相も変わらず自分の家ってのは新鮮さを感じれないなぁ。
と思いつつ家に着いた。
すると家の玄関辺りに人が立っているのが窺(うかが)えた。
もう暗いのでその人の顔が見づらい。
玄関に近付くと、次第にその顔は明らかとなった。
「―なんだお前か……。」
と心の中で思った。
「あのさ、心の中で思ってるのなら声に出さないでよ。」
自称幼馴染みの美並優紀。
「で、なんのようだ?」
これは当然の質問だ。優紀の家は歩いて三分くらいの所にあるが、居る理由には
ならない。
「何真面目に聞いてるのよ……。私は―」
あぁそうだ。
今日は火曜日。
先週の火曜日から優紀の両親が出張でいないから、俺ん家で夕飯を食べることに
なったのだった。
ちなみに俺の父親も今出張。
だがつい一週間前の火曜からあったこと。忘れてしまっても仕方ない。
「―分かった?それで私が言いたいのは時間よ。ご飯食べないで待ってたんだか
ら。」
時間は……うぉ、20時過ぎちまってる。
普段ご飯は18時ちょい過ぎくらいに食べるので悪いことをした。
「すまん。」
「遅くなるならメールくらいしてよ。携帯持ってるでしょ?」
「あぁ、へいへい。」
しかし、何故わざわざ俺ん家で喰うのか……、それには理由がある。二つあるがや
っぱり一番大きいのは―
―ガチャ。
「―優紀ちゃん~、もう夕飯食べましょ~。」
玄関のドアが開き、そこから出て来たのはお袋。
「あ、はい。やっと馬鹿息子が帰って来ましたしね。」
「あら、本当。お帰り馬鹿息子。」
おい、……ああもうどうでもいいや。
取りあえず理由には、美並家と高瀬家の仲が良いことにある。
「ただいま……。」
「もう!釣れないわねぇ。昔のがまだ可愛げがあったわ。」
「あ、それ私も思いました!」
「さいですか……。」
もう一つ一番重要なことがあるのだが、それは黙っとこう。
夕飯はいつでもリビングでとなっている。
花瓶が中心に置いてあるテーブル。はっきり言って花瓶は邪魔なので敢えて強めて言った。
しかもテーブルの長さとイスの個数が合っていない。
テーブルが長いのだろうか。
イスが少ないのだろうか。
毎日そう思うんだが、流石に執着しすぎだな。やめよう。
さて夕飯、今日大きな皿で山になっている唐揚げと、……そして?
「これは?」
俺は普段の食卓にはないものの上、"鉄板"の上にあるものを尋ねた。
「○○○よ。」
質問にはお袋が答えた。
皆席に着き手を合わせて……
「いただきます。」
食事が始まった。
―10分後。
「ごちそうさま。」
俺は一番で食べ終わった。
「ちょっ、あっくん?」
優紀がこちらを怪訝そうに見ている。
ちなみに"あっくん"というのは、こういう場にのみ優紀が使う。
他人が居るときは使わないのだ。
「何?」
「なんで○○○は食べないの?全部食べちゃった、とかの方がまだツッこめたよ
!」
「……。」
そう、俺は○○○を食べなかった。なぜなら普段の食卓には絶対並ばないから。
○○○が召喚された理由は、優紀だ。だから優紀がいるから増えたおかずの"これ"
を喰うというのは、負けな気がするんだ。
お袋め……。俺の性格を分かってやがるのか……?
「いいのよ~優紀ちゃん。秋乃はほっといてどんどん食べなさいな。」
「うぅ、太っちゃう……。」
―院内の受付の部屋の奥の部屋。
そこは院長室。
その部屋の電機は点いていないが、机にある電機が点いているので眩しい。
そこには黙々と作業を続けている人の姿があった。
「ふぅ……。」
一息吐いたがまだ仕事が残っている。
机の上には、書類、書類、書類。
だがそんなものを後回しでやらなければならないことがある。
時刻は22時といったところだろう。
イスから重い腰を上げ、院内にあるエレベーターへと向う。
あの子の様子を見に行かなければ。
エレベーターで6階へ。608号室へ向う。
608号室にあの子はいる。
本来ならば、あの子はその先の609号室。あそこには―
―チーン。
『ドアが開きます。』とともにエレベーターのドアが開く。
「着いたか。」
思考を停止し、廊下を歩く。
相も変わらず、長い廊下。
まるであの子を監禁しているかのようだ……。
それをしているのが自分だと思うと、胸中がキシキシと軋む。
「ふむ……。」
608号室へ着いた。
そうだ、いつもどおりで良い。
そうだ、いつもどおりが良い。
病室のドアを軽くノックし、中に入る。
「起きてるかい?氷柱。」
その言葉を投げ掛けたが愚問だった。氷柱はベッドに横になっておらず、座って
いた。
顔は外に向けられたまま、こちらを向かず言い放った。
「……何の用ですか?」
「今日来た高瀬くん。どうだったかな?と。」
「特に何も。普通でした。」
あぁ、"失敗"か。と思った。よく聞く氷柱の『普通だった。』は失敗。
氷柱自身がよく言っているとも思っていない。
だがしかし、ここで不信に思った。だから問おう。
「高瀬くんから聞いたよ。氷柱は"明るくて、やんちゃ"だったと。本当かい?」
「……っ。」
顔を見なくても分かる。
本当の事ゆえに氷柱は苦虫をかんだように顔を歪めているだろう。
「それは、たまたまそんな気分だっただけで……」
「今の君がそんなやんちゃやる気分だったとは到底考えられない。」
理由は私自身、分かっていると思うが、確信にしたかった。
「私を救うことが出来ないくせに、偉そうなことを言わないでください……!」
救うことができない、か。確かにその通りだが、これだけは言える。
「私は、一時でも、君の事を忘れたことはない。」
私がこの言葉を言うのは何回目だろうか?
その言葉を言った瞬間、氷柱は初めてこちらを見た。睨んだと言った方がいいか。
「それが私を苦しめていると言う事が分からないんですか?例外の院長さえいなければ、期待なんかしない……。そう、例外がいるから、"そんなこと"で、期待してしまう……。この辛さが分かります?絶対分からない。分からないよですよねぇ?学校だって行きたい。普通の女の子として生きたい。どうして私だけがこんな目に……。」
その言葉を聞いた時、私の心の奥が疼いたのが分かった。
何度経験しても変わらない疼き……。
「どうして私だけ?はっ、なんだそれは。片腹痛いよ。」
今の物言いに氷柱はすぐ反応した。
「なんですかそれ。馬鹿にしてるんですか?」
自分の夢を土足で踏みにじられたような顔をして、氷柱は静かに言った。
だがそんなんじゃ怯まない。次第に罪悪感が消える。
「馬鹿にしているのはどっちだ?まるで自然に病にでもなんでも罹(かか)ったような言い方じゃないか。」
「何が言いたいんですか……?」
これは、今言うことではない。"だから言う"。
「君の病は、」
確実に意味が伝わるように。
ハッキリ告げた。
「"君自身が望んだものだ"」
この言葉を言った後の氷柱の表情を見て、"今回の状況"を知るのであった。
「やっと終わった!」
レポートをまとめるのにかなり時間が掛かった。だが別にそれ程苦でも無かった。
氷柱に関して結構書くことが多かったからな。
そんな事考えながら携帯を開き時間を確認する。日付が変わる頃合だ……。
「ん。喉乾いたな。」
飲み物は一階。俺の部屋は二階にあるので、一階まで行かなければならない。
一階へと向う階段でお袋と優紀の談笑が聞こえた。
というか、まだ優紀は帰ってないのかよ……。
俺が一階へ来たとなったら絶対談話に巻き込まれる。こっそりと冷蔵庫へ……。
リビングから冷蔵庫までの距離が離れてて助かった。
冷蔵庫まで到着すると思考を巡らせる。
確か、冷蔵庫の三段目にペットボトルのコーラがあった気がする。
パッと行くか。
「ふっ!」
俺はまず冷蔵庫へと音もなく走る。この間0.17秒(嘘)。
冷蔵庫の扉を開け、三段目へ瞬時に手を伸ばし、コーラをキャッチした。この間0.83秒(嘘)。
そしてドアを閉める、二階への階段まで早歩き。ここで1秒(嘘)。
実は10秒でした。……どうでもいいな、と考えながら階段を上がっていた時だった。
―グラッ。
「……っ?」
急に目まいがした。
本当に一瞬で、すぐ治ったのだが不思議な感じであった。それは嫌な気分だったわけだが。
時刻は0:01。自分の部屋に戻り、コーラを飲んだ後、"今日"の準備をする。さっさと寝ようと思ったからだ。
ああそういや、レポートって毎日提出すんの……か……な?
―ドクンッ。
「なんだ、これ。」
レポートを見た瞬間、動悸するのが分かった。
レポートを10枚全部見返す。何度も、長いけど見返す。
―ドクンッ。心臓の鼓動が強くなる。
冷静になれなくてはならない。それでも不信に思ったことを、口に出さずにはいられなかった。
「"氷柱"って、誰だ?」
当然その答えは、何処からも帰ってくることは無かった。
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蒼翼-アオバネ- 第二話の続きです。
まさかの9月。
そしてまさかの前回の誤字。
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