真夜中にね、なぜか誰もいないはずなのに聞こえる音、皆さん覚えがありますよね?
明かりをつけても姿は見えず、再び明かりを消して寝ると、やっぱり聞こえる。
ほら、今もそこで。
カサカサ、カサカサ、カサカサ。
「……何なのよ、一体。気になってちっとも眠れないじゃない」
きょろきょろと。部屋の中を見渡す私。
気配は確かにする。でも、姿は確認できない。
「……どうしたんだよ、こんな夜中に」
隣でぐーすか寝ていた一刀が、私が起きたのに気づき、寝ぼけながら目をこする。
その時だった。
ひゅ~ん。ぴと。
どこからともなく飛んできて、一刀の”あれのところ”に、そいつはトマッタ。
「……い」
「……何だ?」
真っ暗なので、まだ目がなれてなくて姿の見えていない一刀が、そいつに手をやろうとする。
「……い、いやああああああああ!!」
気がついたら、私は思い切りそいつを、近くに置いてあった竹簡で、一刀”あれ”ごとぶん殴っていた。
すっぱーん!!
と、いい音をさせて、一刀はその場に、泡を吹いて、悶絶した。
「何が……、何なんだ……。がく」
「で、結局どういうことなわけ?」
「いえ、ですからその、……が出たんです」
「え?なに?聞こえないわよ桂花。夕べ、どうしてか知らないけど、一刀の部屋にいて何が起こったのか、ちゃ~んと、話して御覧なさい?」
ごごごごごご。
そんな効果音が聞こえてきそうな、「私怒ってるのよ?」的な表情とオーラを漂わせた華琳さまが、私を笑顔で見つめつづける。
「いえその、ですね。昨日は、その、ほ、北郷と遅くまで残業をしておりまして。その」
「そう。それはご苦労様ね。で、何でそれで一刀の部屋に泊まることになるのかしら?」
ごごごごごごごごごごご。
さらに強くなった効果音を背負い、さらに見たこともない笑顔になる華琳さま。目、笑ってないけど。
「けいふぁ?」
「はひ!そ、その、こ、腰が、その……」
「腰が何?立たなくなるほどしたとでも?なに?私に自慢?いい度胸ね、桂花?」
どこから取り出したのか、絶を構える華琳さま。
「ち!違います!その、長時間座りっぱなしだったのに、作業が終わってすぐ立ち上がったせいで」
「……ぎっくり腰、ですか?」
「……そうよ」
稟の一言に答える私。何でか顔が熱いけど。
「なるほど。それで、動けなくなって北郷に看病してもらっていたと」
「そうよ!……けど、結局そのままあいつの寝台に一緒に寝る羽目になって、「ふ~ん。いっしょに?」(う;)し!仕方なくです!で!夜中にふと目が覚めたら、そしたら」
「そしたら?」
「……ヤツがいたのよ」
『ヤツ?』
全員が首をかしげる。
「わからない?!あの、夏になると夜中に突然出てきて、部屋のそこかしこを駆け回る、黒光りして、一匹見つけたら三十匹はいる、全人類の敵よ!!」
『……ああ~。”あれ”』
どうやらようやく理解してもらえたようだ。
「けど桂花、気持ちはわからないでもないけど、あれはやり過ぎじゃない?」
「そうですね~。おにいさん、しばらく使い物にならないそうですよ~?いろんな意味で」
「う」
一刀は今朝から部屋に、こもりっきりである。というか、痛くて歩けないそうだ。……竹簡、結構硬いわよね?……ごめんなさい。
「そ、それはともかく!やつがいる限り、いつまた同じ悲劇が繰り返されるかも知れません!華琳さま!ぜひとも討伐のご許可を!」
「討伐、って。そんな大げさな」
「いーえ!城中からヤツを一匹たりとも逃さず、完全に駆逐しなければいけません!ほら!いまだってそこ……に……」
「?」
頭に疑問符を浮かべる華琳さま。全員の視線は、その華琳さまが座る玉座。そこに、ヤツが、いた。そして、それは、飛んだ。
華琳さまの、神聖なる、お胸様に。その、(わずかばかりの)谷間に。
「?……ふぃsjd差おwp、qjしc!!!!!」
すでに言語として成立していない、そんな悲鳴。
今日、初めて私は耳にした。
そして、始まった大作戦。
名づけて、『油虫駆逐大作戦』!!
まあ、まんまであるが。
内容もどうということはない、城内の一斉大掃除。規模が少々違うことを除けば。
徹底的に。塵ひとつ残さず。しずく一滴漏らさず。そしてそれは、城内のみならず、
「町にもお触れを出しなさい!今日、いいえ!何日かけてもかまわないから、徹底的にヤツの息の根を止めるのよ!覇王たる私の名にかけて!!」
それから十日ほども経っただろうか。
陳留の町はごみひとつ、砂埃ひとつ落ちていない清潔な町になった。
ようやく動けるようになった一刀が、
「……おれが知らないうちに、何があったんだ?」
「悪が滅んだのよ。一つの悪が、ね」
「は?」
わたしは今、とても晴れ晴れとした気分だった。
そして、それから数日後の夜。
「ん……、ちょ、ばか、そんなとこ……!」
「ん……、可愛いよ、桂花」
「べ、別にあんたに言われたって、うれしくなんか、ひゃう!」
今日は、正真正銘、一刀と閨をともにしていた。
べ、別に一刀がどうとかじゃなくて、そ、そう!これは華琳さまの命令だから!華琳さまに言われて仕方なく、
「……ほんとーに、仕方なく?」
「こ、心を読むな!馬鹿!変態!助平!」
その時だった。
そいつは、再びやってきた。
ぴと、と。
そいつは、一刀の”それ”に飛びついた。
「え?」
「き!」
おもわず、近くにあった花瓶を、握っていた。
「桂花!待て!落ち着け!んなもんで殴られたら今度こそしゃれにな」
「きぃぃぃぃぃいやあぁぁぁぁあ!!」
「やめれえええええええええええ!!」
そいつは、音もなく忍び寄り、突如として現れる。
そして、気づけばほら、あなたのすぐそばに……。
夏になるとやってくる、黒くて、鈍い光を放つ、ちょっとコニクイ、アイツ。
みなさん。夏の夜には気をつけましょーね。くす。
Tweet |
|
|
59
|
5
|
追加するフォルダを選択
調子こいての夏祭りネタ第四段~。
思いついたんだからしょうがない(開き直り)。
たいしたもんでもございませんが、お付き合いください。
続きを表示