恋姫☨無双:異聞伝~五胡の王~
国破れて山河あり、後世の詩人の歌だ。
小国、大国…ある国は生き残りを、ある国は発展を、ある国は野望をかけてせめぎあい、そして消えてゆく。
そして目に見えるもの見えないもの、何かしらを残していく。それがまた次の国、次の人々へと受け継がれていく。
それを自然は見つめている。見つめ続ける。何年も何代も、子供が大人になり老いて死に、その子供がまた大人になり老いて死ぬ。人の営みを。
と、客観的に述べる事は容易い。しかし、今まさに国が滅びる姿を目の当たりにしている者はどうだろか。
理想が燃え尽きるのを見せつけられるものはどうだろうか。
城が燃えていた。
天を焦がす紅蓮は風に踊り、星星を焦がし、舞い散る火の粉はその親元とは対照的にふわりふわりと雪のように降りてくる。
そして降りた先で火の粉は火の子から大人になり燃え盛る。
そのごうごうという音を背に、少年は家臣に抱えられながら馬上にあった。
「父上!!母上!!」
叫び、遠ざかる城に手を伸ばす。本当ならばあの中に行きたい。それが間違っていたとしても行かずにはいられない。
それを馬を並走させる男が必死に押しとどめる。
「ええい!離せ候伯!!」
「成りませぬ!!今となっては貴方様が龍家の跡取り…我等に遺された最後の希望でございます!!」
語る男の目からもとめどなく涙があふれ、戦に乱れた髭を濡らしていた。
突然の事だった。当然来襲した軍勢に、仲間は殺されパオは焼かれ、完成したばかりの城も業火に包まれた。
雲霞のごとく溢れる敵兵を何人斬り捨てたか男は覚えていない。ただ、父の…男の主の元へいかんとする少年を引きとめ、城から脱出させることだけが頭にあった。
「何故だ…何故このような……」
涙と共に少年の口から洩れ出でる言葉。理不尽と絶望と義憤に彩られたであろう胸中は男もまたしかり。
分かたれた民族が今一つになり、大国を作らん。彼と主が長きにわたり追い求めていた夢がもうすぐ形になろうとしていた。
そしてそれは今、灰へと化していく。流した涙も、散った命も、憎悪を背負いそれでも作り続けた道も。
(まだだ……)
そう、まだだ。終わりではない。今でも男の腕をおしのけんとする十と少しの少年。この少年がまだ残っている。
「許さんぞ…許さんぞ漢帝国!!忘れるな!俺が生きている限り!!漢の民に安寧など無いという事を!!!」
こうしてこの夜。五胡をまとめんとした一人の男の夢が終わり、一人の少年の激情が生まれた。
雁が飛んでいる。それを青年は眺めている。
膝に頭を乗せた少女の長い前髪が、寝息に合わせて揺れるのを時折笑いながら、青年はただ白雲を目指して飛ぶ雁を見つめていた。
「おーい龍志!どこにいるのよ!!」
ふとそんな声が聞こえて、青年は視線を移す。堅実ながら職人の技が込められた手摺から身を乗り出して、眼鏡をかけた少女が声を上げていた。
「ここだ賈駆殿!!」
「あ、いた!!ちょっと龍志!!もう軍議の時間よ!!」
少女にそう言われ、青年-龍志はおやと呟く。
「もうそんな時間か…解った!すぐ行く!」
賈駆にそう答えた後、龍志は未だに目を覚まさない膝の少女に苦笑し小さく少女をゆすった。
「恋殿…恋殿……起きてくだされ」
「うう…ん………?」
寝ぼけ眼をこすりながら頭を起こした少女に、龍志は小さく微笑み。
「おはようございます」
「…………うん。おはよう」
何時も通りの挨拶を交わした。
龍志が恋と共に会議場に行くと、そこにはすでに主な将が集まっていた。
「これは失礼…遅れましたかな?」
「一応、定刻よ。早めに探しに行ったのが良かったみたいね」
「恋殿~どこにおられたのですか~~心配しましたぞ~~」
次席軍師・賈駆と第三軍師・陳宮の言葉に龍志はかたじけないと頭を下げ、恋は「うん……」とだけ答える。
「さて、皆そろった所で始めましょう」
小さな片眼鏡に指をあて、筆頭軍師の李儒が傍らの主にそう囁いた。
「はい。皆さん、軍議を始めましょう」
その言葉に一同が静かに主を見つめた。
可憐なそして儚げな声を出した少女こそが。龍志達の主・董卓である。
「今回の軍議の主な議題は、長安周辺で騒いでいる黄巾党の残党についてよ」
李儒の言葉に、それなりに事情を知っている諸将は小さく頷き先を待つ。
張角率いる黄巾党による黄巾の乱が終息して早数ヶ月。首領である張角こそ死んだとされているが、その教えを受け継ぐ残党たちは中原を追われ大陸の各地へと散らばりつつあった。
「知っての通り、朝廷の命で涼州から上洛している私達にとって長安周辺が脅かされることは帰路が脅かされるのと同じだわ」
「本来なら、とっとと洛陽を引き払って国に帰りたいんだけどね……」
「下手に動くと、諸侯に付けいる隙をあたえてしまうのです……」
三軍師が溜息を吐く。
黄巾の乱終結後、すでに統治能力を失っていた朝廷は涼州に一大勢力を誇っていた董卓を招き入れ権威の回復を図る。しかし勅命を受け上洛した董卓たちを待っていたのは、すでに皇帝亡き都だった。
十常侍と大将軍・何進による権力闘争の結果、霊帝の息子である弁皇子は殺され協皇子は行方不明。何とか何進を暗殺した十常侍だったが、後ろ盾無き宦官に何が出来よう。すぐさま息詰まる事になる。
そこで彼らが目を付けたのが董卓だった。漢王朝の断絶という事実を漏らさぬよう徹底し、董卓を招きよせ虚構の皇帝の名のもとにその軍事力を掌中に収めようとしたのだ。
まあ結局彼らのもくろみ通りにはならず、早々と皇帝の死を見抜かれた揚句に悉く董卓軍に討ち果たされた。まあ、因果応報と言うやつだろう。
しかし彼らの残した負の遺産が董卓達を苦しめる。十常侍の成した悪行、そして皇帝暗殺の嫌疑である。
これによって董卓軍は世の諸侯の視線を一手に浴びる事になり、その一挙手一挙動が天下に緊張を与えている。
「反董卓連合軍の結成を唱える密書が広がっている……との報告もありますからな」
龍志の言葉に会議場の重苦しい空気がさらに重くなった。とはいえ仕事である以上龍志も言わなくてはならない。
「正直、涼州に引っ込んでしまえば諸侯もとやかくは言いますまい。しかし、長安周辺が不安定な現状では撤収にも時間がかかります。そこを東から諸侯の追撃を受ければ…相当の被害は覚悟しなくてはならないかと」
董卓の悪名が広がるにつれて、董卓を討つということで得られる名声も上がる。雄飛のきっかけを探す諸勢力にとってよだれが出るほどに。
「さしあたり、長安を拠点として周辺の賊を片づけて退路を確保するのが先決でしょう。反董卓連合軍が組まれたとしても、逃げ道さえあれば何とかなるわ」
「では……さしあたり某が六将と共に一軍を率いてまいりましょう」
龍志の言葉に、静かに軍議を聞いていた董卓が一瞬震えたが、なにも言うことなく床に視線を落とした。
「そうね。龍志達なら賊の掃討も容易いだろうし、場合によっては長安を当面の軍事拠点にする可能性を考えてもそのあたりの采配も任せられるわ」
賈駆の言葉に陳宮も頷く。もっとも、その大きな瞳の奥に『これで恋殿をたぶらかす者はいなくなるのです』と書いてある気がするが。
「じゃあ、そう言う事で良いですか?月様」
微かな逡巡の後、小さく董卓が頷きそういうことになった。
その夜、龍志は明後日の出陣に備えて自室で兵糧の手配や部隊編成を纏めていた。
急な出陣ではあるが、東部情勢が安定しない以上西部の慰撫は緊急の事態だ。
自然と運ぶ筆も何時もよりも早くなる。
ふと、人の気配を感じて龍志は筆を止める。
「……開いているぞ、月」
しばらくの沈黙の後、ゆっくりと扉が開き陰から龍志の君主・月がおずおずと顔を出す。
「こんばんわ……兄様」
「こんばんわ……まったく。君主が一人で夜にうろつくなど、褒められた事じゃないぞ」
そう言いながらも龍志の表情は優しく、とがめているようには見えない。
「す、すみません……」
「ふふ、いいさ。毎回の事だ。それより中に入りなさい。茶を入れよう」
「あ、私がします」
「いいから。客人をもてなすのは部屋の主の仕事だよ」
笑いながら、龍志は茶葉の入った筒を開けた。
あの夜。帰る国も家も失った龍志と候伯は放浪を続けた。北方のみならず中原、遠く南蛮や越まで。旅の中、かつての家臣達も徐々に集まって来て、気付けば千人程を纏める軍勢になっていた。
そして涼州にて、董卓こと月に出会った。理由は簡単で、領内に侵入してきた龍志達を賊と勘違いして迎撃すべく出陣した際に両軍の代表と言う事で会合をしたのだ。
程なくして、龍志は部下と共に董卓軍に身を寄せる。董卓は漢人ではあったが涼州という辺境を治めるにあたり羌などの遊牧民と親交を結んでおり、何より生来の性格から漢人特有の中華思想が無かった。
やがて月は龍志を兄と慕うようになり、龍志も月を君主であると共にあの夜に亡くした妹達の姿を重ねるようになっていった。
「で、どうしたんだい?こんな夜に。また張遼に怖い話でも聞かされたのか?」
だったら後でとっちめておこうと龍志は思う。
「ち、違います…その……今度の出陣の事です」
「うん?何か問題が起こったのか?」
「い、いえ……その……」
「………」
「ご、御武運を………」
「………」
「………」
「…って、それだけか?」
一向に続かない言葉に思わず龍志がそう漏らすと、月は顔を赤くしながら。
「だ、だって。兄様はいつも戦の前になると忙しそうにされて、お話しする暇が無いじゃないですか……」
「いや、出陣前には挨拶に行くだろう」
「そ、それはそうですけど…その………その時は主と家臣ですし……」
ああ。と龍志は心の中で頷く。要するに、月は君臣ではなく兄妹として彼の身を心配しているのだ。
この心配性で優しい妹は。
「しかし、今迄そのような事を言いに来た事はなかったじゃないか。どうして今回に限り?」
「……夢を見たんです」
「夢?」
月の言葉に龍志は首を傾げる。
「夢の中で兄様は、軍勢を率いていました。鎧もまばらな異国の軍勢。そして多くの人がその軍勢に殺されていました。子供も女性も……それを見ながら兄様は泣いていたんです。笑いながら泣いていたんです」
「………」
「怖かった…兄様が遠くに行ってしまう気がして、もう私の所には戻って来ない気がして……」
その時の事を思い出したのか、微かに震える月を龍志はそっと抱き締めてやる。
月は龍志の胸に顔をうずめて震える。小さく小さく。震えをこらえる事で嫌な事を押さえつけるかのように。
「大丈夫…俺は何処にも行かないよ。この天下で俺が戻ってくるところはここ……月と仲間達の所だけだよ」
「兄……様ぁ……」
優しく月の背を撫でてやる。今夜はこのまま一緒に眠ろう。それでこの少女の憂いが少しでも晴れるのであれば。
出陣の日。壇上にあって龍志は眼前の軍勢を見つめていた。
譜代の兵士・千に加え董卓軍中でも龍志が調練を施した精鋭が九千。総勢一万の軍勢である。
「長安守備軍を合わせても二万程度。はてさて、十万とも聞く黄巾の残党相手に勝てますかな」
「勝てると信じて疑わない。そんな顔だぞ候伯」
軽口を叩く腹心に苦笑しながら、龍志はそれぞれ軍を率いる将を見渡した。
郭仁、魏擁、張戯、臧雄。父の代より龍家に仕える龍氏四天王。またの名を龍家風林火山(ちなみに命名は孫子を読んで感動した幼き日の龍志だ)。それに候伯そして……。
「各国を回りましたが、長安以西は行った事がありませんな。ふふ、どのような所なのでしょうな、主」
放浪の中で巡り合った常山の昇り龍、趙雲子竜。
以上が龍志旗下の六将である。
「兄さ…龍志」
呼び声に振りむけば、そこには月が左右に文武諸将を従えて立っている。
「気を付けて」
「ありがたきお言葉…御主君もくれぐれもお気をつけて。諸将もよろしくお願いいたす」
「まかせなさい…月様は私がまもりますわ」
「………頑張る」
「あったり前よ!月に傷一つ付けさせるものですか!!」
「ま、こっちはうちらに任せて龍志は暴れてき~」
「せいぜい頑張るのです」
「帰ってきたらまた稽古をしよう。お前との稽古は飽きないからな」
心強い仲間の言葉を受け、龍志は深々と頭を下げると六将と共に壇を降りそれぞれの馬にまたがる。
六将が配置についたのを見届けて、龍志はもう一度だけ壇上の月を見た。
逆光で良く見えなかったが、月が微笑んでいる。龍志はそう思う。
「全軍!!出陣!!」
号令一過、一万の軍勢が一路長安を目指して動き出す。
その後ろ姿を、月はいつまでも見つめていた。
反董卓連合軍が洛陽を襲う三月前のことである。
~続けたい~
制作秘話(タタリ大佐を知らない人は訳わかんないから読まないほうがいいよ)
私「早く帝記・北郷の続きかけよ。もう構想はできてるんだろ?」
大佐(以下、大佐)「無理だ…私には無理だ……」
私「そりゃあ、中二だったころみたいに臆面なく文章は書けないさ。ほら、何事も勇気。酒に溺れてないで立ち上がれ」
大佐「ぐびぐび……」
私「だ~か~ら~ビールを離せ!!また入院したいのかお前は!!」
大佐「キ~キキキ…ツマラナイツマラナイ……人生ナンテツマラナイィ!!」
私「あ~…ハイになってやがる……しゃーねーな」
青年調伏中
大佐「あ~すまなかった」
私「何時ものことだ…というか話を戻すが、書けよ孫龍でもいいから」
大佐「キーキキ…」
私「それはもういい」
大佐「はい……」
私「いい加減にしないと、俺が龍志を取って書いちゃうぞ」
大佐「え?いいけど?」
私「………は?」
大佐「もともと龍志って私たちの共作用に産み出したじゃない」
私「そりゃそうだが……」
大佐「さあ、書くんだ!!何事も勇気だ!!」
私「貴様が言うな」
で、第一話を書いてみた。
大佐「す、凄い…」
私「そうか?」
大佐「私以上に恋姫の名をかたる非恋姫作品が書けるなんて!!」
私「悪かったな…ていうか自覚あったんかい」
大佐「まあ、せっかく書いたし載せたら?破棄するのはもったいないし」
私「そうだな。お前に遅れる事一年。俺もTINAMIにデビューすっか」
こうして私はこの作品を書き、大佐は未だにいろんな意味で療養中である。
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これは、真・恋姫☨無双の二次創作の皮を被った、オリジナル小説もどきです。
恋姫を心から愛する人や、主人公は一刀主義の方、自慰小説乙wwなかたは絶対に読まないでください。
警告を無視して読まれて不快な思いをされても私は一切の責任を負いかねます。
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