No.170481

Phantasy Star Universe-L・O・V・E EP01

萌神さん

EP01【Boy Meets Girl ②】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)
ちょっとサブタイトル位置の変更してみるテスト

Phantasy Star Universe-L・O・V・E

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2010-09-05 00:39:41 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:531   閲覧ユーザー数:525

その少女は雨に煙る景色の中、現実味の無い幽鬼の如く佇んでいた。

幽鬼、と人では無い表現を使ったが、それはあながち間違いでは無い。

純白の衣服かと思われたそれは、複合素材で構成された外装。生機融合体『キャスト』が身に纏う外装パーツだった。

ヘイゼルは少女に歩み寄り、目前で足を止めたが、彼の接近に気付かないのか、少女はうつむいたまま反応を見せなかった。

少女の身長はヘイゼルより頭一つ位程低く、全体的に痩せている。薄紫色の髪をピッグテールにし、表情に幼さを残す、外観年齢16~7歳の少女である。

「キャストが風邪をひかないのは解っているが……錆びたいのか?」

ヘイゼルは皮肉気な鼻笑いと共に、キャストにとっては差別とも、侮辱とも取れる言葉を掛ける。

だが、少女はアスファルトに目を落としたまま、身じろぎもしない。少女の顔を下から覗き込むが、緑色の瞳は何も映していないのか、まるで生気を感じる事が出来なかった。

「おいおい、勘弁しろよ……死んでる……とかじゃねえだろうな……?」

 

唐突に公園の砂場ではしゃぐ童女の姿が、ヘイゼルの脳裏に浮かぶ。

 

(何だ、今のは……!?)

ぼんやりと浮かんだ童女のイメージは、目の前の少女に似ていなくも無い。

(俺は……こいつに出会った事がある……?)

 

やにわに少女が顔を起こし、ヘイゼルは反射的に身構え後退った。人形の様に無表情な少女だが、深い樹海を映す湖面の様な青丹色の瞳が、朝焼けを浴びたような萌黄色に変わっていく。その様子に柄にもなく見惚れていると、不意に少女の目蓋が瞬いた。ゆっくりと瞳と表情に生気が戻っていく。

「再起動完了―――あ、えと……おはようございまッス……」

「あ、あぁ……」

きょとんとした表情で挨拶をする少女に、ヘイゼルは間の抜けた反応を返す。

「……」

「……」

当たり前だが言葉は続かない。

気まずい表情を浮かべる二人だが、沈黙が耐えられなかったのか、少女が先に口を開いた。

「……えと、あなたは誰ッスか?」

「……それは、俺のセリフなんだが」

「と言うか、此処は何処で……私は……誰だったッスか……ね?」

「はぁっ!?」

ヘイゼルは自分が面倒な地雷を踏んでしまった事を理解した。

「そんな、酷いッスよ! 関わっちゃったんだから、最後まで責任持って面倒見て欲しいッスよー!」

「俺の知った事か! 記憶が無い。何て知ってたら、話し掛けなんかしなかったっつーの! お前みたいな面倒なのに関わるのは真っ平なんだよ!」

駅の改札口、突然起きた嵐にも似た騒ぎに、行き交う人々は足を止め、何事かと騒動元に目を向ける。長身の青年が、腰の部分に腕を絡めて必死にしがみ付く、キャストの少女を引きずって歩きながら構内に入って来た。青年は少女を無理やり引き剥がそうとしている様だが、少女は意地でも離す気はないようである。

他愛も無い痴話喧嘩と判断したのか、ある者は興味を無くし再び歩き出し、ある者は微笑ましく二人を見守っていた。

「見守んなよ! てーか薄情じゃね、都会人!?」

等と都会の冷たさに憤慨しつつも、ヘイゼルは宿舎へ向かう事は止めない。無人改札機に二人分の料金を無慈悲に取られながらプラットホームに辿り着く。既にホームには列車が停車していた。こちらの騒動に気付いたのか二人の下へキャストの駅員が近づいて来る。キャストの類に漏れず、生真面目そうな駅員は二人に近づくと口を開いた。

「ホルテスシティ第3居住区行きの列車は間も無く出発となります。ご乗車の方はお急ぎを……」

「目の付け所が違うだろっ! こいつを止めろよ駅員!」

「……見たところ犯罪的要素は見受けられないので、問題ありません。ただし、他のお客様の迷惑にはならない様にお願いします」

尚もヘイゼルにしがみ付く少女を示すが、駅員は飄々とにべも無い。

「いや、俺への迷惑は無視ですか―――っ!?」

する内に列車発車時刻を報せる、のんびりした音楽が流れ始め、駅員は『乗るならお早めに』と目で合図を送って来た。

「くっ……! 乗れば良いんだろ、乗れば!」

ヘイゼルは憤慨しつつも諦めて列車に乗り込む。駅員は車掌に手信号で安全確認の合図を送ると、列車はゆっくりと発進し加速を開始した。

 

客車に入り、空いている四人掛けの座席を見掛けると、ヘイゼルは片側を占拠する様にどっかりと腰を掛ける。正直此処まで来るのもしんどい状況だった。此処に来てヘイゼルを開放したキャストの少女も、おどおどと遠慮がちに、ヘイゼルの向かいの座席に腰を下ろす。不機嫌そうに目を閉じているヘイゼルの顔を、少女はチラチラと窺っていた。

「あの……迷惑だったッスか?」

「ああああぁぁったりま……え……」

ポソリと呟く少女の言葉に反応し、何を今更と怒気交じりに怒鳴りつけようと目を開けると、向かい側の少女は涙目になって小さな身体を竦めていた。

(キタネエだろ、そう言うのは!)

何故だかヘイゼルの方が罪悪感を感じ、思わず何も言えずに言葉を飲み込んだ。

(むしろ厄介者にまとわり憑かれた俺の方が泣きてえよ!)

ヘイゼルは心の中で悪態を付く。本来は係わり合いたくない事例なのだが、そうもいかない事情が今のヘイゼルにはあった。

 

暫くしてヘイゼルの様子がおかしい事に気付き、少女が訊ねてきた。

「あの……どうかしたッスか?」

「……見て解らないか?」

少女は疲れた様なヘイゼルの顔をまじまじと覗き込む。潤んだ瞳、荒い呼吸、熱っぽく赤く染まった顔を見て少女は判断する。

「まさか……私に欲情したッスか!?」

少女の身体を覆う外装パーツは腹部と背中が大きく開き、スカート状のパーツの間からは、健康的な太ももが露になっている露出が高いものだが、しかし……。

「その貧相な身体の何処に欲情する要素があると!? 風邪ひいたっぽいんだよ!」

「失礼な事を言われてる気がするッスよ!? ……って病気ッスか?」

「ああ……」

忌々しそうにヘイゼルは眉をしかめた。少女をあしらえ切れなかった理由がこれである。任務で野営が続き体力が低下していた所へ、シティに帰って来た安心感もあり、緊張が解けて病状が一気に悪化したのだろうか。冷えた身体をそのままに列車に乗り込んだのも悪かったかもしれない。

「雨で身体を冷やしたのが悪かったんだろうが、どうしてここまで酷く……」

ふと、ヘイゼルは自分の太腿に視線を落とした。左太腿の部分を周回する二本の赤いシールドラインがある。赤いフォトンの輝きが示す様に耐熱、耐炎に優れた火属性のラインの特徴である。

「……これのせいじゃないッスかね?」

「……」

ヘイゼルは呆れて言葉を失った。火属性のシールドラインを装備していたせいで、風邪を悪化させたとは、とてもガーディアンズ仲間には言えない笑い話だ。

笑い話ではあるが症状は笑い事ではなく、二駅も通過した頃には高熱で意識が朦朧とし始めた。

視界が歪み世界の輪郭が崩れ始める、目蓋が重い……。

「あれ……っと、しっか……てくだ……ッスよ!……」

異変に気付いた少女の声を遠くに聞きながら、情けない事にヘイゼルの意識は深い深淵に落ちていった。

気が付くと白く何も無い広大な空間に唯一人、少年は取り残されていた。

頼るも物はなく、重苦しい不安が少年の心を苛む。

―――ヒソヒソと何処からか声が聞こえてくる。

途方に暮れる少年の近くに、朧な輪郭の人影が不意に現れ、その数は次第に増えていく。

人影は辛うじて顔だけが窺い知る事ができた。

老若男女問わず、それらは全てキャストの影であった。

―――ヒソヒソと何処からか声が聞こえてくる。

キャストの人影はユラユラと少年の周りで揺れながら何事かを呟いていた。

口元に裂けた笑みを浮かべる女性キャスト……ただ無表情な老キャスト……侮蔑の表情を浮かべる青年キャスト……様々な貌が少年を取り囲む。

だが、その一人として目線を少年に向けている者は居なかった。

―――ヒソヒソと何処からか声が聞こえてくる。

言い表しようの無い感情が襲ってくる。だがその感情の意味を理解してはいけない。感情に激しく抗い、何かを掴む為に手を伸ばし……。

「―――ッ!?」

ヘイゼルはキルトを撥ね飛ばし目を覚ました。

薄暗い部屋、ベッドの脇に目を移すと、そこには床に敷いたマットレスの上で丸くなって眠っているキャストの少女の姿があった。

「あ……ぁぁぁっ!」

熱と急激な覚醒に混濁する意識のまま、ヘイゼルはナイトテーブルに置かれたハンドガンを掴み取ると、少女の頭部に突きつけていた。


 
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