No.162121

真・恋姫†無双~神の意志を継ぐ者~ 第四幕

ユウイさん

少しお久し振りです。最近、信長の野望にはまってて投稿出来ませんでしたが、その分、少し長めでお送りします。

2010-07-31 12:00:17 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:2810   閲覧ユーザー数:2282

※この物語は『北郷 一刀』に対し、オリジナルの設定を含んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

 基本的に蜀ルートです。

 

 

 

 

 

 

 

 それでも大丈夫という方のみ、どうぞ。

 

 

 

「桃香! ひっさしぶりだな~!」

 

 街に戻り、公孫賛のいる所へ行った一刀達は、既に趙雲が話を通してくれていたのか、すんなりと城内に入れて貰えた。

 

 そして謁見の間では、桃香と関羽が公孫賛と面会をしていた。

 

 公孫賛は赤毛を纏め、白い鎧を身に纏った温厚そうな女性だった。

 

 彼女は旧知の間柄である桃香が来ると、玉座から降りて彼女の前までやって来て、再会を喜んだ。

 

「白蓮ちゃん、きゃ~! 久しぶりだね~!」

 

 桃香も公孫賛の真名――白蓮という名で呼び、手を握り合う。

 

「盧植先生の所を卒業して以来だから、もう三年ぶりか~。元気そうで何よりだ」

 

「白蓮ちゃんこそ、元気そうだね。それにいつの間にか太守様になっちゃって。凄いよ~」

 

「いやぁ、まだまだ。私はこの位置で止まってなんかいられないからな。通過点みたいなもんだ」

 

「さっすが秀才の白蓮ちゃん。言うことがおっきいな~」

 

 白蓮の言う事を素直に賞賛する桃香。

 

 一方の白蓮も桃香の事について尋ねた。

 

「武人として大望は持たないとな。それより桃香の方はどうしてたんだ? 全然連絡が取れなかったから心配していたんだぞ?」

 

「んとね、あちこちで色んな人を助けてた!」

 

「ほおほお。それで?」

 

 実に優しい桃香らしいと白蓮は感心していた。

 

 この分だと実績を買われて、何処かの街を治めている・・・そう思っていた。

 

 しかし、桃香の答えは彼女の予想の斜め上を言った。

 

「それでって? それだけだよ?」

 

「・・・・はぁーーーーーー!?」

 

「ひゃんっ!?」

 

 大声を上げて驚く白蓮に桃香の方がビックリした。

 

「ちょっと待て桃香! あんた、盧植先生から将来を嘱望されていたぐらいなのに、そんな事ばっかやってたのかっ!?」

 

「う、うん」

 

「どうして!? 桃香ぐらいの能力があったなら、都尉ぐらい余裕でなれたろうに!」

 

 桃香は学問や武芸に決して秀でている訳ではない。

 

 盧植の許で学んでいた頃、成績なら白蓮の方が上だった。

 

 だが、盧植は桃香には人を惹き付ける『何か』を見出していた。

 

 学問や武芸では決して計れない人の上に立つ『器』には桃香にはあった。

 

 この戦乱の世、桃香のような人物なら何処かの邑を治めていてもおかしくはないと白蓮は思っていたが、まさかただ各地で人助けをしていただけとは余りにも予想外だった。

 

「そうかもしれないけど・・・でもね、白蓮ちゃん。私、何処かの県に所属して、その周辺の人達しか助けることが出来ないっていうの、イヤだったの」

 

「だからって、お前一人が頑張っても、そんなの多寡が知れてるだろうに」

 

「そんなことないよ? 私にはすっごい仲間たちがいるんだもん」

 

「仲間・・・達?」

 

 そこで白蓮は愛紗の方を見る。

 

「達って・・・その女だけじゃないか?」

 

「あ、え、えっとね~・・・」

 

 白蓮の指摘に対し、桃香と愛紗は苦い顔を浮かべる。

 

「そういえば劉備殿。張飛と御遣い殿はどちらへ?」

 

 白蓮の傍に控えていた趙雲が尋ねると、白蓮は眉を顰める。

 

「御遣い? ああ、そういえば星が言ってたな。天の御遣いとか何とか・・・」

 

「うん! あのね、白蓮ちゃん。私達、今、天の御遣い様と一緒に旅してるの!」

 

「それって、あの管輅って占い師の言ってたヤツか?」

 

「うん。流星と共に天の御遣いが五台山の麓にやってくるって占い。白蓮ちゃんは聞いたことない?」

 

「聞いたことはある。最近、この辺りではかなりの噂になっていたからな」

 

 しかし、眉唾ものばかりと思っていた白蓮は信じられない様子だった。

 

「それでね、管輅ちゃんの言ってた通り、五台山の麓にいたんだよ! 乱世を救う天の御遣い様が!」 

 

「で? その御遣い殿はどちらに?」

 

 再び趙雲が突っ込んで来ると、桃香は乾いた笑いを上げた。

 

「あ、あはは・・・あのね・・・えっと・・・厨房」

 

「「厨房?」」

 

 白蓮と趙雲は揃って首を傾げた。

 

「うんとね・・・天の国の料理を義妹に振舞ってるの」

 

 

「にゃ~! おいふぃ~のだ~!」

 

 その頃、公孫賛の城の厨房では小さな――ある意味、巨大な――革命が起こっていた。

 

 机には大量の皿が積まれており、鈴々が我武者羅に掻き込んでいる。

 

「お兄ちゃん! これ、何て料理なのだ!?」

 

「天丼」

 

 油の入った鍋の前に立ち、一刀は野菜などを小麦粉と卵を付けて揚げながら答える。

 

「こっちは!?」

 

「生姜焼き」

 

「こっちは!?」

 

「冷奴」

 

「こっちは!?」

 

「つけ麺」

 

 説明しながらも新しい天麩羅を揚げる一刀。

 

 今度はこの時代に珍しく置いてあった新鮮な魚介を揚げている。

 

 その様子を元々厨房にいた料理人達は、おおっぴろげに口を開いて一刀を見ていた。

 

「まるで奇跡だ・・・」

 

「見た事のない料理が次々と・・・」

 

「この人は何者だ・・・?」

 

 目の前に繰り広げられる料理革命とでもいうか。

 

 一刀の作る全く知らない未知なる料理に、料理人達は唖然となりながらも感動を覚えていた。

 

「あの~・・・」

 

 と、その時、ひょっこりと桃香が入り口の方から顔を覗かせた。

 

「にゃ! 桃香お姉ちゃん、こっちに来て一緒に食べるのだ!」

 

「え!? 良いの?」

 

「桃香様」

 

「あぅ・・・」

 

 鈴々に誘われて喜ぶ桃香だったが、横から愛紗に戒められて肩を落とす。

 

「桃香、こいつが天の御遣いか?」

 

 更に白蓮と趙雲も顔を覗かせて桃香に尋ねる。

 

 料理人達は、いきなり太守が厨房に現れたので驚きながらも慌てて礼を取る。

 

「うん、そうだよ」

 

「・・・・・・何だか冴えない奴だな」

 

 一刀を全身で見て出た白蓮の感想。

 

 一方の一刀は、何だかこの人にだけは言われたくないような気がしたが口には出さなかった。

 

「アンタが公孫賛?」

 

「ああ。お前が天の御遣いとやらか・・・で? 此処で何してるんだ?」

 

「何って・・・厨房で料理以外に何するんだ?」

 

「いやまぁ・・・そりゃそうなんだけど・・・桃香達に客将として迎えるよう考えたのはお前じゃないのか?」

 

 そんな人物が、城主そっちのけで厨房にいるのはどうかと思う公孫賛。

 

「その前に鈴々と約束があったからな」

 

 そう言って未だ料理を頬張っている鈴々の頭にポンと手を置く。

 

「アンタも食うか?」

 

「む・・・」

 

 一刀は蒸篭から肉まんを出して白蓮に手渡すと、彼女は口を噤む。

 

 本来、自分達で来ておいて太守である自分を置き、厨房で料理をしている一刀を咎めるべきで、最初はそのつもりで厨房に来たのだが、何だかその気がすっかり抜けてしまった。

 

 相手はパッと見、冴えない天の御遣いという胡散臭い見た事のない服を着た男なのにである。

 

 白蓮は訝しげな顔をしながらも肉まんを食べると眉根を顰めた。

 

「何だコレ? 餡子が入ってる・・・」

 

 てっきり挽肉などの入った肉まんだと思ったが、中に餡子が入っていた。

 

「あんまんだ。旨いだろ?」

 

「・・・・・・ああ」

 

「鈴々。俺、桃香達と一緒に謁見の間に行ってるから、飯食ってろ」

 

「うん!」

 

 そう言って一刀はエプロンを外し、桃香達の下へ行く。

 

「ご主人様、料理上手なんだね」

 

「家事は好きだからな」

 

 特に料理は好きとか嫌い以前に自分か兄が作らねばならない死活問題だった。

 

 厨房から出て行った一刀達。

 

 その際、ふと趙雲は机に置かれた、ある丼を目にして目を見開いた。

 

「こ、これはぁ・・・!?」

 

 

 

 再び一刀を連れて謁見の間に戻った一同。

 

「改めて紹介するね、白蓮ちゃん。こちらが天の御遣いの北郷 一刀さん」

 

「どうも」

 

 気迫のない挨拶をする一刀を白蓮は玉座からマジマジと見る。

 

「やっぱり、ソレっぽくないなぁ」

 

「そんな事ないよ~。私には見えてるもん。ご主人様の背後に光り輝く後光が!」

 

「ないないない」

 

 一刀は手を振って桃香の台詞を否定する。

 

「ただ、さっきの饅頭は凄く旨かったぞ。あれ程、旨い料理を作れる奴なんだ。悪い人間じゃないんだろう」

 

 そう言って屈託無く笑う白蓮に一刀は肩を竦める。

 

 太守だから、もっと踏ん反り返っていても良いと思うが、ふと隣を見て、後に一国の王となる劉備が、こんなのだから、白蓮がフレンドリーなのもアリかと思った。

 

「料理が人の判断材料になるとは思えないけど・・・とりあえず信用してくれるって取って良いのか? 公孫賛さん?」

 

「白蓮で良い。桃香が主と認めた者なのだから、私も真名を預けよう。友の友は、私にとっても友だからな」

 

「・・・・・どうも」

 

 親類以外は、よっぽど親しい者にしか呼ばせない真名を許す白蓮。

 

 今までの僅かな会話で、一刀は白蓮という人物が典型的な『いい人』であると理解した。

 

 恐らく上昇志向はあるだろうが、その事に対して友人である桃香、彼女の義妹である愛紗や鈴々、そして主の自分を利用したりするような人物ではないだろう。

 

(友人としては良いけど、出世しないタイプだな・・・)

 

 だが、現実は甘くない。

 

 一刀の生きていた現代社会でもそうだが、この乱世でそれでは生きていけない。

 

 他人を利用し、蹴落として生きていく。

 

 それが現実というものだった。

 

 実際、史実における公孫賛もそれほど長生きしていない。

 

(まぁ、それはこっちも同じか・・・)

 

 横にいる桃香も、そんな白蓮と同種の人間である。

 

 だからこそ、今は白蓮の力になってやりたいと思う。

 

 現実では生き難いであろう桃香や白蓮。

 

 だが、手助けしてやりたいという気持ちになってしまう人間でもあった。

 

 一刀は、息を一つ吐き、改めて自己紹介した。

 

「北郷 一刀・・・宜しく」

 

 

 

「で、だ」

 

 自己紹介が終わり、白蓮は先程までの笑顔を消し、一太守としての厳かな表情を桃香へと向ける。

 

「桃香。星から聞いたが、お前達が義勇軍として付近の盗賊退治に協力してくれるのは本当か?」

 

「うん。そうだよ」

 

「そうか・・・しかし驚いたな」

 

「え?」

 

「如何に学友といえど私は太守だぞ。それなのに、たった四人で来るなんて・・・」

 

 白蓮は、てっきり金で雇った見せ掛けの兵でも連れて来るのかと思ったと言った。

 

 その事に対し、桃香は苦笑いを浮かべる。

 

「あはは・・・本当は、その案もあったんだけどご主人様がね・・・」

 

 盗賊の一味を捕えて引き渡した方が後々、有利だと一刀が言った事でその案は却下された事を話す。

 

 それを聞いて白蓮は「ほぉ」と感心した様子で一刀への見方を変える。

 

 なるほど、中々に頭の切れる人物のようだった。

 

 見た感じ武芸に秀でている訳では無さそうだが、軍師、もしくは内政を担当する文官に向いているかもしれないと感じた。

 

「だが正直、協力はありがたい。星の話では、そちらの関羽殿と張飛殿は相当の武人だとか・・・」

 

「うん! それは私が保証するよ!」

 

 そう桃香に言われて、愛紗は少し照れ臭そうに下を向く。

 

「余りそうは見えないが・・・」

 

「一流の武人を見抜く目を持つのも、人の上に立つ者として当然の事ですぞ、伯圭殿」

 

 すると謁見の間の入り口の方から声がしたので一刀達は振り返る。

 

「・・・・・・・星?」

 

 そこには趙雲と鈴々が立っていたのだが、全員がキョトンとなる。

 

 何故なら、二人とも傷だらけで服もボロボロになっていたからだった。

 

 更に鈴々は物凄い機嫌が悪そうだった。

 

「おい星・・・一体何があったんだ?」

 

「いや何・・・ちょっと張飛殿と互いの武を確かめ合って・・・」

 

「こいつがお兄ちゃんの作った極上メンマ丼を勝手に食べたのだ!!」

 

 格好つけて言う趙雲に対し、ビシィッと鈴々が指差して告げた。

 

 それを聞いて四人は「はぁ?」と不思議そうな顔になる。

 

「お兄ちゃんが鈴々の為に作ってくれたのに!!」

 

「いや、勝手に食べたのは悪かったが、あんな旨そうなメンマ丼を食べるのは人として当然ではないか?」

 

((((いや、それはどうだろう・・・))))

 

 趙雲の物言いに心の中でツッコミを入れる一刀達。

 

 一刀はこっそりと白蓮に尋ねた。

 

「なぁ、白蓮。趙雲ってメンマ好き?」

 

「私も初めて知った・・・」

 

 どうやら二人の傷は、それが原因で喧嘩して作ったもののようだ。

 

 ギャーギャーと趙雲に向かって文句を垂れる鈴々に一刀は溜息を吐いて彼女の方に寄り、頭を上から押さえつけて黙らせる。

 

「飯なんて幾らでも作ってやるから、もうやめろ」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

「じゃあ良いのだ!」

 

 そう言ってニカッと笑う鈴々に、とりあえず場が収まった事で白蓮達はホッとした。

 

 

 白蓮と共闘する事になった一刀達。

 

 陣割が決まるまで暫しの休息を取り、やがて彼等は城の外に案内された。

 

 そこには、沢山の鎧を着た兵達が整列している光景があった。

 

 中々に壮観で、現実ではお目にかかれないものに一刀は少しばかり感心する。

 

「すっごーい! これ、みんな白蓮ちゃんの兵隊さんなの?」

 

「勿論さ・・・と言っても、本当は正規兵と義勇兵半々の混成部隊だがな」

 

「そんなに義勇兵が集まったのか・・・」

 

 徴兵も無い現代日本では到底考えられない。

 

 自分から身の危険に晒される兵隊となるなど一刀には理解出来なかった。

 

「それだけ大陸の情勢が混沌とし、皆も危機感を覚えてるということでしょう」

 

「ふむ・・・確かに最近、大陸各地で盗賊だ何だと匪賊共が跋扈しているからな」

 

 趙雲の説明に、愛紗が相槌を打つ。

 

「いったい、この国はどうなっていくのだー・・・?」

 

「民の為、庶人の為・・・間違った方向へと進ませはしないさ。この私がな」

 

 そう言った趙雲の目には強い自信に満ちていた。

 

 いや、自信以上にも決意がそこにはあった。

 

 桃香、愛紗、鈴々が弱い人達を守る為に、たった三人で立ち上がった事と同じように、趙雲にも強い決意があるのだろう。

 

「趙雲殿」

 

「ん? どうされた関羽殿?」

 

 愛紗も同じように趙雲から何かを感じたのだろう。

 

 真剣な表情で、趙雲に話しかける。

 

「貴女の志に深く感銘を受けた・・・我が盟友になって戴けないだろうか」

 

「鈴々もおねーさんとお友達になりたいのだ!」

 

 それを聞いた趙雲は驚くことなく、寧ろ楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「ふ・・・志を同じくする人間、考える事は一緒という事か」

 

「?? どういう事だ?」

 

 愛紗の方が趙雲の言葉に首を傾げた。

 

「関羽殿の心の中に、私と同じ炎を見たのだ。そして志を共にしたいと・・・そう思ったのだ」

 

 穏やかな笑みを浮かべて趙雲は、愛紗に手を差し出した。

 

「友として、共にこの乱世を治めよう」

 

「ああ!」

 

「治めるのだ!」

 

 愛紗、鈴々は、趙雲の手を強く握り返す。

 

「あー! 私も! 私もだよー!」

 

 がっちりと握手を交わす三人を見て、置いてけぼりを喰らっていた桃香が慌てて彼女等の手の上に自分の手を重ねる。

 

「皆で頑張って、平和な世界を作ろうね。大丈夫、力を合わせれば、ドーン! って、すぐに平和な世界が出来ちゃうんだから!」

 

 桃香の天然な――本人は本気だろうが――台詞に、鈴々が呆れて苦笑いを浮かべる。

 

「そんなに簡単なわけないのだ。お姉ちゃんは気楽なのだな~」

 

「ふっ、中々どうして・・・そういうお気楽さも時には必要というものだ」

 

「そうだな・・・」

 

 愛紗も苦笑し、趙雲の言葉に頷くと改めて彼女に自己紹介をする。

 

「我が名は関羽。字は雲長。真名は愛紗だ」

 

「鈴々は鈴々! 張飛と翼徳と鈴々なのだ!」

 

「劉備玄徳、真名は桃香だよ!」

 

「我が名は趙雲。字は子龍。真名は星という・・・今後ともよろしく頼む」

 

 再び四人はガッチリと握手を交わす。

 

 するとそこへ、物凄い複雑そうな顔をして白蓮がやって来た。

 

 彼女に気付き、桃香は慌てて謝る。

 

「あ、ごめん、白蓮ちゃん!」

 

「良いんだけど・・・私だって、救国の志はあるんだから。忘れないでくれよな」

 

「ふふっ、拗ねなくても良いではありませんか」

 

「す、拗ねてなんかいるか! ふんっ」

 

 その光景を見て、一刀は息を吐く。

 

 今はこんな風に楽しい会話が続いているが、これから戦いが始まる。

 

 テレビや本の中ではなく、本物の戦争がこれから始まる。

 

 目の前で人が人の命を奪い合う。

 

 その事に対し、一刀にはある一つの決意があった。

 

 

 陣割が決まり、一刀達にも役割が与えられる事になった。

 

「我らは左翼の部隊を率いる事になりました。新参者に左翼全部隊を任せるとは、中々、豪毅ですな、白蓮殿も」

 

「それだけ期待されてるって思って良いのかな?」

 

「多分な・・・鈴々、大丈夫か?」

 

「勿論なのだ!!」

 

 ドンと胸を叩く鈴々。

 

 するとその時、前方から白蓮の声が響いた。

 

「諸君!! いよいよ出陣の時が来た!」

 

 士気を上げる為、白蓮は目の前に整列する兵達に演説を行う。

 

「今まで幾度となく退治しながら、いつも逃げて散っていた盗賊共! 今日こそは殲滅してくれよう! 公孫の勇者達よ! 今こそ功名の好機ぞ! 各々存分に手柄をたてぃ!」

 

「「「「「「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」」

 

 大地を揺るがすほどの兵達の咆哮が響き渡る。

 

 彼等の声援を受け、白蓮は剣を抜いて高々と掲げ、号令をかける。

 

「出陣だ!」

 

 

「ご主人様、大丈夫ですか?」

 

「何が?」

 

 左翼一軍の先頭を歩く途中、愛紗が一刀に尋ねて来た。

 

「間もなく戦が始まりますが・・・」

 

「俺が不安がってるって?」

 

「はい」

 

 一刀に戦場の経験は無い。

 

 それが、これから一軍を率いて戦場に赴く事に胸中不安に押し潰されていないか気になっている愛紗だったが、一刀は軽く手を振って返す。

 

「別に戦って言っても俺の世界でも戦争はあったし、毎日のように人が死ぬって話を聞くからな。珍しい事じゃない・・・それが目の前で起きるかそうでないかだけだよ」

 

「普通は、その目の前で起きるのが堪えられないと思うのですが・・・」

 

「神経図太いんで」

 

 そう言って一刀は手をポケットに入れ、肩を竦める。

 

 その仕草に桃香は訝しげに眉を顰めた。

 

 と、その時、前方から伝令の兵士がやって来た。

 

「全軍停止! これより我が軍は鶴翼の陣を敷く! 各員粛々と移動せよ!」

 

「いよいよか・・・」

 

「はい」

 

「愛紗、鈴々。隊の指揮は任せて良いよな?」

 

「勿論!」

 

「鈴々、頑張るのだー!」

 

「桃香様はご主人様と共に・・・」

 

「うん。二人とも気をつけてね」

 

 愛紗は「御意」と頷き、一刀達に一礼した後、自分達の兵達に向けて号令をかける。

 

「聞けい! 劉備隊の兵どもよ! 敵は組織化もされていない雑兵どもだ。気負うな! さりとて慢心するな! 公孫賛殿の下、共に戦い、勝利を味わおうではないか!」

 

「「「「「「応!」」」」」」

 

「今より、戦訓を授ける! 心して聞けい!」

 

 愛紗の言葉を鈴々が続ける。

 

「兵隊の皆は三人一組になるのだ! 一人の敵に三人で当たれば必勝なのだ! 一人は敵と対峙して防御するのだ! 一人は防御している横から攻撃するのだ! 最後の一人は周囲を警戒なのだ!」

 

「敵は飢えた獣と思え! 情けをかけるな! 情けを掛ければ、それはいつしか仇となって跳ね返ってくる事を知れ!」

 

「皆で一生懸命戦って! 勝って! 平和の暮らしを取り戻すのだー!」

 

「「「「「「おおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

 地を揺るがすような公孫賛の兵の声が響き渡る。

 

「全軍、戦闘態勢を取れ!」

 

 愛紗の言葉と共に兵達が抜刀する。

 

 それと同時に兵の一人が報告して来る。

 

「盗賊達が突出してきました!」

 

「いよいよ戦い開始なのだ! みんな鈴々に続けーーー!」

 

「関羽隊、我らも行くぞ!」

 

 鈴々、愛紗がそれぞれの隊を率いて突進してくる盗賊達を迎え撃つ。

 

「全軍、突撃ぃぃーーーーー!」

 

 青龍偃月刀を構え、愛紗の声が高々と轟いた。

 

 

 一刀が兄・来刀に教えられた事は多岐に渡る。

 

 三国志を勧められた事以外に、チェスや将棋、麻雀などの古今東西のボードゲーム各種、文学、数学、化学、物理学、歴史学、商学、経済学、法学・・・果ては兵法なんかも無理やり教えられた。

 

 結果として今現在、役に立つ知識なのだろうが、この世界に来るまで一刀は、兄の教えてくれた事に対して価値を見出せなかった。

 

 何年か前に勃発した戦争を見ても対岸の火事といった風にテレビを見ていた。

 

 だが、その時、来刀は珍しく真剣な険しい表情で言った。

 

『一刀。この戦争を無関係と思うな。人が一人死ねば、近しい人間は影響を受ける。その影響は、やがて大きくなり、いずれ自分にも降りかかるかもしれないんだからな』

 

 普段はおちゃらけていた兄が、その時だけは凄みのある声だったのを覚えている。

 

 だが、当時の一刀は適当に聞き流していたが、今、少しだけ後悔していた。

 

 もっと兄の言う事を聞いておけば良かった。

 

 目の前で飛び交う怒声。

 

 目の前で繰り広げられる武器のぶつかり合い。

 

 目の前でその命を散らしていく自分と同じ人間達。

 

 人間とは、こうも簡単に死んでいく。

 

 人間の首は、ああも簡単に胴体から切断される。

 

 人間の血は、あんなにも激しく噴き出る。

 

 結果として・・・この戦いはこちら側の圧勝だった。

 

 数で勝っていても策の無い盗賊達。

 

 少しの策を用いれば敵は簡単に総崩れになった。

 

 たとえ敵の数がこちらの二倍だったとしても、こちらの兵一人が二人の敵を倒せば、その差は埋まる。

 

 特に愛紗と鈴々の武力は群を抜いている。

 

 一刀達のいる左翼が圧勝すれば、自然と中央・右翼の士気も上がり、前線を押し上げていく。

 

「圧勝だな」

 

「そうだね」

 

 それを後方から見ていた一刀の言葉に桃香が相槌を打つ。

 

 二人でそれを見ていたが、ふと桃香が言って来た。

 

「ご主人様」

 

「ん?」

 

「今なら誰も見てないよ」

 

「何が?」

 

 一刀が聞き返すと、桃香が振り向き、彼女はそっと一刀の手を取る。

 

 そして、ポケットに入れていた一刀の手を抜くと、彼の手は小刻みに震えていた。

 

「やっぱり・・・怖かったんだね」

 

「・・・・・・・武者震いだよ」

 

「我慢しなくて良いよ。初めての戦で怖くないっていう方がおかしいんだから」

 

 愛紗の前ではああ言っていたが、一刀も実際は内心、不安で押し潰されそうだった。

 

 目の前で人が死んでいく。

 

 風に乗って血のニオイが鼻をつく。

 

 断末魔の声が聞こえる。

 

 それを見て、嗅いで、聞いて・・・一刀は何度も吐きそうになった。

 

 しかし、それを一刀は必死に堪えた。

 

「おかしくなくちゃいけないんだよ、俺は・・・」

 

 桃香から顔を背け、一刀は言う。

 

「俺は天の御遣いって奴だからな・・・動じず、目の前の光景を受け入れなきゃいけないんだよ」

 

「ご主人様・・・」

 

 一刀は戦いの前から覚悟していた。

 

 桃香、愛紗、鈴々は、自分を天の御遣いと呼び、この乱世を終わらせる者だと信じてくれている。

 

 そんな彼女達の期待に自分は応えなければならない。

 

 何の力も無い自分を信じてくれている彼女達の期待に。

 

「嬉しかったんだよ・・・必要とされて」

 

「え?」

 

 そう言って一刀はフッと口許を緩め、笑みを浮かべる。

 

「誰にも見られて無いなら好都合だな・・・桃香、もう少しだけ握っててくれるか?」

 

「え? あ、う、うん・・・」

 

 初めて見る一刀の笑顔に少し見惚れていた桃香は、言われてまだ少し震えている一刀の手を握る。

 

「次からは、しっかり見る・・・震えず、しっかりとな」

 

 

 後書き

 萌将伝、プレイしました。まぁ色々言いたい事もありますが、良い面もありました。特に名も無い兵士達との絡みとか面白かったですし。この小説の一刀は頭良いので、象棋大会なんかに出場させたいですね~。後、十数年ぶりに、シミュレーションゲームをプレイしました。『信長の野望』ですが、あのゲームの要素も小説に取り入れたいと思います。


 
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