・Caution!!・
この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。
オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。
また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。
ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。
それでは、初めます。
人は時として自身の道の行き方を誤る。
何故?
それは、その者が紛れなく人であるが故に。
何の為に?
それは、誰かの為、もしくは己の為に。
道は如何にすれば元に戻るのか?
それを知る者も、また己なのだ。
真・恋姫†無双
―天遣伝―
第十五話「発覚」
張三姉妹は最近満足に睡眠を取る事さえ出来ずにいた。
それは、現在三十万近い周りの軍団に必要な物資が、分けられた軍団毎悉く官軍によって滅されている為であった。
否、それは副次的なものでしか無く。
実際の問題は、補給が霞んできた所為で起こる仲間割れ、なのである。
昔から張三姉妹の追っかけをしていた純粋なファン集団はともかく、後から唯暴れて略奪を望んで合流してきた奴等は、まさに望むがままに此方に運び込まれて来ている補給物資を横取りしていく。
その所為で、次々と黄巾を抜ける連中が増えると言う悪循環。
最早、三姉妹の居場所がばれるのも時間の問題となってきていた。
「う~、ひもじい~・・・・・・」
「姉さん、我慢して。
昔の食事に戻っただけじゃない」
「その筈なのにね、もう物足りなく感じる様になっちゃっているのよね」
「ちい姉さんまで・・・」
「大丈夫、我慢できない程じゃないし」
朝の食事をする三姉妹の風景である。
黄巾党は既に、最大の勢力であった頃に比べ、三分の一程度の規模しかない。
その原因の主なものは、『天の御遣い』の存在。
そもそも、黄巾党が異常な大勢力に膨れ上がった大きな理由の一つに、「天の加護が自分達にある」と錯覚した事があるからだ。
それを根底から払拭したのが、天の御遣いだった。
眉目秀麗。
文武両道。
質実剛健。
おまけに元賊であろうが、投降した者達には篤い。
まさに英雄。
故に、人々が天の御遣いを崇め称えるのに、時間を全く必要としなかった。
既に黄巾党内部でも、「降るならば天の御遣いが良い」という風評さえ広がっている。
三姉妹の間でも、半日に一度は話題が上がる程度には有名な噂だ。
たった今。
「そう言えばさ、天の御遣いさんだったら、私達の事助けてくれるかな?」
「難しいんじゃないかしら。
私達はとっくに名指しで手配されているのよ?
見付け次第殺されるのがオチ、件の御遣いの所へ行く事さえも叶わないでしょうね」
「そんなぁ~~~」
「やっぱり私達だけで逃げて、名前を隠しながら旅して暮らすしかない、か・・・」
「それも難しいでしょうけど、正直それしかないと思うわ」
三姉妹の表情が揃って曇る。
元より他者を魅了出来る美貌を兼ね備えている三人だが、この時ばかりはそれすらも曇ってしまったのである。
所変わり、此方は官軍。
本日の軍議の最中であり、同時にもうすぐ終わろうとしている所だ。
「・・・以上で軍議を終了する。
何か思う所がある者はいるだろうか」
「は~い」
間延びしたような声を上げながら挙手したのは、雪蓮。
孫堅軍の首領である大蓮が急病らしく、本日は大蓮に代わって雪蓮が軍の長として参加しているのだ。
一刀は呆れながらも、雪蓮に発言を促す。
「何故、我等呉軍に先陣を任せてくれないの?
呉軍の精強さは、これまでの戦いでしかと証明した筈よ」
肉食獣の様に、相手の喉首を狙うが如き鋭い気を籠めて一刀を睨んだ。
そして、その発言にややながら騒がしさを増す周り。
だが、その全ての中心である筈の一刀は全く動じる事も無く、雪蓮の威圧を軽々と受け止めている。
内心舌打ちを漏らすが、それは口惜しさ等から来るものでは無い。
それは寧ろ・・・
「理由は、俺自身だ」
「・・・・・・何、ですって?」
雪蓮の形の良い眉が顰められる。
だが、実は心中ではどの様な答えが飛び出すのかを予測していた。
「俺は、他の誰かが俺自身よりも先に傷付くのを認めたくない。
この軍の内で真っ先に傷付くべき者がいるとすれば、それは俺であるべきだ」
周りのざわざわが増す。
直後に美里が机を叩いた御蔭で静まったが。
「ハァ・・・・・・飛んだ甘ちゃん大将ね。
こんな男に我が軍を預けるなんて、私は嫌よ。
全てを率いる者の債務を正しく理解しようともしないだなんてね。
決めたわ、呉軍はこれより官軍を抜け、郷里へと帰らせてもらうわ。
こんな事なら、家の軍と将と共に戦った方が良いものね」
雪蓮の発言で、一瞬で回復した。
「待ちな! そんな事が許されると思っているのかい!?」
「・・・別に、書には『軍を率いて官軍に合流せよ』としか書いてなかったし。
『何時まで官軍に従え』だなんて書いて無かったわよ」
「そりゃ、詭弁ってもんじゃないかい・・・?」
美里が心底呆れたように、それでいて怒気を隠そうともせず言う。
雪蓮の後ろに控える祭も鉄剣に手を掛け、一触即発な空気が辺りを包んだ。
だが、その状況を打破したのは、思いも寄らない方からだった。
「構わないよ」
「・・・・・・は?」
「一刀!?」
一刀が許可したのである。
官軍の総大将、全権を有する一刀が。
呉軍の精強さは確かに際立っている。
官軍の力の部分を担っていると言っても、過言で無い程に。
数も相当いるので、ここで呉軍に抜けられると、非常に厄介な事態になるのは火を見るよりも明らかだ、だと言うのに。
一刀は、許可した。
その事実が分からない訳でもないのに。
「っちょ、貴方正気!?」
「おや、何で孫策がうろたえるんだ?
俺は、君達が望む通りにしていいと言ったんだ。
だから、さっさと帰って構わないよ」
絶句する雪蓮。
いや、雪蓮だけでは無い。
この場にいる者達、皆一様に絶句して動けない。
実は、今回雪蓮が言い出した無茶は、策だったのである。
例え強引でも、官軍を抜けると言い始めれば、甘い考えの北郷一刀は困って多少譲歩してでも自分達を引き止めるだろう事を見越して立てた策。
だが、考えが甘いのは自分達だったと、ここに至って思い知らされた。
雪蓮は強く唇を噛む。
実際、今官軍を離れたら、目的を果たす事はほぼ絶望的になる。
健業に戻って軍勢を整え、戻って張角達を救う。
これだけの行いにかかる時間は膨大だ。
それまでの間、張三姉妹が無事である可能性は限りなく零に近い。
故に。
「生意気を言って悪かったわ・・・」
「・・・・・・そうか、残ってくれるのか、ありがとう」
意地をひっこめるしか無く(元々見かけだけだが)。
一刀の裏表の無さそうな感謝の言葉が、強く心に突き刺さった。
ピリピリとした雰囲気を保ったまま、自軍に戻った雪蓮に声を掛けようとする猛者はいなかった。
雪蓮と関わりの深い者達以外は。
「その様子では失敗したか」
「・・・母様」
急病の筈なのに、平時と変わらぬ様で雪蓮を出迎える大蓮。
仮病だったのだから、当然だが。
大蓮の方を見る雪蓮の顔が歪む。
「ええ、失敗したわ。
あの男、思っていたよりもずっと強かよ」
「ふむ、人の心の機微を読むのが上手い湊が読み違えたと言う事か?
お前はどう思う? 湊」
体面上大蓮の看病に当たっていた湊は、首を傾げながら言う。
「おかしいですね、私の見立てでは必ずそうなる筈なんですが・・・・・・」
所変わり、官軍。
「一刀さん、何であんな風に孫策さんに言ったんですか?」
桃香が、椅子に座る一刀に訊ねる。
その傍では、同じ様に頷く美里と鈴々がいる。
愛紗も分かっていない様で、耳を澄ましていた。
「それは、一刀殿が見習おうと思う相手を見つけたからです」
「稟さん?」
但し、答えたのは一刀では無く稟だった。
一刀の膝の上に陣取っている風が続けて言う。
「曹操さんならば、あそこで相手に選ばせる道を選ぶ筈ですから~」
「選べる者は選ぶんです、己に最も有利な道を。
呉軍の者達からすれば、私達(官軍)と共にする手立ての方が、孫策殿達が言い出した方法よりもずっと確実で、被害も少なく済む筈ですから」
「そこに、何かしらの下心が無ければ、でしゅ・・・あぅ」
続いて発言しようとして、つい噛んでしまう鳳統―雛里。
隣に立つ諸葛亮―朱里が、雛里の事を気遣う一方で発言する。
「孫策さんが狙う物が何かは知りませんが、孫策さんにとって、それは決して譲れない事なのでしょう。
だから、一刀様に謝ってまで、官軍に残る事を決めた」
「確かに、そう言う側面はあるんだけどさ・・・俺が孫策の言う事に勘付いた理由は、全く別にあるんだけど」
「ほほぅ? それは聞いてみたいですね」
一刀の発言に食い付き、先を促す風。
視線が自分に集中している事に気付き、一刀は頬を掻きながら口を開いた。
「俺が来た、皆にとっては『天の国』ではさ、そういう所謂《ハッタリ》と言うのが良く使われてるのさ。
それを見抜けない者は簡単に騙されて、そうじゃない者は逆に相手をやり込ませられる。
最も、それを見抜いた所で喧嘩に発展するのも良くある話なんだけどな」
ほほぅと感嘆の声を上げる皆。
一刀は、居心地悪そうに肩を竦めた。
「ふーん、天の国って凄いんだね。
一刀さんから聞いてると、争いの無い平和な国だって思えるのに」
「桃香、そいつは安直に過ぎるぞ。
天の国だって犯罪が起きる事は珍しくないし、俺の住んでいた辺りがそうであっただけで、別の国ではここよりも凄惨な戦争が起こっている所だってあったんだ。
他の国から来た人から良く言われたよ、「与えられた平和を享受しているだけ」ってな」
その言葉に、皆一様に言葉を無くす。
気付いたのだろう、その時が来れば、自分達とて同じだと。
平和を求める意味を改めて問われる、そんな力を持った言葉に聞こえたのだ。
軍議が終わった頃。
恐ろしい音量を立てて、二つの鉄塊が打ち合わされる。
その音源は、董卓軍の将である、飛将軍呂布と、猛将華雄。
方天画戟が異常な速度で華雄の胴を右薙に払う軌道を描く。
だが、華雄はそれをあろう事か後退して刃の軌道へと身を移し、刃の部分を自身の金剛爆斧の柄の上を滑らせる事で回避してみせた。
回転運動において、最も慣性を強く受ける個所を的確に見抜いたが為の行動。
恋の戟の勢いは止まらず、ほんの少しばかり引っ張られて体勢を崩す。
それを見逃さぬ華雄ではなく、恋の右膝裏に引っ掛ける形の蹴りを放った。
見事膝の裏を捉えた蹴りは、そのまま恋の体勢を更に崩させる。
このまま行けば尻餅をつかざるを得ない程に体勢を崩した所を好機と見て、華雄が短く握り直した金剛爆斧を突き出す。
だが、ここに至って恋が信じられない動きを見せた。
方天画戟を強く引っ張って手元に全体を戻す一方、引き寄せた方天画戟の柄を地面に突き刺し、それを支点として身を捩り、残っていた左足を華雄の右側頭部へと叩き付けたのである。
これには流石の華雄も反応が遅れ、直撃こそは避けたものの、米神を掠められる。
一瞬で体勢を整えた恋は、少し足下の覚束無い華雄の喉元に方天画戟を突き付け、模擬戦は終結を見せた。
「むぅ、今日こそは勝てると思ったのだがな」
「うははー!! 華雄如きが恋殿に勝てる訳が無いのですぞー! "ゴチン” あ痛っ!? れ、恋殿~!?」
「”フルフル”・・・危なかった」
「な、何が起きていたのかさっぱり理解出来ませんでした・・・」
「真理、素が出とるで。
しっかし、ウチも随分と離されてしもうたな~。
もう華雄にさえ勝てる気がせぇへん」
恋と華雄の模擬戦を観戦していた面々は、揃って華雄の成長速度に舌を巻いていた。
僅か3ヶ月足らずで、華雄は間も無く武の面でも恋に届きかけている。
このままでは、軍と武の両面で華雄が董卓軍最高の将に成りかねない。
何処となく、それは悔しいから嫌だな、と思っている霞だ。
「ただいま戻りました」
「戻ったわよ」
「董卓様! 御帰りなさいませ!」
月の姿を確認した途端、即座に月の前に跪く華雄。
以前はそれ程でも無かったのだが、ここ最近はこれが常だ。
最も、華雄が董家に仕え始めた頃もこれだったのだが。
実は、華雄は董卓軍中最年長である。
それもその筈、華雄は雪蓮がまだ本格的に将として戦線に参加していない頃に、大蓮と一戦を交えたのだから。
その頃から、董家には将来強力な将となり得る人材が結構数いた為、華雄は力を遮二無二求めていた。
その為に、華雄は一刀と出会うまで、自身の武の本来の形を忘れてしまっていたのである。
それを取り戻してからが、異常に速いのだ。
元より最年長である事から、この中では戦の経験が最も豊富。
尚且つ、外国の武に触れる機会も最も多かった。
かつては、五胡や匈奴が頻繁に涼州に攻め込んで来ていた時期があった。
華雄はその激戦期を生き残った英傑の一人でもある。
その気になって己を見直しただけでも、かなり改善された。
それ故だ、今のこの急成長は。
「それで、どうなりましたか?」
「・・・先陣は本隊よ、譲る気は無いみたい。
まぁ、ボクとしては別に構わないわ、それだけボク達の危険も減るし」
「でも、一刀さん大変だよね・・・」
「ボク、あいつが何も考えずに先陣切ってるとは思えないわ」
「え? だって一刀さん、私達が傷付くよりも自分が、って・・・・・・」
「そんなの言い訳に過ぎないわ。
あいつの頭の切れは、ボクが一番身を以って知ってる。
そんな理由で・・・いいえ、本当にそうなのかもしれないけど、そんなの理由の【一部】でしかないわ。
あいつは絶対何かを知ってる。
その上で、ボク達皆に隠してる」
「あの一刀が、かいな!?」
厳しい表情で頷く詠。
霞からしてみれば、これは驚愕に値する。
そんな腹芸の出来る男だとは認識していなかったからだ。
「賈駆、何もそんなに難しい事でもあるまい。
北郷の事だから、さしずめこの乱の首魁を救おうとでもしているのだろう」
「華雄殿、流石にそれは有り得ぬ話ではござりませぬか?」
「単細胞らしい、単細胞な考えなのです。
人々を殺しまくっている賊共の棟梁を救う等、天の御遣いのするべき所業では有り得ませぬぞ」
「それだわ!!」
「「・・・は?」」
「そうよ・・・考えれば分かり切ってる事じゃない・・・この状況でわざわざ隠さなければならない、それは何故?
それは、公になれば自身の立場を揺らがしかねない危険を孕んでいるから。
全諸侯を集めたにも関わらず、彼等を【使わない】のは何故?
これも簡単。
その者達の勝手にさせては、彼等が勝手に張角達を殺すかもしれないから・・・そうよ、全部繋がってるんだわ・・・・・・だとすれば。
誰かある!」
「はっ、此方に!」
「すぐに各軍に内偵を飛ばしてちょうだい。
最優先に探らせる事は、各軍の間に広がっている張角の姿形よ」
「ははっ!」
走り去っていく一兵を見送る詠。
詠の行った事がはっきりと理解出来ない者達は置いてけぼり状態になってしまっていた。
夜、曹操軍。
「何? 我が軍を嗅ぎ回っている奴がいる?」
「はっ、捕え損ねましたが・・・」
陣の防御の全てを取り仕切る華蘭は、部下からの報告を受けていた。
だが、華蘭は少し考え込んだ後、薄く笑んだ。
その美しさに部下の心臓が大きく跳ねるが、手を出そうものなら確実に君主直々の処刑に遭うと理解していたので、必死に飲み込んだ。
第一彼程度の実力では、全軍を通して手篭めに出来そうなのは軍師位だ。
「ど、どうかなさいましたか?」
「いや、何でも無い。
唯の思い出し笑いだ」
「は、はぁ」
「(やれやれ、どうやら時間がかかり過ぎている様だな。
そろそろ不味いな、我々の狙いがばれるのも時間の問題か・・・)
お前、もう床についても構わんぞ」
「はっ! 隊長はどうなさるので?」
「私は起きているさ。
何、我々の君主の悪癖を考えれば当然だろう?」
部下は苦笑せざるを得なかった。
軍内では相当有名なのだ、華琳の女色は。
今でも、近くの華琳の天幕から高い嬌声が上がり続けているのが、微弱に聞こえている。
「さぁ、さっさと寝ろ、明日も早いぞ」
「はっ! お休みなさいませ!」
「お休み」
自分の寝床へと走り去っていく部下を見送って、華蘭は空を見上げた。
満天の星を見ていると、どこか物悲しくなってしまうとよく言われているが、華蘭とて例外では無かった。
最も、静かな夜の空気の中で鳴っているのが、今夜の華琳の閨を務める桂花の嬌声な時点で、雰囲気ぶち壊しなのだが。
「うぅ~、華琳様ぁ~~~」
「やれやれ」
「おや?」
華琳の天幕をジッと見る視線を感じ、其方に目を向けてみれば、そこにいたのは春蘭と秋蘭であった。
華蘭は二人に話しかける。
華琳の身辺警護という立場上、一応は身内であっても警戒するのが、華蘭のスタンスだ。
「聞かずとも概ねは分かるが、一体何をしている?」
「見ての通り、姉者が桂花に嫉妬している」
「成程」
「ふぁら~ん、何で私は華琳様の閨に呼ばれぬのだ~~~」
「・・・お前は、戦場に出て敵を蹴散らす『曹家の剣』だろうに。
そのお前が閨の所為で腰砕けになって戦果を上げられず仕舞いならば、華琳の名声に瑕が付く。
それが理由だ」
「ぐぅ・・・」
「私が呼ばれぬのも、同じ理由だよ。
我慢してくれ姉者、陳留に帰ったら好きなだけ甘えるといい」
妹と従姉に窘められ、ぶーたくれながらも渋々承知する春蘭。
最も、春蘭の場合、今日の様に酔ってしまえば、何度も同じ事を言って聞かせる必要が生じてしまうのだが。
困った、と悩んでいる秋蘭を尻目に、華蘭は春蘭の額の前に自身の右手を持っていく。
何をしているのかと秋蘭は首を傾げる。
して、直後。
「疾っ!」
"ズビシィッ!”
「フギャアッ!!」
「姉者!?」
華蘭の右中指が親指による溜めから放たれ、春蘭の剥き出しの額の中心を寸分の狂いも無く撃ち抜いた。
慌てたのは秋蘭。
慌てて春蘭の元へ行く。
容体を確認し、気絶しているだけと分かって安堵の溜息を吐く。
「う~む、意外と効くな」
「華蘭・・・今のは一体何だ?」
秋蘭が、怒りよりも呆れの度合いの方が遙かに濃い表情で、華蘭に訊ねた。
華蘭はハッとした様に、秋蘭の問いに答える。
「ああ、一刀から教わった技でな、『でこぴん』と言うらしい。
下手な暴力や仕置きよりも軽いが、適度な痛みがあるそうだ。
他にも似た様な技の『しっぺ』とか、『うめぼし』と言うものを教わったぞ」
「・・・・・・」
至極嬉しそうに語る華蘭に、最早呆れ過ぎで言葉も無い秋蘭であった。
春蘭は目を回したまま、結局翌朝まで起きる事は無かった。
翌朝。
官軍本隊において、毎度の朝の武芸鍛錬が行われていた。
今朝は、一刀vs星である。
愛槍龍牙を一刀の目線の高さに構え、牽制する。
一方の一刀は、暁を鞘に仕舞ったまま居合の構え。
互いに神速の一撃を得意とする者同士、始まれば刹那の内に決着は着く。
先に痺れを切らした方が負けるのか、先手必勝なのか、その判別は互いですら付き辛い。
だが、二人の行動は完全に噛み合ってしまっている。
龍牙を高く構えた星は既に溜めを完了しているが故に、機さえ見計らえれば、一気に喉元まで龍牙を押し込める。
が、だ。
一刀の居合は、基本待ちの剣なのである。
確かに、時には自分から動いて相手を居合状態のまま斬りに行く事もあるが、それはあくまで邪道。
正道はあくまで待ち。
そして、最速の剣戟を放てるのもまた、待ちの時なのだ。
異常なまでに圧縮された緊張感が、一刀と星から漂う。
二人を見る者達の中にも、その緊張感に飲まれて呼吸する事を忘れている者さえいる。
「・・・・・・も、もうダメぇ・・・プハッ!」
呼吸を忘れた者―桃香の息が限界に達し、息継ぎをした瞬間。
二人が動いた。
ほぼ同時に。
否、ほんの少しだけ一刀が遅れた。
龍牙の赤い穂先が一直線に、一刀の喉を目指し。
暁の白刃が、星の首へと伸びる。
一瞬の交錯。
結果は。
朝食時。
「いやはや、参りました」
「何を言ってるんだよ、あれは引き分けだろ」
「いえいえ、斬れぬ側を返す為に、一瞬速さが鈍っておりました。
あれが無い真の戦場であれば、私の頸はとっくに地に落ちております」
「参ったな・・・」
結果は引き分け。
最も、星は一刀の勝ちとしたがっているが。
一瞬の交錯の後、二人は互いの得物を互いの首に突き付けていた。
だが、一刀は突き付ける直前に峰を返していた。
その分、自分の方が後手であったと言うのが、星の主張だ。
「まぁ、勝敗はいいだろ。
今は飯の時間だ、ほれ」
「とっても美味しそうです、大将軍様ってお料理上手なんですね・・・はわっ」
美里の料理を褒めた朱里が、頭を美里に撫でられる。
美里の目は、とても優しそうだった。
「何言ってんの、私が元々肉屋の店長で独身女だって事忘れてやしないかい?
寧ろ、こっちの方が私の従来なのさ、大将軍だなんて肩書きは正直重苦しいんだよ」
「で、でも、何進様が大将軍だから、官軍の皆さんも付いて来てくれるんじゃないでしょうか!?」
「・・・嬉しい事言ってくれるじゃ無いのさ!
ほれ、たんと食いな! 出血大増量だ!」
「あわわっ、こ、こんなに食べられませ~ん!!」
「はわわ・・・」
「やれやれ、たんと食わないと大きくなれないよ」
そう言いながら、自分の皿に朱里や雛里以上に山盛りとなった料理を頬張り始めた。
美里としては、二人の食欲を促す為の軽い言葉だった。
しかし、朱里と雛里の反応は劇的と言っていい物。
二人して、美里のとある部位を凝視する。
そこは、美里の逞しく豊かな胸。
それから、美里の皿から自分の皿と言う様に揃って視線を動かす。
そして、二人は互いに頷き合い、皿に盛られた料理をがっつき始めたのである。
―――約十分後。
「く、苦しい・・・」
「うぅ・・・やっぱり、私達はまだ身体そのものがちっちゃいんだね・・・・・・」
「でも、負けない! 頑張ろう朱里ちゃん、目指すは『大人の女性』だよ!!」
「うん、頑張ろう雛里ちゃん!」
更に友情を深めたお子様ボディの軍師二人であった。
因みに。
「風はお兄さんさえ欲情してくれれば、別にいいのですよー。
後、稟ちゃんらしくありませんね、食べ過ぎとは」
「くっ!」
もう一人のお子様ボディ軍師は達観しており、スタイルに悩む眼鏡軍師は食べ過ぎで胃もたれを起こしていた。
騒がしく慌ただしい朝食を終え、一刀達は食休みを取っていた。
本来ならばそんな時間は必要無い筈だったのだが、四人の軍師の内三人が食べ過ぎで体調不良に陥った為に、急遽取る事になったのだ。
「しかし・・・何でまた食べ過ぎだなんて・・・・・・」
「お兄さんがその理由を知る事は許されないのですよー」
「・・・そうなのか」
「そうなのですよ」
相も変わらず、一刀の膝の上に陣取っている風である。
一刀も最早諦めた。
だって、何度言っても聞いてくれないし。
「ふむ、あの程度で胃もたれを起こすとは情けない。
小食の私とて、完食してみせたというのに」
「星、お前と朱里や雛里を一緒にするな。
まだ彼女達は身体が存分に出来あがっていないのだぞ」
「おや、それは異なる事を言う。
お主の義妹はこの中で一二を争う程身体が小さいにも関わらず、誰よりも多く食べていたではないか?」
「・・・あれは例外と思ってくれ、頼むから」
「・・・・・・愛紗、お主、私が思っていた以上に苦労している様だな」
愛紗は少し疲れた様に語る。
一刀はやはりその背中に哀愁を感じた。
「雲長、少し休んだらどうだ? 今は皆に暇を出しているんだから、お前も例外じゃないぞ」
「し、しかし、それは・・・」
「うん、一刀さんの言う通りにするべきだよ愛紗ちゃん。
私が言えた立場じゃないけど、愛紗ちゃん凄く疲れてる。
だから、今はゆっくり休んで」
「北郷殿、桃香様・・・分かりました、暫く休ませていただきます」
愛紗が退出し、この場に残っているのは、一刀、風、桃香、星だけになった。
「しかし、随分と長引いておりますな、この遠征も」
話を切り出したのは、星。
「仕方がない事なのですよ、これでも随分とはましになってきている方なのです」
続けるのは、風。
「張角達を処断しても終わらないだろうしな」
話に加わって飛躍させるのは、一刀。
「え、どういう事? 張角さん達を捕えれば、終わるんじゃないですか?」
聞き手として参加するのは、桃香。
「桃香、いいか? 乱が初まったのは何でだ?」
「えっ? 張角さん達が、そうしろって言ったからじゃ?」
桃香以外の皆が、揃って溜息を吐く。
一方の桃香は、唯首を傾げるだけ。
その様も非常に可愛いのだが、今は少し苛立ちを誘う仕草に映った。
「あのな、それは乱が【広まった】原因だ。
この乱はな、王朝が衰退して各地で悪政が横行した所為で、我慢出来なくなった人々が連鎖的に蜂起した物が元なんだよ。
そこに後から、首領張角率いる黄巾党が現れた為に、一気に各地で爆発的に悪政反対派の人々が蜂起して黄巾党を名乗り出した。
これが、黄巾の乱の実態だ」
「あ、そっか、張角さん達をどうにかしても、悪政をどうにかしなきゃどうにもならない。
また黄巾党みたいな存在が次々に現れるだけで、何も変わらないんだ」
「はい、大変良く出来ました」
そう言って、拍手する。
しかし、桃香は不満気だ。
しかも、お決まりの様に脹れっ面で。
「むぅ~、一刀さん拍手だけですか?
御褒美が欲しいです、今までの勉強でも結局くれませんでしたし」
「あの程度なら分かって当然、寧ろ今まで分かって無かったのが、風には信じられないのですよ?」
「はうっ!」
胸に見えない何かが突き刺さったかの様に仰け反り、胸を押さえる桃香。
当然グニグニと形を変える二つの丘を、風は親の仇を見るが如き目で睨み付けた。
「大変だ、大変だー!」
「何事だ!?」
いきなり大慌てで駆け込んで来たのは、なんと蒲公英であった。
一刀は風を地面に落とさない様に持ち上げながら、蒲公英の方へと向かう。
「どうしたんだ蒲公英?」
「あ、お兄様、そうだ、大変なんだよ」
「苦しそうだな、飲むといい」
「あ、ありがとう!」
星の差し出した水の入った椀を引っ手繰って一気に飲み下し、話し始める蒲公英。
その内容は、驚愕に値するものであった。
「張角達の居場所が見付かったの!」
「なんだ、よし早速・・・」
「それだけじゃないの!
それを聞いた袁紹軍が、勝手にそこへ進軍し始めてるんだよ!!」
「な、なんだって!?」
第十五話:了
後書きの様なもの
そろそろ黄巾の乱編もクライマックスです。
唯、いい感じの流れが思い付かない・・・終わりの形は決まっているというのに。
そう言う事で、次回は何時もより時間がかかるかもです。
レス返し
・砂のお城様:もしも一刀が天遣伝版魏ルートを辿っていたら、華蘭は内縁の妻になっていたでしょう。 ・・・後に本当に妻になるでしょうが。
・F97様:今回正確な補正理由入りました。 時間の部分は甘いですが、少なくとも孫堅とやり合った経験はある筈ですから。 華雄無双はまだ始まってません、始まるのは『反〇〇連合編』からです。
・赤字様:華蘭は一途で乙女で、非常に純心です。 思い込んだら一直線。 しかも、所謂「〇〇デレ」とは全くの無縁という。 一刀に対しては常にデレデレ状態です。
・うたまる様:応援ありがとうございます! 精一杯やっていきます!!
・ユアーフール様:初めまして、応援ありがとうございます!
・瓜月様:白蓮は本当に参陣していないから忘れるのは仕方がないですが・・・ズバリ言いましょう、麗羽は天遣伝におけるキーキャラクターです!
・はりまえ様:積極的にアプローチを仕掛けている所はまだありませんが、真っ先に狙っているのは当然華琳です。
・悠なるかな様:実はもう決まってたり・・・
・2828様:改善の兆しを見せ、完全に報われる日も遠い日の事ではない、ですね。
・takewayall様:分かっていない一刀では無いのですが、本能的に歴史の捻れを恐れて・・・って、いかんいかん、これはメタだった。
・poyy様、mighty様、ue様:改めて思いますが、華蘭人気すげぇ・・・
皆様の篤い声援に応え、華蘭IFルート及びに、現天遣伝が完結したら今度は魏ルートを書く事にしました。
IFルート、と言うよりも、完全に天遣伝とは別の流れの末の全く違う物語になるでしょうが、『反〇〇連合編』が終わった頃に書きます。
良ければ、楽しみにしていて下さい。
では、今回は此処までで。
また次回!
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物語の出来は、やはり自分のテンションに左右されると、再認識しました。
出来る限りの高品質を目指したいのですが・・・