No.170289

恋姫異聞録81 -美しき羽を持つ博物学者ー

絶影さん

久しぶりの美羽登場です

相変わらず成長してるなぁ

文を書いていると勝手に動き出し成長するのは楽しいです

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2010-09-04 12:18:56 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:11567   閲覧ユーザー数:8571

 

 

 

此処は新城から少しだけ離れた河川、風の指示により兵達が真っ先に水の供給源であるこの川を

取り囲み、井戸の壊された新城の民達が安心して飲み水を確保できるよう厳重に守備を固めていた

 

そんな厳重な警備をされている川の中央。一番静かな場所で垂れる釣り糸

 

心地よい風が吹き、涼しげな水の流れる音、平らな一枚岩の上に座る父と娘

流れる川に二人は釣り糸を垂らし風と音を楽しんでいた

 

「おなかすいたねー」

 

「そうだなー」

 

岩に座る涼風はずりずりと横に動き、座る父の身体に寄りかかる。男は少し皺になった秋蘭の着ている裾の短い旗袍

にそっくりな服を綺麗に直してやると、短く切りそろえられた柔らかい髪の頭を撫でる

 

「髪は伸ばさないのか?」

 

「うん、おかあさんとおなじようなながさがいい」

 

「そうか、服もお母さんと同じだもんな」

 

「おとうさん、おかあさんのかみすきでしょう?だからすずかもおなじにするの」

 

小さな手で自分の髪の毛をぺたぺたと触り、父に見えるように前髪をつまむと

男は頬を指先で軽く撫でた

 

「お父さんは涼風ならどんな髪型でも好きだぞ」

 

「えへへ~」

 

父の言葉に娘は嬉しそうに頬を染め、目を細めてニコニコと笑いまた父に寄りかかる

そんな娘を見る父はまた頬を指先で撫で、幸せを噛締めていた

 

川に垂らす二本の釣り糸、既に魚は何匹か釣れてはいるがこれから来るもう一人の娘に食べさせるには

少々足りない、さてどうしようかと悩んでいれば、後ろの茂みからがさがさと音が鳴る

 

こんな大きな音を立てるなら賊じゃないな。秋蘭か、それか・・・

 

「やっと着いたのじゃ!」

 

「あーっおねえちゃん!」

 

「やっぱり美羽か、許昌からは遠かっただろう」

 

「うむ!七乃にの、馬車を眼一杯飛ばしてもらってようやく今ついたぞ」

 

茂みからひょっこり顔を出すと、服についた枝や葉っぱを払い、俺達の座る岩によじ登ってくる

最近は何時もの服の上に白衣のようなものを羽織ってそこらじゅうの植物や虫などを採取したり

しているようだ

 

此処に着いたばかりだと言うのに白衣の衣嚢(ポケット)には色々な草花が顔を出していた

恐らく川に向かいながらそこら辺の草を採取していたのだろう

 

「随分学者っぷりが板についてきたな」

 

「うはははははっ!そうじゃろうそうじゃろう、妾は魏一の博物学者なのじゃ!」

 

岩をよじ登り、腰に手を当てるとその小さな胸をこれでもかと言わんばかりに張り

腰に手をあて笑っていた。前に教えた博物学者と言うのがえらく気に入ったようで

教えてからというもの自らを博物学者だと名乗っていた

 

本当に養蜂所の一件以来、彼女の成長は凄まじく。恐らくはこの魏で一番と言えるほど

虫から植物に至り、果ては農法までも知り尽くしていた

 

「父としても鼻が高いよ。頑張っているな」

 

「むふふふふ、もっと褒めるが良いぞ!どうじゃ、素晴らしい姉を持ったじゃろう涼風よ!」

 

「うんー!すずか、おねえちゃんだいすき」

 

美羽は益々喜び、涼風の頭を撫でて今度は自分の頭を俺に差し出す。どうやら撫でろと言ってるようだ

俺はもう一人の娘の成長を喜びつつ手の包帯を外し優しく頭を撫でてやった

 

「ん~、やはり父様の手は気持ち良いのう。何よりの褒美じゃ」

 

「こんなので良いなら幾らでも撫でてやるぞ」

 

「それはいかん、何時もしてもらったら褒美にならんのじゃ」

 

「そうか、偉いな」

 

美羽の心がけに感心し、こんな素晴らしい娘をもう一人授かったことに心から感謝をする

神よ、俺の存在を消し去ろうとする事は承諾できんがこんな嬉しいことなら幾らでも受け入れると

 

「所で七乃はどうした?」

 

「おお、七乃は此処に運び込んだ苗を下ろしておる。荒れた土地にも強い物を多く持ってきたのじゃ」

 

「それは素晴らしいな、皆喜ぶよ」

 

「それと新たな商売の場所と見た行商人から米などを安く買い叩いておる。売り終わったら来るじゃろう」

 

「何!?」

 

「七乃はそういうのが得意のようでの、許昌でも妾の育てた植物や蜂蜜を高く売っておった。七乃は素晴らしい

商才が有るようじゃ」

 

商才・・・俺はつい苦笑いになってしまう。それもそうだろう、七乃のあれは商才などではない

唯の毒舌、相手を追い詰めたり言葉巧みに操る才能だ

 

だが商人相手ならこれほど心強い者は居無いか、商人は偽りを言って物を少しでも高く売り、安く買い叩くのが

普通だ、そういった意味ではこれほど心強い人物は居ないだろう。美羽は作ったものを売ったりするのは

得意では無いだろうから釣り合いがとれているのかもしれないな

 

などと考えていると、美羽はとなりにチョコンと座り。自分の膝をポンポンと叩いて涼風を見る

涼風は喜び、釣竿を持ったまま美羽の膝へとすっぽり収まっていた

 

「お姉ちゃんとしても様になってきたようだな」

 

「うむ、姉として妹に情けない所は見せられんからの」

 

「おねえちゃん、おとうさんとしょうぶしようよ!」

 

勝負、その言葉で俺と美羽の目が変わる。そして御互いに口の端を吊り上げ笑い合うと目線と目線がぶつかり

火花が散る

 

「七乃が来るなら後三匹必要だ、先に二匹釣った方が勝ちとしよう」」

 

「うむ、食す以上に釣る必要はないからの。負けた方は魚は無しじゃ」

 

「なしじゃー!」

 

 

 

 

美羽の言葉を真似する涼風の声を合図に勝負が始まる。といってもゆったりとした時間を楽しみながらの勝負

美羽は釣り糸を引き上げ、餌を確認する。どうやら餌は取られてしまっていたようだ

 

「ふむ、餌だけ食われたようじゃの」

 

「えさあるよー」

 

「おお、すまんの」

 

涼風に餌である虫を入れた箱を手渡され、美羽は手馴れた手つきで素早く虫を針に通し川へと投げ入れる

博物学者として魚までも採取の一つと考えているようで、もはや虫に脅える美羽はそこには居なかった

 

「うむ、これで良し」

 

「巧いもんだな、最初釣りに連れて行ったときは大騒ぎだったのに」

 

「魚を調べる為に釣りをしていたらいつの間にか慣れておった」

 

「随分と頑張ったんだな」

 

「うむ、沢山のことを調べるにつれ面白いことが解ったぞ」

 

「どんなことだ?」

 

コホンと手を口に当て小さく咳払いをすると、まるで講義をする講師のように話し始める

 

うむ、虫は死ぬと大地に帰り、大地は木の実や花を付けそれは小さな虫や動物が食し小さな生き物は大きな生き物に

食われ、大きな生き物はやがて死して虫に食われ、虫は大地に帰る

 

「全ての命は繋がりめぐっておる、こうして釣りをして魚を食すのも人が命を取り込み、次に繋げる為じゃ」

 

美羽はニコニコしながら得意げに話す。だがその内容は正に食物連鎖

 

独学と想像力だけでそこまで行き着いたのか!

 

驚く男はつい釣竿を落としそうになるが美羽は隣でその様子を見て笑っていた

 

「ただ人はその中でも大地や生き物をつながりの外でいじろうとする。それも欲の為じゃ」

 

欲とは果ての無いものじゃ、こうして皆が争うのも理想と言う欲、驕り高ぶる己の顕示欲の為、

しかしそれが無ければ平穏はおとずれん。平穏とは犠牲の元に強者の作った縄張りじゃ

 

「土台には多くの死体が埋まっておる・・・・・・」

 

美羽は昔の自分の姿を思い出したのだろう、きゅっと唇を噛締め少しだけ竿を握る手に力がはいるが

膝の上の涼風が笑顔で見上げ、下を向く美羽と眼が合い笑顔になる

 

どうやら涼風の笑顔に心が少しだけ救われている様だった

 

「動物と比べて人が劣る部分は縄張りを取り合うのに頭が争うのではなく、仲間が争うことじゃ

そして獣は相手が死ぬまで争う事は無い、人とは愚かで強欲なものとしみじみ感じた」

 

少し強い口調と眼差し、その横顔は既に世間知らずのお嬢様だった彼女を立派な大人になったと

十分すぎるほどに感じさせるものだった

 

「欲か・・・人は三つの強い欲求があるらしいぞ、食欲、性欲、睡眠欲らしい」

 

俺の言葉に美羽は「ふむ」と関心したように溜息を漏らし、少し上を向いて何かを考えるような素振りを見せる

そして此方を向いて笑顔で答えた

 

「ならば妾はそこに知識欲をつけよう」

 

知識とは知れば知るほど広がりを見せ、飽きることをさせん。人は生まれて何をするにもまずは知識をつける。

道具を使うにも、物を食すにもまずは知らねば何も出来んし、知らねばしようとも思わん。

 

「そしての、権力や力も知らなければ殺し合いなどせん。王などという言葉も、支配者などと言う言葉も

知らねば皆幸せに暮らせたのであろう」

 

ポチャン

 

美羽の竿がしなり、素早く涼風と魚に合わせて見事に魚を釣り上げる。そしてスルリと魚の口から針をとり魚篭に入れると

此方を向いてニヤリと笑う。そしてまた虫を針に付けて川へ投げ込んだ。どうやら自分が有利になったぞと言いたいらしい

 

「しかしの、知識は悪いことばかりでもない」

 

こうやって知識を持ったからこそ皆に笑顔や喜びを与えられる

華佗もまた医の知識を得て人々を救っておる。これは人にしか出来んことじゃ

 

「みなの笑顔を見るのは嬉しい、そして蜂達を育てることも、妾はそんな幸福を呼ぶ知識の欲に捕らわれておる」

 

「そんなことを言ったら華琳は強欲だということか?」

 

「たしかにの、あれは強欲というよりも欲の権化のようなものじゃ、知識欲と才を愛でる欲に餓えておる」

 

心底楽しそうに笑う美羽を横目に、今度は俺の釣竿がしなり当りに合わせて吊り上げる。どうやら一方的な展開では

なく良い勝負ができそうだが、流石に魚抜きは辛いが娘に勝つ事は出来んな。魚抜きなど可愛そうだ

 

などと考えていると美羽が俺の顔をよこから覗き込んでくる

 

「妾が欲するは多くの知識、では父様の欲するものとはなんじゃ?」

 

欲しい物?そういわれて考えてみるが、今までほしいものというのはあっただろうか?

普通に生きて、娘や妻がいて、さらには友まで俺には居る。それ以上にほしいものなどあるのか?

 

「・・・・・・ないなぁ」

 

「無い事はなかろう?一番欲しいものとはなんじゃ?」

 

一番ほしいものか・・・俺はやはりこうやって娘二人と笑い合い、秋蘭とのんびりとすごせる穏やかな日々

そこにはもちろん華琳も春蘭や一馬もいて、皆も居て、それこそが何よりの幸福だ

 

「・・・・・・家族と過ごせる時間だな、ゆっくりと穏やかな毎日が過ごせれば良い」

 

俺の答えに美羽は急に顔を耳まで真っ赤に染めて、竿を握る手がプルプルと震え

そして何かを言いたそうに、俺の方をチラチラと窺ってくる

 

何度か口を開いたり閉じたりしながら此方を見ては涼風の頭を見たり、竿に視線を戻したり

 

それをみて俺は眼を瞑る。言いたい事はきっと俺の想像うすることだろう、だが俺が眼を見て答えれば

言いたいことを見通して答えたと思われてしまう。だからわざと眼を瞑り、唯美羽が口を開くのを待った

 

「・・・そ・・・その家族には、妾も・・・その、入っておるのかの?

 

眼を閉じても解る。きっと隣では不安そうに、そして期待を込めた眼で俺を見ているだろう。

こんなにも簡単なことを聞くために一生懸命に勇気を振り絞って。だから俺はしっかりとした言葉で

声で答えてあげるんだ

 

「もちろんだ、俺の娘は二人居る」

 

俺は眼を開き真直ぐ前を向いて答える。その仕草だけで十分に伝わるだろう、俺が心からそう思っていると

わざと眼を合わせず答えるのは眼に頼って優しさで答えたのではないということ

 

「・・・お、おとうさま・・・そのっ・・・あのっ・・・あぅ」

 

隣で竿を握りながら震えていた、よほど嬉しかったのか綺麗な瞳に大粒の涙を溜めて、ぽろぽろと頬を伝う

 

「美羽が涼風の姉だと俺も安心だ、良い姉が出来て俺は嬉しいよ」

 

俺は改めて真直ぐに美羽の瞳を見つめて優しく、優しくその黄金色に輝く柔らかい髪を撫でる

いつの間に美羽は釣竿を手放し、嗚咽を漏らしながら俺の腕を強く握り

 

膝に座る涼風はその光景を嬉しそうに釣竿を握りながら満面の笑顔で見上げていた

 

「ふふ、やはりの。こうやって聞かねば知る事は出来ぬ、知るという事は知識をえるということ

知識で腹は満たされぬが、父様の気持ちを知って妾の心はこんなにも温かい」

 

撫でる手を自分の頬へと持っていくと、外れた包帯から覗く傷を悲しそうに見詰める

 

「じゃが知りたくないものもある、妾は二回も父を無くす悲しみを知りとうない。じゃから父様、死なんでくれ

妾と約束してたも」

 

「もちろんだ」

 

「ふふふっ、そうじゃ父様は約束を破ったことが無い。それも知っている、じゃから妾は安心出来るんじゃ」

 

懇願、だがその眼差しは強く言葉は俺の心を打つ。娘の願いを叶える事こそが親の務めならば果さねばならない

これで俺はまた死ねなくなった、また背負うものが大きくなった。だが心地よい重さだ、これこそが俺に力をくれる

 

俺の答えに心から笑う美羽、俺もまた笑顔で【もう一人の大切な娘】の頭を優しく撫でた

 

「ああっ!きたっ!きたよおねえちゃん!!」

 

「おお!良くやったぞ涼風!これで父様は魚抜きじゃっ!」

 

「なにっ!!」

 

吊り上げる魚は今日一番の大物、魚を持ち俺に見せつけると笑顔で二人の娘は歯を見せて笑う

姉の笑い方を妹は同じように真似をして、腰に手を当てて胸を張って笑っていた

 

「俺の負けだな、やれやれ魚を食えないとは残念だ」

 

「勝負の世界は厳しいのじゃ!」

 

「のじゃー!」

 

魚篭の紐を引っ張り上げて吊り上げた今日一番の魚を入れる。

 

今日は娘二人の笑顔が沢山見れたなんと素晴らしい休日だろうか、これ以上の日々など望まない

だから俺は死ぬわけにも消えるわけにもいかないんだ

 

「まぁ可愛そうじゃから父様も魚を食べてよいぞ。健闘賞じゃ」

 

「それはありがたいな、では一番小さいのを頂くとしよう」

 

「駄目じゃ、一番大きいのを三人で食べるのじゃ」

 

美羽の言葉に少しおどろく。三人で一匹の大物を食べるということ、美羽なりの家族の食べ方というヤツ

なのだろうか。つい顔がほころんでしまう

 

「じゃあすずかしっぽー」

 

「妾は背中じゃ、頭と苦い腹は父様の食べる場所じゃ!」

 

「なるほど、そういうことか。魚の腹は好きだから何よりのご馳走だよ」

 

涼風は食べやすい尻尾を選ぶのは解っていたが、まさか背を選んで腹を俺に食べさせるとは

なんとも子供らしい考えだ、それを笑顔でやるのだから憎めないし愛しいと思えてしまう

 

「おわっ!」

 

「あははははー!」

 

男は二人を抱き上げ岩から飛び降りる。突然のことに美羽と涼風は男の頸に腕を巻きつけて捕まり

地面に着地すると美羽と涼風は笑い出す

 

「おどろいたのー、涼風は相変わらず肝が太い。父様に似たんじゃな」

 

「おねえちゃんはたくさんのことをしってるからおとうさんににたの」

 

「そうかそうか、妾も父様に似ておるか。それはうれしいの」

 

娘二人を下ろして、手ぬぐいに包み川の水につけておいた米を引き上げる。美羽は小刀をとり出して

魚の腹を割って中を洗い、涼風はなるべく真直ぐな枝を拾って川で洗う

 

 

 

 

 

 

「米まで用意をしておるとは、流石じゃの」

 

「果物と山菜も秋蘭と璃々ちゃんが取りに行ってるぞ」

 

「秋蘭は解るがもう一人は誰じゃ?」

 

俺は手ぬぐいを良く縛り、水を切って土に埋める。その上に木を組んで中に燃えやすい細い枝を入れて

火をつける。もちろん綿毛に火打石を使ってだ。もう慣れたが向こうでの生活がいかに楽だったか良く解る

 

「戦場で親と逸れた娘でな、どうやら親は蜀に居るようだ」

 

「ならば父様は西涼に行くのじゃな?」

 

「ああ、良く解ったな」

 

「もちろんじゃ、フェイならば蜀の馬超。父様の妹に連絡がつくからの」

 

なるほど、確かに美羽のいうとおりだ。それ以外に蜀に連絡を取る方法など俺は持ち合わせていない

商人を使って文書などを届けさせる事は出来るが届くのが何時になるか解らない、それ以外に

正式な使者を使って連絡など取ればことが大きくなってしまう。そこら辺を良く解っているようだ

 

「お嬢様ー!どこですかー?」

 

「おお七乃、此処じゃ此処じゃ」

 

「良かった、また植物や虫を取りに歩きながら熊の塒に入り込んだのかと心配しましたよー」

 

・・・・・・俺は顔が青ざめた。そんなことがあったのか、どうやら美羽には少し護衛をつけなければ

ならないな。好奇心が旺盛なのはわかるが万が一猛獣なんかに襲われたら七乃じゃどうにもならん

 

「うははははっ!あの時は恐ろしかったの!気が着いたら目の前に熊の顔があったからの」

 

「笑い事じゃないですよぅ、あの時は本当に殺されると思ったんですから」

 

「全くだ、許昌の李通に護衛を着けるよう言っておく。俺の娘が遠くで何かあったらなどと考えていたら

気になって戦場で幾ら命があっても足らん」

 

「むぅ、心使いは嬉しいが父様は心配性じゃの」

 

娘なのだから心配して当然だと頭を少し強めに撫でれば眼を瞑って笑いながら【やめてたもっ】と髪の毛を押さえ

ていた。こっちの娘はどうやら強すぎる好奇心で俺を悩ませるようだ、まったく

 

「ただいまー、涼風ちゃん」

 

「おかえりーりりちゃん」

 

グリグリと頭を撫でていれば、今度は美羽に背中に飛びつかれ頭を両手でワシワシとかき混ぜられる

そんな俺の頭を見て涼風と七乃が笑っていると、後ろの茂みから秋蘭と璃々ちゃんが両手に沢山の果物や

山菜を抱え顔を出す。どうやらここら辺の食材は豊富のようだ

 

「おお、美羽と七乃、速かったな」

 

「はい、もう全力で飛ばしてきましたから!」

 

「うむ・・・草蘇鉄に漉油、おお針桐もある。塩をこの新城で精製出来るぞ父様」

 

俺の背中から飛び降りて秋蘭の腕に抱えられる山菜を楽しそうに一つ一つ葉を広げて見ている

 

塩?植物から塩が取れるのか?海から遠いこの地で塩を精製できるなんて力強い

 

・・・美羽は他国に存在を知れられては駄目だな。こんなに知識があるのが解れば放ってはおくまい

違う目的だったがあのことを頼んでおいてよかった

 

「美羽、あのこと承知してくれて有り難う」

 

「む?おお、良いのじゃ!どうせ妾は死んだも同然、それどころかこうなって良かったと思っておるのじゃ

養蜂所の皆は妾を【美羽ちゃん】と呼んでくれる。それがなんとも嬉しいのじゃ」

 

「そうですよ、元々はお兄さんに何でもすると約束して着いてきたんですから」

 

「そう言ってくれると助かる。娘にこんな事はさせたくなかったんだが」

 

頭を下げる俺に「何を言うか!」と腰に手を当てて大きく笑う、七乃も美羽と共に笑っていた

気遣いなどではない、こころからそう思ってくれているのだと素直に感じる

 

「父の力になれることをどうして妾が断ろうか、元々あのままじゃったら妾と七乃は死んでおった」

 

「ええ、それどころかお嬢様はこんなにも立派になられました。最初の約束の時、私はてっきりお嬢様と私を

手篭めにするのかと・・・」

 

「そんな事するわけ無いだろう。妻を持つ身で他の女性に、しかもこんな小さい娘に手を出すわけが無い」

 

幾らこの時代はそういうことが普通に行われているとしても俺は俺だ、ほかに目移りするような人間ではない

しかし七乃も美羽に対して変なことを言うのが少し収まってきたのだろうか?それともその分を商人相手に

発揮しているからなのか、会話が少し変わってきたように思える

 

「ですが許昌までの旅で私は沢山お兄さんに襲われました。奥様の秋蘭さんが見ていないのを良いことに

嫌がる私のモノをその手で無理矢理鷲掴みにして、悲鳴を上げても許してはくれませんでした」

 

前言撤回、コイツは変わっていない。俺が何時襲ったと言うんだ!それよりも秋蘭が変に誤解をする

ことが困る。そう秋蘭のほうを向けば、淡々と集めた山菜とキノコを今食べるものと家で食べるもの

に分けて袋に詰めていた

 

「あれ?」

 

その反応が以外だったのか七乃は顔が少し驚きに変わってしまう。

 

「なんだ?」

 

「いえー、お兄さんが私にしたことを聞いて何の反応もしないとは、お兄さんは既に飽きられたのか

あ!もしかして他の素敵な男性とめぐり合えたんですか?可愛そうですねー、お兄さんはもう用済みのようですよー」

 

コイツは何てこといいやがる!そんなことがあるわけ・・・あるわけ・・・・・・

 

いや、俺自身はこんなやつだし、秋蘭ととても釣りあう様な男ではないし、見捨てられたと言うのなら

俺自身に何か足らないことが・・・

 

男の肩を落とす姿を見て秋蘭はクスクスと笑い始め、馬鹿馬鹿しいといった感じで

キノコなどを枝を削った櫛に刺していく

 

「昭が私以外に手を出す訳がなかろう、そいつは真面目なのだ。それに鷲掴みにしたモノとはお前の頭

のことだろう?」

 

「あー良かったですねぇ、お兄さんは用済みじゃ」

 

振り向く七乃の動きは硬直する。目の前にはゴキゴキと指を鳴らす男の手、口を歪ませ眉間をヒクつかせ

美羽の後ろへと逃げようとするがガッシリと男の指が七乃の頭に食い込む

 

「頭蓋の砕ける音が聞きたいらしいな」

 

「ひ、ひあああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」

 

メシメシと頭を絞めつけられ悲鳴を上げる七乃、それを美羽と涼風は笑って見ているが璃々だけは

見ていて自分も頭が痛くなったようで【ううー】と頭を抑えていた

 

ガシッ

 

その時、何故か男の頸にまわされる秋蘭の腕。そしてゆっくりと細い腕が男の頸を締め付けていく

 

「な?」

 

「どうしてか解るだろう?どうもお前は自分を低く見すぎる。それが向上心に繋がっているから悪いことでは

無いのだろうが、妻に対しても自身が持てぬとはどういうことだ?」

 

「うぐ、で、でも俺は」

 

「言い訳無用だ、私を疑った報いを受けろ」

 

キュッと首を絞められ、七乃から手を放した男をずるずると引っ張り、焚き火の近くの岩場に座らせると

ストンと膝の上に秋蘭は乗ってしまう男は顔を真っ赤にしてうつむく。この後のことを想像したのだろう

自分は秋蘭の望むまま食事を口に運んだりしてあげなくてはいけないと

 

「すずかもー」

 

そういって涼風はさらに秋蘭の膝の上へ座り、不思議な光景が出来上がっていた。

 

「いいのう、そのうち妾にもやってほしいのじゃ父様」

 

「うぅ、わかった。七乃、許してやるから代わりに魚とか焼いてくれ」

 

「はいー、もちろんお兄さんの恥ずかしい姿を見ながらやらせていただきますよぅl」

 

まったく、休日は二日と久しぶりに長い休みだったが十分に楽しかった。こんな毎日が早く訪れて欲しい

 

眼を細くして魚に櫛を通したり、キノコ等を焼く美羽と七乃を見ていると、璃々ちゃんが隣にテクテクと

近づいて俺の袖を掴んでいた

 

その瞳からは羨望の眼差し、そして寂しさ、孤独感が流れ込んでくる。秋蘭から定軍山で黄忠と

戦った時に少し言葉を交わし、話しの中で夫が死んでいるようだと聞いたことを話してくれた

 

もしかしたら父というものをこの子は知らないのかもしれない、俺は自然と璃々ちゃんの頭を撫でていた

やはりこの子は何事も無く、そして知らずに蜀に帰るべきだ、子供を巻き込むべきでは無い

 

「秋蘭、明日華琳に西涼へ行くことを話してくる」

 

「解った。私も行くぞ」

 

「もちろんだ、頼む」

 

秋蘭は柔らかく笑うと膝の上の涼風を優しく撫でていた

 

 

 


 
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