No.160395

真・恋姫無双 EP.31 黄巾編(5)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
萌将伝も発売したので、この作品でも日常の出来事みたいなものも書いていけたらと思っています。とりあえず、もうしばらくは黄巾編です。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2010-07-24 23:18:02 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5191   閲覧ユーザー数:4594

 一刀の一撃が、オーク軍団を蹴散らした。選りすぐりの力自慢たちで構成されていただけに、簡単にやられることの動揺は大きく、さざ波のようにオークたちの間に広がる。

 

「ナンダ、奴ハ?」

「……トテモ強イゾ」

「変ナ仮面ヲ付ケテル……」

「シカモ、黒光リダ……」

 

 ざわざわと、オークたちは一刀と恋から距離を置いて、口々に何かを囁きあっていた。

 

「……どうする?」

 

 恋が一刀に訊ねた。おそらく、目の前の大きな天幕が党首のいるところだろう。本拠地の一番奥にあり、他の天幕と比べて明らかに大きい。しかもこれほど大勢のオーク軍団が控えている。

 

「とりあえず、こいつらを何とかしよう。なるべく殺さないようにね」

「…………やってみる」

 

 背中合わせになって、一刀と恋は囲むオークと対峙した。そして、一気に斬りかかる。

 普段は人目に付かないところで、労働をさせられているオークたちだが、その戦闘能力は高い。技術はともかく、力が人間の何倍もあるため並の者では剣ごと頭を叩き割られてしまうほどだった。

 だが、一刀と恋は並の者ではない。棍棒の重い一撃を受け止め、反撃を繰り出していた。

 

「てやあーー!」

 

 特に一刀の攻撃は凶悪だった。殺傷能力のない武器だが、斬られた者はしばらく悪夢にうなされる。マッチョの男に左右から挟まれ、顔にぐりぐりと乳首を押しつけられる……そんな悪夢だ。

 

「助ケテクレ……」

「来ル! 筋肉ノバケモノガ来ル!」

「熱ク反リ返ッタモノヲ押シツケナイデー!」

 

 阿鼻叫喚。一刀が通った後には、オークたちの悲鳴が轟いた。

 

 

 その異変に気が付いたのは、何気なく戦況を見ていた時だった。秋蘭が交代して戻って来たので、華琳は報告を受けるついでに天幕から出た。まだしばらくは変化はないだろう、そう安心していたところもある。だからその、些細な異変にわずかな不安をおぼえた。

 

「桂花」

「はい、華琳様」

 

 すぐに桂花を呼び、目の前の異変を知らせる。言葉にしなくとも、優秀な彼女なら気付くはずと華琳は信じていた。そしてその信頼に応えた桂花は、驚いた表情で華琳を見る。

 

「これは……」

「前線の守りはいつも通りだけれど、少しざわついているわ」

「はい。何か、あったのでしょうか?」

「……誰かある!」

 

 少し考え、華琳は人を呼ぶ。

 

「関羽か趙雲をここに!」

「はい」

 

 最前線で指揮をしている二人なら、自分たちよりも状況を把握しているだろうと考えたのだ。何か情報があるなら、それを知りたかった。

 やがて、関羽がやって来る。

 

「何でしょうか?」

「黄巾党の異変には、気付いているでしょ?」

「はい……城壁に取り付いていた兵士が声を聞きました」

「どんな声なの?」

 

 桂花が訊ねると、関羽は少し困ったように眉をひそめた。

 

「どうしたの関羽?」

「いえ……どうも意味を測りかねるもので」

「言ってみなさい」

 

 華琳が促すと、ためらいながらも兵士から聞かされた言葉を口にする。

 

「黒光りの変態が来た……と」

「黒……」

 

 言いかけて、華琳はわずかに顔を赤くして黙ってしまう。桂花も何かを想像したのか、わずかに顔が青い。ただ一人、関羽だけは首を傾げていた。

 

「いかがいたしましょうか?」

「放っておきましょう。それよりも、この機を逃さず攻めた方がいいわね」

「はい」

 

 華琳と桂花は、異変の事は忘れることにして頷きあった。

 

 

 倒しても、倒しても、オークたちは次々と現れる。

 

「くそっ! きりがない!」

「……お腹空いた」

「も、もうちょっと我慢して!」

「…………(ぐぅ~)」

 

 恋は小さく頷くと、不満をぶつけるように目の前のオークたちを吹き飛ばしてゆく。

 場所が狭いため、一度に襲われないのは良かったが、積まれた木箱に剣や槍がぶつかって戦い難いのが辛かった。

 

(天幕は目の前なのに!)

 

 一刀の気持ちは焦った。もしもどこかに抜け道でもあれば、この騒ぎに気付いて逃げ出すのは簡単だろう。

 

(時間を掛けるわけにはいかない)

 

 おそらく前線でも、こちらの異変には気付いているだろう。曹操軍がいるため、黄巾党全軍が一刀たちに襲いかかることはないが、出来る限り気を引きたくはなかった。それというのも、まだ党首の正体を掴んでいないからだ。

 

(本当にあの子たちなのか……?)

 

 それを確かめるために、こんな危険を冒している。無駄には出来なかった。

 

「危ない!」

「えっ?」

 

 考え事をしていた一刀の耳に、突然、誰かの声が聞こえた。振り向くと、棍棒を振り上げたオークの姿が視界に飛び込んでくる。

 

(やられる!)

 

 そう思った時、そのオークの体はぐらりと揺れて倒れた。そしてその後ろからは、一刀や恋と同じような蝶の仮面を付け、槍を持った女性の姿が現れたのだ。

 

「ぼんやりしていては、危ないですぞ、一号」

「誰っ!?」

 

 そこに居たのは趙雲だったが、一刀たちには見知らぬ女性だった。

 

 

 突然現れた女性は、まるで当たり前のように一刀と恋に混ざって戦い始める。

 

「ちょ、ちょっと待って! あなたは誰ですか?」

「冷たいことを言うのだな、一号は。まあ、こうして顔を合わせるのは初めてゆえ、仕方がないか」

「やっぱり初めてですよね? というか、一号って何?」

 

 一刀が訊ねると、一瞬きょとんとした顔になりすぐに笑い出した。

 

「決まっておるだろう。華蝶連者の一号がそなた、そして私が二号、そっちの者が三号だ」

「えー……」

 

 自分が一号なのはともかく、どうして恋が三号になるのか。一刀は大いに不満だったが、それを伝えると趙雲は笑って答えた。

 

「心構えの違いだ。私は二号としての、心構えが出来ているからな」

「あんまり理由になっていない気が……」

「そんな事を気にしている場合ではないのではないか?」

 

 確かにそうだった。

 

「ここは私と三号に任せて、一号は行くがよい。黄巾党の党首に会うのだろう? 理由は聞かぬ。何やら、ワケありのようだからな」

「……二号」

 

 お互い名前を知らぬ以上、そう呼ぶしかなかった。そして今は、その好意がありがたい一刀である。

 黙って頭を下げ、趙雲が作ってくれた道を天幕に向かって走った。

 

「さて、気合いを入れよう三号!」

「……………………?」

 

 成り行きがわからず、恋は趙雲の言葉に首を傾げた。


 
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