高祖劉邦により大陸が天下泰平を迎えて400年余り。
朝廷は太平の世に与えられた安寧を怠惰に貪り尽くしていた。
君主たる霊帝は最早、張讓を筆頭とした十常侍の傀儡でしかなく、
宮中では奸臣が己の権力を増大させることに腐心し、
政務を執り行うはずの役人もまた、ただただ己が利をのみ追求した。
その、破廉恥と言える程の貪欲な姿は正しく『豚』に他ならなかった。
暗愚な君主に暗愚な家臣。
この様な為政者の下で布かれる政が民草を守るはずも無く
当然、民衆の生活を崩壊させるほどの重税が課せられた。
重税が生活を逼迫し、ただ死を待つしかないと半ば諦観の念を持って日々を過ごす民衆は
伝説、予言と言った普段ならば到底信じられない戯言に一縷の望みをかけ、
またそれを迷妄していた。
『眩き流星と共に天の御遣いが降り立ち、世を太平へと導くであろう』
数ある予言のなかで、管輅によりもたらされたこの予言は、
奇妙な信憑性をもって、まるで油を満たした器に火種を落したかのように
瞬く間に大陸全土へと広まり、救いを求めた民衆の心に深く刻み込まれたのであった──
それは、100名程の部下を連れて、母が治める武威近辺で最近増えてきた
黄色の頭巾を身に纏った野盗集団の討伐を終え帰還する最中であった。
風が一迅駆け抜けた、強い強い春風が。
「良い風だな、なんかいいことありそうだ」
現代ではポニテールと呼ばれる髪型にまとめた
すらりと伸びる綺麗な栗色の髪を風に遊ばせながら
戦闘後の疲労感の中で彼女はそう呟く。
その風はどこか変革の予兆に感じられた、本当に何か起こるかもしれない、
そう思った刹那、それは夕暮れの空を切り裂いて現れた。
「おぉ。流s──」
流星か、そう言おうとして異変に気付く。
弧を描く流星が徐々に自分の方へと向かってくるではないか。
不味い、このままじゃ直撃する。
その旨を部隊に伝えようとしするが、時既に遅し、流星は眼前に迫っていた。
「お~い、起きろ~(ぺちぺち)」
誰かが頬を叩いている。
恐らくは及川あたりが自分を起しに来たのだろう。
全然疲労が取れていない気がする。
昨日は遅くまでドラ○エやってたからな・・・。
しかし序盤でスラ○ムナイトは強いな、バイキルト使えるし、仲間にして良かった。
ジョーカー?いや、テリーだ。
「お~い(ぺちぺち)」
ここでシカトしても後がうざいしな、起きてやるか・・・。
瞼越しから注ぐ光が眩しいので目を閉じたまま起き上がる。
「ん・・・、及川・・・?まだ遅刻じゃないだろ?アラームだって鳴ってないし」
「はあ?おいかわ?あらあむ?なにいってんだ?」
「お前こそ、なに言って・・・」
会話の違和感から目を開ける。
「へっ?」
自分の目を疑った。
目を疑ったのは部屋の装飾が中華風に成っているのもさることながら・・・
目の前の人物によるものが大きかった。
そこに居たのは悪友・及川なんかではなく、見目麗しい、正に美少女であった。
余りの出来事に気が動転して思わず呟いた。
「これ、なんてエロゲ・・・?」
「えろげ?さっきっからなに訳解んない事言ってんだよ、それより体はだいじょぶか?どっか痛めてないか?」
「あ、あぁ特には・・・それより・・・どちらさん?」
「あたし?あたしは馬超!字は孟起だ!」
「ばちょう?もうき?」
何処かで聞いた事のある名前を出されたので、必死に脳内データベースを検索する。
「馬超、孟起!!馬超ってええ!?あの錦馬超!?」
ま、まさか三国志の時代にタイムスリップしたとでもいうのか・・・?
いや、でも自分の知る馬超は筋骨隆々な男で、こんな可憐な少女ではない。
パラレルワールドか?いや、それにしても何で俺が・・・?
色々な考えが頭の中を駆け巡る。
取りあえず落ち着こう、そう思って
「ああ、たしかにあたしは錦馬超って呼ばれてるな。そうかあ、あたしもそこまで有名になったか~」
そういって、少し頬を赤く染めながら照れくさそうに鼻頭を擦る少女を改め見る、
綺麗な栗色の髪に整った目鼻、少々自己主張の強い眉毛、そのどれを取っても自分の知る
女子のレベルとは一線を画していた。
自分の知識にある、かの猛将、錦馬超とは似ても似つかないその容貌についつい
「きれいだ」
思わず想いを口に出してしまった。
「きれい?何がだ?」
「あ、いや、その馬超が綺麗だなって」
自分でも驚くくらいそんな歯の浮くような台詞が出た。
寝起きで上手く理性が働いていないらしい。
「あたし!?あたしがき、きっ、綺麗だなんて」
瞬く間に先頃とは比べ物に成らないほど顔が真っ赤になって行く馬超を見て更に一言。
「かわいい」
「かっ、かっ、ka、くぁwせdrftgyふじこlp」
最早収拾が付かないほど馬超の気が動転したところで誰かが入室してきた。
「姉様~♪あの人起きた~?」
そういって戸口に立っていたのは、馬超と同じ髪の色をした
これまた美少女という言葉が似つかわしい少女が立っていた。
「た、蒲公英」
ようやく平常心を取り戻した馬超によって蒲公英と呼ばれたその少女は、
あどけなさが残るものの、どこか馬超に面影が似ていた。
「ええ、と、蒲公英さんだっけ?」
「──へッ!?」
「お前っ・・・!」
蒲公英、その名前を何気なく出した瞬間、
何処から取り出したのか、銀色に輝く物体が自分の喉に突きつけられていた。
「いきなり人の真名を呼ぶなんてどういう了見だ!訂正しろ!!」
「な、こ、これ槍?」
そうだこれは槍だ、自分はさっきまで和やかに話していた馬超に槍を突きつけられているのだ。
「え?だって、え?」
あまりの出来事に全く対応できない、怒りと驚きの混じった感情を突然ぶつけられ戸惑う。
「いいから訂正しろ!!」
「お兄さん、いいから早く訂正して!!」
「解った、訂正する、訂正するっ!」
「・・・ふう、いきなり真名呼ぶなんてびっくりしたよぉ」
「まったくだ、いくら世間知らず、つっても真名くらい知ってんだろ・・・」
「まなって・・・なにそれ・・・?」
「へっ!?」
「はぁ!?」
「いや、だから『まな』ってなに?」
「お前、真名も知らないのか・・・」
「うん」
「はぁ、いいか、真名って言うのはなぁ、あたしたち大陸の人間にとって命に等しい大切な名でな、自分が認めた人にだけ呼ぶ事を許す名で、他の人はたとえ知っていたとしても絶対呼んじゃいけない、そういう名だ」
「ゴメン、ほんっと~にゴメン、俺そんな事全然知らなくて・・・悪気は無かったんだ」
「しかし、真名まで知らないとか・・・こいつは本当に、管輅の予言が当たったか?」
「かんろの予言?」
「あ、あぁ!そうだ!おば様が姉様とお兄さんのこと呼んでたんだった!」
「なんだ、蒲公英、早くそれを言えよ、それじゃあええと・・・そういえば名前も聞いてなかったな、あんた名前は?」
「俺は北郷一刀」
「姓が北、名が郷、字が一刀か」
どうやら本当に三国志の時代に来てしまったようだ、そう思いながら否定する。
「いや、その字って言うのはなくてさ、姓が北郷で名が一刀って感じかな?」
「字が無い?あの予言、ますます本当かもしれないな」
「所でさっきから出てくるその予言ってなに?管輅だっけ?」
「ああ、それも母様から聞いてくれ」
「え?ああ、ところで、その・・・そっちの子のお名前は?」
「たんぽぽ?たんぽぽはねぇ馬岱って言うんだよお兄さん♪」
「馬岱、か、また三国志か、いよいよパラレルワールドが現実味を帯びてきたな」
「ぱられるわーるど?なにそれ?」
「いや、なんでもない、あんなこと有った後だけどヨロシクね馬岱ちゃん」
「ほんとだよ~もうあんなことしないでね、こちらこそヨロシク♪」
「他にも色々聞きたい事もあるけど自己紹介もすんだし、あとは母様の前でにしよう」
「ああ」
「それじゃ北郷、こっちに来てくれ」
馬超に促されるまま部屋を出る。
歩き出しててすぐにそこはかとない不安が内からこみ上げてくる。
「はぁ」
部屋を出てから何度目かのため息。
だだっ広い城と思しき建物のなかを歩きながら不安を振り払うように首を振る。
この動作も何度目か・・・。
「これからどうなんのかなぁ、俺。」
<馬超√ 第1章 ~邂逅~ 終>
少々次回予告をば。
馬超が流星に遭遇したのと同時刻
「むふぅ」
「どうしましたか風?」
連れが突然立ち止まったのを見て声をかけるメガネの少女。
それに答える様に空を見上げた少女が言う。
「稟ちゃん、風は仕えるべきお方を見つけたようなのですよ」
次回・馬超√ 第2章 ~日輪を支える少女~
というわけで如何だったでしょうか馬超√
やっぱり大変ですね文章書くのは(汗)
少しでも楽しんでいただけたら幸いです
ご指摘、ご助言、誹謗中傷、いただけたら嬉しいです。
あ、プロフィールを見ていただければ解りますが作者はおっぱい星人ですw
一つご指摘を頂いたのですが、Hシーン・・・。
個人的には書いてみたいですが、どうなんでしょう、書かない方がいいのかしら
コメントとかいただけたらテンション、ダダ上がりです。
いっちょまえに予告なんてつけてみましたが、次回はあのお三方登場です。
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かなりご無沙汰でございますnakでございます。
以前に書いた「馬超√ 序」の本編でございます。
以下、説明をば
見ての通り西涼、翠メインの外史です。
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