No.170211

蒼翼-アオバネ- 第四話

篤弭 輝さん

とうとう四話です!

今回は早めに投稿できるよう頑張りました!

物語は少しずつ進んでいきます。

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2010-09-04 01:47:50 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:413   閲覧ユーザー数:408

 

 

―リビングにある、テレビの上の壁辺りの時計。

 

時刻は午前1時を回った。

 

へっ?イチジ?

 

私が時計を見て驚いたような顔をしたせいか、秋乃ママも時計を見た。

 

「あら、もうこんな時間。もう遅いし、泊まってく?優紀ちゃん。」

 

秋乃ママは一体何を言うのだろうか。

 

明日学校なんだよ?明日の用意もしてないし。

 

「いえ明日も学校なので、もう帰ります。」

 

こちらの意図を察してくれなかったのか、秋乃ママはしょんぼりした。

 

だがそれもすぐ切り替わった。

 

来週も来るから良いだろう、とでも思ったのだろうか。

 

「そう……、なら仕方ないわね……。秋乃!優紀ちゃん、帰るから送ったげなさい!」

 

秋乃ママは廊下にでて、二階にいるあっくんに呼び掛けた。

 

しかし返事は無かった。

 

「寝ちゃったのかしら。」

 

「そうかもしれないですね。家近いんで大丈夫ですよ。一人で帰れます。」

 

「そんなこと……んー。」

 

ドタドタドタッ―(秋乃ママが階段を上がる音)

 

正直、あっくんが送ってくれるというのであれば嬉しい。けど、寝てるのなら起こす必要ない。

少し寂しいけど―

 

「秋乃!起きてるんでしょ!」

 

ゴンゴンゴンッ!!

 

上からドアを叩く音が聞こえる。

 

そうすると、それに対する返答は直ぐに返って来た。

 

「うるせぇ!何時だと思ってやがる!」

 

バタンッ!とドアが開く音と共にあっくんが出て来たのだろう。

 

「うるさいわよ。しー。」

 

「おぅ、そうだな。ってお前が元凶じゃねぇか!」

 

「あ、お前呼ばわりしたわね、お父さんに言いつけるから!」

 

「くっ、それだけは勘弁だ……。」

 

長くなりそう、と思った私は階段を登りチラッと二人の様子を見る。

 

いつもどおりの親子の会話。なのになんだろう……?気のせいかな……?

 

 

―数分後。

 

「そうだ忘れてた。優紀ちゃんを送ってあげなさい。」

 

「んぁ~、別に良いけど……。」

 

「じゃあさっさと行ってきなさい。」

 

「はいはい。」

 

ん……、気のせいなんかじゃないな。

 

あっくんが嘘を付く時の癖が出てる。

 

これは『送りたくはない』ということなのだろうか。

 

でも様子から察するに私と一緒だから嫌だ、というわけでも無さそうだ。ホッ

……っ!

 

何をホッとしているんだ私!

 

向こうの二人に気付かれないように後ろを向き、頬を軽くペチンと両手で叩く。

 

「優紀?どうした?」

 

「きゃっ!」

 

背後から、いきなりあっくんは私の肩に手を乗せ、話し掛けて来た。

 

ダブルなサプライズだ。後ろを向いたのが運の尽きだった。心臓に悪い。

 

「なんでもな―」

 

ポーカーフェースを装い振り向こうとした……が、

 

―プニ。

 

何かで遮られた。

 

直ぐに察しはつく。

 

肩に乗っけられたままの手。これが何を意味するか。一つしかない。もはや言う気もない。

 

「相変わらず柔らかいな。」

 

「相変わらず餓鬼ね、秋乃。」

 

「うぉ、いきなり呼び方変えんな。」

 

「そんなの昔からやってることなんだから理解するか、その悪趣味止めなさい!」

 

ちょっと上から目線から言ってみた。

 

「……ごめん。」

 

その言葉が返って来るのは予想外だった。

 

「もう、何謝っているのよ。」

 

いつもなら、もっと反抗的なのに。

 

どうしてしまったのだろうか。

 

「……いや。じゃあ行くか。」

 

「え?あ、うん……。」

 

体が動くだけで、脳が付いてこない。そのまま無言で玄関まで向う。

 

あっくんはさっきとは違い、何処か上の空のようだった。

 

考えても分からない、なら聞くしかない。

 

「じゃあ今日はお邪魔しました。」

 

私は靴を履き終わった後、クルリと180度回り、後ろにいる秋乃ママに言葉と共にお辞儀をした。

 

この帰り道の間で、話を聞こう。

 

「はい、送り狼に襲われないようにね~。」

 

「……」

 

いつも通りの秋乃ママなのだが……、ここは空気読んでほしかったわ……。

 

 

 

 

俺はまだ悩んでいた。

 

あのレポートを読んだ後ずっと同じことを考えていたのだ。

 

 

今日はどんな顔して会えばいいんだ?

 

正直に言うか?駄目だ、俺は誰か一人の、"氷柱"という人のカウンセラーなのだから。

 

カウンセラーが相手を傷付けるわけには行かない。

 

だから普通に接するしかないか。だがそれはやはり嘘を吐かなければならないということ。

 

……うーむ。

 

「―なぁ優紀。」

 

「っ!」

 

優紀はいきなり後退(あとずさ)った。

 

だがそれにツッこむ余地はない。

 

「例えばの話なんだけど、良いか?」

 

「な、なに?」

 

怖々(おずおず)としていたが、話に乗って来るようだ。

 

そして俺は続ける。

 

「優紀は俺のことが好きだ。」

 

「好きじゃないから。」

 

優紀は直ぐ反応して否定する。

 

「いや……あの、例えばの話だから。」

 

「あ、そっか。どーぞ。」

 

ふっ、例え話なのに少し傷付いてしまったよ。

 

もう話すの止めようかなと思ったが男に二言はないのだ。

 

「それで優紀は俺に告白した。俺からOKをもらえた。だけど俺は優紀を泣かせたくないがために嫌々付き合っていただけだった。って話に意見を欲しいんだ。」

 

えと、優紀が氷柱って子だとすると、話は通ってる筈だ。

 

善意の嘘、が確実に当てはまる。

 

「この状況に対して何か言えばいいの?」

 

「おぅ、そうだ。」

 

んー、と唸りながら優紀は話始めた。

 

「これは"俺"は駄目だと思う。嘘は普通にいけないよ。その"優紀"は今とても嬉し

いでしょ?でもそれが嘘だってバレたらさ、どうなると思う?」

 

「どう思うって、相手を傷付けるだろ。」

 

「うん、そうだよ。だから"あっくん"は駄目。」

 

こんなキッパリ言われるとは、やっぱり嘘はやめた方が良いのかな……。

 

そんなことを考えてるうちに優紀の家に着いた。

 

これからどうするかは家で考えよう。

 

「色々参考になったよ。じゃあまた明日な、いや、今日か。」

 

そういい踵を返し歩き出そうとしたら、後ろから服を摘まれる感じがした。

 

実際摘まれてるのだけど。

 

「どうした?」

 

「さっきの話の続きなんだけど、さ。」

 

優紀は視線を横に移しつつ、先程の声量より小さめな声でこう言った。

 

「もし、だよ?嘘でその人が救えるならさ。私だったら良いかなって思っちゃうよ?だって、嘘を吐かれた方は本気だと思うんだから。」

 

優紀は摘んでいた服を離すと、自分の家の方向に向き直った。

 

「その人に、絶対バレなければ、私は良いと思う。私だったら、墓まで持っていくよ。その人は幸せなんだからさ。」

 

自分より他人、か。この質問はどちらが正しいのだろうかなんてわからない。

 

―それでも何故だろう。

 

自分のやりたいと思ったことが肯定されたからなのだろうか。

 

「じゃあ、また明日ね。」

 

俺は優紀が家に入るまで、立ち尽くしていた。

 

―研修って、後六日だろ?

 

―まだ相手とも一回しか会ってないんだから、多少はバレないだろ。

 

―だとすれば……

 

「どうするん、だ?」

 

嘘を付いて良いのか?

 

分からない。

 

―さっきから同じことばっかり考えている。

 

取りあえず、家に帰って寝よう。

 

 

こうして、俺は朝を迎えた。

 

 

 

 

―放課後の学校。

 

今日は心なしか早く感じた。まぁ当然なんだけど。

 

授業なんて耳に入るわけないし。

 

二日目のカウセリングだ。気持ちもまとまっていないまま席を立ったところに話掛けられた。

 

「―高瀬く~ん。一緒に帰りましょう。」

 

優紀よ、話し方が家とかとじゃ違くてキモいぞ。

 

「病院行かないと行けないから無理。」

 

「……えー、なら御一緒しても良いですか?」

 

「駄目だ、来るな。」

 

「むぅ……分かった、」

 

理解が早くて助かる。

 

伊達に幼馴染みを自称しているだけじゃないな。

 

「可愛い女の子でもいたんでしょ!」

 

そっちの分かったかよ!

 

「そんな幼馴染みの称号なんか、棄てちまえ!」

 

捨て台詞を吐き、そのまま走って駐輪場へ向かった。

 

 

―そして病院へ。

 

 

 

 

病院に着いた俺はそのまま病室に向かう。

 

608号室だ。覚えている。

 

後は、自分を信じるしかないだろう。

 

エレベーターも乗り終わり、608号室の前に立って、ドアをノックした。

 

―コンコン。

 

―ガラガラ。

 

ノックの後、病室のドアを開けた。

 

そして病室内のベッドの上に人を確認する。

 

「よっ、昨日振りだな。」

 

出来るだけ爽やかに言ったつもりだが、大丈夫だろうか……。

 

彼女はゆっくりとこちらへ振り返り口を開いた。

 

 

 

「……あなた、誰?」

 

 

 

「え?」

 

ただその表情は冷たく。俺は彼女の回答は全く予想だにしていなかった。

 

 

―今、沈黙が訪れる。

 

 


 
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