No.160452

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第44話

第44話です。

…ついに蚊に刺された

2010-07-25 02:27:32 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5663   閲覧ユーザー数:5204

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です。

 

原作重視、歴史改変反対の方

 

ご注意ください。

朝霧の中

 

一人匡む少女が遠く見つめる先には一つの陣営

 

彼女がかつて属した陣営

 

(あそこで良い思い出なんてあったかしら?)

 

彼女がかつて居場所を求め

 

(…二年もいたのにね)

 

彼女が自身で出ていくことを決めたかつての居場所

 

ふと

 

自身の足元を見やる

 

自分が立つ此処と

 

自分がかつていたあの場所には

 

目に見えた境界線などない

 

だというのに

 

(まるで別世界みたいだわ)

 

此処とあそこには明確な線引きがされている

 

敵と味方という

 

 

明確な線引きが

 

~二日目~

 

「…何これ?」

 

陣の設置がようやく済んだ頃、猪々子は陣営に聳え立つそれを見上げていた

 

「櫓…逢紀さんが考案したんだって」

 

隣に立つ斗詩も同じように城壁程の高さもある櫓を見上げる

 

材木を幾重にも組み、積み上げられて作られたそれは悠然と聳え立ち、まるで巨木のように彼女達を見下ろしていた

 

「どうです?素晴らしいでしょう」

 

声に振り向けば満面の笑みの逢紀~英心

 

「これならばあの城壁も意味を成しません、加えて戦場を見渡す事も可能となり…」

 

腰に手を当て胸を張りながら二人の前に進み出ながら熱弁を振いだす

 

「…さらには我が弓隊の射程距離の増強も可能となるのです」

「素晴らしいですわ」

 

いつの間にやらやってきた麗羽が目を輝かせて同調する

 

「さらに!」

 

ピシィと櫓の足元を指さす英心、三人が視線を向けるとそこには

 

「車をつけることにより櫓自身の移動も可能です!」

「「「おおっ!」」」

 

手の扇子を開きパタパタと自らを仰ぐ…どうやら三人の反応に満足のようだ

 

「この秘密兵器の前に曹操も度肝を抜くことでしょう」

 

はっはっはと笑いながら麗羽の肩に手をやり

 

「ささっ、我が君!これに乗って彼奴等を見下ろしてやるとしましょう」

 

そういって麗羽を櫓の上へと促す

 

「ふふふ、あの小娘の鼻を圧し折ってやりますわ」

 

乞われるままに梯子に手をかける総大将の姿に

 

((ほんと乗せられやすい性格だな~))

 

溜息というか嘆息というか

 

いろんな感情が籠った息を二人は同時に吐いた

 

とそこに

 

「…何ですかこれ?」

「旦那!?」

 

やはり上を見上げながら近づいてきた悠

 

「櫓だってさ、何かいろいろ凄いらしいよ」

「これに乗って舌戦に行ってくるそうです」

 

斗詩が指射す先には曹魏が陣取る古城

 

「へえ…凄いですねえ」

 

心なしか棒読みに聞こえた悠の声

 

「あんまり乗り気じゃない?」

「いやあ…そんなことないですけど」

 

悠の顔を覗き込むように見上げてくる猪々子に笑って答える悠

 

「ただ…」

「「ただ?」」

 

顎に手をやり考え込む姿に二人は顔を見合わせる

 

「いやね…間諜から向こうでも何か作っていると報告があったもので」

 

あらかじめ放っていた間諜が先日にもたらした情報の末端が気になる悠

 

「なんとなく…相性悪いような気がしましてね」

 

うーむと腕を組む悠

 

「考えすぎじゃないのか~」

 

猪々子が首を傾げたその時

 

ドゴオオオオン

 

地鳴りのような音がした方向に三人が目をやれば

 

「「「あ~」」」

 

城から飛んできた岩によって櫓の根元が崩され

 

ミシ…

 

幹が千切れるような音と

 

バキバキバキ…

 

巨木が倒れる音が響いた後に

 

ズドオオオオン

 

自身が立てた土煙りの中へと崩れていく櫓の姿があった

 

 

 

「よかったねえ姫、怪我なく済んで」

「びっくりしましたよう」

「いやあご無事で何よりでした」

 

袁紹陣営の天幕

 

頭に大きなたんこぶを乗せて帰ってきた己が君主に労いの言葉をかける面々…が

 

(というかあの高さから落ちてこぶ一つで済むんだ)

 

敵の兵器の威力よりも君主の頑丈さの方に驚く

 

当の本人は

 

「…冗談じゃありませんわ」

 

水で冷やした布をたんこぶに当て、見るからに憤慨していた

 

「遠すぎて此方からは聞こえなかったのですが舌戦は如何でした?」

 

ずずっと茶を啜りながら伺ってくる悠をギロリと睨みつけ

 

「『おーほっほっほ』しか言ってませんわ!なのにあの小娘と来たら…」

 

わなわなと震える君主

 

(要するにただ高笑いかまして帰ってきたわけか)

 

干菓子をひょいと口に放り込んで彼女の視線を交わし

 

「まあ何はともあれようやく開戦したわけですし作戦でも立てますか」

 

付近の地形が描かれた地図を開き一同に目配せをする

 

「城を占拠した敵陣に対して此方は野営…一見不利にも見えますがその実は此方が城を取り囲んだことによって敵方は身動きが取れない状況にあります」

 

地図の城の周りに駒を並べだす悠

 

「兵の数においても六対四、加えて移動式の櫓のおかげで戦場の状況判断、並びに弓矢の射程でも此方が上回り野戦では此方に分があります」

「でもさっきみたいに岩を飛ばされてきたらマズいんじゃ…さっきも櫓簡単に壊されちゃったし」

 

斗詩の発言にその場の面々が頷く

こと櫓の発案者の英心も苦虫を噛んだような表情で項垂れていた

 

「先ほど飛んできた岩を見てきました…およそ人間の大人が両手を広げたほどの大きなものではありましたが…その分、弾の備蓄はそれ程多くは無いと思われます」

「となれば櫓を前面に押し出し弾切れを起こさせるべきでは?」

 

悠の発言に本来の顔色を取り戻した英心が進言するものの悠は首を振り

 

「悪くは無いですが…櫓をそのために失うのは少々気が引けます。それに適うのであれば敵方の戦力をギリギリまで削り落してから野戦に持ち込みたい」

「となると…」

 

顎に手を当て思考に老けていた英心と目が合うと悠は頷き

 

「持久戦に持ち込みます、櫓を利用しての長距離射程からの攻撃と重槍隊を全面に押し出した防御型の陣で敵方を城に釘付けし、且つ城の周囲を囲み兵糧の輸送も断ちます」

「此方の兵糧は?」

 

斗詩の質問に悠は地図上、袁紹陣営からやや離れた後方を差し

 

「烏巣に纏めます…敵方の輸送部隊から兵糧を奪い此方側に備蓄します」

 

そういって地図の上を指を滑らせ

 

「猪々子、貴女には此処と…此処、敵方が籠る城に通じる二本の道を抑えてもらいます。輸送部隊は間違いなく何れかの道を経由して来ます」

 

指をトントンと打ちつけて頼みましたよと笑う悠に猪々子が頷く

 

「敵方が痺れを切らして一点突破を図ってきた場合はこの渓谷まで撤退…この地形を使っての挟撃にて殲滅を図ります。各隊状況判断を常に的確に願います」

 

一同の頷きに悠もまた顎を引いて返す

 

あとは

 

(桂花が此方の意図に気付くかどうか)

 

 

~魏陣営~

 

「どうやら向こうは長期戦に持ち込むようですねえ」

 

一同が介した中、風の発言に面々が頷く

 

「そのくせ此方を誘い込まんとしている一面も」

 

風の隣に立つ稟が眼鏡の淵を押し上げながら地図を睨む

相反するような敵方の構えにうーむと唸る

 

果たして向こうの意図が何なのか

 

(言うべきかしら…それとも?)

 

他の二人の軍師とはまた別に押し黙っている桂花に風が気づき

 

「心当たりがあるような顔ですねえ」

 

ぜひ伺いたいのですがと続けた風の発言に一同は桂花に視線を移す

 

周りからの視線を受けても黙っている桂花

 

「桂花?」

 

華琳の声に一瞬肩を震わせる桂花

 

「貴女はどう読んでいるのかしら?」

 

首を傾げて訪ねてくる華琳と目が合い

 

桂花の顎を一筋の汗が伝い落ちる

 

(私は知っている)

 

「かの一団の参謀を務めるは田豊元皓」

 

(袁家の内情を)

 

「此度の戦略も彼の意向の下でしょう」

 

「ならば彼はどのように指揮を?」

 

稟の質問にごくりと喉が鳴る

 

地図に視線を落とし、先ほど城壁から見た敵方の陣構えを脳裏に浮かべる

 

魏陣営において彼女だけが知るアドバンテージから導き出される答え

 

彼は誘っている

 

それはただ一つの答えへと繋がる

 

「田豊は…」

 

(悠は…)

 

「長期戦に見せかけて此方を誘っています」

「それは…どうしてですか?」

 

事情を知らない風の発言はいつものそれよりもゆっくりと聞こえた気がした

 

「なぜなら…田豊には」

 

(なぜなら…悠には)

 

「時間がありません…肺を病んでいます」

 

もはやこの数日すら危うい程に

 

知らぬ間に握りしめていた拳に汗が滲んでいた

 

 

あとがき

 

ここまでお読みいただき有難う御座います

 

ねこじゃらしです

 

さてぼちぼち始りました官渡の戦い

 

所詮素人の自分が考える策ではありますが何とかそれらしく書いてみようかと

 

主人公?

 

えっちらほっちらとハネムーン…じゃなくて本国に向けて移動中です

 

はたして間に合うのか

 

それでは次回の講釈で


 
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