「馬鹿と悪魔」
昔むかし、あるところに一匹の氷の妖精がいました。その妖精は難しい事を考えるのが嫌いで、毎日楽しく遊んでおりました。
ある日、そんな妖精の元へ一人の老人がやってきました。
「こんにちは、元気なお嬢さん」
「こんにちは! お爺ちゃん、誰?」
「わしかね。わしは、悪魔じゃよ。お嬢さんの願いを叶えるために、こうしてここにやってきた」
老人はにっこりと笑いました。
本当は、この老人はペルモーというずる賢い悪魔でした。ペルモーは妖精の中でも力のある彼女をそそのかし、やがては自然のバランスを損なおうと企んでいました。
「あたいの願い?」
「そうじゃ。どんな願いも叶えてしんぜよう」
欲につられた生き物ほど、御しやすい事をこの老人は誰よりも深く知っていました。それはもう、悪魔ですから。
始めは些細な小さな願いから、やがては大きな欲を生み出しペルモーは何人もの人間を破滅させてきたのです。
ペルモーは、この妖精がどんな願いを口にしようと叶える自信がありましたし、やがて彼女を傀儡にする事を確信してやみませんでした。
しかし、老人の意に反して妖精はこんな事を言うのです。
「うーん、願いかぁ……。特にないや」
「なんじゃと?」
どうもそれは彼女の本心のようです。混乱したペルモーは、妖精に問い質しました。
「そんなはずはなかろう。よく考えてみるがいい。うまい食べ物をたんと与えよう。綺麗なおべべだってある。望むなら、お嬢さん一人では抱えきれないほどの金銀財宝、権力すら」
しかし彼女は、老人の言葉に困ったように首を振ります。
「あたい、今はお腹空いてないし。この格好も気に入っているし。お金なんてキョーミないし、権力って良くわかんないし。それに」
妖精は笑顔で老人に言いました。
「あたいったらさいきょーだからね! できない事はなんにもないの! だから、願いは特にないんだよ!」
えっへん、と胸を張る妖精にペルモーはしばし何も言えませんでした。この妖精は既に満たされているのです。望まぬ者を、満足させる事がどうしてできるでしょうか。
やがて、老人は穏やかな笑みを浮かべました。
「……ふふ。愚は賢に似たり。ならば、大愚とは大賢なり。あい分かった、お嬢さん。わしは大人しく引き下がろうぞ。お前さんには勝てそうもない」
「あたいったらさいきょーだからね!」
こうして彼女は、そうとは知らず狡猾な悪魔を退けたのです。
しかし悪魔は自分を負かせた彼女をことのほか気に入り、しばしば湖にやってきては彼女とお喋りをするようになったそうですよ。
おしまい
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お馬鹿妖精と(小悪魔ではない)悪魔が語る、SSです。