俺「というわけで、お話を百倍面白くする方法を教えるぜ」
犬子「つか、売れてない作家さんが、偉そうにウンチクをたれるのはよくあるよね」
俺「超黙れ」
犬子「つか、私の話を百倍おもしろくしろよ、サガシモノが閲覧数十人とか笑っちゃうよ」
俺「まあ、自作はおいておこう」
犬子「自作の方が大切じゃんよ。それより、ノウハウとか書いてる暇があったら、コミケの準備したら?」
俺「超黙れっ!」
犬子「で、なにすんのー、三点リーダーとか、”」”の前の”。”とか、細かい事をぐちぐち言うの?」
俺「そんな事をは言わん。あんなのは本多さんの本読めば一発で覚えられるし(日本語の作文技術 (朝日文庫) )、文章の綺麗さとお話の面白さは、そんなには関係してないし」
犬子「面白い話書く人は、みんな結構、文章が上手くない?」
俺「おもろい話書く人は、たいてい、研究熱心だから、当然本を読んでるわけでな。そこら辺がいい加減なのにおもろいのは竜騎士先生とか、ごく一部の例外だけだよ」
犬子「じゃ、なにやんの?」
俺「ハインラインの法則」
犬子「はあ? ジャンルの90%は屑とかいうやつ?」
俺「違います、それはスタージョンの法則。ハインラインの法則とは、お話には三種類しかないってやつ」
犬子「三種類? 物語のアーキタイプは31種類しかないとか聞いたけど」(ウラジーミル・プロップによる『昔話の形態学』(1928))
俺「物語は切り方によって、三種だったり、31種類だったり、48種類だったりするわけよ。でもパターンが有限というのは共通してるね」
犬子「ほえ、三種類で切れるの? 物語全部?」
俺「ああ、人の興味を引く物語はおおざっぱに言うと、『恋愛物』と『成長物』と『小人の床屋』しかないということなのさ」
犬子「こびとの床屋? ってなによ??」
俺「こびとの床屋さんは、『髪を切りたくても、体が小さくて大変困る』ということ。転じて、人の困ってる姿全般だよ」
犬子「人が困ってるのが面白いの正体なの?」
俺「そう、色々お話を思い出して見て、面白いお話はかならず、主人公か誰かが困ってるはず」
犬子「う、うん。そういや、ライトノベルの中の人たちはみんな困ってるよね。腹ぺこシスターの記憶リセットを解除したいとか、宇宙人や未来人や超能力者に会いたいのに会えないとか」
俺「平たく言うと、『問題』と『問題の解消』がお話の中にあると、おもろいという事です」
犬子「問題解決すると、おもろいの?」
俺「しないで投げっぱなしよりは、おもろいですよ。おもろいというよりも、ある強度の問題が解決されると、お話が終わった感じがする。ということ」
犬子「なんで?」
俺「詳しい仕組みはわからないんだが、たぶん、昔話とか説話とかは、何か教訓を伝えるという機能を持った物だから、当然ライトノベルだろうが、SSだろうが問題があって、解決プロセスをへないと、「なんか終わった感じがしない」という事なんだろうと思うよ」
犬子「うさんくせー。売れてない上に人気も無い作家が言うと、ほんとうに説得力0だわ」
俺「超黙れ!」
犬子「どんな問題でも良いの?」
俺「ある程度の強度が無いと、物語は終わらないっぽい。たとえば、すぐ片づく問題、電話かけたら解ける誤解とか、お金下ろしてくればすむ問題とかを解決しても、あんまり終わった感じがしないね」
犬子「ふむ、ちんこが立たなくて、恋人が逃げられそうとか、怖いお化けに脅迫されて組事務所に案内させられるとか、じゃないと駄目なのか」
俺「ある程度、絶望的な問題だと、うまく解消した時にカタルシスが発生して、みんな大喜びみたいだね」
犬子「どんなやり方でも問題解決しちゃえばいいわけ?」
俺「いや、主人公は、卑怯でない方法で解決しないと、お客さんは喜ばないのだ」
犬子「うん? 力押しとかでは駄目って事?」
俺「そそ、そのお話の中の問題を全部悪漢におしこんで、それを倒しておしまい。では今時流行らないみたいね。なんか気の利いた解決法で切り抜けると、おもろいらしい」
犬子「えー、いいじゃん、北斗の拳みたいにさあ」
俺「パワーゲーム始めると、どんどん強さのインフレが起こって話が迷走するしね。今はジョジョみたいに、ピンチ>とんちで解決、が基本パターンぽい」
犬子「俺ツエエーパターンじゃ駄目なの? たとえば犬子さんが、持ち前の超暴力を使って悪漢をばったばったとなぎ倒して爽快! という」
俺「あからさまに敵より主人公が強いと、ハラハラドキドキしないし、それこそ、問題が簡単に解消されて、オモロく無いわけなのさ」
犬子「あ、問題が簡単になるから駄目なのか! じゃあ、犬子さんが卑怯な敵に毒のまされて死にそう、そこから何とかして逆転して倒すというのは?」
俺「問題が難しくなって、おもろそうだね。俺は書かないけど、そういうの」
犬子「なんでよー、書けよー」
俺「狗張子は犬子のシリーズだけど、お前が主人公の話じゃないから」
犬子「あたし、主人公だよ」
俺「お前に関わってくる人々が主人公だよ。お前は主に問題を作ったりするほう」
犬子「くそう」
俺「とりあえず、問題定義、問題解決プロセスがあると、お話は百倍おもろくなりますと」
犬子「ずいぶん簡単だなあ」
俺「法則は簡単だけど、お話の中に問題解決プロセスを内包させるのは、慣れないと結構難しいよ。あと、問題を見つける方が大変」
犬子「どういうこと?」
俺「いや、目新しい問題で主人公を困らせなきゃならないんだけど、これって、現実で自分が感じたお困りでないと、わりに弱いんだよ」
犬子「あ、恋した事が無いと、それに関わるお困りに説得力がないとか、そんな感じ?」
俺「まあ、それもあるけど、創作で目新しい問題って作りにくいのな。たとえば「戦争を無くそう」とかもの凄い大きい問題を作中で定義したとしよう」
犬子「ガンダム00だな」
俺「問題定義は上手くいくんだよ、これは現実にある大きな問題だから。が。解決方法が現実でも見つかってない。だから当然の事ながら物語後半は超迷走するわけさ」
犬子「結論が出てないような問題を語るな、というわけ?」
俺「エンターテイメントではねー。そういうのはノンフィクションとかに任せておけという感じ」
犬子「主人公をお困りにさせておけば、作品は絶対におもろくなる?」
俺「まあ、やってない作品に比べ百倍ぐらいは」
犬子「あんたもちゃんとやって、人気作家になりなさいよね」
俺「くそ黙れ」
――おしまい――
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これを読めば物語を百倍面白くする事が出来ます。……すいません、言い過ぎました。定理系のお話なんで、ふまえておくと、まあ、面白くなるやも知れない、いや、そんな気がする、どんどん、そんな気分になってくる。そんなノウハウ記事です。