No.168186

恋姫無双 ~天帝の花~ 11話

夜星さん

久々の投稿です。
話しが進みません。

2010-08-25 23:21:30 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3029   閲覧ユーザー数:2550

「向こうの世界では、普通の学生だったのにこっちでは天の御使いかぁ・・・・・・」

 

 大樹の日陰の下に、体を預ける一刀。

 余計な音は一切なく火照った身体を静めるには気持ちが良い。

 

「まだ、そんなこといっているの?」

「ごめん、雪蓮。どうしても、まだ実感がなくてね」

 

 同じく隣に腰を下ろし顔を覗きこむ雪蓮。

 一刀とは違い、呼吸は落ち着いている。

 二人の近くには木刀が地に刺さっている。

 状況からみるに、稽古の中休みといったところだろうか。

 

 

「そんな事を気にしなくてもいいのに。大切なのは――」

「そうかもしれないっということだろ?」

 

 よくできました、と雪蓮は愉快に笑う。

 そう。

 陽光を煌く衣服を身につけ、自分達とは全く違う価値観を持つ人間。

 普通ならば変人として片付けられるかもしれないが、腐った世の中では一つの光として見えたのだろう。

 

 

「だけど、驚いたわ。突然、一刀のほうから稽古をつけてくれなんていうなんてね」

「暇な時間があったときは栄花さんに稽古をつけてもらっていたから、どうしてもじっとしてられなくてね」

「まっ、これで自分の身ぐらい守れればいいんだけどねぇ」

「うぅ・・・・・・精進します」

 

 栄花がこの国から去って三ヶ月が過ぎた。

 彼がいなくなったとしても城の中は変わることはなく忙しい毎日が続いていた。

 

「ったくさ、栄兄は一刀ばっかりで全く私にはなにもないんだもん」

「はは、やっぱりこの地にいる人たちは俺のような考えは珍しいんだよ」

「それだったら、一刀のように女性を大切にしなさいよ!」

 

 ぐっ、と拳を握り怒りを表している雪蓮。

 それを横目にしながら、一刀がそれを静める。

 

「まっ、いまにはじまった事じゃないからいいけどね。それより栄兄とはどんなことを話していたの?」

「うーん、別に深いことは何もなかったよ。日本刀の話や政治の話しが主だったかな」

「一刀がいっていた剣のこと? あんな薄い刀が使い物になるわけがないじゃない」

「そういわれると何もいえないんだけどね」

 

 日本刀を再現しようと鍛冶師に依頼してみたが惨敗だった。

 出来上がる前に折れてしまったり、完成したとしても試し切りの時点で折れてしまう結果だった。

 

「まっ、それよりも蓮華とはヤったの?」

「ぶぅっ・・・・・・何をいきなりそんなことをいうんだよ」

 

 飲んでいて水を勢いよく口から吹いてしまった。

 間違えて雪蓮の顔に吹きかけてしまったら、瞬殺決定だ。

 

「えっ?! まだしてないの?? 一刀って意外に純情なのね」

「そんなこといったら、雪蓮は・・・・・・いえ、何でもありません!」

 

 突如の笑顔の裏にある鬼のような姿には対面したくはなかった。

 口が裂けてもいえないだろう。

 雪蓮は、いつになったら結婚するの? なんて殺人的な言葉を。

 

「それに、連合として忙しい時期なのにそんなことを考えている場合じゃないよ」

 

 数週間後に迫った反董卓連合。

 全ての諸侯が集まってもいいというぐらいに大きな戦が始まる。

 もちろん、師でもある栄花も曹操たちと共に。

 

「それよりも、どこか遊びにいきましょ」

「駄目に決まっているだろ、雪蓮。そんなことしたら、冥琳にまた怒られるだろ」

「えぇー、一刀は冥琳のほうに肩を持つの? いいじゃない、少しぐらい」

「駄目です。王としての自覚を持ってください」

「また、そんな冥琳のような言葉を使って私をいじめるのね」

「そんなわがままを―――?! 雪蓮! 人だ! 人が倒れている」

 

 一人の商人だった。

 傷を見るに野盗に襲われ生き延びたというところだろうか。

 

「雪蓮! 悪いけど医者のところまで走ってくれないか?」

「・・・・・・・・・」

 

 必死な一刀に対して雪蓮は冷めた目で見つめている。

 何をしているんだ?! 雪蓮。今でも死にそうなのに、じっとしている場合じゃないだろ。

 一刀は焦る気持ちを抑えられない。

 人は少しずつ衰弱していく。

 

「こりゃ、駄目かもね。連れて行ったとしても無理よ」

「えっ?! でも、やってみないとわからないじゃないか」

「苦しい時間を長く味わって死ぬよりも、短くしたほうがいいんじゃないの」

「?! 何をいっているんだ。雪蓮。とりあえず、俺が連れて行く」

 

 一刀は街へ馬を走らせた。

 

 

「?! 何をいっているんだ。雪蓮。とりあえず、雛は俺が連れて行く」

 

 そう言葉を残し一刀は去っていった。

 残されるのは私だけ。

 

「まっ、普通はこうなるよね」

 

 苦笑いをしながら頬を掻く雪蓮。

 一刀は私に幻滅したに違いない。 

 雪蓮は少し考えるかのようにして目を瞑る。

 

“あー、これは助かれないね”

“何、呑気なことをいっているの!”

 

 辺りは真っ白の世界。

 その世界の中に黒髪の男の子が一人の男性を介護し桃色の髪をした女の子が叫んでいた。

 

“そんなにうるさいとこの人に迷惑じゃないか”

“どうして、そんなに冷静なのよ?!”

 

 初めての人の死を間近でみて冷静な子供はいないだろう。

 男性は血だらけで、今にも呼吸をとめそうだった。

 

“まっててね! いま助けを呼びにいくから!”

 

 女の子の言葉に対して男性は意味がわからない言葉を話す。

 いや、口が思い通りに動かなくうまく話せないのだ。

 

“なにか苦しそうだし、楽にしたほうがいいんじゃない?”

“馬鹿じゃないの?! 第一、母様が治めるこの地で死者を出してなるもんですか!”

 

 走りだそうとして、袖を掴まれる。

 相変わらず、男性が何を言っているか分らないが必死の顔は誰が見てもわかった。

 

“絶対助けますから”

 

 でも、彼は助からなかった。

 だけど、ひどく嬉しそうな顔だった。

 その笑顔の意味が、その時は分らなかった。

 

 

「ん? 風が少し強いわね」

 

 肌を刺すように風が流れる。

 気がつけば、日は沈むようだった。

 どうやら、少し眼を瞑ったつもりが眠りこけたようだ。

 

「全く不思議なことよねー、死んで感謝されるなんて・・・・・・あぁ、冥琳のお仕置き決定かな」

 

 親友の姿が目に浮かび苦笑い。

 

「一刀は一刀なのにね・・・・・・はぁー、私もこんなんじゃそろそろ終わりなのかな?」

 

 誰に話すこともなく一人で愚痴りなぐりながら帰路に着く。

 先ほどの言葉を脳の片隅におき、いまは今日を乗り切りためにどうしようか、と考えながら雪蓮は歩を進

める。

 

「ありがとうございましたー」

 

 彼女が頭を下げると周りから歓声の声が上がる。

 町の皆は彼女のことを誰も知らない。

 いや、もしかしたら名前だけは聞いたことはあるかもしれない。

 討ち取られたはずの張角本人なのだから。

 そして、いつもそばにいた可愛い妹達の姿はそこにはみえない。

 栄花に助けられた彼女達は、本来なら彼の主である曹操が処罰をするべきだが、彼は彼女達を旅芸人とし

て見聞を広めて来い、と言った。

 言葉の意味は、いうこともなく主である曹操が覇を目指す以上、敵の情報をあつめることだ。

 

 お姉ちゃん、がんばっているよ!

 と、自身を奮起させるために心の中でつぶやく。

 下の妹達もそれぞれ、この空の下で歌を歌いながら旅をし情報を集めているに違いない。

 はじめは、別れて旅をすることに反対していたが彼には返しても返しきれない恩がある。

 そして、彼の役に立ちたいという思いがあったからこそ大好きな妹達と少しの間でも別れる事ができたの

かもしれない。

 

 

「ほぉ、そこの旅人よ。良き歌であった。この趙子龍、感動いたしましたぞ」

「えっ、あ、は、はい。ありがとうございます」

「ははは、そこまで頭を下げんでもよかろう」

 

 気分が良い、と言っているみたいに笑みを零している。

 自分自身もこうして、歌を歌う事によって人を喜ばせることができるのが嬉しいから悪い気分はしない。

 そう。

 私は歌わなければならない、あの戦で死んでしまった人たちのためにも、私たちはただ歌を歌っていただ

けであの事については関係してない、と言って許しを請いたいわけでもない。

 私は歌いたい。

 今までは自分の歌で人を喜ばせるだけだったが、そこに死んでいった人たちのために供養として歌いたい。

 そう。

 色々と理由をつけても、結局は歌を歌いたいだけ。

 それだけだ。

 

「ん? どうしたのだ? 難しい顔をして」

「い、いえ。なんでもありません」

「そうか、何か悩み事があるのなら、この・・・・・・名を趙雲という。御仁の名を聞いてもよろしいかな?」

「えっ、えぇと、天和といいます」

「そうか。それでは、天和とやら我が主、桃香さまのために一曲お願いしてもよろしいかな?」

「は、はい。私なんかでよければ、お願いします」

 

 趙雲は彼女の名が真名だとあるということは、わかっていたが事情があるということを汲み取りあえて、

何も聞かなかった。

 そんな、彼女の心情を察知できたのか天和は、にこやかに笑いながら彼女の主に会うために後ろをついて

いく。

 道中、どうしたら、そこまで大きくなるのだ? と胸について話しに花を咲かせながら。

 

 天和は夢心地だった。

 趙雲の主である劉備と出合ったときは衝撃を覚だった。

 栄花の主である曹操は現実主義者と考えれば彼女は夢想家だ。

 軍を率いる人間は冷酷だと思っていた天和にとってはそれだけで十分だった。

 そして、時間が経つにつれて彼女の魅力に吸い込まれそうになる。

 少ない時間の中といっても、話をすればするほど誰もが一度は憧れた世界に引きずり込まれそうになる。

 誰もが笑顔な世界へと。

 

「それで、どうかな? 天和ちゃん」

「は、はい、劉備さんの言葉はとても嬉しいのですけれども」

「もぅ、せっかく真名を許したのだから桃香って呼んでもらわなくちゃ嫌」

「桃香さま、しゃんとしてください」

「愛紗ちゃんは、かたいなー」

 

 先ほどからこういったやり取りが繰り返されている。

 天和の歌によって、城の者たちは歓喜しいまの状態はとても活気に満ち溢れている。

 それは武将だけではなく、その部下の兵士文官までもが、だ。

 彼女達にとって、これほどまで士気を上げてくれる者を逃すわけにはいかなかった。

 

 それにしても暖かい場所だなぁ、と天和は思っていた。

 そういえば、栄花さんの言うとおりに、ここは劉備さんの世界なんだ。

 栄花は旅に出る天和に言葉を残した。

 劉備殿に出会うことがあるのなら天和、お前はおもしろい経験をするぞ。同じ人間が二人いるのだからな。

 と、彼は意地悪そうに笑っていた。

 

 そう。

 あそこにいるのは、一昔前の私たちの姿だ。

 大陸一の歌姫を目指して、どんな困難があったとしてもきっとなんとなる、と信じていた過去だった。

 だから、彼女達はどんな状況下に陥っても夢を諦めないだろう。

 私のように天罰に匹敵するぐらいの力によって崩れない限り。

 例えば、張角という名を名乗れないように・・・・・・いや、奪われたように。

 

「それにしても、旅人というと“栄花”はどうしているのやら」

「ふん、あ奴の事などどうでもよい」

「おやおや、愛紗は彼を嫌っている様子」

「当たり前だ、白蓮殿の下での奴の生活は知っているだろう。調練は全く手に一切つけず、やる事といった

ら鍛冶師と修理するだけの日々だけの事を」

「だが、そのおかげで部下達は困る事はなかったぞ」

「私は同じ武人として呆れているだけだ・・・・・・それに全ての戦は本陣で待機という始末・・・・・・そして、最後

の最後に身勝手な行動をし姿を消す。そんな奴を良く思うことはない」

「ふむ、それは愛紗の言うとおりだ」

「当然だ」

 

「それとも何か? 星よ。お前は、あ奴のような男がよいのか?」

「不思議な・・・・・・奴だとは思っていたよ」

「馬鹿の間違いではないのか」

 

 天和は二人のやりとりを冷めた目で見つめていた。

 彼女にとってここは居心地が良い場所だとはいっても、元を考えれば自分達を滅ぼすために軍を出し、ど

うしようもない私たちを救ってくれた御方を馬鹿にされているのだ。

 そう思うとここの空間が甘い毒の空間だと感じる。

 私たちの命を狙った人たちの場所が心地良いと可笑しくなるぐらいの感性に。

 だから、口にした。

 

「これ以上あの御方の悪口は、私が許せません」

 

「なぜ、我がこのようなことをしなくてはならぬのだ」

 

 場所は定軍山。

 流星の話しでは・・・・・・いや、星の話しによると遠くない未来ここで死地が訪れるという話しらしい。

 一人で調査するのは、以前の看病した辺りからどうも感じが悪い。

 それでも、自分が楽しんだので気にする事もなく見渡す。

 場所を確認しながら、弓兵に狙われたらお終いだな、というのが率直な感想だった。

 森というのは視界を遮るものが多く、不利だといわれている。

 しかし、遮るものがなく見通しが良い所を確保できたなら、そこは聖地だ。

 誰にも邪魔される事はなく、殺ることだけに集中ができる。

 まさに絶対無敵。

 

「それにしても斬るというは、こういうことをいうのだろうな」

 

 腰に掛けてある刀に視線を移す。

 この時代には珍しい薄く長いものだった。

 もし、この場に一刀が居たのなら興奮するに違いない。

 それは、日本刀なのだから。

 

 栄花は無造作に横一閃に滑らす。

 そうすると、ずるり、という感じに断面を残しながら木が倒れる。

 ようやく完成した。

 これほどの業物ができるまで、真桜は働き蟻のように使われ今では深い眠りについているだろう。

 

「そうは思わぬか、単なる者よ」

 

 茂みの中から裸という言葉がこれほど似合う男はいないだろう。

 

「うふふ、さすがにわかっちゃうかしら」

「それほどの氣をもちながら、気づかぬほうが無理だというもの」

「嬉しいわ、ご主人様に褒めてもらえるなんてん」

「・・・・・・・・・」

 

 男は身体をくねくねしながら奇声を上げる。

 

「貴様のようなモノに見覚えがないのだが」

「あぁん、その態度と眼は私を誘っているのかしら、そうなのかしらん」

「・・・・・・・・・」

「本当に忘れているのねん。仕方がないわ、私たちの関係を説明しましょう」

 

 男の話は突拍子もないことだらけであった。

 この世界は、正史といえる場所の人々が想った世界で外史という世界であるということ。

 そして、その外史の全ては北郷一刀が起点となっているということ。

 目の前にいる男は、その外史を管理する者だという。

 さらにいくつもの外史が滅び、再生を行った。

 

「ほう。ならば、その管理者が我になんのようだ・・・・・・よもや、我がそちら側の者というわけではあるまい

な」

「うふふ、そうね。正解のようで外れよ。私は外史の支持者であったけどもあなた達は反対者であったわ」

「だが、我にはその外史の管理者としての記憶を持ち合わせてはいないが」

「そうなのよ、それが可笑しな話なのよ。それに私たちは、管理者としての位置ではないわ。ただの外史の

住人。消滅することもなく正史のような外史の世界になってしまったのかもしれないわ」

「・・・・・・・・・消滅することもなく、再生することもなく時が過ぎてゆくのだな」

「そうね。もしかしたら、これが終着点なのかもしれないわね」

 

「・・・・・・実に不愉快な話しであり、人の生死は一度だけで十分だ。北郷一刀・・・・・・なるほど。もし、話しが

本当ならば外史を作る選定者みたいな者か」

「我はその否定者でありお前は肯定者か・・・・・・そして、この世に住む者たちは贄といったところか・・・・・・・・・

くくくく」

 

 おかしい、実におかしい。

 このような出来事が、いくつにも繰り返されていたというわけか。

 残念だ、記憶がないことが残念だ。

 だが、良いこともある。

 この外史は、消滅することがない。

 北郷一刀が死を迎えてもだ。

 おかしい、だがおかしくない。

 ただ、過去の真実を知っただけ。

 だから。

 今までどおりに、生を全うすればよい。

 そして。

 天を殺そう。

 

 

「・・・・・・さて、過去の管理者よ。我を殺すか?」

「えぇ、残念だけどご主人様は二人もいらないわ。そして、あなたは過去の事をなしにして考えても危険な

思想を抱いているわん」

「口を慎め、下郎が。我が願いは世の真実であり救済だ」

「わかっているわ。あんなに優しかったご主人様がそうなったことも・・・・・・だけど、私は否定するわ。管理

者ではなく、一個人として」

 

 互いの無言のときが過ぎてゆく。

 お互いの主張は終わった。

 あとは、答えを得るだけ。

 それを得るのは実に簡単なだ。

 野に散ったものが敗者で残ったものが勝者である。

 つまり、勝者が答えだ。

 

「はああああああああああ!!」

「ぬおおおおおおおお!!」

 

 互いの得物は刀と拳。

 栄花の突きが男の頬を掠り、相手の拳圧で栄花の頬が切れる。

 

「さすがは、どんなに醜くとも世界を管理していただけの力はある」

「ぬふふふふ、それは今では関係ないことよん。それに私たちは幾年にかけて殺し殺されているのよ。もちろん、

あなたもねん!」

 

 奇妙な声と共に男の蹴りが栄花の腹部に打ち込まれる。

 みし、っと骨に皹が入る音が聞こえる。

 なんたる、浅はかさ。三本は、いったか。

 呼吸の息苦しさや、動きで確かめる。

 それにしても、何だ。我の動きが見切られているのか――。

 そう。

 栄花の動きは完璧に見切られていた。

 どの動きも、ぎりぎりのところで避け、その隙を狙い拳が蹴りが飛んでくる。

 

「がはっ・・・・・・」

「んもぅ、本当に諦めが悪いわね。その、日本刀の素晴らしさはよくわかっているわ。もちろん、戦術的な

意味でね」

 

 なるほど。

 過去の自分自身は、敵対者でありながらそれなりに友好があったに違いない。

 全くもって吐き気が止まらないが。

 

「ほいっ!」

「くっ・・・・・・・」

 

 ばき、と完璧に先ほどの骨が折れた音がした。

 息苦しい。

 一呼吸するたびに、窒息するようになる。

 だが、酸素を求め痛みが増す。

 全くもって最悪な状況だ。

 

 日本刀を腰に差し。

 背中に交差する紅い槍を握る。

 

「二刀流? いえ、この場合は二槍流というのかしら」

「・・・・・・・・・」

 

 栄花はゆらりと槍を構える。

 眼は焦点があってないように、ぼんやりとしている。

 

「んふふふ、残念ね。最後まで私の夢でもある、肉奴隷は無理だったようね。だけど、あなたはもうご主人

様ではないわ。さようなら」

「・・・・・・・・・」

 

 焦点が定まらない。

 男はなんていった。

 さようなら?

 いや、違う。

 男は奇声と共に拳を構える。

 少し前のことだ。

 二槍流? これだ、男は知らない。

 

 溜めを作り、突撃の準備が始まる。

 全くもって話しにならない。二槍流などあるわけがない。

 男が走りだす。

 距離は少し遠い。

 全然足りないって? だから、馬鹿な事をいうな。

 我が持つものは二槍ではない。

 ただの一本の紅い赤い、呪われた槍だ。

 

「っ!!」

 

 その驚愕は相手の男からの声だった。

 表情を見ても、眼を大きく広げ人間であることさえ難しい。

 鬼という言葉が適切だろうか。

 

「その顔から想像するに我は槍を使える者ではなかったらしいな」

「・・・っ・・・・・・・っぁ」

 

 男の胸はきれいに突かれており、その先には臓までもが貫いてある。

 

「一つ気になることがあるのだが、ご主人様とはなんだ? 我らは敵対しているはずだ」

「・・・・・・!・・・・・・・!」

「満足に話すことも出来んか、ではさらばだ。悲しき者よ。我に向けた刃は、己の血をもって大地にひれ伏

すがいい。なに、それが貴様できる最後の善行だ」

 

 そうして栄花は去っていた。

 己も地に血を染み渡らせながら。

 行商人は、こんな世間話をするようになった。

 定軍山に咲くには、紅い赤い花が一輪ありとてもきれいだという。

 それは、彼岸花であった。 

 

 あとがき

 

 記憶が消える頃にやってくる夜星です。

 今回は、話しが進むこともなく日常?の話しです。

 やっぱり、恋姫の主人公は一刀のわけですから、もう少し日常?という名の強くなっていくところを書こ

うと思っています。

 栄花は・・・・・・もう、ここまできたら悪役?みたいなポジションでいいですよね・・・・・・。

 だらだら、と進んで行きますが最後まで付き合ってくれると幸いです。

 それでは、またの機会にお会いいたしましょう。


 
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