紫苑視点
今日は夫の命日だった。夫が亡くなってからどれくらいの歳月が流れていただろう。まだ赤ん坊だった璃々も、もうこんなに大きくなった。
璃々の前だし、泣くのだけは避けたかったけど、耐えられなかった。あの人の事を思い出しただけで、涙は私の頬を絶え間なく流れた。
「お母さん、大丈夫?どこか痛いの?」
「璃々、ごめんなさいね。大丈夫だから。」
璃々を心配させないようにしたかったのに。本当に私は弱い女。こんな姿をあの人に見せては、笑われてしまうわ。
私は璃々を抱きしめて、頭を撫でた。すぐに璃々は笑いながら、私の首に抱きついてきた。もう心配いらないわよ。
あなたも、もう心配しないで。この子は私が命を懸けて守ります。私とあなたの唯一の愛の結晶なんだもの。
「さぁ、璃々、お家に帰りましょう。今日の夕ご飯は何を食べたい?」
私が璃々を離し、帰ろうと告げようと、璃々の顔を見ると、璃々は私の顔ではなく、上空を見ていた。今日は雲ひとつない快晴だった。昨日まで嵐のような大雨が降っていたのに、朝、目が覚めると、雨が嘘だったかのように止んでおり、璃々も大喜びしたのを思い出した。
飛んでいる鳥でも見ているのかと、私も璃々の視線の先を目で追うと、白く輝く流星が上空を飛来しているのが映り込んだ。
「お母さん、流れ星だよ!」
「昼間に流星を見るなんて、何だか不吉ね。」
流星を見て興奮する璃々の頭を撫でつつ、少し胸騒ぎのようなものが起こった。
無意識に流星を追っていると、流星は消えることなく、近くの森に落ちたようだった。激しい轟音とともに、閃光が走り、咄嗟に璃々を庇った。
目を開いてみると、私も璃々も怪我はないようだ。大きな爆発が起きたわけではないようで、森から鳥たちが一斉に飛び立ったこと以外、特に異変は見られなかった。煙が出ていないから、火事の心配もなさそうね。
「!?……璃々!!」
気がつくと、璃々が流星の落ちた方角へ走っていた。何が起こるか分からない場所に向かわせるわけにはいかない。私もすぐに後を追ったが、森に入ったところで見失ってしまった。
「璃々!!どこにいるの!?」
私の声に答える声はなかった。私の頭に最悪の事態が過るが、無理やりそれを追い出した。まだ子供だから、そんなに遠くへ行けるはずはない、足元を見ると、璃々の足跡らしきものが見て取れた。
それを頼りに森の中に進むと、少し開けた場所に璃々がいるのが見えた。
「璃々!!」
「あ、お母さん。」
「一人でこんな所まで来て、危ないでしょ!!」
「ごめんなさい。お母さん。」
私は璃々を強く抱きしめて叱った。璃々も素直に反省しているみたいね。全く、この年頃は好奇心が大盛だから困ったものね。
ふと、私は璃々の向こう側に視線を移した。どうやら、ここが流星の落ちた場所のようだ。周囲の草木は爆発の影響で吹き飛ばされ、地面が衝撃で抉られている。
その光景にも当然驚いたが、さらに驚くべきものを私は目にした。地面が抉られている部分の中心に、青年が横たわっているのだ。爆発に巻き込まれたのかとも思ったが、特に外傷が見られるわけでもなかった。
とりあえず生死の確認をしようと、璃々をその場から動かないように言ってから、青年に近づいた。
「え……?」
青年の顔を間近で見た私の眼は、驚愕の色がさらに濃くなった。似ていたのだ。あの人に。
もちろん、瓜二つというわけではなかったが、雰囲気と言うか、あの人の若い時にそっくりだった。
心臓が高鳴った。生死を確認するために、彼の肌に手を伸ばす。
まるで、壊れやすい割れ物を触れようとするかのように、手が震えた。何度か、戸惑うように手が止まる。彼の左の胸に手を当てた。
自分の心臓の音が、今までになかったくらい大きく聞こえ、それが邪魔して彼の鼓動を感じることが出来なかった。でも、温かかった。ほっとするような温もりだった。
彼の口から寝息のようなものが漏れた。どうやら意識を失っているようだった。そこで、頭に冷静さが戻ってきた。彼は見たこともないような衣服を身に着けていた。
とりあえず、私は彼を自分の城まで運ぶことに決めた。墓場に近くに待機させていた護衛の兵士の存在に、今頃気づき、彼らをここに呼ぶことにした。ここの調査もしなくてはいけないものね。
一刀視線
「ん……。」
俺は意識を取り戻した。まず視界に飛び込んできたのは、見知らぬ天井だった。木製造りの家のようだが、俺が住む家ではない。身体を起こしてみた。特に異常は見られないようだ。
そこで、俺は記憶を辿ってみた。及川の腹を殴って、家でじいちゃんと剣の修業をしようと、帰っていた。それで……。
「ダメだ……。そこから先が思い出せないや。」
額に手を当ててため息を吐いた。
すると、扉が静かに開き、一人の女の子が部屋に入ってきた。俺と目が合うと、ぱぁ、と顔を輝かせて、走って部屋の外に出て行ってしまった。しかし、すぐにまた扉は開けられた。
今度は淑やかなの女性も一緒だった。女の子と一緒の紫色の髪をしているから、おそらくこの子の母親なのだろう。それにしても美人だな。それに、何でそんな露出度の高い服を着ているんだよ。目のやり場に困るだろう。
「目が覚めたようですね。」
女性は優しそうな声で俺に話しかけた。おそらく、この家はこの人のだろう。俺はここで寝ていたってことは、この人と?いやいや!そんなはずないか!
「顔が赤いようですけど。どこか痛みますか?」
「へ!?い、いや……大丈夫です!」
「そうですか。それは良かった。あんな所に倒れていたので、一応お医者様にも見せたのですが……。」
「倒れていた?俺は倒れていたのですか?」
「覚えていらっしゃらないのですね。あなたは近くの森で倒れているのを、娘の璃々が見つけたので、家で保護しました。」
森で倒れていた、ねぇ。家の近くに森なんかあったかな?学校も家も都会の真ん中にあるし、誰かに襲われた?でも、身体に目立った外傷はないみたいだし……。
女性の話を聞きながら、頭の中でいろいろと考えていると、璃々と呼ばれた女の子が、顔を覗き込んできた。
「君が見つけてくれたのか、ありがとう。」
女の子の頭を撫でながら、お礼を言った。
すると、扉の前で失礼しますという声が聞こえ、お盆を持った女性が恭しく現れた。態度から考えると、服装は少し変だけど、召使いか何かなのかな、と思った。
「黄忠様、間もなく厳顔様が到着なさいます。」
「ありがとう。着いたら、ここに通してくれる?」
「承知いたしました。」
召使いらしき女性はお辞儀すると、退出していった。そんなことよりも、俺は先ほどの二人の会話の中に出てきた名前に驚きを隠すことが出来なかった。
黄忠、厳顔、それは俺の好きな三国志に登場する武将の名前だった。
「お粥です。口に合えば良いんですけど……。」
「あ、あの!!」
「はい、どうかなされました?」
「あなたの名前って……。」
冗談であって欲しかった。きっと悪友の及川が仕掛けたドッキリに違いないと心の中で強く思った。
しかし、この人たちが嘘をついているはずはないということもわかっていた。この人たちは嘘をついている顔ではないからだ。
怖かった。自分が全くわからない環境に放り出されたと認めることが。
「あ、申し遅れました。私は黄忠、字を漢升と申します。」
胸の奥から恐怖がどっと溢れだした。この人は紛れもなく、あの黄忠なのだ。
ははっ、とうとう俺は頭が狂ってしまったのか。目の前にいるスタイル抜群の綺麗な女性が、黄忠だと?ありえるはずがない。いや、こんなこと現実にあってはならない。
胸から溢れ出る恐怖は、一気に全身に沁み渡った。身体が自然と震えだした。思わず両腕を強く掴んでいた。身体のどこかから、何かが崩れるような音が聞こえたような気がした。
あとがき
真・恋姫無双~君を忘れない~ 一話の投稿です。
この物語のヒロインは紫苑さんです。
原作と違う設定として、今でも亡くなった旦那の事を忘れられません。
そして、一刀はその旦那とそっくりという設定です。
オリジナルキャラクター、オリジナル設定がこれからも出てくると思うので、注意してください。
題名の「君を忘れない」というのは紫苑の花言葉です。
この話は、キャラクター目線で、話を続けようと思います。普段とは書き方が違うので、上手く出来ず、見苦しい文章になるかもしれませんが、ご容赦ください。
今回は一刀が紫苑と出会い、自分が異世界に飛ばされて、恐怖に苦しむところまでを書きました。
若干中途半端な終わり方になりましたが、これ以上書くと、文章量が多くなりすぎるような気がしたので。
普段は朝からずっとバイトに行ってるんですが、今日から、バイトがお盆休みに入り、自由に使える時間が増えたので、頑張って書いていきたいです。
予想以上の支援数(初の二桁w)をいただきまして、読者の皆様に感謝の気持ちでいっぱいですが、それと同時に期待されているのではないかと、無駄にプレッシャーも感じています。
頑張って書いていくので、これからもよろしくお願いします。
誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。
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第一話の投稿です。
少し書き方を変えてみました。一刀が外史へと飛ばされて、彼女と出会うところです。
誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。