No.161959

嘘・恋姫無双 第四話 『始動』

マスターさん

第四話目です。
やっと、物語が動き出します。

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。

2010-07-30 21:34:14 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4631   閲覧ユーザー数:3979

 ―パチッ

 

 彼は火が爆ぜる音で目が覚めた。

 

 全身が雨で打たれたように汗で濡れている。夜空を見上げると、月の位置が眠る前とほとんど変わっていない。おそらく一刻(三十分)も眠れていないのだろう。

 

 彼はあの事件があってから、山に籠り、ただひたすらに強さを求めた。

 

 もう誰も死なせたくない、その想いだけが彼を突き動かした。来る日も来る日も彼は、身体を鍛える日々を過ごした。

 

 彼はもう安眠することは出来なかった。

 

 眠ると必ずあの日のことを夢に見た。夢の中では、いつも寸分の狂いもなく、あの日のことが再現された。夢の結末はいつも変らなかった。何時間も夢を見ているような気がしたが、いつも目覚めると、一刻程度しか経っていないのだ。

 

 眠る事が出来る時は、疲労のあまり泥のように意識を失う時だけだ。

 

 そういう時は夢を見ることはなかった。言いかえれば、彼は安眠するためにただ自分を傷つけ続けた。

 

 最初は身体もそれ程鍛え上がっていなかったため、地獄のような鍛錬の後は、毎日のように眠れたのだが、ここ数カ月は、安眠できる日は少なくなっていた。いくら身体を痛めつけても、すでにちょっとやそっとのことじゃ、堪えなくなっているのだ。

 

「また夢を見ていたのですか?」

 

 彼の横で、彼に寄り添うように横たわる女性が、白星の異変に気付いて声をかけた。

 

 栗色の髪を真直ぐ腰まで伸ばし、現代の巫女のような格好をしている。口調や声は大人びているが、容姿はまだあどけなさが残っている。年は自分とそれ程変わらなかった。

 

 しかし、瞳だけはまるで子を想う母親のような、それでいて兄を慕う妹のような不思議な瞳をしている。瞳を見つめると、まるで吸いこまれそうになる藍色していた。

 

 彼女は身を起こし、白星の額に汗でべっとり張りついている前髪をそっとはらった。そして、優しく彼の頭を撫でた。彼は悪夢の恐怖のせいで、一瞬ビクッとしたが、すぐに彼女だとわかると、黙って髪を撫でられた。

 

「大丈夫です。白様には美月がついています。」

 

 美月と名乗った女性はまるで子を想う母親のように微笑んだ。

 

 もう大丈夫、頷いてそう伝えると、今度は白星が美月の頭を撫でた。そのまま、彼女を元の体勢に戻して、頭を撫で続けた。目を閉じて嬉しそうに微笑む美月の呼吸は徐々に緩慢になり、そのまま眠りに落ちたようだ。

 

 白星は美月が完全に寝付いたのを待ってから、傍を離れた。もう寝られないだろう。

 

 彼は軽く木の枝を拾うと、焚火の中に放り込んだ。木はパチパチ音を立てながら再び大きく燃えだした。

 

 あの事件の後、彼は炎に魅せられるようになっていた。理由はわからない。無意識のうちに炎を見つめるようになっていた。炎は彼の心を穏やかにしたのだ。

 

 美月の規則的な寝息が彼に安心感を与えた。

 

 美月と一緒に行動するようになって、およそ半年が経とうとしていた。

 

 最初は、全く信じられなかった。

 

 今、自分の目の前で無防備に寝姿を見せている女性が、元いた世界の歴史では、名軍師の諸葛亮孔明の弟子で、諸葛亮亡き後の蜀を最期まで支えた、智勇兼ね備えた猛将・姜維伯約なのだから。そして、美月というのは彼女の真名だ。

 

 なぜ、現代の歴史では男性であるはずの姜維が女性なのか、そして、三国志の後半に登場するはずが、今、自分の横にいるのかわからなかった。

 

 ここは純粋に自分がいた世界の過去というわけではないのかもしれない。あるいは、自分の存在が歴史に多大な影響を与えているのかもしれない。しかし、彼は自分がそんな大層な人間のはずがないという自虐的な笑いを浮かべた。

 

 彼は美月から少し離れたところで刀を抜いた。そして、夜が明けるまで刀を振るい続けた。じっとしていると、頭がおかしくなりそうだった。そういう時はいつも刀を振った。そうしていると無心になれた。

 

 翌朝、白星と美月は山を降りた。彼らは定期的に村に赴き食料を調達したりだとか、周辺の情報を収集していたりするのだが、その日は村の入り口に立札が立てられていた。

 

『義勇軍求む!!

 黄巾賊の暴虐を許せぬ勇者は我の元に集うべし!!

             幽州太守 公孫賛   』

 

「白様。やはり最近は賊どもの活動が活発になっております。いかがなさいますか?」

 

 美月の言う通り、賊の動きはますます活発になっていた。

 

 今では、張角を中心に全国各地で暴動が起きているようだ。国は、賊の討伐を、各地を治める諸侯に依頼したらしく、これは漢王朝の力の衰退を表していた。

 

 白星もこれが起こることを予期していた。いわゆる『黄巾の乱』だ。

 

 美月、すなわち姜維が女性であるということから、ここの世界は自分の知っている歴史と違いはあるようだが、基本的な部分は変わっていないようだ。

 

「山に籠り、1年か。そろそろ出る頃合いだろう。」

 

 自分は昔に比べれば、多少は強くなった。もっと強さを求めたいところだが、彼自身、これ以上賊が蔓延るのを我慢できなかった。賊は自分の手で全て根絶やしにしたかった。

 

 白星と美月は公孫賛の居城へ向かった。

 

 城にはすでに多くの人が集まっていた。

 

 自分の武を示そうとしている者、名を売ろうとする者、中には暮らしに困り、仕事を失い、食べ物を得ようとする者など、義勇軍には様々な人種が集まっていた。

 

「はぁ・・・これは・・・。」

 

 美月はこれまでこれほど人が集まったところを見たことがなかったのだろう。少し顔を青くしている。しかし、まだ千人にも満たないのだろう。

 

 公孫賛の軍勢がすべて揃った光景を見たら腰を抜かすかもしれない。白星はそんなことを思い、苦笑しながら、美月の頭を撫でた。美月は戸惑ったような顔をしているが、すぐに嬉しそうに目を細めた。

 

「諸君、よく集まってくれた!!私が幽州の太守、公孫賛だ!!諸君らの命、私に預けてくれ!ともに黄巾賊を討ち払おうじょ!」

 

「噛んだ・・・・。」

 

 公孫賛が白馬に乗って現れ、名乗りを上げたが、大事なところで噛んでしまい、義勇兵から失笑が漏れている。恰好よく登場しようと思っていたのだろうが、出だしから失敗してしまい、公孫賛は顔を赤らめながら、馬を降りて、義勇兵を練兵所まで案内した。

 

 公孫賛はまだこのとき知らなかった。集まった義勇兵の中に自分の想像をはるかに超える化け物が潜んでいるなんて。

 

あとがき

 

第四話『始動』でした。

 

とうとう白星の物語が動き出しました。

 

この外史のヒロインの一人の姜維(美月)の登場です。

 

オリキャラを出そうか迷ったのですが、

 

白星の側にいることを考えると、やはり出した方が良いかなと思いました。

 

今後もオリキャラが出てくると思いますので、

 

苦手な方はすいません。

 

今後も駄作製造機の作品にお付き合いもらえる幸いです。


 
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