけていく。

「馬鹿ウェンディ。自分が隙を見せているんじゃあねえぜ!」

 ノーヴェはそう言い放ち、ウェンディを押しのけて自分が女を追跡しようとする。女は一本道の通路を突っ切るかのように走っていき、すでにオフィスルームへと達していた。

 ウェンディは宙空を滑降するライディングボードを一気に加速させ、そのオフィスへと達し、大きくターンしながら再び女の前へと立ち塞がるような位置にまでやってくる。多くの書類が舞い上がって、コンピュータや机さえも押し倒される。

「さっさと逃げようなんて考えはしない事ッス!」

 ウェンディは言い放ち、ライディングボードをまるで盾であるかのように持ち、女の前へと立ち塞がった。

「あたしらを出し抜こうなんて、いい度胸していやがるぜ!」

 ノーヴェは女の背後から言い放ち、今度はとばかりに、彼女に向かってナックルの付いた腕で拳を繰り出した。

 しかしそのノーヴェの拳は、女によって簡単に受け流されてしまう。ノーヴェはあまりに勢い付けて拳を繰り出すものだから、その勢いあまってよろめいてしまう。

「クッソ!」

 またも悪態をつくノーヴェ。ふらつく姿勢から今度は蹴りを繰り出した。それはオフィスにあった書類を舞い上げるほどの衝撃を放ったが、女の腕によって受け止められ、そのまま受け流されてしまう。

 女の受け流し方は見事だった。ノーヴェの勢い余った攻撃は、そのまま彼女自身のバランスを崩す勢いに使われてしまう。ノーヴェはそのまま倒れ込んだ。

「ノーヴェ!」

 ウェンディはそんなノーヴェの有様を見て、自分は女に向けて、ライディングボードに備え付けられている大きな砲台を向け、それを発射した。

 大砲であるかのような迫力をもつその砲台からのエネルギー砲は、オフィスルームに閃光を放ち、大きな衝撃を放った。ウェンディの持つライディングボードは、ただ空宙を滑空できるだけのものではない。砲台としての機能もあり、彼女はそれを武器として使う事ができる。

 オフィスルームに巨大な穴が開き、そこからは外まで穴ができ上がってしまうのだった。

「クソ、馬鹿ウェンディ。いきなり撃ちやがって!」

 悪態をつくノーヴェ。だがウェンディはすぐにライディングボードに飛び乗った。

「しまった!今開けた穴から女が逃げる!」

 そう言い放って、自分から、壁に空いた穴に逃げ込む女を追おうとした。だが姿が見えない。

 今の砲台の一撃で、周囲には煙が漂い、視界が上手く開けない。ウェンディが視覚モードを変えようとしても襲い。

 突然、煙の中から銃弾が放たれて来るのをウェンディは見ていた。ライディングボードを盾にして防御しようとしたが、一発、左足の脛に命中して、ウェンディは転げるのだった。

 大口径の銃だった。脚が取れるのではないかと思うほどの痛みに、ウェンディは立っていられずに倒れてしまう。銃弾が左脛の骨を砕いており貫通していた。

 煙の中からゆっくりと女が現れる。

 金髪の女はさっきの表情とは違い、冷徹な表情を見せ、ウェンディに向かって銃を突きつけてくる。

「立派にプロテクターをつけている割には、脛はがらんどうなのね?前に会ったあなた達のお姉さんも、似たような格好をしていたわ。あの子の方が注意深かったけれども」

 ウェンディは即座に目の前に現れた女を照合した。すぐにデータが出てくる。

「お前は、ウー姉が会ったって言う、カードキーをパクった女ッスね!一体、何者ッスか?目的は?」

「さあ?あなた達に言う事じゃあないわ。でも、私はあなた達を知っている。だから、かわいそうだけれども、テロリストであるあなた達には、ここで機能を停止させてもらう」

 ウェンディは砲台を構える暇もない。

 銃声がオフィスに響き渡り、おびただしい血痕が飛び散った。だが、思わず目をつぶってしまったウェンディは自分が何も傷付いていない事を知る。

 ウェンディの目の前にはノーヴェが大の字にたって立ち塞がっていた。

「この馬鹿を殺す前に、あたしを殺して見せろよ?ああ、この女が!」

 ノーヴェはそう言いながら、息を切らせている。

「ノーヴェ?」

 ウェンディはすぐに気が付いた。ノーヴェはウェンディの盾になってくれた。しかしその腹からは大量の血が溢れている。

「大口径の銃弾をまともに食らって立っていられるの?これは、戦闘機人というのは大したものね?しかも弾が貫通していない所を見ると、防御力も大したものという所かしら?」

 そう言いつつ、女は更に銃弾を放ったが、今度はノーヴェはその銃弾を、身に付けたナックルで叩き落とした。

「ああん?あたしの腹は頑丈なんだよ」

 と言ったものの、ノーヴェは痛みに溜まらず腹を抱える。

「ノーヴェ。無理ッスよ」

「お腹を撃ったからねえ。しかも弾が貫通しなかったって事は、それは相当に痛いわよ。普通だったら死んでるもん」

 女は余裕のある声で言ってくる。

「クソ。待ちやがれ。あたしがこの程度でくたばるはずがないだろうが!」

 ノーヴェとウェンディの見ている前で、女はカードキーを持ったまま、悠々と逃げようとしている。

「駄目ッスよ。ノーヴェ。このままじゃあ、ノーヴェまで機能不全になってしまうッス」

「うるせえな。あの女から、カードキーを奪え!それが、今のあたし達の全てだ」

 ノーヴェがそう言った時、今まで鳴っていた会社内のサイレンだけではなく、外の方からもけたたましいサイレンが聞こえてきた。

 それも一つだけでは無い、いくつものサイレンが響き渡って来ていた。

「やばいッス。警備会社と警察に知られた。このままでは、当局にも伝わっちまうかも」

 ウェンディが言った。

「お前達は包囲されている。大人しく投降しろ!」

 拡声器によって放たれた声が響き渡ってきていた。どうやらこの会社の施設は完全に包囲されてしまったようだった。

「クッソ。警備会社と警察くらいなら楽だけど、当局が来たらまずいぜ。ウェンディ。あの女を追っかけて、さっさとカードキーをパクれ!あたしの事はいい!」

 ウェンディは、自分の傷を押さえながらノーヴェに言った。その顔は青ざめており、出血も相当なものだった。

「そんな事できないッスよ!カードキーはパクってやるッス。そして、ノーヴェも助けるッス!」

「その脚でか?」

 ノーヴェが声を荒立てた。

「忘れたんスか?あたしにはライディングボードがあるんスよ!」

 そう言って、ウェンディは片足でふらつきながらライディングボードを持ちだした。

 

 

 

 ライディングボードは高速で滑空するものの、脛を撃たれたノーヴェは、ライディングボードの上で、跪いた姿勢でいる事しかできず、しかも起き上がる事ができないノーヴェまで乗せていたものだから、バランスはかなり悪かった。

 前にもライディングボードに2人乗りをした事はあったが、今回は2人とも負傷している事が問題だった。

 ライディングボードはふらついて、壁や、オフィスの棚に何度もぶつけたが、ウェンディはライディングボードの速度を落とさなかった。

「クッソ!こんなんで、奴を追跡する事ができるのかよ!」

「大丈夫ッス。ノーヴェは、喋らない方が良いッス。それにあの女が持ってったカードキーは追跡できるッス。電波って奴がカードキーから出ているッスから、それを追跡するんス」

 その時、ウェンディ達の乗ったライディングボードが柱にぶつかり、回転するかのようにバランスを崩した。

 その時、ノーヴェの身体がボードから振り落とされそうになった。

 ウェンディは腕を伸ばしてノーヴェの身体を掴んだ。

「あたしの事は放っておけっつったのに」

「そんな事できないッスよ」

 そう言いながら、ウェンディはライディングボードの上にノーヴェを戻し、彼女の体を引き上げる。

「トーレ姉なら、キレるな。考え方が任務優先だからよ」

 やがて、ウェンディ達の視界に、廊下を走っているさっきの金髪の女の姿が見えてきていた。女が走るよりも速い。

 ウェンディ達はすぐに女に追い付くのだった。

 女は、意外そうな表情をしてウェンディ達の方を振り向いた。ウェンディも、まるで子供が面白いものを見つけたかのような表情と共に、一気に彼女の方へと近づいていく。

 女は銃を抜き放ち、ウェンディ達の方へと、その銃弾を次々と発射してきた。

 大型の銃口から放たれる銃弾の破壊力は相当なものだが、ウェンディは、滑空していくライディングボードを、やや上方上がりの形にして、女の方へと接近していった。そうする事でライディングボードが盾の役割を果たして銃弾から身を守る事ができる。

 大口径の銃弾であっても、ライディングボードによって防ぐ事ができ、ウェンディ達は女へと急接近する。

「ノーヴェ!きちんとつかまっているッスよ!」

 ウェンディはそう言い放つなり、自分の中に内蔵されているプログラムの一つを作動させた。

 突然にライディングボードのエンジンが、爆発でもしたかのような衝撃を放ち、大きな加速と共に、ライディングボードは施設の廊下の中を突っ切っていく。あの女も、壁さえも突き抜けて、一気に外へと吹き飛ぶかのように飛んでいく。

「何、やってやがんだよ!馬鹿ウェンディ!」

 ライディングボードが野外に突き出てしまうと、ノーヴェが、振り落とされそうになりながら叫んだ。

「ありゃあ、まさか、博士のくれた最後の手段が、こんなに激しいものとは思っていなかったッス。とてつもないほどの加速度ッスね」

 ウェンディは自分でも驚いているかのように言っていた。彼女自身も、爆発的な加速によって、振り落とされそうになっていたからだ。

 ノーヴェはライディングボードの上で、ウェンディに掴みかかった。

「てめえ!任務を放り出して逃げだしやがって!これで、全部パアじゃねえか、うぐっ」

 しかしノーヴェは腹を押さえてライディングボードの上にうずくまる。彼女の身体からは既におびただしいほどの血が溢れていた。

「こりゃあ、すぐに帰らないといけないッス。ノーヴェはお腹を大口径で撃たれたんスから。急がないと、機能停止しちまうかも知れないッス」

「う…、うるせえ。任務を放り出して変える気なんかねえよ」

 顔をしかめながら、ノーヴェはウェンディにそう言った。しかしながら、ウェンディは突然、得意げな表情へと変えた。

「じゃじゃーん。これは何ッスか?」

 ウェンディがノーヴェの目の前に突き出してきたのは、カードキーだった。彼女のスキャンモードでも確かにそれが、カードキーである事を確認できただろう。

「てめえ。どうやって、それを…?」

 ノーヴェが振り絞るような声を出しながらウェンディに言って来た。

「そりゃあもちろん、あの女からスッたに決まっているじゃあないんスか?このライディングボードで加速した時に、きちんとあたしは狙っていたんスよ」

 そう言ってウェンディは得意げな顔をして見せるのだった。

「チッ、馬鹿だと思っていたけどよ、やるじゃあねえかウェンディ」

 ノーヴェはそう頼もしげにウェンディに言ったものの、もう我慢出来ないと言った様子で、ライディングボードの上へと倒れ込んでしまった。

「ああっ!ノーヴェ!ノーヴェ!しっかり」

 ノーヴェの、悲鳴なのか雄たけびなのか分からないような声が、博士の研究所内に響き渡った。

「こら!ノーヴェ。せっかく手術してあげているんだから、動くんじゃあないの」

 ウーノは冷静にそう言って、ノーヴェの腹の中にピンセットを突っ込んでいた。乱暴にやっているのではない。一応、正式な手術の方式にのっとっている。

 だが、台に乗せられたノーヴェは苦悶の表情を浮かべている。

「ノーヴェ!死んじゃあ駄目ッスよ!」

 ウェンディはノーヴェの手を掴んでそう言った。ノーヴェが握ってくる力はあまりに強く、手が砕けそうなほどだった。

「畜生。あたしが、腹を撃たれたくらいで死ぬもんかよ!」

「それは、死なないわよ。わたし達の、特に戦闘タイプのあなたのお腹の筋肉、腹直筋の強度は人間の20倍よ。でもお陰で、弾が貫通しないから取りださないといけなくなったけどね。小腸に入っちゃっているから、しばらく食事できないわよ、あなた」

 ウーノは感情も篭めないような声でそう言い、ピンセットをさらに奥深くに入れた。

「うええ!あたしの腹の中を!内臓をかき回すな!死ぬ!死ぬ!」

「そんな事してるわけないでしょ。ほら、取れたわ!これは大きな弾だこと。頭に食らったら、わたし達も機能不全になる所ね」

 ウーノはいつものように、何の感情も無いような表情のまま、ノーヴェの腹の中からピンセットと共に大きな鉛玉を引き抜いていた。そして、そして血にまみれたそれを、ステンレスの皿の上に置くのだった。

「とっておく?記念に」

 ウーノが、ベッドの上で悶えているノーヴェにそう言った。

「そんなものいるかよ!」

 ノーヴェはそう声を荒立てたが、再びやって来た激痛に身を悶えた。

「うええ、腹の中、かき回されて、吐きそうだ。クソ…」

 ノーヴェはそう言いながら、身を起こした。腹の部分に大量の血が広がっている。

「吐く時はトイレでやりなさいよ。そこでするんじゃあないわよ」

 と言ったウーノの言葉はノーヴェに聞こえていただろうか。

「良かったッスよ。ノーヴェ。もう駄目かと思ったッス」

 飛びかかったウェンディ。彼女は喜びに身を任せて、ノーヴェの身体を揺さぶった。

「やめろ、馬鹿ウェンディ。揺らすな!う、うええ」

 そう言ってももう遅かった。ノーヴェは痛みと気分の悪さでとても我慢が出来ず、抱きついてくるウェンディの顔面に向かって思いきり吐くしかなかった。

 今度上がったのは、ウェンディの方の悲鳴だった。

「全く。世話の焼ける子達ね。臭って来るから、すぐに掃除しなさいよ」

 ウェンディは唖然とした表情のまま、ノーヴェを見つめる事しかできなかった。だがしばらくして、彼女の子供のような悲鳴が上がった。


 
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