No.166236

ある男の話

!!さん

この曲を聞いてて、哀しくなって書いた。
http://www.youtube.com/watch?v=70e0rLdexLc&feature=related

駄文で申し訳ない。

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2010-08-17 08:49:46 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:682   閲覧ユーザー数:665

その少年は、ごく普通の家に生まれた。

 

少年は普通に笑って、普通に泣いて、そして普通に生活していた。

 

そうして少年は学生になり、ごく普通に勉強をしていた。

 

 

戦争が始まった。

 

戦争が始まってから、学生の周りから物が消えていった。

 

ものを書く鉛筆も、好きだったラジオ番組も、そして勉強を教えていた先生も、、、、、、。

 

 

 

 

学生は青年になった。

 

青年は、家族を守る為に兵隊になった。家族は泣いて喜んだ。

 

優秀だった青年は、予科練になった。

 

訓練は厳しかった。昼も夜も、教官に殴られた。

 

だが青年は耐えた。家族を守るためだと、ただそれだけを思って。

 

 

 

 

友達ができた。仲間が増えた。戦友になった。

 

そして青年はパイロットになった。

 

戦友は、一人、また一人と減っていった。

 

夜になるたび、死んだ戦友の顔が、まぶたに浮かんだ。

 

彼は特攻隊に志願した。もうどうでもよかった。

 

 

だが、青年が飛び立つ前に、戦争が終わった。

 

 

青年の心は、穴が開いたようになった。ただ呆然と立ち尽くした。

 

 

気がつくと、青年は焼け野原に立っていた。

 

辺りを見渡しても、なにも無かった。

 

遠くに焼けたビルが見えた。見ているだけで空しくなった。

 

 

知った顔の人間が見えた。隣の家のおじさんだった。

 

おじさんは、眼に涙を浮かべて言った。

 

 

 

 

 

 

「可哀想になぁ、君だけ生き残って、、、、、。」

 

 

 

 

青年は大声で泣いた。青年は打ちひしがれた。

 

 

 

 

 

 

 

そして青年は酒に溺れた。そして青年は薬に溺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな事ってあるものか。

 

 

 

 

 

 

 

こんな事って、あっていいのか。

 

 

 

 

 

青年の心は壊れた。

 

 

そして青年は歌うようになった。小さな声で、うわ言を呟くように。

 

若い血潮の予科練の   意気の翼は勝利の翼

 

 

見事轟沈した敵艦を   母へ写真で送りたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年は、焼けビルから飛び降りて死んだ。


 
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