No.163308

真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 02:彼の立つ場所

makimuraさん

槇村です。御機嫌如何。


これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。思いついたので書いてみた。

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2010-08-04 20:33:25 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7310   閲覧ユーザー数:6107

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

02:彼の立つ場所。

 

 

 

 

 

幽州遼西郡。

この地域は、商人の活動が非常に活発である。

商人という身分は、他の地方ではいささか低く見られる傾向がある。

そんな中で、幽州遼西郡の太守である公孫瓚にはそういった偏見があまりない。

 

「遼西を活性化してくれるのなら、ありがたいことじゃないか」

 

などと、いったとかいわなかったとか。

言葉の真偽はともかくとして。遼西郡は商人にとって仕事のやり易い地だ、と認識されている。

 

商売がやりやすいとなると、必然的に商人が集まってくる。

商人が集まれば物の流れが活発になり、その恩恵が地域を潤す。

地域が潤えばそこに住む人々の生活にも影響し、生活が豊かになれば余裕が生まれる。

そんなありようが風評となり、その地を治める太守の評判が上がる。

その評判を聞き更に人が集まり、人の集まるところを求めてまた商人がやってくる。

派手ではないが、しっかりとした好循環。ここ遼西の地には豊かさが根付き始めていた。

なかでもここ、陽楽は、太守が執務を振るう城があることもあり、その賑やかさは顕著だった。

 

 

 

そんな恩恵を生む一端に携わる青年。

 

北郷一刀。

 

ある商隊の護衛役として、短くない旅から戻ってきたばかりであるが、彼の本分は武にあるわけではない。

 

彼は、料理人である。

 

陽楽にある、それなりに大きな酒家。

彼はそこで日々包丁を握り、鍋を振るい、店を訪れる人たちの舌を満足させることに生きがいを感じていた。

その力量と独創的な料理の数々は町の評判になっており、店を訪れる客足は引きも切らない。

ちなみに、遼西郡太守である公孫瓚も彼の料理をいたく気に入っており、その店に足を運ぶことが少なくなかった。

 

彼の本分は料理人であるが、多少は武にも心得がある。

そのため、町の様々な商隊の護衛役を買って出ることがある。

食材その他の仕入れや買い出しが必要になると、彼は商隊の護衛役兼食事係として便乗させてもらうのだ。

実際に、護衛としても食事係としても重宝されており、彼の参加は歓迎されている。

持ちつ持たれつ。商売人であればこその意識が、働いているともいえるだろう。

 

そんな仕入れの道中に、彼が護衛をしていた商隊は彼女たちを保護した、ということになる。

困ったときはお互い様、ということになるのかもしれない。

 

 

さて。

一刀たちが遼西郡・陽楽に戻ってきた、その日の夜。

営業を終えた酒家の中で、一刀は保護した四人の女性と対面していた。

そして、頭を抱えていた。

彼はなにに頭を抱えているのか。その原因は、保護した彼女たちの名前である。

 

 

 

荷馬車の中で目を覚ましたふたり。

 

長く美しい黒髪、切れ長な瞳が一刀を睨みつけている。そのせいか一見とっつきにくい雰囲気を持つ彼女。

名を関雲長。あの関羽である。

 

もうひとりは、赤毛の短髪、まっすぐ相手を見つめるつぶらな瞳が印象的。小動物系というのだろうか。

名を呂奉先。つまり呂布。

 

そして後から目を覚ましたふたり。

 

なぜか魔法使いな帽子をかぶる、小ちゃい女の子。保護欲に駆られるのは父性ゆえと信じたい。

名を鳳士元。かの鳳雛(ほうすう)だ。

 

最後は、短い銀髪、目つきは鋭いがヘソ出しなお召し物。横暴なお姉さんという印象を持ったのは口にしてはいけない。

名を華雄。ふたつ名のようなものはちょっと思い出せない。

 

 

 

ちなみに、後のふたりが目を覚ました時にも、ひと悶着あった。

鳳統は目を覚ますなり、顔を赤くしながらあわわあわわと取り乱し。

華雄は鳳統以上に顔を赤くさせ、「寝起き早々襲う気か!」と拳を見舞う。

一刀は青あざを作りながらもなんとかふたりを落ち着かせ、改めて自己紹介をと、名前を尋ねたのだが。

鳳統はこの世の終わりが来たかのように泣き崩れ。

華雄は涙を浮かべながらも烈火のごとく怒りを見せた。

 

胸を裂くような哀しみと、これまでにないほどの命の危険を感じはしても、彼女らがそんな感情を自分に向けるその理由が一刀にはまったく分からない。

悲痛な表情を浮かべつつ、仲間ふたりをなだめようとする関羽を見つめることしか出来なかった。

 

 

そんな騒動を経て、なんとか自己紹介を終えると。

 

……ありえねぇ。

 

一刀は再び頭を抱えた。

 

いわゆる有名な人が女性っていうのはもういいよ、公孫瓚様と趙雲さんを見た時点で覚悟はしておいたから。

でも鳳雛があんなちっこい女の子ってどういうことなの?

呂布もあんな細い身体で天下無双なの? ありえなくない?

というか関羽と華雄が一緒にいるってどういうことよ、確か華雄って関羽にやられる役だよね?

 

そんな声には出さない疑問が、彼の頭の中を駆け巡っていた。

 

今この時代に生まれ生きている者であれば、このような疑問はなにひとつ生じることはなかっただろう。

例えば、その名を持つ者たちが"女性"であることは当たり前のこととして認識されている。

しかし彼の知る知識では、関羽にせよ呂布にせよ、これまでに知った主要人物はすべて男性のはずだ。

ならばその知識はいったい何処から来るものなのか。

 

 

北郷一刀は、今この時代この世界に生まれ育った人間ではない。

彼は、現在から1800年以上未来の世界で生まれ育った人間なのだ。

 

今から3年ほど前のこと。目を覚ますと、彼は砂と岩ばかりの荒地に独り、放り出されていた。

目を覚ます前までは、自分の通う学校の寮で眠っていたはずだった。

学校に通い、勉強をし、部活動で剣道に励み、時には両親と祖父の下に里帰りをする。

そんな普通の学生だった。

それなのに。

ある朝目覚めてみると、目の前には荒地が広がり、人の姿どころか建物すら見えない場所に置き去りにされていた。

これはいったいどういうことか。たとえ叫んでも誰も応えない。彼はひたすら混乱した。

移動しようにも目印になるものがない。その場から動くだけでも、恐怖が募った。

途方に暮れたまま数日を過ごし、疲労と空腹で意識を失っていたところを、一刀は遼西の商人たちに拾われた。

久しぶりの人との対話。なんとか精神を落ち着かせた一刀は、彼らとのやり取りの中で、今自分がいるのは古代の中国、しかも三国志の時代だということを知る。

到底、信じられることではない。しかし信じざるを得ない。

感じていた疲労と空腹、そして混乱。癒された疲労と空腹、そして取り戻した精神はなによりも現実のものだった。

そして思い至る。この世界に拠るべきものがなにもないということに。

自分以外のことがなにひとつ分からぬまま、野垂れ死にしようとしていた自分。そこから脱したとはいえ、相変わらず独りのままだという事実に身を震わせる。

そんな時に、彼は救いの手を差し伸べられた。

「行く処がないのなら、しばらく面倒を見てやってもいい」

胸のうちに広がる暖かいもの、喜びはいかほどのものであったか。彼は一も二もなく飛びついた。

一刀は彼らに恩を返そうと躍起になった。

今となって考えてみれば、商人たちも自分のことを信用していたわけではないだろうと、彼は思う。

それでも、生きるべき拠り所を得るために、自ら動き、がむしゃらに働き、信用を得るよう務めた。

幸いにも、ひとのいい商人たちの伝で働き口を得ることも出来た。用心棒のようなこともやった。賊退治という名の下に、人も殺した。

彼は、他人の死と縁遠い"現代人"だ。ましてや自らの手で、など想像だにしなかった。

思い悩むことがなかったわけではない。だがそんな余裕はなかった。

迷っていれば隙が出来、隙が出来ればこちらがやられる。そして自分の周囲が危険に晒される。

人間の命に順列をつけることを覚えた。

だが、それで守れるものがあった。

恩人である商人たち。同じ町に生活する人たち。

彼ら彼女らのおかげで、割り切ることが出来るようになった。といっても、思い悩む時間が短くなった程度だったが。

 

一刀は思う。

もう元の世界には戻れないだろう。物理的にも、そして精神的にも。

未練がないわけではない。

しかし今の彼は、かつての世界にいた頃よりも、"生きている"という充足を感じていた。

料理を出し、会話を交わし、笑顔になる。

そんな些細なことを積み重ねるために、これから先を生きていこうと決めた。

自分の出来ることは高が知れている。歴史に名を残すようなことなんて出来やしない。

それならば。

目の届く、手の届く人たちに、喜ばれることをしたい。

出来ないことは、出来なくていい。出来ることをしっかりと、やっていこう。

 

一刀はこの世界に投げ出され、思い悩んだ末に、この地で生きていく覚悟をした。

 

 

そんな自分の体験を振り返ってみると、彼女たちにも、あの頃の自分と同じものを感じる。

一刀はそう考え、彼女たちの話を熱心に聞く。

 

目を覚ます前の行動。

目を覚ます前の自分。

目を覚ます前の環境。

そして、目を覚ます前の世界。

 

そうして、彼が出した結論は、「彼女らもまた、別の世界から此処へやって来た」ということ。

此処と似た未来の世界。その内容を更に聞き出していく。

 

弱き民を想い戦い続けていたこと。

群雄割拠の世を終えた世界。

諸侯が手を取り合い平和を目指していること。

そして、その中心にいるのは彼女らの主、"北郷一刀"。

 

みたび、一刀は頭を抱え、今まで以上に重たい息を吐く。

 

「なんてことだ……」

 

違う世界に立つ自分。その姿のなんと立派なことか。

あまりの眩しさに、同じ自分とは思えない。羨望も嫉妬も抱けないまま、ただただ溜め息だけ。

同時に、彼は、彼女たちを不憫に感じずにはいられない。

4人ともがそれぞれに、北郷一刀という男を主として仰いでいる。さぞかし尊敬に値する男だったのだろう。

しかし、今、目の前にいる男は違う。彼女たちが求める、主と仰ぐ"北郷一刀"ではないのだ。

名前が同じ、顔が同じ、声が同じ、あらゆるものが同じだが、まったく違う男。

そんな輩を目の前にするその心境たるや、いかほどのものだろうか。彼には想像もつかない。

知らなかったこととはいえ、自分が名前を尋ねたことに絶望感を感じたのも無理はない。

彼女らが泣くのも怒るのも、当然だ。

 

それでも、彼は北郷一刀である。彼女たちの中にいる"北郷一刀"ではない。

同情はするが、それだけだ。

手は差し伸べよう。手助けするのもやぶさかではない。

だがその手を不要と払うならば、それならそれでいい。去るに任せるだけだ。

手の届かない人まで助けられるとは、ここの北郷一刀は思わない。

 

 

 

「まず、受け入れてもらわなければならないことがある」

 

すっかり冷めてしまったお茶をひと口含み、喉を湿らす。

 

「君たちのいた世界に、北郷一刀という男がいた。そしてこの世界にも、北郷一刀という男がいる」

 

一刀は改めて、彼女たち四人に向かい合う。

 

「ならば他の人たちも、同様にこの世界に存在するだろう。

つまり君たちの他に、関羽がいて、鳳統がいて、呂布がいて、華雄がいる。

本物とか偽者とか、そういうことじゃない。

ただ彼女たちは、この世界で生まれ育ち、それぞれに自分がいるべき場所を培っている。

それに比べて、今の君たちは居場所がない。この世界で培ったものがないからだ。

その上で、君たちがこの世界で、どう生きていくかを考えて欲しい」

 

四人に向かい、手を差し伸べる。

新しい、それぞれの居場所を作ってもらうために。

 

 

・あとがき

一発目から痛恨のミス。寿命が300年縮みました。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

今回は一刀のターン。

一先ず、一刀の立ち位置をはっきりさせとかないと、彼女らの身の振り方が決まらないなー。とか。

そう考えた上での展開なのですが、どうなんだろう。変かな。まぁいいか。(いいの?)

変なところがあったら、後から直せばいいのさ。前向き志向っていい言葉だよね。

次は4人のターン。どうなるかは槇村もまだ分かりません。

 

華雄をどう納得させりゃいいんだ……。

 


 
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