No.168425

飛天の御使い~第参拾七幕~

eni_meelさん

北郷VS蜀 最終決戦後編その3です。
突然現れた五胡の軍勢。彼らの目的とは?
そしていよいよ決戦の決着がつく。

恋姫†無双の二次創作です。

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2010-08-27 04:59:19 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:5779   閲覧ユーザー数:4546

 

はじめに

 

この作品の主人公はチート性能です。

 

キャラ崩壊、セリフ崩壊、世界観崩壊な部分があることも

 

あるとは思いますが、ご了承ください。

 

 

一刀VS張松

 

手甲鉄鋼線を操る張松の攻撃に一刀の身体中からは血飛沫が舞っていた。その様子に張松は笑みを浮べながら

 

「噂に名高い北郷がこの程度だったとはな。この程度で最強を語るなど片腹痛いわ。」

 

怒涛の勢いで一刀を攻め立てる張松の攻撃に防戦一方になる一刀。だが、

 

ゾクッ!

 

張松の背筋に寒気が走った。その理由が分からないが本能的に危険を察知し攻撃を止め後方へ間合いを取る。

 

(何だ?何故私が下がったのだ?奴は私の攻撃について来れてないのに・・・・。何故・・・・。)

 

張松がそんな事を考えている間に一刀はすっと立ち上がると張松に視線を向けた。その目と視線を合わせた張松は思わず震え上がる。一刀はゆっくりと張松に近付いていくと静かにこう呟いた。

 

「こんなかすり傷を負わせたくらいで随分と上機嫌だな。」

 

そんな一刀の言葉に張松は少し下がりながら

 

「何を言うか、その傷がかすり傷だとでも言うのか?ただの負け惜しみにしか聞こえんな。」

 

そういう張松の言葉に、口の端を僅かに吊り上げて一刀は身体中に力を込める。

 

「ふんっ。」

 

その一瞬で一刀の肉体が隆起し、噴出していた血と共に傷口が消えていく。その光景に張松は唖然とする。

 

「貴様が傷を負わせたのは表面上だけだ。激しく飛び散る血飛沫に惑わされたな。貴様の攻撃などすでに見切った。あれだけ見せられれば阿呆でも分かるさ。それに・・・・。」

 

一刀が刀を鞘に納めると、張松の手甲は音を立てて崩れた。

 

「なっ。」

 

その事実に後ずさりしていく張松。そんな張松を見ながらゆっくりと近付いていく一刀。その身体からは冷たいまでの殺気を放っている。

 

「覚悟はいいか?」

 

張松は目の前の一刀の殺気に恐怖を感じ逃げようと画策するが、その張松を待ち伏せるかのように後方には恋と曹仁、曹洪がその行く手を遮る。

 

「・・・・・逃がさない。」「何処へ逃げるつもりだ?」「逃がしません!」

「なっ、法正と孟達も殺られたというのか・・・・。」

 

その事実に張松は動けなくなる。

 

「貴様が言ったこと、そのまま返すとしよう。張松、俺たちを見くびるなよ。」

「・・・っ、頼む!命だけは・・・・。俺だってこんなことしたくていたんじゃない。劉璋に命令されて仕方なく・・・。」

 

張松は言い訳を並べて助命を嘆願するが、一刀は耳を貸さない。そんな一刀の様子に土下座までして命乞いをする張松であったが、

 

ザシュ!

 

その張松に矢が突き刺さる。一刀たちはその矢の飛んできた方向に目を向けると、そこには弓矢を構えた劉璋の姿があった。

 

「ふん、敵に命乞いとは情けない。張松、儂を裏切ったこと死んで償うがよい。」

「・・・・そ・・・ん・・・な・・・。」

 

力なく倒れていく張松に目を向けることはなく、劉璋の方を睨み続ける一刀たち。

 

「劉璋、後はお前だけだ。」

「ふん、貴様らのほうが消耗が激しいと思うのだが・・・・。それに貴様らに絶望的なことを教えてやろう。今、この戦場に『五胡』の者たちが向かってきておる。我が軍を相手にしながら『五胡』を退けることが出来るのか、北郷?」

 

その事実に一刀たちの部隊の兵たちは動揺する。

 

「それはお前も一緒ではないのか、劉璋?」

「ふふふ、そうなればいいがのう。ぎゃはははは。」

 

一刀の問いに卑下た笑い声を上げる劉璋。そんな一刀たちのもとに本陣から伝令が入る。

 

「北郷様、諸葛亮・賈詡両名様から伝達です。『五胡』の軍勢20万がこの戦場に近付きつつあります。一度体勢を立て直したいので本陣へ戻られたし、と。」

「・・・そうか、わかった。皆、本陣へ戻るぞ。」

 

そう指示を出すが、劉璋たちはそれを阻止せんと波状攻撃をかけてくる。

 

「・・・ご主人様、・・殿は恋がする。」

「恋、あたしたちも手伝うよ。」「はい。」

 

恋の提案に曹仁と曹洪が供を願い出た。そんな3人に殿を任せ、一刀は本陣へと部隊を動かす。そんな様子を見ていた劉璋は相変わらずの高笑いで

 

「せいぜい足掻くがいいわ!どうせ貴様らにあるのは『敗北』の2文字だけだからな。ぎゃはははは。」

 

そんな劉璋の笑い声は戦場に広く響き渡るのだった。

 

 

北郷軍・本陣

 

本陣へ戻ってきた一刀の目に映ったのは、肉体的にも精神的にも疲弊しきっている北郷軍の将たちの姿だった。特に馬超姉妹や張遼、魏軍の面々は目を赤く腫らしていた。一刀も彼女たちが戦っていた相手は知っていたので、どれだけ心を擦り減らしながら戦ってきたのか理解した。そんな一刀は彼女たちを一人ひとり抱きしめて

 

「よく頑張ったな。」

 

と労いの声をかける。そんな一刀の優しさにまた再び涙を流していく。そうしていると一刀の元に朱里と詠が近付く。

 

「ご主人様、見ての通り皆疲弊しきっています。敵将の対応は何とかなりましたし、南蛮軍が共闘を申し出てくれたお陰で幾分楽にはなりましたが、やはり兵数の差はいかんともしがたく・・・・。」

「朱里、みなまで言わなくてもいい。『五胡』が向かってきているのであろう?まずはそれらの対応を考えねばならんな。奴らの目的が何であるのかをはっきりさせねばならん。侵攻なのか、別の目的があるのか。目的が分かれば話し合いで何とかなるかもしれんし。」

「でも相手は蛮族なのよ。話し合いが通じる相手ではないと思うわ。」

 

一刀の提案に詠は否定的な意見を述べる。軍師勢は詠の意見に賛同するものが多いようだ。だが一刀はその意見に首を振る。

 

「詠、そしてみんなよく聞いて欲しい。この戦いが終わればこの国にはきっと『平和』が訪れることになると思う。だが、この国の周りにも国はある。これからは外交ということが重要になってくるのだ。それなのに相手は蛮族だから話し合いは無駄だと決め付けてしまうことは、外交を広げていくという面ではあってはならんことだ。互いに手を取り合うことに努力しなければならん。戦って服従させるやり方は劉璋と同じ。俺たちが望む『平和』とはそんなもんじゃないだろ?」

 

一刀の言葉に一同は沈黙する。

 

「話し合いの通じないことも出て来るだろうが、話し合いをする努力を怠ってしまったら戦のない平和な世界なんて造れるはずがない。それだけは忘れないでくれ。」

 

そういうと一刀は一同を見回し

 

「朱里、とりあえず出られる者だけで打って出たいんだがどうだろうか?」

「そうですね、疲弊した状態での守りながらの戦闘は士気の低下を招くことにもなりかねませんので、出来れば打って出ていただいた方がいいと思いますが・・・・。」

「とりあえず翠、碧、楓、霞、魏軍の者たちは疲弊が激しいから休んでもらって、その他の者で・・・・。」

 

 

「待ってください!」

 

そういって歩み出てきたのは許緒だった。

 

「北郷様、ボクなら大丈夫です。だからボクを戦列に加えてください。」

「いやしかし季衣、君は・・・・。」

「こんなことで休んでなんかいられません。そんなことで休んでたら春蘭様から怒られてしまう。ボクは春蘭様の志を継いで魏の大剣として、華琳様の覇道を支える矛として、先頭に立たなければいけないんです。それがボクの選んだ道だから・・・・。それに、春蘭様を愚弄するような真似をした蜀の連中を絶対に許すわけにはいかないから・・・・・。」

 

許緒の覚悟を携えた瞳を見て一刀は許緒の頭を撫でる。まだ齢若い娘の許緒がそれほどまでの決意を出すまでにどれほど傷つき涙を流したのだろうか。一刀はそんな許緒の思いを汲み取る。そんな許緒の姿に触発されたのか、張遼、馬超たちも歩み出る。

 

「ご主人様、あたしたちも戦う。季衣の言うとおり、こんなことで戦えなくなってたら母上に笑われちまう。それよりも母上の偽者を使ってくるような蜀の連中をぶっ飛ばさないと気がすまない。」

「せやな、翠の言うとおりや。ウチもひと暴れして鬱憤を晴らさんとおさまらんわ。」

 

そんな2人の真剣な瞳に一刀はコクリと頷く。そんな2人の後方から歩み出てきたのは愛紗だった。

 

「義叔父上、私も行きます。いや、私も連れて行ってください。」

 

そういって頭を下げた愛紗を見て一刀は驚いた。ここ最近の愛紗の様子を心配に思っていた一刀だったが、目の前にいる愛紗はどこか憑き物が落ちたような晴れ晴れとした表情をしていたからだ。そんな愛紗の姿に一刀は笑みを浮べて頭を撫でた。突然のことに愛紗は目を瞑ったが、そんな愛紗に向けられた一刀の笑顔はひどく久しぶりな感じがして心地よかった。

 

「どうやら乗り越えたみたいだな。」

「はい。でも私一人の力ではありません。義兄上が、星が、舞華殿が、そして仲間たちがいたから乗り越えられたんです。だから私はこの力をそんな仲間たちのために使いたい。皆と共に平和な世界を造りたい。かつて剣を交えた曹操殿や孫権殿も今は同じ平和を目指すための同志。そう気づかせてくれたのは星であり舞華殿です。だから・・・・・。」

 

真剣な眼差しを向ける愛紗を見て一刀は心から安堵する。目の前にいたのは迷いを打ち払って進むべき道を得た闘神・関雲長の姿だったからだ。その瞳の奥は出会ったときの濁りのない澄みきったものだった。そんな愛紗の姿に北郷軍の士気は高まっていく。一刀はそんな者たちへ檄を飛ばす。

 

「皆、いよいよ戦は最終局面へと突入する。敵は我が軍よりも多くの兵を擁しているが恐れることはない。我々には苦しい時に支えてくれる『仲間』がいる。辛い時に傍にいてくれる『友』がいる。そんな我らの平和を願う心と『絆』の力を劉璋に見せ付けてやろうぞ!」

「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

 

一刀の檄に兵たちは戦場を揺るがすほどの咆哮で答える。結束を高めた北郷軍は劉璋の部隊へ向けて歩みだした。

 

 

劉璋軍・本陣

 

一方、劉璋陣営も北郷軍との決戦に向けて部隊の配置を完了させていた。前衛には天蓬から与えられた傀儡兵50万。そんな兵たちを見て劉璋は笑みがこぼれていた。しかし、そんな劉璋の元へ鄭度(ていたく)が現れる。

 

「劉璋様、向かってきている『五胡』の軍勢ですがどうするのですか?」

「ふん、心配するな。やつらにはこの戦で北郷軍と当たってもらう。なんたって奴らは儂には歯向かえんからな。」

 

劉璋は笑みを浮べてそういった。そんな劉璋の様子に鄭度も笑みをこぼす。

 

「成る程、そのための『奴ら』だったのですね。」

「左様。何故この戦場に向かってきているのかは分からんが、この際丁度よい。奴らを北郷にぶつけて疲弊したところで我が軍の精兵たちが纏めて潰してくれるわ。鄭度、奴らのところへ赴き指示を出せ。『この戦、儂に加勢すれば貴様らの大切な者たちを解放してやる』とな。」

「御意。」

 

劉璋の指示を受け、鄭度は五胡の軍勢の元へと手勢を引き連れて向かっていった。

 

「よし、我らは北郷との決戦に向かう。奴らを血祭りに上げ儂がこの世界の支配者となるのだ。全軍、前進!」

 

劉璋の号令に答える声はないまま、無機質な行軍の足音だけが戦場に響き渡るのだった。

 

 

北郷軍は士気の高さから押されていた状況を五分まで戻していた。そんな戦況を確認しながら指示を飛ばしていく軍師たち。しかし、戦場の西部に懸念していた五胡の軍勢が姿を現した。騎馬隊で構成された20万の兵たちが隠すことのない殺気を放ちながら戦場を見ている。そんな五胡の姿に兵たちは少なからず動揺をしている。

 

「約20万の騎馬構成の軍か・・・。いくらなんでも霞や翠、白蓮殿たちでもあれ全てを受け持つのは不可能だな。」

 

劉璋の兵たちを相手にしながら五胡の軍勢の方へ目をやる趙雲はそう呟く。北郷軍で騎馬戦を得意とする部隊は馬超、張遼、公孫賛とあるが、それでも20万もの数をどうにかできるほどのものではない。ここで本格的に五胡の攻撃が始まってしまったら、今以上に損害が増えるだろうと趙雲は危惧していた。そんな時、五胡の軍勢を見た趙雲隊の一人の少女が

 

「っ、あれは・・・・。」

 

そう呟いて一人五胡の軍勢へと馬を走らせていった。それに気づいた趙雲は慌てて止めようとしたが少女の騎馬は颯爽と向かっていく。

 

「あっ、おい!・・・くそっ、紫苑、槐(えんじゅ)、しばらくここを頼む。」

 

趙雲は黄忠と張任にその場を任せると、少女を追っていった。

 

 

一方、五胡の軍勢に対峙していた鄭度は見下したような態度で質問する。

 

「蛮族風情が如何な理由でこの聖戦に足を踏み入れたのだ?」

 

鄭度の問いに五胡の軍を率いている者が返答する。

 

「もう我らはお前たちに従うことは出来ない。」

 

その答えに鄭度は表情を変えずに

 

「そんな態度を取って良いのか?我らの元には貴様らの仲間がいるのだぞ。その答えが仲間の命を奪うことになってもいいのか?」

「・・・そ、それは・・・・。」

 

迷いを浮かべる様子に鄭度は卑下た笑みを浮かべながら続ける。

 

「だが、そんな貴様らに我が主・劉璋様から慈悲深いお言葉をいただいておる。この戦、我が軍に協力するならば貴様らの仲間を解放してくださるとのことだ。」

「っ!本当か?」

「あぁ。だから貴様らはその軍勢で北郷と戦え。勝利した暁には貴様らの仲間を解放してやる。」

 

鄭度に言葉に五胡の面々はざわめく。その大半はその条件を呑んででも仲間を救うべきだという意見だったが、男には素直にその事に同意することが出来なかった。それは、以前交わした約束のことを思い出していたからだ。

 

(くそっ、奴らに従わないつもりで兵を挙げてきたのに結局奴らのいいなりになるしかないのか・・・・。それでは以前と変わらんではないか。どうすればいいのだ・・・・・・。)

 

 

「父さま!」

 

あれこれ考えていた男に突然向けられた言葉。その声音に男は酷く驚き声のしたほうへ視線を移した。そこには騎馬にまたがる年若い少女の姿があった。

 

「っ、劉淵!無事だったのか?」

「私はもちろん母さまだって、他のみんなだって無事です。」

 

少女のその言葉に男はほっと胸を撫で下ろす。他の兵たちも歓声をあげる。

 

「だが劉淵、なんでこんな戦場にいるのだ?」

 

男は疑問に思ったことを少女に問いただす。少女は持っていた剣を掲げる。

 

「私は蜀との戦に参加しています。『北郷』の兵の一員として・・・・。」

 

その少女の回答に男は勿論、他の兵たちもざわめく。

 

「劉淵、何を考えているのだ!この国の者の軍に入るなどと・・・・。」

 

男は怒声を少女に向ける。

 

「分かっているのか?その者たちは我らの敵である蜀と戦ってはいるが、蜀同様奴らも我々の敵であるのだぞ!それなのにどうして・・・・。」

「それは、私たちが北郷軍の方々に助けていただいたからです。」

「だからといって漢の連中の軍に入るなどと・・・・、劉淵、漢の人間が我らにしてきたことが分からないわけではないだろう?なのにどうして奴らに協力するというのだ?漢の人間など信用することは・・・・。」

 

否定的な意見を並べ立てる男の姿に少女は声を荒げる。

 

「父さま、確かに我ら『単于』は過去、何度もこの国の者たちと殺し合いを続けてきました。生きていくために、国を守るために。でも彼らは、北郷様たちはその者たちとは違うのです。蛮族だと蔑まされてきた私たちに北郷様は対等に接してくれました。この国に住むものと同じように私たちを扱ってくれました。

 

そういいながら少女はある日のことを思い出していた。

 

 

それは、北郷と魏・蜀の戦が行われていた際に同時進行で行われた長安での作戦の最中。趙雲と呂布による人質奪還作戦で、無事蜀の武将たちの人質を解放していた時のことだった。暴行を受けていた陳宮を救出して引き上げようとしていた趙雲が見つけた部屋の中には、少女を含め数十人の人たちが幽閉されていた。趙雲はその者たちも保護して自軍へと連れ帰ったのだが、戦終了後その者たちが五胡の関係者だという事実が判明したのだ。そのことで北郷軍の面々はその者たちへの処遇について話し合っていた。五胡と争いを続けていた馬超や西涼の出の詠、霞、それに公孫賛たちなど大半の者は、保護することに否定的な意見を並べていた。愛紗、鈴々もその意見に賛成していた。そんな場の状況に少女たちは不安な表情を浮かべていた。

 

「いい加減にするのです!」

 

そんな中、彼女たちを擁護するものが現れた。それは意識を取り戻した陳宮だった。

 

「どうしてそんな悲しいことが言えるのですか?この人達はねねと一緒で劉璋に無理矢理連れてこられたんです。とっても困ってるのです。助けてあげたっていいではないですか。」

 

陳宮は否定的な意見を並べている者たちの方を睨みながら言葉を続ける。

 

「ねね達は助けてこの人達は助けないんですか?ねね達とこの人達の違いは何なのですか?この人たちが五胡の人たちだからですか?それだけの違いで差別するのですか?この人たちが何をしたというのですか?」

 

声を荒げながら問いかける陳宮の言葉に、一同は押し黙ったままだった。

 

「呂布様から聞きました。北郷という国はこの世界の皆が笑顔を絶やすことのない、争いのない国を造るために戦っていると。その思想は素晴らしいものです。でも、今あなた方がやろうとしていることはそれに反しているのではないですか?それとも北郷は、自分達さえ平和で楽しく暮らせたら他の者はどうでもよいのですか?そんなことをしても平和なんて、争いのない世界なんて出来るわけないのです。」

 

目に涙を溜めながら必死になって訴えている陳宮の後ろから歩み出てきたのは趙雲だった。

 

「北郷様、この者たちを保護してもよいのではないでしょうか?確かに我々と五胡とは争いをしてきましたが、この者たちには何の罪もないのは陳宮の言うとおり。私からもお願いします。」

 

そういって趙雲は頭を下げた。その姿を見て一刀は少しだけ目を瞑って考えるとその場にいた全員に玉座の間から出るように通告する。部屋には五胡の者と一刀だけとなった。五胡の者たちはその光景に警戒心を浮かべるが、次の瞬間目の前には頭を下げる一刀の姿があった。

 

「皆さんに不快な思いをさせてしまった事謝ります。」

 

そんな一刀の姿に五胡の者たちは動揺を隠せなった。

 

「皆さんは、この戦が終わったらきちんと国に送り届けますから、今しばらくは我慢してください。」

 

そういってその場を去ろうとする一刀に五胡の少女が恐る恐る口を開いた。

 

「どうして、私達を助けてくれるんですか?」

 

その質問に振り向いた一刀は笑顔を浮かべると

 

「さっき陳宮が言ったけど、俺達はこの世界の人達が平和で争いの心配をすることなく暮らせる世界を造るために戦っている。それはこの国の者だけではなく、他の国の人達も含めてそうなればいいと思っている。君達が例え五胡の者であったとしてもこの世界で生きている人間であることは、俺達と変わらないだろ?だったら争う以外にも道はあるんじゃないかな?っていうかそうなってほしいと思うのが本音かな。」

 

そういうと一刀は少女の頭を撫でた。少女は目の前の男の手の温かさに今まで感じたことのない心地よさを感じた。漢の人間には色んな仕打ちを受けてきた五胡の者達にとって一刀は異質だった。だが、異質ゆえに信じてみたいという感情が湧き上がっていた。少女は一刀の前に歩み出ると

 

「どうか私達にもお手伝いさせてもらえませんか?」

 

そう願い出た。その言葉に一刀は一瞬動揺したが、彼女達の真剣な眼差しを見て杞憂だと分かると手を出して

 

「こちらこそ、よろしく頼むよ。」

 

少女と握手したのだった。その後、少女は趙雲の部隊に配属されることになった。

 

 

「私は北郷様ならこの世界を、そしてこの国の者と私達の関係を変える事が出来る、いや変えてくれると思ったから今ここにいます。それに父さまも言っていたではありませんか。恥ずべきは逃げることにあらず、受けた恩を返さぬことだと。父さまはそれでもまだ迷われるのか?」

 

少女の強い口調に男は考えを巡らせていると、後ろのほうで大きな笑い声が聞こえてきた。男はその方へ視線を移すと、長髪の巨漢が笑い声を上げていた。

 

「劉豹、お前の負けだ。確かに漢の人間に関わるのは恥ずべきことかもしれんが、受けた恩を返さないのはそれ以上の恥。お前の娘の方がよく分かっているではないか。」

「去卑(きょひ)・・・・・・。」

 

去卑と呼ばれた男は少女の方へ視線を向け言葉をかける。

 

「劉淵、しばらく見ぬうちに立派になったな。」

「ありがとう、去卑叔父さん。」

 

そんな少女のもとに趙雲が追いついた。

 

「おい、劉淵。一人で駆け出しては危ないではないか。」

「趙雲様、ごめんなさい。でも、これは私達が解決しなければいけないことでしたから・・・。」

 

そういうと劉淵は父の方を向いて趙雲を紹介する。

 

「父さま、この方が私達を幽閉していたところから助けてくださった趙雲将軍です。」

「・・・あなたが私の家族を助けてくださったそうで、本当にありがとうございます。私は劉豹。この軍の代表者の一人です。」

「わしは去卑。同じくこの軍の代表者をしている。此度は我が一族の大切な仲間を救ってくれたそうで本当にありがとう。感謝している。」

「いやなに、縁あって劉淵たちを保護したに過ぎんよ。礼を言われるほどのことではない。それよりもそなたの娘を戦に駆り出していることのほうが申し訳ない。」

 

そういって頭を下げる趙雲の姿に2人は劉淵の話が偽りでないことを確信する。そして劉豹は何かを決意したような表情をすると、鄭度の方へ視線を向ける。

 

「劉璋に伝えておけ。我らは北郷と共に貴様を討つ、と。」

「なっ!」

 

劉豹のその言葉に鄭度は驚愕する。こちらの命令を聞かないという事態は予想できても、北郷と共闘するということは考えてもいなかったからだ。その事実に鄭度はあたふたしながら本陣へ戻っていった。劉豹の言葉に趙雲も驚いていたが、

 

「趙雲殿、北郷殿にお伝えください。我らの大切な仲間を救ってくれた恩、この戦にて助成することでお返しする、と。」

 

その言葉に趙雲は

 

「ありがとう、劉豹殿。共に劉璋を討とうぞ。」

「あぁ。」

 

そういって握手をした劉豹と趙雲。これにより北郷・南蛮・五胡という連合軍が蜀軍との戦に挑むことになった。

 

 

五胡共闘の報は、戦場で戦っている北郷軍の兵たちにもすぐに知れ渡り、それを知った兵たちはどんどん士気を上げていった。北郷軍本陣では、五胡共闘の報で混乱する劉璋陣営の動きをいち早く察知して素早く攻勢に出るように朱里が指示を飛ばしていた。

 

「敵は今混乱しています。そこで五胡の皆さんの騎馬部隊と連携するようにこちらも騎馬に特化した翠さん、霞さん、白蓮さんの部隊で敵前衛を攪乱します。その後で左翼・中央・右翼を同時攻撃します。そのまま敵本陣へ突撃を敢行します。左翼は魏軍の皆さん、右翼は孫呉の皆さん、中央は北郷軍で対応します。ここは一気に突き抜けてください。それがそのまま敵本陣への強襲になります。敵将はあらかた対処できたので混乱させれば勝機は見えてきます。」

 

その指示にそれぞれ持ち場へと向かっていく。その表情からは疲労の色は見えなかった。皆には分かっているのだ、今が絶好の好機だということが・・・。本陣前には北郷軍が誇る騎馬部隊が一同に会していた。

 

「翠、白蓮、ウチらが先陣や。後のもんが行きやすいように派手に暴れるで。」

「分かってる。邪魔する奴はみんなぶっ飛ばす!」

「翠、あんまり無茶するなよ。」

 

そんな3人の率いる騎馬部隊に本陣の朱里が号令をかける。

 

「突撃!」

 

羽毛扇を掲げて発せられた号に張遼、馬超、公孫賛の部隊は一気に駆け出していく。そのスピードはまさに『神速』。それに連携するように反対側からは五胡の騎馬部隊が挟撃するような形で劉璋軍の兵たちを掻き回すように蹂躙していく。

 

「華雄、夏侯惇、馬騰、徐栄、牛輔、みんな己に誇りを持って戦った誇り高き武将たち。そんな奴らの誇高き志を愚弄した貴様らをウチは絶対に許さへん。この張文遼の神速の一撃、そしてこれまで散っていった多くの同胞の魂魄の篭った一撃を受けてみぃ!!うぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

張遼たちは怒涛の勢いで敵前衛を殲滅させる勢いで駆逐していく。そうして敵前衛が崩れたのを見計らって左翼の魏軍では軍師の荀彧と鳳統が指示を飛ばす。

 

「先鋒は季衣、あなたに任せるわよ。」

「はい。」

 

荀彧の言葉に許緒は返事をすると直ぐに手勢を集め敵陣へと向かっていく。そんな様子に鳳統は大慌てで続きの指示を飛ばす。

 

「あわわ、季衣さんの補助には葵さんと茜さん、柊さんと杏さんにお願いします。秋蘭様と流琉さんは後方からの援護をお願いします。季衣さんたちが突破口を開いたら一気に突っ込みます。」

 

そういうと徐晃たちは一足先に敵陣へ出向いた許緒を追いかけるように陣を後にした。徐晃たちが戦場に着いたときには許緒がほとんどの兵を駆逐していた後だった。

 

「こりゃ、葵たちがいなくてもよかったんじゃ・・・・。」

「何言ってるの、葵ちゃん。季衣ちゃんの補助が私達の役目なのよ。」

「でも、季衣ちゃんがほとんど片付けてるし・・・・。」

「まぁ、それはねぇ・・・・・。」

 

徐晃と趙儼のやりとりに後ろの曹仁と曹洪はため息を吐きながら

 

「おい、早く季衣に追いつかないと不味いぞ。あいつ一人だけ突出してる。」

 

曹仁の言葉に一同が許緒の方へ視線を向けると確かに一人突出していた。そんな許緒に追いつくべく4人は駆け出す。先頭では襲い掛かってくる兵たちを許緒は次々と吹き飛ばしていた。

 

「お前らなんかに・・・・・お前らなんかに・・・負けてたまるかぁ!!!」

 

許緒は戦いの中で完全に怒りで我を忘れていた。そんな感情が周りに注意を配ることを疎かにする。徐晃たちが追いついた時には、許緒は後方から襲い掛かろうとしている兵の存在に全く気づいていなかった。

 

「季衣ちゃん、後ろ!」

「・・えっ?」

 

徐晃から掛けられた言葉に気づいて後ろを向くと、そこには兵の攻撃が迫っていた。

 

(しまった・・・・・。)

 

 

しかし、迫りくる攻撃は突然現れた一人の少女によって防がれた。少女はその攻撃をいなすとあっという間に兵たちを吹き飛ばしていった。

 

「大丈夫か?」

 

振り向いた少女はそういって許緒に手を差し伸べたのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・・あれ?」

 

少女は許緒を見てきょとんとした表情をしている。許緒も目の前の少女に驚きの表情を浮かべた。

 

「・・なんで、・・・・なんでいっちーがここにいるの?」

「きょっちーこそどうしてここにいるんだよ?」

 

許緒を助けたのは文醜だった。突然の文醜の登場に許緒はポカンとしていた。

 

「ボクは蜀の連中に殺された春蘭様の仇をとるために北郷軍に参加してるんだけど・・・・。それよりもいっちーこそなんでここにいるのさ?」

「アタイもきょっちーと同じような理由かな。大好きな人を劉璋に殺された恨みを晴らすために南蛮のみんなと一緒に蜀と戦ってんだ。」

 

そんな会話を交わしている2人のもとには再び敵兵が群がるように襲ってくる。2人は意識をそちらの方へと向ける。

 

「今は旧交を温めてる場合じゃなさそうだな。」

「そうだね、ボクたちが今やるべきことは敵の殲滅。」

「ふふ、きょっちーと背中並べて戦うなんて久しぶりだな。」

「だね。いっちー、背中は任せるよ。」

「おう!任せとけ!アタイの背中も頼んだぜ。」

 

そういうと2人は得物を構えて敵兵へと向かっていく。2人の圧倒的な力で敵は蹴散らされていく。後方より追いついた徐晃たちや南蛮軍もそれに加わり敵前衛を撃破。そのままの勢いを維持したまま敵本陣へと向かっていった。

 

 

一方、右翼でも騎馬隊による攪乱作戦を見届けた後、周瑜が孫権たちに指示を飛ばしていた。

 

「思春と明命は先行して混乱する敵兵を駆逐し道を切り開いてくれ。その後、蓮華様は小蓮様、張紹殿、張承とともに一気にここを突破します。」

「分かった。思春、明命、お前たちにかかっている。頼んだぞ。」

「御意。」「はい。」

 

そういって戦場へと赴こうとしている2人を孫権が不安そうな顔で慌てて止めて

 

「思春、明命、無理だけはしないでね。私はもう誰も失いたくはないの。だから・・・・。」

 

そんな弱気な表情を浮かべる孫権に甘寧と周泰は跪いて

 

「蓮華様、私の命は常に蓮華様の為にあります。しかし、蓮華様を悲しませぬよう必ず貴方様のもとへ戻ること、我が真名にかけてお約束します。」

「私もです。必ず蓮華様のもとへ戻ります。」

 

そういって2人は戦場へと向かっていく。その2人の背中をじっと見つめていた孫権は、南海覇王を持って周瑜たちの所へと戻ると

 

「冥琳、私は姉さまのような王にはなれないかもしれない。・・・でも、孫呉の為に、姉さまが願った世界を造るために私はこれからも前に進み続けるわ。だから、これからも私を支えてくれる?」

「はっ!我が才の全ては蓮華様を支えるため、孫呉の未来の為に尽くしましょう。」

 

周瑜のその言葉に孫権はほんの少しだけ笑顔を浮かべたが、すぐに真剣な顔に戻り

 

「シャオ、恵、薫、我ら孫呉の力、奴らに見せ付けてやるわよ。」

「まっかせて!」「ふん、当然じゃ。」「はい、お任せください。」

 

甘寧、周泰が道を切り開き、孫権たちが兵を引き連れて敵兵を駆逐していく。そこには王の覇気を纏った孫呉の王の姿が確かにあった。そんな後姿を見ながら周瑜は今は亡き友に呟く。

 

「雪蓮、見ているか?お前の妹はまた一つ強くなったぞ。お前が託した願い、私が必ず叶えてみせる。だから、これからも見守っててくれ。」

 

空を見上げて呟いた周瑜の頬を一筋の雫が通ったが、彼女はそれを拭い守るべきもののため、親友の遺した大切な者のために戦場を駆けるのであった。

 

 

「劉璋様、前衛突破されました。本陣までもうすぐそこまでやってきています。」

 

その報告に劉璋は信じられないといった感じの表情を浮かべる。

 

「何故じゃ、何故これほどまでに数の差をひっくり返すことが出来るのだ?それに南蛮や五胡が奴らに協力するなど・・・・。何故じゃ!」

 

怒りで荒れ狂う劉璋は辺りにあるものに当り散らす。そんな劉璋のもとに伝令兵が飛び込んできた。

 

「劉璋様、お逃げください。北郷が・・・・・。」

 

だが、その兵は最後まで言葉を紡ぐ事はない。

 

「ここまでのようだな、劉璋。」

 

その言葉に劉璋がその方向へ目をやると、中央戦場を突っ切ってきた北郷軍の精鋭たちが揃っていた。一刃、愛紗、鈴々、趙雲、呂布、黄忠、張任が一刀の後に続いている。その様子に劉璋は驚愕する。

 

「ば、馬鹿な。一番厚くした中央をこうも早く突破してくるとは・・・・・どうして・・・・。」

 

劉璋の唖然とする態度に一刀は

 

「貴様の兵は所詮、貴様の命令を聞くだけの駒に過ぎん。だが俺たちは違う。同じ志を持ち、互いが互いを思いやり支えることが出来る、そんな『絆』の力が俺たちの強さ。奪うことしか出来ぬ貴様にはわからんだろう。随分と手の込んだことをしてくれたが、それもここで終いだ。」

 

一刀の冷たい殺気まじりの覇気を前に劉璋軍の兵たちは戦意を喪失し散りじりに逃げ出していく。劉璋も逃げ出そうと画策し辺りを見回すも南蛮、五胡と取り囲むように配置されていて逃げ出すことは不可能だった。追い詰められた劉璋は懐から短刀を取り出すと

 

『貴様らに討たれるくらいなら・・・・。」

 

そう呟き自らの喉を掻っ切った。崩れ落ちる劉璋の姿を何の感情も見せない一刀はただ黙って見つめていた。主を失ったことで逃げ出せなかった劉璋軍の兵たちは投降。こうして大陸を2分する勢力の決戦は北郷の勝利という結果で幕を閉じたのだった。その戦場からは大地を振るわせるほどの勝ち鬨の声が響いていた。

 

 

「くっ、北郷め。儂の野望はまだこれからじゃ・・・・・。」

 

息を切らせながら森の中を走っているのは死んだはずの劉璋だった。

 

「しかし、天蓬殿にもらったこの『身代わり符』で鄭度を儂に化けさせておいてよかった。あのままでは儂の野望は潰えていたからな。だが、このままでは終わらんぞ。」

 

そう呟きながら走る劉璋の前に一人の人影が見えた。劉璋は北郷の関係者かと警戒したが、そこに現れた人物の顔を見て驚く。

 

「貴様、土方ではないか。天の国に帰ったのではなかったのか・・・・。」

 

そんな劉璋の質問に土方は目を閉じたまま

 

「やり残した事がありましたので・・・・。」

「やり残した事?」

 

土方の言葉に首を傾げる劉璋。

 

「まぁいい。土方、それなら儂に手を貸せ。北郷の連中に目にもの言わせてやるわ。」

 

そういって高笑いする劉璋だったが、気がつくとその身体は真っ二つに斬り裂かれていた。

 

「っ・・・・・な・・・・ぜ・・・・・。」

「俺のやり残した事、それは貴様のような外道を始末することだ。」

 

そう呟くと刀を鞘に納める。そして戦があったであろう場所へ目を向け静かに

 

「いよいよ、か。」

 

呟くとその姿は闇の中へ消えていったのだった。

 

 

あとがき

 

飛天の御使い~第参拾七幕~を読んでいただきありがとうございます。

 

投稿の間隔が長くなってしまい申し訳ありませんでした。

 

今回は非常に難産でした。自分の文書表現能力のなさを

 

本当に恨みたくなるほど・・・・・。

 

若干消化不良感は否めませんが、劉璋を誰が討つのか散々迷った挙句のこの暴挙。

 

本当に申し訳ないです。

 

時間はかかるわ、文章はグダグダだわ、で読みづらいかもしれませんが

 

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 

あと、前回の更新後、お気に入り登録者数が600人を超えました。

 

これもひとえに応援してくださる方々のお陰です。

 

投稿数も50に達しました。これからも楽しんでいただける

 

作品を出せるように努力しますので

 

変わらず応援していただけると嬉しいです。

 

それでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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