ストック。
遠野さん用語では「さぼり場所」。
返品作業だの整理してくるだのポップ作るだの様々な言い訳を用いては、モチベーションが上がらない時に籠る、素敵な場所。ちなみに遠野さんのモチベーションは退社前と休憩前にちょこっとだけ上がる。
「いいじゃん、ちゃんと状況見て行っているんだから」
とは本人の言い分である。
そういうわけで、今日も遠野さんはストックの汚い椅子に座って、2号カウンターの女子たちとおしゃべりに興じていた。
このストック、文具の3号と芸術書、ハードカバー、文芸を取り扱っている2号さんと供用である。こちらのカウンターは離れ小島とは違い、綺麗どころで有名でもある。
その美人さんたちが写真集をさばきながら糞味噌に批評する光景は一種、圧巻でもある、と遠野さんは思っている。
「うっわー! ちちでっかー! 気色悪~~~!!」
「顔は可愛いけど、足が太い。よくこんなんで写真出したな。尊敬するわある意味」
可哀想なグラビアアイドルたち。
大概に置いて女というものは同性に厳しいものであり、自分より勝っている(例えば若いとかスタイルがいいとか)女に対しては、血眼になって劣っている点を見つけようとする。無意識に。
まあ、それはともかくとして。
辛口美人さんたちときゃっきゃしゃべっていたその時。
天井の蛍光灯がパッパパッと点滅をした。
「わあ、電気またたいた。寿命?」
何気なく遠野さんがいうと、美人さんたちは奇妙な顔をした。
「えー! 変なこと言わないでよ、ここ出るって噂なんだから」
うおおおおおおぅ!!!
ということは今、出たってことですか!?
なんですか、蛍光灯またたいたのはアピールですか!?
出る、というのは聞いた事がある。1日3万人から5万人(えらいアバウトだなおい)の客が出入りするこの大型老舗書店、そりゃ人間じゃないのが混じっていても不思議ではない……かもしれない。
そういえば、入りたての頃、もうやめた先輩が塩撒いていたのを目撃した事があるな、その先輩は見えるって噂だったな。
ところでコクヨの棚にアジシオが置いてあったんだけど(ひっそりと)、先輩はあれをまいたんだろうか。
てゆうか、アジシオって効果があるんだろうか……。
1人でガクガクブルブルとしていた遠野さんだが、美人さんたちはまったく気にしていない様子だったので「ま、いっか」とおしゃべりに戻った。
ちなみにその内容とは「女性エッセイの3割が‘前彼とよりを戻す方法‘ってどうよ。そんなんだから振られるんじゃねえか」というある種ガクブルなネタだった。
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
ちょっと季節外れだけど。
大型書店内の離れ小島、文具売り場で働くアルバイトの遠野さん。
この話はフィクションです。実在の会社、人物、他諸々とは一切関係ありません。ないんだってば。