No.169809

蒼翼-アオバネ- 第三話

篤弭 輝さん

蒼翼-アオバネ- 第二話の続きです。

まさかの9月。

そしてまさかの前回の誤字。

続きを表示

2010-09-02 04:07:56 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:394   閲覧ユーザー数:390

 

 

相も変わらず自分の家ってのは新鮮さを感じれないなぁ。

 

と思いつつ家に着いた。

 

すると家の玄関辺りに人が立っているのが窺(うかが)えた。

 

もう暗いのでその人の顔が見づらい。

 

玄関に近付くと、次第にその顔は明らかとなった。

 

「―なんだお前か……。」

 

と心の中で思った。

 

「あのさ、心の中で思ってるのなら声に出さないでよ。」

 

自称幼馴染みの美並優紀。

 

「で、なんのようだ?」

 

これは当然の質問だ。優紀の家は歩いて三分くらいの所にあるが、居る理由には

ならない。

 

「何真面目に聞いてるのよ……。私は―」

 

あぁそうだ。

 

今日は火曜日。

 

先週の火曜日から優紀の両親が出張でいないから、俺ん家で夕飯を食べることに

なったのだった。

 

ちなみに俺の父親も今出張。

 

だがつい一週間前の火曜からあったこと。忘れてしまっても仕方ない。

 

「―分かった?それで私が言いたいのは時間よ。ご飯食べないで待ってたんだか

ら。」

 

時間は……うぉ、20時過ぎちまってる。

 

普段ご飯は18時ちょい過ぎくらいに食べるので悪いことをした。

 

「すまん。」

 

「遅くなるならメールくらいしてよ。携帯持ってるでしょ?」

 

「あぁ、へいへい。」

 

しかし、何故わざわざ俺ん家で喰うのか……、それには理由がある。二つあるがや

っぱり一番大きいのは―

 

―ガチャ。

 

「―優紀ちゃん~、もう夕飯食べましょ~。」

 

玄関のドアが開き、そこから出て来たのはお袋。

 

「あ、はい。やっと馬鹿息子が帰って来ましたしね。」

 

「あら、本当。お帰り馬鹿息子。」

 

おい、……ああもうどうでもいいや。

 

取りあえず理由には、美並家と高瀬家の仲が良いことにある。

 

「ただいま……。」

 

「もう!釣れないわねぇ。昔のがまだ可愛げがあったわ。」

 

「あ、それ私も思いました!」

 

「さいですか……。」

 

もう一つ一番重要なことがあるのだが、それは黙っとこう。

 

 

 

 

夕飯はいつでもリビングでとなっている。

 

花瓶が中心に置いてあるテーブル。はっきり言って花瓶は邪魔なので敢えて強めて言った。

 

しかもテーブルの長さとイスの個数が合っていない。

 

テーブルが長いのだろうか。

イスが少ないのだろうか。

 

毎日そう思うんだが、流石に執着しすぎだな。やめよう。

 

さて夕飯、今日大きな皿で山になっている唐揚げと、……そして?

 

「これは?」

 

俺は普段の食卓にはないものの上、"鉄板"の上にあるものを尋ねた。

 

「○○○よ。」

 

質問にはお袋が答えた。

 

皆席に着き手を合わせて……

 

「いただきます。」

 

食事が始まった。

 

―10分後。

 

「ごちそうさま。」

 

俺は一番で食べ終わった。

 

「ちょっ、あっくん?」

 

優紀がこちらを怪訝そうに見ている。

 

ちなみに"あっくん"というのは、こういう場にのみ優紀が使う。

 

他人が居るときは使わないのだ。

 

「何?」

 

「なんで○○○は食べないの?全部食べちゃった、とかの方がまだツッこめたよ

!」

 

「……。」

 

そう、俺は○○○を食べなかった。なぜなら普段の食卓には絶対並ばないから。

 

○○○が召喚された理由は、優紀だ。だから優紀がいるから増えたおかずの"これ"

を喰うというのは、負けな気がするんだ。

 

お袋め……。俺の性格を分かってやがるのか……?

 

「いいのよ~優紀ちゃん。秋乃はほっといてどんどん食べなさいな。」

 

「うぅ、太っちゃう……。」

 

 

 

 

―院内の受付の部屋の奥の部屋。

 

そこは院長室。

 

その部屋の電機は点いていないが、机にある電機が点いているので眩しい。

 

そこには黙々と作業を続けている人の姿があった。

 

「ふぅ……。」

 

一息吐いたがまだ仕事が残っている。

 

机の上には、書類、書類、書類。

 

だがそんなものを後回しでやらなければならないことがある。

 

時刻は22時といったところだろう。

 

イスから重い腰を上げ、院内にあるエレベーターへと向う。

 

あの子の様子を見に行かなければ。

 

エレベーターで6階へ。608号室へ向う。

 

608号室にあの子はいる。

 

本来ならば、あの子はその先の609号室。あそこには―

 

―チーン。

 

『ドアが開きます。』とともにエレベーターのドアが開く。

 

「着いたか。」

 

思考を停止し、廊下を歩く。

相も変わらず、長い廊下。

 

まるであの子を監禁しているかのようだ……。

それをしているのが自分だと思うと、胸中がキシキシと軋む。

 

「ふむ……。」

 

608号室へ着いた。

 

そうだ、いつもどおりで良い。

 

そうだ、いつもどおりが良い。

 

病室のドアを軽くノックし、中に入る。

 

「起きてるかい?氷柱。」

 

その言葉を投げ掛けたが愚問だった。氷柱はベッドに横になっておらず、座って

いた。

顔は外に向けられたまま、こちらを向かず言い放った。

 

「……何の用ですか?」

 

「今日来た高瀬くん。どうだったかな?と。」

 

「特に何も。普通でした。」

 

あぁ、"失敗"か。と思った。よく聞く氷柱の『普通だった。』は失敗。

 

氷柱自身がよく言っているとも思っていない。

 

だがしかし、ここで不信に思った。だから問おう。

 

「高瀬くんから聞いたよ。氷柱は"明るくて、やんちゃ"だったと。本当かい?」

 

「……っ。」

 

顔を見なくても分かる。

本当の事ゆえに氷柱は苦虫をかんだように顔を歪めているだろう。

 

「それは、たまたまそんな気分だっただけで……」

 

「今の君がそんなやんちゃやる気分だったとは到底考えられない。」

 

理由は私自身、分かっていると思うが、確信にしたかった。

 

「私を救うことが出来ないくせに、偉そうなことを言わないでください……!」

 

救うことができない、か。確かにその通りだが、これだけは言える。

 

「私は、一時でも、君の事を忘れたことはない。」

 

私がこの言葉を言うのは何回目だろうか?

 

その言葉を言った瞬間、氷柱は初めてこちらを見た。睨んだと言った方がいいか。

 

「それが私を苦しめていると言う事が分からないんですか?例外の院長さえいなければ、期待なんかしない……。そう、例外がいるから、"そんなこと"で、期待してしまう……。この辛さが分かります?絶対分からない。分からないよですよねぇ?学校だって行きたい。普通の女の子として生きたい。どうして私だけがこんな目に……。」

 

その言葉を聞いた時、私の心の奥が疼いたのが分かった。

 

何度経験しても変わらない疼き……。

 

「どうして私だけ?はっ、なんだそれは。片腹痛いよ。」

 

今の物言いに氷柱はすぐ反応した。

 

「なんですかそれ。馬鹿にしてるんですか?」

 

自分の夢を土足で踏みにじられたような顔をして、氷柱は静かに言った。

 

だがそんなんじゃ怯まない。次第に罪悪感が消える。

 

「馬鹿にしているのはどっちだ?まるで自然に病にでもなんでも罹(かか)ったような言い方じゃないか。」

 

「何が言いたいんですか……?」

 

これは、今言うことではない。"だから言う"。

 

「君の病は、」

 

確実に意味が伝わるように。

 

ハッキリ告げた。

 

 

「"君自身が望んだものだ"」

 

 

この言葉を言った後の氷柱の表情を見て、"今回の状況"を知るのであった。

 

 

 

 

「やっと終わった!」

 

レポートをまとめるのにかなり時間が掛かった。だが別にそれ程苦でも無かった。

 

氷柱に関して結構書くことが多かったからな。

 

そんな事考えながら携帯を開き時間を確認する。日付が変わる頃合だ……。

 

「ん。喉乾いたな。」

 

飲み物は一階。俺の部屋は二階にあるので、一階まで行かなければならない。

 

一階へと向う階段でお袋と優紀の談笑が聞こえた。

 

というか、まだ優紀は帰ってないのかよ……。

 

俺が一階へ来たとなったら絶対談話に巻き込まれる。こっそりと冷蔵庫へ……。

 

リビングから冷蔵庫までの距離が離れてて助かった。

 

冷蔵庫まで到着すると思考を巡らせる。

 

確か、冷蔵庫の三段目にペットボトルのコーラがあった気がする。

 

パッと行くか。

 

「ふっ!」

 

俺はまず冷蔵庫へと音もなく走る。この間0.17秒(嘘)。

 

冷蔵庫の扉を開け、三段目へ瞬時に手を伸ばし、コーラをキャッチした。この間0.83秒(嘘)。

 

そしてドアを閉める、二階への階段まで早歩き。ここで1秒(嘘)。

 

実は10秒でした。……どうでもいいな、と考えながら階段を上がっていた時だった。

 

 

―グラッ。

 

 

「……っ?」

 

急に目まいがした。

 

本当に一瞬で、すぐ治ったのだが不思議な感じであった。それは嫌な気分だったわけだが。

 

時刻は0:01。自分の部屋に戻り、コーラを飲んだ後、"今日"の準備をする。さっさと寝ようと思ったからだ。

 

ああそういや、レポートって毎日提出すんの……か……な?

 

 

―ドクンッ。

 

 

「なんだ、これ。」

 

レポートを見た瞬間、動悸するのが分かった。

 

レポートを10枚全部見返す。何度も、長いけど見返す。

 

 

―ドクンッ。心臓の鼓動が強くなる。

 

 

冷静になれなくてはならない。それでも不信に思ったことを、口に出さずにはいられなかった。

 

 

 

「"氷柱"って、誰だ?」

 

 

 

当然その答えは、何処からも帰ってくることは無かった。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択