「なぁお前・・・どうおもう?」
「どうって・・・今回の孫権様の挙兵の事か?」
建業城内で営業している茶店兼宿屋の食事スペースの一角で、2人の呉軍兵士がひそひそと会話しながら昼食を取っていた。
まるで誰かに聞かれることを恐れるかのように。
「せっかく漢王朝と魏国と和睦して平和になったっていうのに、わざわざ危ない橋を渡ろうとしなくてもいいのにな・・・」
「ああ・・・確かに合肥で負けたまま和睦するっていうのは気に食わないが、呉の民すべてが孫家の方々や将軍方と同じ気持ちだと思ったら大違いだってんだ・・・」
「文官筆頭の張紹様も最後まで反対してたらしいぞ」
2人は昼食を取り続ける間、2人は声を潜めて愚痴を言い続けた。彼らの後ろの席でほくそ笑みながら聞き耳を立てている人間がいることに気づかずに。
「なぁお前ら」
彼ら2人がこの店に足を運び始めて数日後、2人に気づかれずにいつも後ろの席に腰掛けていた織田舞人が彼ら2人に声をかけた。2人はこちらの顔を知っていたらしく向かい合って座っていた兵は顔を青ざめさせて「お、織田舞人・・・」と呟いた。
「俺の事知ってるのか?有名になったもんだなぁ」
「な、なんであんたがこんなところにいるんだ!?ここは呉の建業城だぞ!?」
動揺を隠せない呉の兵士。だから今まで気がつかなかった。普段からあまり客の入らない店だが、昼時の盛況な時に彼ら2人と舞人以外客がいないという不審な事に。
「ここの店主は俺達の協力者でな、匿ってもらっているんだよ。この城下に入ることだって俺達の賛同者がいるからできたんだぜ?」
ここの店主は舞人の孫家家臣時代の信頼できる部下が引退後に営んでいる店で、孫家の挙兵にも密かに反対していた。「大将と大陸の平穏の為なら、この老いぼれの命など安いものです」と協力してくれたのだ。匿ってもらっているというのは本当だが、賛同者がいるというのは丸っきりの嘘である。
桂花達は呉の内部にも挙兵反対の者がいると考えていた。その中で目をつけたのは一般の兵士たちだった。
彼らの中にも開戦反対論者がいるだろう。しかし、決戦を主張する兵士もいるなかで本心を出せずにいる―――本心は精々信頼できる者2~3名くらいにしか話せない。そこで、そんな日陰者が集まりそうな場所―――裏路地街の人があまり来ないような茶店で不満をぶちまけている者達を舞人たちは探していたのだ。
『ひとりふたりだけじゃ心細い、でも仲間がもういるなら―――』そう思った日陰者の彼らを取り込むのは至極簡単だった。あとは彼らへ『大陸の平穏の為』という大義名分や『孫家への裏切り』を否定する言葉を並べれば、もう彼らは舞人たちの手足となっていた。『もう少し仲間を集めてきてくれ』―――舞人の要請に従った彼らは次々と同志を集めていった。もちろん魏の隠密から送られてくる情報をもとに、信頼できるものを選んでいるが驚いたのは集まった者達の中に明命の隠密部隊の者もいた事だ。
「我らとて、皆がみな戦いがしたいわけではありませぬ・・・ところでですな・・・」
「わかりました。引き続き調査をお願いします」
「御意」
呉軍隠密部隊長・周泰に『建業城下に織田舞人の姿なし』の報告を終えた隠密は人気のない場所でそっと左肩に触れた。衣服に包まれて外からは見えないそこには、小さな紅い竜を描いた刺青が彫られている。
「我ら、織田電撃部隊」
隠密は小さく呟いた。
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赤壁合戦第5話です。私事ですが、発売日当日に購入した萌将伝のシナリオもすべて終わってしまい(8月8日4:08説明改定)、少し寂しいですね・・・
この作品も、最後まで終わらせるよう頑張ります!