No.165335

とある時空の並行旅人~パラレルトラベラー~Ⅰ

ゆーたんさん

とある騒ぎの現場の道路に残った一筋の線。これはまぎれもない学園都市230万人の頂点、レベル5の能力者第3位、御坂美琴の超電磁砲(レールガン)と同じ能力を使うものが居るということだった。そしてこのころを境に、能力者誘拐事件が発生する。
犯人の目的は?その能力者の正体は?

パクリにパクッタ2次小説(笑)
作者処女作第1巻(笑)

2010-08-12 23:10:16 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1219   閲覧ユーザー数:1165

 

T1 もう一人の超電磁砲??

 

 

総人口230万人の8割が学生の学園都市。ここでは学生全員を対象にした超能力開発実験が行われており、全ての学生は能力の強さによって6段階に分けられている。レベル0と呼ばれる無能力者から、レベル5と呼ばれる超能力者までが、この学園都市内で生活している。ここ数ヶ月の間に幻想御手(レベルアッパー)事件や乱雑解放(ポルターガイスト)事件、ツリーダイアグラムを搭載した衛星の破壊、各事件がごく一部の人間によって処理、解決されてきた。それ以外の人間はそうとはしらず今も変わらず生活している。学園都市は23学区に分かれており、学生達はその中の第7学区で生活している。

 

「ずいぶん違うんだな・・・」

9月の夕暮れ、橙色の強い日差しを浴びながら屋上の手すりに体を預けている男子生徒。9月も終わりというのにまだじっとりとした暑さが残る。手帳のページをめくりながらメモを追記していく。黒字と赤字、それらが混在し彼以外にはわからないくらいはっきりいってぐちゃぐちゃである。第7学区にある荒八戸高等学校、その屋上で彼は再度ため息をついた。手帳の最初のページをめくりそこに書かれているものを再び目にした。暫く見つめた後手帳をしまい、校舎内へ入った。静けさが充満する下校時間後の校内。対面からくる教師にお小言を言われ足早に校門を出た。どこかのお嬢様中学と違って門限等にうるさくはないのだが、教師は最近口うるさくなってきている。原因は言われていないが、彼には思い当たる節があった。と、いろいろ考え始めたがめんどくさくなって、思考を停止させた。こんな日は気分転換ににぎやかな商店街へ向かった。

 

 

「もう、お姉様ったら」

茶色の髪の毛を二つしばったツインテールの少女。同じ制服を来たショートヘアの少女の腕に自身を絡める。

「やめい」

と同時にゴンという鈍い音が響く。

「ひどいですのお姉様」

叩かれた部分をさすりながら視線をお姉様と呼ばれた少女へ向けた。当然よ、とばかりにため息交じりににらみつける。二人の後ろを歩いているセーラー服に紺のスカートの少女二人も苦笑い。

「白井さんは相変わらずですね」

黒髪でロング、白梅の花を模した髪飾りをつけている少女は、隣を見やる。同じ制服でショートヘアに造花の飾りを付けた少女も半ば失笑ぎみに笑っている。

「あ、そうだ。今度の日曜日、Seventh mistで服のバーゲンやるみたいですからいきませんか?」

「佐天さんも広告見たの?」

提案した黒髪ロングの少女、佐天 涙子と茶髪のショートヘアの御坂美琴は鞄から同じ広告をだした。

「へー30%~70%オフなんですね」

花柄のヘアピンをした初春 飾利は広告に目を通す。

「お姉様~。もしやとおもいますが、いつぞやみたいにゲ・コ・太のイベントショーがあるとかじゃないでしょうね」

ギクっとばかりに美琴の体が一瞬強張る。涙子と初春が広告に目を配らせると、裏面のすみっこにその名前が。ははーんとばかりににやけた目を美琴へ向ける。

「そそそそんなことないわよ。普通に買い物よ」

「お姉様、強がらなくてもいいんですのよ」

黒子はこれでもかというくらいの追撃。みなれた黒子と美琴のやりとりに涙子と初春は笑ってみている。

そんな中ふいに黒子は何かを感じ取る。周囲で誰かが能力を発動したようなそんな力場を。ふいに悲鳴が上がる。近くの交差点に人だかりと砂煙が上がっている。初春、と呼ぶと同時に緑色の腕章を取り出し右腕にピンでとめる。「お姉様と佐天さんは下がってくださいな」

そういって黒子は自身の能力「空間移動(テレポート)」で飛んでいく。

 

騒ぎの中心を囲むようにいた人だかりは、豪快な音と衝撃ともに悲鳴を上げ逃げ出す人もいた。中心には二人の男。一人は黒革のジャケットを着たすこしゴツい印象の短髪な男、もう一人は制服のズボンに半そでのワイシャツの見るからに学生の男子。

「てめえ・・・どこのもんだ」

ゴツい男は近くの歩道に止められた自転車に視線を配る。自転車が数台宙へ浮き上がり男の頭上へ移動した。

「それが能力か」

「そうだ」

その言葉と同時に自転車を学生へ投げる。人が投げるのと違い思った以上の速さで自転車が飛んでくる。

「うわ、ちょ・・あぶな」

ぎりぎりの感覚で避け続ける。

「油断するなよ」

一瞬勘が働いたのか後ろを振り向くと、地面に転がっていたはずの自転車がこちらへ向かってきていた。1台目を間一髪でよけるもその死角から飛んでくる自転車。腕を交差させ防御するも激痛は逃れられない。

「いてててて」

自分の上に重なった自転車を足でどける。

「はっは、どうした。お前はジャマだからここで消させてもらう」

「ちょっとまて、ここじゃ風紀委員(ジャッジメント)が来ちまうし」

「うるさい」

男は、この騒ぎで乗り捨てられている黒いバンタイプの車を持ち上げる。割と簡単に持ち上げることができたのは、彼の能力者の力がわりと強い事を意味している。

「ったく・・しょうがねー。もったいねーけどこっちも使うぜ能力を」

学生はポケットから1枚コインを取り出す。

「うるせーガキだ。お前に何ができる!」

学生は親指でコインを上にはじく。クルクルと回転しながらメダルはやがて降下を始める。

「おりゃー」

男はまるでブーメランを投げるかのように水平に車を学生へ向けて飛ばした。先ほどの自転車とは違い回転しながら学生の方へ飛んでいく。男は車の陰で見えてはいないが、学生は体からバチバチという音と共に体から電磁力が帯電していく。そう常盤台の彼女と同じように。最大に貯めた電磁をもって落ちてきたメダルを親指ではじき出す。電磁加速を得たコインは音速を超え飛んできた車を貫通、またその衝撃で車は学生とは別の方へはじかれ、ガードレールをへこませ動きをとめた。コインはそのまま男の額を強打、男は数メートル後方へ吹っ飛んだ。男は白目をむいて、完全に沈黙。道路には一直線にこげた黒い線が残り砂煙を上げた。

 

「風紀委員(ジャッジメント)ですの。ここで・・あら?」

黒子がテレポートしてきた時には、事の残骸と白目を剥いて倒れている男・・そして

「これは・・・お姉様と同じ・・・」

道路に残った一筋の線。これはまぎれもない学園都市230万人の頂点のレベル5の能力者第3位、御坂美琴の超電磁砲(レールガン)と同じものだと黒子は思った。

「黒子ー」

現場へきた美琴、初春、涙子は道路の線をみて同じことを考えていた。

「黒子・・・これって」

視線を黒子へ向ける。黒子はゆっくりと線のところへと近づき片膝をついた。

「これってどうみても」

初春の言葉を肯定するように黒子は頷いた。

「そうですわ。これはお姉様と同じ・・・超電磁砲(レールガン)ですわ」

T2 仁科 司

 

 

「ほんっと退屈しない街ね」

帯電した電磁力が体をかけ、周囲には煙のような湯気のようなものが立ち上っている。彼女の周りにはこげつき、こきざみに痙攣している男が数人コンクリの上に寝そべっている。いわゆる普通の不良だが、彼女は外見もよくいろんな意味で男が寄ってくる。もちろん女の子もだが。特に学校が終わった夕方など、ナンパ目的の不良がよってきて電撃を浴びせられると言うおなじみのパターン。すこしは手ごたえのある男なら彼女もわくわくするのだろうが、レベル5の彼女の敵になる男はそうはいない。

「うわー、派手だなー」

こんなとき決まって現れるいつもの男・・そう思って振り返った彼女の目に入ってきたのは、想像していた男とは違う別の男。やれやれと思いつつ彼女は返答する。

「なに?あんた、こいつらのツレ?」

寝ている男どもを指差す。

「ん?その制服・・荒八戸高」

ワイシャツの胸ポケットに刺繍されている校章で彼女は判断した。

「いや~、常盤台のエースの力を見たけど、あんまり大したことなさげだなーっと」

「あん?」

学生の言葉に少しイラっと来た彼女、美琴は学生をにらみつける。

「あんた、あたしにケンカ売ってる?」

学生は両手を前に出し首を振る。

「いやいや、レベル5様におそれおーい」

「あんた、いちいち言い方が気に入らないのよ」

体に電磁が走る。青白く電が体を駆け巡る。少し学生の口元がにやっとしたのを見た美琴は完全に頭に血が上った。

「あんた、今笑ったでしょ。大したことないか体感してみなさい!」

体から放電された雷は彼を直撃した。少々頭にきていたから、手加減をしているといっても先ほどの男どもより強めに放っている。

「こんなところでやったら、周囲は停電やら警備ロボがきちゃうぜ御坂さん」

学生は無傷でさっきの場所に立っていた。

「そんな」

美琴は前にもこんなことがあったのを思い出した。幻想殺し(イマジンブレイカー)の右手を持つ上条当麻とのやり取りだ。そのときとまったく同じ、彼だけが無傷な状態。

「ありがとさん、これがあれば大丈夫さ。それじゃ」

そういって学生は駆け出していった。

「ちょっとあんた」

その声をさえぎったのは、ルームメイトの白井黒子の声だった

 

黒子は白目を剥いた男をアンチスキルへ引き渡した。現場の後処理も含めてアンチスキルに任せ、美琴たちは涙子の提案で、いつものクレープ屋へ向かう事にした。

「ねえ黒子」

「なんですの?お姉様」

「やっぱりあれは・・・あたしのと同じよね」

「ええ。実際に見たわけではありませんが、恐らく周囲の痕跡から察してもお姉様と同じだと思いますわ」

「でも、御坂さんと同じという事であればバンク上のデータにも同じ能力者として登録されるはずですが、そんな人がいれば有名なはずですが聞いた事ありません」

美琴、黒子、初春の三人はその場に立ち止まって、自身の思考を巡らせる。

「あ、あの~考えてるのもあれだし気分転換てことで行きましょ」

「そうですわね。今はまだ情報もございませんし、あとで固法先輩とかにも聞いて見ますわ」

「わ、私も情報を集めてみます」

やっと三人がいつも通りの柔らかい表情になったのを確認した涙子は、さあといって初春の背中を押した。

「わわ、ちょっと涙子さん」

「御坂さんも白井さんも早く行きましょう」

美琴と黒子はお互い目を合わせくすっと笑い、二人の後を追った。

 

「ガズヤちゃん」

女性の悲痛な叫び。それとほぼ同時に車が急ブレーキ音、そしてゴムがこげた嫌な匂い。美琴たちは急いで声がしたほうへ駆け出した。そこは信号のない横断歩道だけがある道。歩道に座り込む女性。十字路には急ブレーキ音を響かせた車に、子供を抱きかかえる学生の男子。

「あ」

美琴を声を漏らした。

「お姉様、どうかしまして?」

「ちょっとね・・なんでもないわ」

美琴は黒子達と合流する前にあった学生男子だとすぐに気づいた。座り込んでいた女性が慌てて子供と学生のほうへ駆け寄る。車の運転手も慌てた様子で降りて出てきた。子供を叱り付ける女性、母親なのだろう。目には涙を浮かべ学生に頭を下げる。運転手も申し訳なさそうに三人に頭を下げた。学生は顔を横に振りながら、笑顔で話している。

「気をつけるんだぞー」

「ありがとう、おにいちゃん」

そういって母親と子供は歩いていった。運転手にも問題ないといった感じで体を無駄に動かしている学生の姿を美琴たちは遠目からみていた。学生の説得で納得したのか申し訳なさそうに車に乗った運転手は、もう一度学生に声をかけその場を後にした。

「大丈夫ですの?」

急に背後から声をかけられた学生は身をすくめた。後ろを振り向くとツインテールの髪の女の子が立っていた。

「びっくりした。だ、大丈夫です。心配ありがとう」

まだびっくりしているのか、彼はそういってぎこちない笑顔を見せた。ツインテールの彼女の向こうから近づいてくる三人の人。その一人を見つけた瞬間、彼は一瞬固まった。

「やっぱり、あんたさっきの」

今にも走って来そうな美琴よりもはやく、彼は駆け出した。

「さいならー」

「まてコラァー」

走り出す美琴。

「お待ちを」

黒子は腕を横に突き出し、美琴を制した。慌てた初春と涙子が駆け寄ってきた。

「お姉様、落ち着いてくださいまし」

「御坂さんどうかしたんですか?」

「御坂さんの知り合い?」

「いや、知り合いっつーかさっきみんなと合流する前に絡まれたっつーかなんというか」

「まぁ、お姉様。また私達に頼らずご自分で」

「だって風紀委員(ジャッジメント)が来る前に終わっちゃうんだから」

「それにしてもお姉様を相手にして無事とは、あのにっくき類人・・ってあら」

黒子は地面に落ちている黒い物に気がついた。

「これは」

その黒い物体を拾い上げる。

「白井さん、なんです?それ」

「はて?手帳?」

ひっくりかえすとそこには荒八戸高等学校と記されていた。

「生徒手帳ですわね。さっきの学生のでしょうか」

一枚めくると写真と共にその人物の名前が書かれていた。

「仁科(にしな)司(つかさ)。荒八戸高校2年普通科」

「ふーん、あいつ仁科っていうのね」

そういって美琴は黒子から生徒手帳を取り上げた。

「ちょ、ちょっとお姉様」

「これ、アタシから返しておくわ」

黒子も負けじと美琴から奪い取る。

「お姉様、これは落し物ですの。落し物は私達、風紀委員(ジャッジメント)がお返し致します」

これから美琴と黒子がいろいろやり取り始めた姿をみて、初春と涙子は

「またはじまったね」

「そうですね」

いつもどおりの光景に少し苦笑いした。

T3 行方不明

 

息を乱し、ライトブランの髪の毛を乱しながら彼女は、一心不乱に路地を駆け抜ける。時々後ろを振り返りながら路地を細かく曲がり大きな通りを目指す。このあたりは住み慣れている場所なのに、商店街の通りや人通りの多い道になぜか出られない。気づけばどんどん一通りもなく薄暗く細い路地へ入ってしまった。

「はぁ・・はぁ・・」

必死になりながら奥へ進むと奥にはビルに囲まれた・・

「行き止まり・・・」

慌てて戻ろうとすると、路地から一つの影が出てくる。薄暗く顔ははっきり見えないが体のラインから女性というのは伺えた。

「な、なにか御用ですか」

震えながらも必死に搾り出した声で問いかける。

「・・・・・」

地面を踏みしめ近づく足音。必死に問いただした彼女に対し、望むべく答えもなく非常な足音だけを返す。彼女は近づく人影に対し少しずつ下がる。後ろのビルまではまだ少し距離があるはずだが、不意に何かに背中がぶつかる。

 

ガッ・・・・・

 

彼女の意識はそこで途切れた。

「こいつの力は?」

「この端末を信じるならレベル3って所ですね」

「まあまあか・・」

女性と思われる人影は携帯を取り出し、キーを押しコールのボタンを押した。数回のコールが鳴り電話の向こうから男の声が聞こえた。

「お疲れ様です」

「ああ、今レベル3を捕まえた」

「では1人分の装置を準備しておきます。」

「時間まで残り少ない。目標をそろそろ確保に入る」

「わかりました。・・・ところで一つ問題が」

「あ?」

女性の声が少しだけ強張る。それに対し電話の男は少しだけ声のトーンが小さくなった。

「門脇(かどわき)がアンチスキルに拘束されました」

「・・・そうか」

チッと舌打ちをした。

「ほっとけ。やつも覚悟の上だ。今は確保優先だ」

そういって通話を切った。

「姉さん、僕もそうやって首切られたら嫌ですわー」

茶化すようにもう一人がつぶやく。

「ふん、それより解除しろ。移動する」

「わかりました」

そういうと同時に徐々に車の音、通行人の雑音、会話が聞こえてくる。日差しはオレンジで二人の足元を照らす。そのまま日差しに素顔をさらすことなく、薄暗いほうへ消えていった。

「白井さん」

校内の廊下を歩いているときに呼び止められ、黒子は振り返る。そこへ近づいてい来る明るめの黒のロングヘアの女の子。

「あら、泡浮(あわつき)さん。どうかしまして?」

顔を強張らせた彼女はいつもより口調を早めていた。

「じ、じつは・・・」

 

「湾内(わんない)さんがいなくなった?」

お昼休み、黒子と一緒に昼食をとっていた美琴はサンドイッチを銜えたまま、今日一緒に昼食をとっている泡浮のほうに目をやった。

「そうなんです。昨日から寮内でも姿を見なかったです。夜も朝も部屋へいったのですが鍵が閉まっていて」

湾内絹保(わんない きぬほ)と泡浮万彬(あわつき まあや)は一緒の学舎の園内の学生寮に住んでいる。

「寮長には話した?」

2個目のサンドイッチに手を出しながら美琴は聞いた。もちろん、というかわりに泡浮は頷いた。

「ええ、警備員(アンチスキル)にも捜索依頼したようです」

「風紀委員(ジャッジメント)のほうにも、捜索の依頼はきておりましたの。ですが・・・」

黒子は少し視線を落とした。

「ここ数週間の間に、湾内さん以外にも行方不明になった能力者の方がおりますの」

「能力者の・・・行方不明・・・」

「湾内さん大丈夫でしょうか」

黒子ははっとして、いつもの表情で泡浮をみた。

「大丈夫ですわ。警備員(アンチスキル)の方々と協力して、必ず見つけて見せますわ」

「そうよ。きっと見つかるから安心して」

「はい」

目に涙をためた泡浮は、二人に言われ少し安心したのか先ほどよりも安堵の表情を浮かべた。対象に黒子は表には出さないが、この能力者限定の行方不明の事件に何か嫌な予感を感じていた。美琴はそれを知ってか知らずか、

「もーらい」

といって、黒子が手に取っていた口をつけていないサンドイッチにかじりついた。

「まーお姉様ったら・・・でもこの食べかけのサンドイッチ・・・わたくしの手に持つこれは・・・お姉様との間接・・」

「やめい」

いつもの美琴の怒号が響いた。

 

「聞きましたわよ」

 

突然の声に三人ともびくついた。背後にいたのは扇子がトレードマークの・・・

「わたくし、この婚后光子(こんごう みつこ) もご協力いたしますわ」

「婚后さん、ありがとう」

「とーぜんですわ」

「どーでもいいですが、邪魔だけはしないでいただけます?」

「白井黒子さん・・それは誰に向かっておっしゃっているので?」

そんな事を言い合っているうちに昼休み終了のチャイムが鳴った。あわてて四人は片付けてそれぞれ教室へもどる。

「!」

そんな中何か視線を感じた美琴は立ち止まりあたりを見渡す。特に何も見当たらないため、後ろ髪を引かれながらも教室へ戻っていった。

T4 遭遇

 

 

風紀委員(ジャッジメント)第177支部の室内で、初春はPCと向かい合っていた。しかもひとつだけではなく、複数のモニタ・端末を同時に操作しあらゆる情報を検索している。

「はい、これ」

セミロングでメガネをかけた女性が差し出したカップを、初春は受け取りカップないの飲み物に口をつけた。

「固法先輩、ありがとうございます」

「どう?調子の方は」

「それが・・・」

再びモニタへ目をやり、またキーボードを操作し始める。

「目撃情報が一つもないんです」

「一つもなの?」

「はい、不自然なくらいに。最後の目撃情報も学校だったり、お友達を遊んでいたときだったりくらいで」

「たしかに・・それは不自然ね」

「念のため光学系の能力者を調べましたが、全員にアリバイがあります。寮内もしくは複数名の目撃があるため、除外してもいいと思います」

固法はカップ内の飲物をすべて飲み干し、ため息のように一息はいた。とその時デスクの上に置いていた初春の携帯がなった。「はい、もしもし」

「初春」

黒子の声に、この後聞かれるであろう問いに必要な情報をモニタに表示させる。

「なにかわかりまして?」

「それが、不自然な点があります。目撃情報が1つもないんです」

「1つも・・・それは確かに不自然ですわね」

「光学系能力者を確認しましたが全員アリバイがあります。それに・・・」

「それに・・なんですの?」

「監視カメラのデータに、行方不明者が映ってないんです」

「そんな事があるはずが・・・」

「行方不明者すべてが学生ですが、校門をでたあとから監視カメラに姿が残ってないんです」

「わかりましたわ。初春は引き続き情報を集めてくださいな」

「わかりました」

そういって黒子は電話を切った。いろいろ頭の中で考えては見たが、監視カメラに映らないなどありえない事、しかしそれが現実に起こっている。そんな事を考えつついつもどおり学区内を巡回する。

 

いったい・・・どういうことですの

 

答えの出ない出来事に、黒子は少し焦っていた。そしてふと気づくとあたりに人影はおろか車、それに人々が生活をしているという音が消えていた。

「これは・・・」

周囲を見渡すと近づいてくる人影が1つあった。黒髪で膝くらいまである長い髪、整ったボディラインから相手が女性と言うことだけは黒子にはわかった。

「風紀委員(ジャッジメント)ですの。これはあなたの仕業・・・と言う事でよろしくて?」

 

「空間移動(テレポーター)・・白井黒子か・・・ずいぶんデカイのが見つかった」

「ずいぶん余裕ですこと。こちらはあなたにお聞きしたい事がありますの。ゆっくりしている時間はございませんわ」

黒子は空間移動(テレポート)して一瞬で間合いをつめる。しかし女は黒子に触れる事なかったが、黒子は後方へと弾かれた。

「ぐっ」

自身の能力で地面に着地する。視線を相手に向けたが、先ほどの位置にその姿はなく

「あ」

不意の後ろからの衝撃で前方へと飛ばされる。よろけながら立ち上がった黒子の視線の先に、女と後方で塀の上に座っている男がいるのを確認した。

「よそ見してていいのか」

一瞬で黒子の横に移動した女は、黒子の方へ腕を横に振りぬく。黒子の力で空振りに終わったその腕は空を切った。太ももから抜いた鉄矢を女の方へ投げる。それを難なく受け止めそのまま地面へと捨てる。

「おもしろいものを使うな。だが・・おしまいにしよう」

女はすっと黒子の方へ手を伸ばす。

 

ズン

 

「ぐっ・・・これは」

重力場を操る・・・急な異常な重力、女の能力をなんとなく理解していた。しかしその思考を止めるかのように徐々に体にかかる重力が増していく、なすすべなく地面にはいつくばった黒子の体はミシミシと音を立てながら地面に押しつけられる。

「う・・・・」

押しつぶされているため、上手く呼吸ができない。それにより演算がうまくできず、黒子の空間移動(テレポート)が出来ないでいた。そして黒子は意識薄らいでいく意識の中で、近づいてくる足音を聞いた気がした。

T5 来訪

 

 

黒子が気づいた時は、すでに冥土帰しの病院のベッドの上だった。ベッドの両脇には目に涙をためた初春や、美琴と涙子が名前をずっと呼んでいたようだ。カエルに似たいつもの医師の姿はなく、状態を美琴達に告げて部屋を出ていったらしい。

「ご心配をおかけしましたの」

「黒子、あんたがやられるなんて」

「あちらの方が、1枚上手でしたわ」

「犯人・・・見たのね」

美琴の目が感情が荒ぶれるのを黒子は感じた。

「お姉さま、いけませんわ。危険すぎます」

「だって黒子をこんなめに合わせたやつを、許してはおけない。それに湾内さんだって」

「初春、警備員(アンチスキル)に報告、それと固法先輩にも連絡を。私の情報をお伝えしません・・っ!」

起き上がろうとした黒子は、肩の痛みに苦痛をもらした。「だめよ、まだ寝てなさい」

「ですが・・」

「話すのは、寝たままでもできるでしょ・・ね」

美琴の言葉に素直にしたがい、黒子は起こしかけた体をまたベッドにしずめた。黒子は2、3呼吸を整え口を開いた。

「相手は二人、一人は女性・・もう一人は男性ですわ」

「相手は二人組み・・か」

「ええ。男性は能力者かどうかはわかりませんでしたけれど、女性の能力はなんとなくわかりましたわ」

先の戦闘、触れずとも相手をはじく攻撃、それに体にのしかかる重さ、これらの事から推測させ

「重力・・もしくは重力場を操る能力者かと・・・」

「重力?」

「ええ、周囲の重力を変化させられる能力者ですわ」

「ほかにはなんか思いついた事は?」

「そうですわね、人気や雑音がいっさいなく、まるで今まで見たことない場所にいましたわ」

「どういうこと?いつも警邏している黒子が道に迷うはずが」

「ええ、迷うはずはないはずですのに、私の知らない所におりましたの」

「つまり、そんな場所に出たらやつらはくるのね」

「お姉さま・・だめです」

「いいから。あんたは寝てなさい。あとはお姉さんにまかせなさい」

そういって美琴は病室を飛び出していった。

 

「ふっふふーん。我ながら女の子みたいだな」

病院の廊下を花を挿した花瓶を両手でしっかりもち、鼻歌混じりに歩いていた。前方でガタンと大きな音が聞こえたので目をやると女の子がすごい勢いでこちらに走ってきた。自分が見えて居ないのか加速はしても減速することなく横を走り去って言った。

「病院は走ったらいけないんですよー、御坂美琴さん」

そういって先ほど彼女が閉めた扉の前に立ちドアノブにてをかけた。

 

「初春、急いで固法先輩に警備員(アンチスキル)に情報を伝えるように連絡を」

「わかりました」

飛び出すように部屋の入り口に向かった初春は、ドアノブに手をかけた。勢いよく開かれたスライド式のドア。

「きゃ」

「うわ」

何かにはじかれ初春は尻餅をついた。いたたたとお知りをさすりながら立ち上がった初春は、ようやく目の前の人物に気がついた。

「あ、すいません。ごめんなさい」

ものすごい勢いで謝る初春。

「いやこちらもすいません。どうぞ」

最後に一礼し、その人の横を通り過ぎ病院設置の公衆電話へと向かった。

 

「初春はほんとそそっかしいなぁ」

涙子はそういいながらドアの方へ向かう。そして影から出てきたのは一度だけ見た事ある人物。

「あら、あなたは」

黒子は気づいたように、悲鳴を上げる体を起こした。

「どうも、白井黒子さんに佐天涙子さん」

手に持った花瓶を窓際の台の上に置き、初春との接触で乱れた花を整える。

「たしか・・生徒手帳を落とされた・・・仁科・・司・・さんでしたかしら」

「正解です。生徒手帳を拾ってもらって助かりました。支部にいた固法さんから受け取りましたよ」

ズボンのポケットから手帳をとりだしひらひらさせた。

「まさか・・そのお礼を言いに来た・・というわけではありませんわよね」

仁科は何も言わず近くにあった椅子に腰をかけた。

 

「そうです。ですからバンクデータ等でそういった能力者がいるかどうか調べる必要があります。はい・・・はい・・・わかりました」

そういって初春は固法との電話を切った。ふうっと息をつき窓の外を見上げた。雲1つない青空。黒子が襲われたのはその前日。夕方の警邏の時間・・・見知らぬ場所に現れた能力者。まだ調べなければならないことが山積のように感じられる。

「うーいーはーるー」

 

バサッ

 

初春の後側のスカートが大いにめくられた。

 

・・・・

 

「きゃー、も、もう何するんですか佐天さん」

顔を真っ赤にさせ初春のもう抗議。涙子は相変わらずな感じで笑っている。自分でもわからないくらいいろいろ言った後でふと気がついた。

「さ、佐天さんがどうしてここに」

「んー、それがね、さっき初春がぶつかった人があの生徒手帳落とした仁科って人で、なんか白井さんに話があるからって事で席をはずしたわけ」

「話ってなんでしょう。しかも白井さんに・・・ってもしかして」

初春に走った嫌な予感。不安にかられ涙子を置き去りにし病室へ戻った。スライド式のドアを勢い良く開けて中に入った。

「白井さん」

息を切らし思った以上に大きな声でその人を呼んでいた。

「ど、どうしたんですの」

「はぁ・・はぁ・・よかった無事で」

安堵したのかそのまま床にへたりこんだ。

「初春おいてかないでよってあれ?」

遅れて部屋に入ってきた涙子は仁科がいない事に気がついた。

「白井さん仁科さんは?」

「ええ、もう帰られましたわ」

「な、なにかされませんでしたか」

「え?あの方が?初春、それで走ってきましたのね」

「そうですよ、白井さんを狙っていた能力者かと思いましたから」

「私がみた犯人と違いますし、それにあの方は安全ですわ」

「ほんとに大丈夫なんでしょうか」

心配そうな初春をよそに、黒子は少し微笑んだ。

「仁科さんですのよ、助けてくださったのって」

そういって黒子は開け放たれた窓の外へ目を向けた。

T6 美琴VS

 

 

「っどこにいるのよ」

ぴりぴりと殺気だち、街中を走り回る。走れども探せどもいつもの自分の知っているいつもの街に風景に道、黒子の言ったような実知らぬ場所には一向に出くわさない。気づけばいつもの古い自販機のある公園についていた。

「あー、どこにいんのよぉぉ」

くるりと回転し、自販機の側面へ見事な蹴りを決め、その衝撃ででてきたジュースを取り出した。黒いフォルムのあずきサイダーとかかれたジュース。企業の開発した新商品等、学園都市にすぐ入荷される。そのため外ではまだ販売されていない商品などが多い。

「すぐにキブツハソンノオソレアリみたいな感じで、警備ロボットがきちゃいますよ」

「ん?ああ、あんた。仁科・・だっけ」

美琴の方に歩み寄り、体を回転させ美琴と同じように自販機を蹴る。同じように出てきたジュースを取り出した。

「あっち・・・スープカレー・・・・まぁいっか」

プルタブをあけ中身を飲む。

「あんた・・何の用よ」

鋭く警戒したように仁科をにらみ付けた。まあまあといった表情でスープカレーを喉に流し込む。

「そんなに警戒しなくても・・」

「しかたないでしょ。ま、今いらいらしてるから・・・あんたがあたしの相手してくるってーの?」

バチバチっと発電する。

「まあまあ。いらいらをぶつける相手は、黒子さんを襲った犯人に向けた方がいいんじゃないか?」

「そんな事言って、あんたが犯人なんじゃないの?」

「あっはっは、そー言われるんじゃないかと思ったよ」

「ふっざけんじゃないわよ」

言葉を言い終えると同時に、仁科へ向けて電撃を放った。特に逃げるわけでも彼みたいに右手を出すわけでもなくそのまま直撃。しかし彼と同じように感電も吹き飛びもしない。ただ平然とそこに立っている。

「な、なんなのよあんた」

「なんでしょうー」

そういって仁科は歩き出した。

「ちょ、ちょっと・・どこいくのよ」

「ついてきてください」

手がかりもない今、美琴は彼に着いて行く事にした。

「ちょっと、どこまでいくのよ」

「ついてきたらわかるって」

そういって商店街通りの建物と建物の間の細い道へ入る。日差しは太陽に遮られ、昼間だと言うのに薄暗い。どんどん進んでいく仁科の後ろをついていくうちに、一つ気がついた。

(音が・・・消えた・・)

「気づいた?もう相手のテリトリーに入ったよ」

この薄暗い道に入るまでには確かに感じた人影や雑音、それが今はいっさい感じられない。

(絶対・・・捕まえる)

湧き上がる怒りにも似た、高揚感のようなものを抑えつつ、自分の掌をしばらく見つめ拳を握ると同時に気を引き締めた。

「それでこれか・・・あれ?」

視線を上げた先には少しだけ開けた空間があるが、仁科の姿は見当たらなかった。

「ちょっとー・・もう・・あいつどこいったのよ」

ぶつくさ言いながらこの空間を歩いていく。あたりを見回してもただ普通の住宅街の道。しかし違うのは音も人影もない。しかし美琴のするどく研ぎ澄まされた感覚は、向けられた殺気を感じていた。

「そこにいるんでしょー?出てきなさい」

「さすがだな・・・御坂美琴」

目の前の十字路の影から出てきたのは、黒子から聞いていた通り女性が一人。

「あんたには・・・聞きたい事がたーくさんあるのよ」

「ふふ」

「何がおかしいのよぉぉ」

発電させた電気を女にめがけて一直線に飛んでいく。

「いい、いいねその力」

上に高く跳躍し電撃をよけた女は着地と同時に地面を蹴る。

「やるじゃない」

続けざまに電撃を放つ。左右にステップを踏み電撃をかわしながら間合いを詰める。

「くっ」

「どうした?」

(攻撃して来た瞬間に電撃を浴びせて)

 

ドン

 

不可視の衝撃に襲われ後ろの塀に体を叩きつけられる。塀にひびが入るほどの衝撃に美琴の意識が飛びそうになった。

「がっ」

地面に手をつき倒れそうになる体を必死に支える。

「こっちのはたいしたことないな」

這いつくばっている美琴に近づき、女は美琴を蹴り上げる。ぎりぎりで手でガードするも先ほどのダメージが響いているのか、電撃を浴びせる余裕がない。

「くっ・・う・・・」

「あーあ、楽な仕事だった」

「こ・・んのぉぉお」

女に向けて突き出した右手から今の状態で放てる全力の電撃を放つ。

「むだ」

不敵に笑みを浮かべた女をよけるように、電撃が美琴の意図せぬ方向へ曲線を描き、女からそれていく。

「え・・・」

「もうおしまい?」

「く」

二度三度同じように電撃を放っても、同じように強制的に方向を曲げられ同じようにそれていく。

「な、なんで・・・ほんとに重力場を・・」

「どんな能力かわからないでしょうね。重力場・・・そうねぇ」

 

グン

 

「ぐ・・・」

上からの急な衝撃に地面に押し付けられる。

(こ、これ・・じゃ、黒子の二の舞に・・・)

女は携帯を取り出し電話をかけた。

「今、どこ・」

「まずい・・姐さん・・すぐぐああ」

「おい、どうした・・おい」

チッと舌打ちし通話を切る。

「くっ」

電撃を放とうにもうまく発電ができない。

「まあ、お前さえいれば」

ふと、辺りのから音が聞こえ出す。何気ない住宅街と思っていた場所が、何気ないいつもの見慣れた風景に戻ってかわっていく。

「ちょっと、あれ」

二人の状態を見つけた周囲の人がざわざわと騒ぎ始める。中には風紀委員(ジャッジメント)に連絡をするものもいたりで、女はこれ以上目撃者が増える前にその場から走り出した。のしかかる力が消えた美琴は、よろけながら塀にもたれかかりつつ体を起き上がらせる。

「はぁ・・はぁ・・」

「立てるか」

声をかけてきたのは、先ほど姿を消した仁科だった。

「あ・・アンタ今の今まで」

怒りにも似たものをぶつけようと声を荒げたが、彼が引きずっているものに目をやった。

「誰?それ」

「さっきのやつの共犯者。あの空間の能力者なんです」

「もしかして、あたしを囮につかったの?」

「えっへっへ」

「あ、あ、アンタねぇ・・く」

電撃を浴びせてやろうと発電したが、受けたダメージの痛みで顔を歪める。

「とりあえず手当てしましょう。それとこいつを一応ね」

「ったく」

やれやれと美事は歩き出した。それを追うように仁科も歩き出した。

T7 迷宮案内

 

 

「ちょっとー、もう・・あいつどこ行ったのよ」

自分に対して向けられているであろう言葉を聞き流し、彼女から遠く離れていく。学園都市内で見たことない静観な住宅街を歩きながら周囲を見回す。周囲に人がいたら怪しまれる事もあるだろうが、仁科は塀にぴったり沿うように道の端を歩く。街の喧騒から切り離され聞こえてくるのは、自分の履いている靴が地面を蹴る音。それと彼女が言い放つ声。静かな分大きめな彼女の声は良く聞こえる。

「全部で3つ」

周囲を見回すとこの空間、住宅街では一際高いマンションが3棟立っている。自分達がこの空間に入ってきた近くに1つ。そのマンションを南だとすると北東と北西にそれぞれ一つずつ立っている。まるでこの空間範囲に沿うように。

「目測200~300mくらいか・・・」

そう言って仁科は一つ目のマンションへと入っていく。外につけられている階段で徐々に上の階層へ上がっていく。一つの階に5部屋あり、全ての部屋を確認しながら上の階へ。全部で5階からなるこのマンションの部屋を全て確認したが、特に誰かいる気配もなく周りの住宅と同じように空であった。そのままふとマンションの屋上へと登った。マンションとマンションのちょうど中間に位置する場所で、青白い閃光が飛び交う。この空間で戦っているとすれば、御坂美琴以外いない。肉眼で御坂美琴ともう一人が交戦している姿を確認できるが、犯人の顔までは捉えられない。

「と、すると」

残り二つのマンションに視線を向ける。北東のマンションと北西のマンション。このマンションとまったくといって良いほど同じつくりになっているのだが、それぞれ階が若干違う。北西が一番高く北東、そして仁科がいるこのマンションの順だ。北西のマンションに目をやる。特に北東と同じようにこれといって変わっている所はない。一つ違いがあるとすれば・・・

「見つけた」

そういって仁科は足の裏から電気を放電し、マンションの側面を垂直に駆け下りる。周りは完全な箱庭といった状態で、家や塀はもちろんゴミ箱から自動車等すべてがジオラマの如く再現されている。自身に電磁的な加速を生み出し、住宅街を失踪する。美琴が敵に捕まっては意味がない。そうならないように、全力で北西のマンションへと向かった。

 

「ふっふっふーふーふふーん♪」

鼻歌を歌いながら双眼鏡を覗き込み、御坂美琴を観察する男。髪の長い女に向けて放つ電撃は、当たる前に歪曲しそれていく。

「あーこりゃきまったかな」

男は携帯に目をやる。

「6分42秒・・これは僕の勝ちかな♪」

何か賭けをしていたのかわからないが、男はさらに上機嫌になった。

「何が勝ちなんだ?」

背後から聞こえた声に驚く振り返る。そこには学生の服おきた男。

「お・・お前は・・・」

「見つけた。佐枝(さえぐさ)・・・その双眼鏡、日の光でキラキラ反射してたぜ」

「くっ」

屋上の手すりにフックを引っ掛け、ロープクライミングの要領で下に下りていく。半分以上降りたが、ロープが足りないためしかたなくベランダに入った。部屋を勢いよく飛び出しあとは階段を使って降りていく。階段を駆け下りていると携帯がなった。おぼつく手で慌てて電話へ出る。

「今どこ・」

「まずい・・姉さん・・すぐぐああ」

階段を降りきったところで背後から吹っ飛ばされた。電撃をあびたかのように体がしびれて少し痙攣している。手から飛んでいった携帯も電撃のせいで煙を上げていた。

「ぐ・・ドッペル・・なんでお前がこっちに」

「それは仕事だからだ」

男の首根っこをつかみさらに電撃を浴びせる。

「あががががが」

「それにドッペルってお前に言われたくない」

「はぁ・・はぁ・・・くそ」

「はやくこの能力を解くんだな。迷宮案内(ロードマップ)だったか」

「だれが・・とくもぎゃあああ」

男の言葉を聞き終える前にさらに電撃を浴びせる。そのまま男は白目を剥き痙攣すら反応しなくなった。そのとたん、この住宅街の風景がみなれた学園都市の風景に変わっていき、街の喧騒や気配・・そして生活の音が聞こえ始めた。

「ふう、俺の方も打ち止めか~・・・さてっと」

仁科は佐枝の服の首元をつかみ引きずりながら、美琴の場所へを向かった。

 

美琴はよろけながら塀にもたれかかりつつ体を起き上がらせる。

「はぁ・・はぁ・・いたたた」

「立てるか」

声をかけてきたのは、先ほど姿を消した仁科だった。

「あ・・アンタ今の今まで」

怒りにも似たものをぶつけようと声を荒げたが、彼が引きずっているものに目をやった。

「誰?それ」

「さっきのやつの共犯者。あの空間の能力者なんです。迷路を作り出す能力で通常の空間とはちょっと感覚が異なるんです」

「そんな能力者がいたなんて」

「空間系能力者は相性が悪いんですよ。ちょっとしたキャパシティダウンみたいな物かな」

「へー・・・ってアンタ、あたしを囮にしてそいつを捕まえにいったの?

「ま、まあそういうことになりますかねぇ」

「あ、あ、アンタねぇ・・く」

電撃を浴びせてやろうと発電したが、受けたダメージの痛みで顔を歪める。

「とりあえず手当てしましょう。それとこいつを一応ね」

「ったく」

「白井さんの所へ行くついでにあの先生に診てもらいましょう」

「い、いいわよ。このくらいの傷なんてこ・・っつ」

倒れそうになるのを仁科は左手を伸ばし、抱きかかえるように美琴を支える。

「囮にしてすいません。あやまります」

慣れない男性との接触に顔を赤らめつつ、聞き取れない奇声を発しながら仁科の腕から逃れようとする。しかし力が入らないのと仁科の支える力が強いため、引き離せない。

「あいつを倒すのには御坂さんが必要です。なのでまずは手当てを」

「わ、わかったわよ・・いいから離して」

「ありがとう」

「病院についたらきちんと説明してもらいますからね」

美琴はものすごい目力で仁科をにらみつける。

「は、ははは」

ちょっと逃げ腰になりながらも美琴と共に病院へ向かった。

T8 並行世界

 

 

看護婦により消毒を終えた美琴は、計らいにより簡易的に包帯を巻かれた装いで黒子の病室へ入ってきた。体の痛みをあるものの体を起こせるようになった黒子は、制服に着替えベッドに腰をかけていた。その隣には初春、その前に椅子を並べ涙子と仁科が座っている。

「お姉さま、大丈夫ですの?」

「大丈夫よー黒子の時より軽いってさ。それよりもう動いて平気なの?」

ええ、と黒子はうなずいた。美琴は黒子の隣に腰をかけ仁科に視線を向ける。この事件の真相を知っているであろうその唯一の人物。全員の視線を一身に受け仁科はは話し出した。

「少し長くなるが、これは俺のいる本来の世界の・・・ある計画が発端です」

「本来の?・・計画?」

美琴の頭上にはてなが浮かぶ。それは黒子を除いた残りの二人も同じだった。「では、この間のお話はほんとなんですのね」

「黒子、あんたは知ってたの?」

「ええ、端的にではありますが・・・」

「ああ、この間の話って」

涙子が思い出したように声を発した。仁科はそれに頷き話を進めた。

「そう、俺はこの世界の本当の住人ではない。パラレルワールドって言えばわかりますか?」

「パラレル・・映画とかでいう並行世界ってこと?」

美琴は訝しげに言った。

「そうです。本来は決して相反することないですが、こことは別次元軸上に存在する並行する世界が、俺の本来居る世界です」

「で、その話を信じるとしてどうしてあんたがこっちの世界に着てるわけ?」

「並行世界といいますが、完全に一致というわけではなくこちらの学園都市と俺のいた学園都市では多少科学力に差があります。あちらの世界の方が若干科学力が進んでいて、とある研究も進んでいます」

「とある・・・研究?」

「ええ、とある周期でそれぞれの並行世界の壁がもっとも薄くなる時期があり、別の並行世界へ行くという研究が行われていました」

誰もが聞いた事ない、想像上での存在と思っていた世界、四人とも言葉を発することも忘れていた。

「ですがその研究は科学者の間で二つに割れ、凍結派と推進派で対立していましたが、結局は凍結と言う事でこの研究は闇に葬られたはずでした。しかし推進派の中にいたものがこの研究をひそかに再開させました。それを知った凍結派は事態を解決すべくチームを結成し、俺のようにそれぞれの世界へ派遣をしているのです」

「そ、そんな話・・すぐには信じられませんね」

初春の言葉に涙子は同意するように目を配らせる。それは黒子も美琴も同じで少し困惑した表情をしていた。

「まぁ、それだけならば密かに探し出しあちらへ送り返せばいいのですが、問題はここからです」

「問題?」

「能力者誘拐の事ですわね」

「そう、少ない推進派で対抗するためにある装置を開発したのです」

「ある装置・・というのはなんですの?」

「能力開発をしていない者でも複数の能力が使えるようにする装置」

「それって」

「ええ、御坂さんは体感したでしょう。幻想御手(レベルアッパー)事件の首謀者、木山(きやま) 春生(はるみ)が実際に使用した・・」

「多才能力(マルチスキル)!!」

美琴、黒子、初春は合致したように声をハモらせた。涙子は知らないため、三人のハモりにもきょとんとしていた。

「あ、あのーわたし飲物買ってきますね」

話についていけなくなったのか、それともレベル0の自分には遠い話と感じたのか、それとも気を使ったのか、そう言った涙子を仁科は引き止めた。

「いえ、こちらの世界が巻き込まれている事を佐天さんも知っておいてください。ここにいるのは・・俺が頼れる唯一の仲間・・ですから」

その言葉を聞いた涙子は上げた腰をおろした。

「多才能力(マルチスキル)使うため、別の世界から能力者を連れてくるという目的のため、そして次元の壁がもっとも薄くなる周期がもうすぐなので、やつらも活発に動き始めたのでしょう」

「ということは、湾内(わんない)さんはそのために誘拐されたって事か」

腕組をしている美琴の指に力が入る。

「はい。ですが・・・今回の一番の目的は・・・」

仁科は視線を美琴へ向けた。

「御坂さん・・・あなたです」

「あ、あたし?なんでまた」

「レベル5だからでしょうか」

初春の問いに肯定とも否定ともせず少し悲しそう表情で視線をさげた。

「それもありますが・・・」

「それなら、アンタの世界のあたしを捕まえたらいいんじゃないの?」

美琴のもっともな回答に、仁科は首を振った。

「それはできません」

「なんでよ」

「俺の世界では・・・御坂さん、あなたは死んでいるからです」

その言葉にその場に居た四人は出す言葉を失った。

 

 
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