No.165488 とある科学の人形闘戯~プリキュライド~2ゆーたんさん 2010-08-13 17:34:26 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:1212 閲覧ユーザー数:1194 |
B2 入学と出会いと
「それじゃあ、明日から授業になります。遅刻しないように」
このクラスの担任、生田《いくた》 静那《しずな》は出席名簿を持って教室の扉を開けた。担任がいなくなった事で、教室のざわめきが少し大きくなる。それぞれ仲良さげに話す生徒たちの姿が見えるが、高校からこの学変都市へ来た颯は当然知り合いがいるはずもなく、黙々と配られた時間割等のプリントを鞄へとしまっていると、投稿前にコンビニで買った雑誌が目に入った。
プリントをしまうのに少しだけ邪魔なその本を取り出し、プリントを鞄へとしまった。まだ買ったばかりで中を見ていなかった颯は、一度は立ったものの席に座り雑誌を手に取り読み出した。
月刊プリキュライド、それが買った雑誌名である。
次回の学生大会の特集と、有力な出場プレイヤーのインタビュー等が記事になっていた。もちろんそれだけではなく、最新パーツの情報なども細かい考察なども載せられている雑誌である。
しかし颯はそれらのページをすっ飛ばして、祖父が参加した全国大会の特集のページを真っ先に開いた。特集ページのトップにはもちろん優勝者が載っていた。若干16歳の少女、三年前の13歳でのプロ入りしたほどの実力者である。13歳でプロ入りというのは最年少記録である。
この彼女は高校卒業までは学業優先するという事で、プロリーグへの参加はしていない。しかしリーグ戦の様に時間に余裕のある公式の大会には参加し、何度か優勝をしているほどの実力者で有り、プロ入りしたら大荒れになると予想されている。
(うわぁ……この子が最年少プロだったのか。そらじいちゃんも負けるよなぁ…)
大会順位8位までの中で、4位と6位以外はすべてプロのプレイヤーである。プロリーグのトッププレイヤーはあまり参加はしていないが、それでもプロであり他のアマより実力が頭1つ抜けている。その中でアマの田吾郎が6位入賞しているのは、すごい事だなと颯は改めて認識した。
夢中になって読みふけっていた颯だったが、妙に頭の周りに声が聞こえてきたので、ふっと視線を上げると黒髪の長い女子が雑誌を覗き込んでいた。自分の席の隣に座っている女子が、覗き込んでいる少女に向かって何か言っている。
「ほら、佐天さんだめですよぉ。驚いているじゃないですかぁ」
「いやぁ、あはははは」
「えっとぉ……?」
「「ひゃ」」
今まで無反応だった人物が、突然反応した事で二人の少女は驚きの声を上げた。それと同時に体をびくぅっとさせていた。その反応が少し面白かったので颯は声を出して笑ってしまった。
「えっとあたしは佐天《さてん》 涙子《るいこ》。それでこっちはあたしの親友の初春《ういはる》 飾利《かざり》。よろしくね」
白梅の髪飾りをつけ、黒くセミロングの髪がよく似合う少女はにこりと笑った。佐天が親友と呼んだ颯の隣の席に座っている黒髪のショートヘアの少女は、頭に花の髪飾りを付けていた。後で聞いて見たらすべて造花らしい。本物にしか見えない程の出来に、颯は舌を巻いた。
「俺は矢轟《やぐるま》 颯《そう》。高校からこっちに来たばかりなんで、知り合いとかいないんです」
「高校からこっちになんて珍しいですね」
「なんで矢轟はこっちに進学したの?」
颯の前の席の椅子を反対に向けて、颯の対面に座った。初春も佐天と同じように自分の椅子を、颯の机の横に移動させた。進学した目的を聞かれた颯は、二人にわかりやすいように机の上に開かれた雑誌を人差し指で差した。指の先にある雑誌を見た二人は、納得言ったようで二人して「ああ!」と声を上げた。
「俺はね、これでプロになりたいんだ」
「プロですか?」
「うん。ここが一番の学生激戦区だって聞いていたからね」
そう言って颯は雑誌のページをめくる。
「超能力を使いたくてここに来る人が多いのに、まさかこれのプロになりたい為に来る人は矢轟が初かも」
「そうですねぇ、矢轟さんみたいな人は珍しいかもしれません」
「あはは。ちょっとずれてるのかも」
声では笑っているものの、その目は本気の目だという事を二人は感じた。雑誌の大会上位入賞者の記事を読む目が、怖いと感じるほど固く鋭い。
颯が呼んでる雑誌のページに二人は目をやると、そこには最年少プロの記事が載っていた。
「うわぁ、この子あたしたちと同じ位なのにもうプロなんだ」
佐天はなんとも表現しにくい微妙な顔つきで、雑誌と睨めっこしている。そんな表情の佐天に、初春は「佐天さん、顔顔」と伝え、佐天はなんとかこちらの世界に戻ってきた。その様子から二人の仲の良さを伺い知った颯は、こちらにきて初めてできた話し相手に少しだけ緊張を解いた。
「そういえば二人は、プリキュライドはやってるの?」
その質問に待ってましたとばかりに、佐天は「ふっふっふ」と笑い出した。今までに絡んだ女子にはいないタイプの佐天に、少し引いたが感情が豊かな佐天の事をおもしろい女子と脳内で認定した。隣の初春は相変わらず、にへらぁと笑っている。颯の分析の結果勝手に失礼ながら天然ちゃんと分類した。
「もっちろんやってるよ」
「順位的には?」
「ん~中学生大会では関東予選初戦敗退くらい。だから全国大会にはいけなかった」
少し声のトーンを落とした佐天だったが、両手で頭を抱え何かを思い出したように、「ムキー」と叫び出した。いつもの事なのか、それともただ慣れているだけなのか、初春は「どうどう」といいながら佐天の宥めに入る。
「まさか優勝した原村《はなむら》 和《のどか》とあたるなんて、ほんと運が無かったとしか言いようが無い」
「さ、佐天さん。わかりましたから…落ち着いてください」
「その前は東海の女王《クイーン》、船路《ふねみち》 真菜《まな》のサイガとあたるなんて、ほんとあたしって……運がないんだなぁ」
背中に黒い何かが見えそうなくらいがっくりとした佐天、その姿にやれやれといった感じでなだめるのを諦めた初春は自分の席に座った。どうしていいか困惑している颯に一言「ごめんなさい」と謝った。気にしていないよ、という意味をこめて颯は笑顔で首を横に振った。
「佐天さんて普段は平気なんですけど、プリキュライドの事になるとすごく負けず嫌いで」
佐天を見つめる初春の目が優しくなる。
「だから負けた時の事を悔しがってあんな感じになっちゃうんです」
「それは良いことだね。負けず嫌いな人ほど自分のドールを愛しているから、きっともっと強くなるよ」
「私もそう思います。だって私も負けたくないですから」
「初春さんは大会には出場した?」
「はい、私は……」
その初春の言葉を遮るように、颯の両肩を佐天がガシっと掴んだ。顔を上げると佐天の顔がものすごく近い。こんなに接近してくる異性は従姉妹以外初めてなため、颯は体をカチンコチンに強張らせてしまった。
「初春は、前回の全国大会でなんと……なんとぉ、第3位に入賞。高校大会では大型ルーキーとして、雑誌にだって載ってるんだから!!」
佐天は颯の雑誌をひょいっと取り上げ、シュパパパとページを捲っていく。「これよ」といって開いたページは、次回大会の期待のプレイヤー特集の内の1ページ。恥ずかしそうにはにかむ初春と、その手にはドールが握られていた。
「初春さんのは、プリキュアタイプなんですね」
「はい。ベーシックカラーのキュアパインです。髪型だけは私と同じように短めにしましたけど…、さすがにクロスパーツとかアナザーカラーにするには、少し度胸がなかったです。」
雑誌と同じようにはにかんだ初春の頭につけている髪飾りと同じように、ドールの頭にも同じようにヘアバンドが付いていた。ヘアバンドのように耐久値もステータスも振られていないアクセサリ性の高いパーツも売られている。初春の場合は、そのヘアバンドに自分と同じような花をデコレーションしていた。
「初春さんの花飾りと同じように、ドールにもつけているんですね」
雑誌に顔をものすごく近づけて、ページに映されているドールの花飾りを確認する。そもそも人形用のアクセサリパーツに、花をデコレーションするのはそれなり以上に器用でないと難しい。それをしている初春に対しただただすごいなと颯は関心した。しかしその関心は覆される……なぜなら、
「でもそれは佐天さんにやってもらったんです」
「まぢか!!」
「ふっふっふ。こう見えても弟の為に刺繍してたから、こういうのは得意なんだよ」
「へ、へぇ~……」
得意どうこうでできるレベルではないようなほど、花びら1枚葉っぱ1枚がきちんと作られていた。さすがは学園都市と、すこしずれた感覚で颯は学園都市奥深さ感じた。
「そういえば矢轟って、この高校選んだのはやっぱり学園都市でも、プリキュライドプレイヤー育成に力を注いでいるからなの?」
「そうだよ。公式大会の実績なくても願書を受け付けてる中で、ここが一番良さそうだったから」
能力開発を行う学園都市では能力開発に力を注ぐ学校が多い中、最近はプリキュライドプレイヤーを育成する事に力を注ぐ学校が徐々に増えてきている。
能力レベルも年齢、性別すべてが関係ない。純粋に勝てるプレイヤーが強いのである。高レベル能力者の育成や開発ができなくても、強いプレイヤーは比較的育てやすい。能力開発は名門校には及ばない学校でも、プリキュライド育成においては、名門校以上に強いプレイヤーが多い低中ランクの学校も出てきている。
颯達が通うこの高校もここ数年、プレイヤー育成においては名門校と同じ、もしくはそれ以上の成果が出ていた。
能力レベルやその他1点秀でた才能を持つ学生を有する長天上機学園、そのプレイヤー達と匹敵するくらいのプレイヤー育成に成功している。その中で能力レベルを重視している名門お嬢様学校の常盤台は、一歩プレイヤー育成に関しては一歩遅れていた。
「そうなんですね。私と佐天さんは、中学2年生の時にこの学校に誘われていたので」
「あたしなんかほんとラッキーだったよ。勉強あまり得意じゃないから、プリキュライド推薦で入れたのがほんと……ほんと」
佐天はふるふると体を震わせながら、どっかを見つめながら滝のような涙が頬を流れた。あえてその佐天には何も触れないで置こうと、颯は心に固く誓った。
「この学校の設備知ってます?」
「設備?」
首をかしげた颯を見て、初春は担任に配られたものとは違うプリントを鞄から取り出した。
「これです」
そう言って、颯の机の上に置いたのはフルカラーの入学案内のパンフレットだった。「えーと」といいながら、パンフレットを捲っていく。
「これです」
そういって初春が開いたページには、プリキュライドのポッドとフィールドが載っていた。そしてこの制服を着た生徒がそのポッドの中に入っており、フィールドにはドールが映されていた。
「これ校内の施設らしいんです」
「ああ、初春と一緒に見たよねこのパンフレット。なんでも校内設置の為プレイ料金は学校持ち、つまりタダで利用できるってやつでしょ」
「そうです」
「知らなかった。この学校すごいんだね」
1セット設置するのに結構費用が掛かるはずだが、このパンフレットには施設フロアが広範囲で映されており、すくなくとも8セットが映っていた。
「ただし、学生大会に出場できる学校選抜の生徒しか使用できるみたいです」
「ええ!?って事は学校の代表にならないと使えないのか……」
「全校生徒役750人全員がプレイヤーじゃないですから、代表の可能性ありますって」
「初春ぅ~……それでも500人近いプレイヤーがいるんでしょ?」
「そうですね」
再びがっくりと肩を落とした佐天に、初春と颯は困ったねという意思疎通をすると同時に苦笑いをした。その際、ふと教室の壁に掛けられている時計が目に入る。
「やべぇ!!」
ガタタと激しく席を立ち、机の上の雑誌を乱暴に鞄にしまう。その様子に佐天と初春は唖然としていた。
「矢轟どうしたの?」
「ええと、あの……佐天さんがなにか?」
キッという鋭い視線に、初春は佐天と目を合わせないように視線を下げる。
「ああ、バイトに遅れちゃう。それじゃあお先に!!またね二人とも」
二人の言葉を待たずにキーンという効果音が似合いそうな感じを出しつつ、教室を飛び出して言った。
「いって…」
「らっしゃい…」
二人の呟いたお見送りの言葉は、颯に届く事はなかった。
「そう言えば、今月は春季大会だよね」
「そうですね。でも2月の時点で代表は決まってますから、私たちが参加できるとしたら、夏のインターハイからですよ」
4月は春季大会、8月は全国高校生人形闘戯大会(インターハイ)と年に2回、人形闘戯《プリキュライド》公式大会が開催されている。
「春季大会が終わったら校内トーナメント戦ですよ。それで決まった学校代表が、学園都市の他の学校代表との8つに別れたトーナメント戦を戦い、そのトップの8人でリーグ戦を行い上位5人が全国大会へ行けるわけです」
心なしかプリキュライドの事になると熱くなる初春が、いつも以上に熱く感じた佐天だった。
「じゃあさ、春季大会見に行く?」
「いえ、それは後でネット配信の動画で見ます。それに旅費もないじゃないですか」
痛い所を疲れた佐天は、「たしかにね」と同意する。
「動画はあとでゆっくり研究するとして、今はトーナメントで勝てるように練習しましょう」
「うん、そうだね!!」
親友の言葉に心に点火した炎を消さないよう、佐天は心の中で自分を奮い立たせる事にした。
「よし、じゃあ早速練習にいこうか?」
「はい。いつもの所に行きましょう」
そう言った初春は鞄のポケットから携帯を取り出した。
あとがき
やあやあゆーたんです。
え?しつこい?
気にしない気にしない。
舞台は学園都市となるので、原作キャラが出てきますがオリキャラとか咲のキャラが出てきます。
あんまり原作メインキャラより、脇役を使うことが多いのです(笑)
メインキャラの活躍は、他の作者さんにまかせましたーー(笑)
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学園都市―― 総人口230万人を誇る最先端科学技術が終結した実験都市。そんな学園都市から発信され、いまや日本全土が熱中し一大ブームとなっているゲームがある。 購入した素体となるドールを、自分好みにカスタマイズして他のプレイヤーのドールと対戦させる、新感覚の格闘体感ゲーム……それが『人形闘技《バトルプリキュライド》』である。
本編第2話。
説明はあらすじって思ってるので、毎回一緒でごめんなさい。