黄巾党を追い払って一ヶ月。街はあらかた復興し、賑わいを見せ始めている。
復興開始時のの暗い空気は何処へやら。今では露店があふれ、人の波が途切れない位になってきた。
でも、それ故に俺達自警隊の仕事も増えてくる訳で・・・・・・
こんな回想をしながらも、まだ午前中だというのに三回目の出動な訳で・・・・・・
「隊長、気持ちは分かりますが、しっかりとして下さい。街の人たちも見ているんですから」
隣にいる凪に怒られてしまった。
「俺、何にも言ってないけど?」
まさか思ったことを口に出してる、みたいな変なことはしてないはずなんだけど。
凪程の武人なら心が読めるのだろうか?
「隊長は考えていることがすぐに顔に出るんです。どうしたらこんなに伝わるんだろう、というくらいに」
下らないことを考えていたら、呆れた口調でこう言われた。
「そんなことないと思うんだけどなぁ」
きっと凪だから分かるんだ。相手の動きとか先読みする感じで心を読んでるんだろう。そうじゃないと流石に説明がつかない。やばいな、この前凪が二倍の唐辛子ビタビタで麻婆豆腐を食べてたのを見て思ったこともばれてんのかなぁ
「隊長! 後でそれについては詳しく聞かせていただきますから!」
「ごめんなさいっ」
・・・・・・、今度真桜あたりに聞いてみようかな。心読まれたことないかって。
そんなこんなで報告のあった現場に到着したのだが、様子がおかしい。
確かに人だかりが出来ているけれど、妙に騒がしくないのだ。
「ちょっとごめんよ」
隊員のみんなは人ごみの外で待たせ、人だかりをかき分けて中心へ進む。
辿りつくとそこにいたのは、数人の倒れた男と
――――――、壺を抱えた女性だった。
(何、この状況は、わけ分からん。この世界の女の人が強いのはもう驚かないけどさ。壺? 地面に槍が落ちてるのに壺で戦ったのか? 壺が体から離れないとか?)
予想の斜め上の事態に凪は硬直して動けないみたいなので、とりあえず俺が話しかけてみる。
「あの、ちょっといいかな。ここの自警隊の者なんだけど。」
「何ですかな?」
悠々とした態度で応えてくれた。
「これは貴女が?」
「私が昼食を買いに来たら、この者どもがそこの露店で暴れていてですな。特に関わるつもりはなかったのですが、そこの男がこのメンマの壺を投げようとしたのを見て、ちょっと懲らしめてやった次第です。メンマですぞ!? メンマ!! この世の至宝とも言えるメンマをダメにしようとするなぞ、万死に値する行為だと思われませぬか?」
正直、よく分かりません。威圧感ありすぎです。
「え、えっーと・・・・・・。それじゃ、まだ昼食は食べてないんだよね。それなら、迷惑をかけたことと騒動を静めてくれたお礼に御馳走されてもらえないかな。そこで詳しい話を聞かせてほしいな」
「ふむ、構いませぬが、連れが二人ほど居るのです。その二人も一緒でよろしいですかな?」
「もちろん」
「では、呼んでくるので、しばしお待ちを」
「あっ、ちょっと待って。自己紹介をまだしてなかったっけ」
「俺の名前は北郷一刀。君の名前は?」
「私は趙雲。字を子龍と申すものです」
「・・・・・・、なるほど大体分かったよ。趙雲さん、ありがとう。おかげで周りの人に被害が出なくて助かったよ」
「ふむ、そう言感謝されると少し恥ずかしいですな」
「暴れた彼等は騒ぎを起こした責任として、自警隊に一時的に組み込んで仕事をしてもらう、これで良いかな」
あいつらには暴れた分、自治に協力してもらおう。
「おぉ、それは名案ですな」
「私もそれで良いと思います」
趙雲さん、凪の両方から同意を得られたから、この程度の罰でいいだろう。
「ところで、お二人のお名前は?」
趙雲さんの連れだという二人に話を振ってみる。
「そうですね、自己紹介が遅れました。私の名は戯志才といいます」
メガネ(この時代にもあるんだ)をかけた女性が先に喋った。
「戯・・・・・・志才さんですか?」
「はい、そうですが、何か?」
少し怪訝な表情をされた。そして、なんだか目が細まった気がする。
「いや、珍しい名前だと思いまして。すみません、名前のことでとやかく言ってしまって」
「いえ、よく言われますから」
そう言った戯志才さんは何故か安堵したようにも見えた。
戯志才か、俺の世界のの三国志では結構早い段階で死んでしまって、後釜として郭嘉が指名されるっていう逸話があったっけ。
かなりの知者だったって話だけど、あんまり有名じゃない人もこっちの世界にいるんだな、って当たり前か。
「そちらの方は?」
頭に謎の人形? を乗せた女の子に聞いてみると、
「ぐぅ・・・・・・」
寝ていた。
「こら、風。起きなさい」
横に座っている戯志才さんが少女を起こす。
「おおっ、稟ちゃんたちの話が長くてつい寝てしまったのですよ。では、お兄さん、私の名前は程立というのですよ。そして、風の上に居るのが宝譿(ほうけい)です。ほら宝譿、お兄さん方に挨拶なさい」
程立? 確か、曹操に仕える前までの程昱の名前だっけ? そうか、まだ誰の配下でもないし、改名する前なのか。
それにしても、一流の武将・知将ばかりじゃないか。すごい面子で旅してるんだな。
そんなことを考えていると、
「おう、兄ちゃんよろしくな。そこの綺麗な嬢ちゃんをはべらかしてんのに、更に女を求めて食事に誘うなんて、あんたすげぇな」
「なっ・・・・・・」
人形が喋ったかと思いきや、なんかさらっと酷いことを言われた。
「これ宝譿。そんな失礼なこと言っては駄目ですよ。例え、星ちゃんの胸にお兄さんの視線がいったりしていても、男の人なんですから黙ってあげるのが優しさなのです」
「隊長?」
隣で凪さんが拳に氣をためているのを感じた。
「ご、誤解だって。ねぇ、趙雲さん?」
趙雲さんに助け船を出す。
「ん?今までで感じた視線は10回くらいですかな?」
悪戯っぽい笑みをしながら、そんなことをのたまいやがった。凪さんの氣が急激に大きくなっている。
「隊長、この後私の鍛錬に付き合って頂きますからね」
「い、いや、俺死んじゃうかもしれな・・・・・・、はい、喜んでやらせていただきます」
今死ぬくらいなら、死期は先延ばしにする。戦略的撤退です。
「はっはっは。私は別に構いませんが、貴方を想う人の前では慎んだ方が良いのではないかな?」
「ち、趙雲殿・・・・・」
「ん、なんだって? どうしたの? 凪」
凪の顔が赤くなってるけど、なんでだろう。
「いえ、何でもありません」
どう見ても何でも無くないけど、どうせ答えてくれないだろうし、まぁいいや。
「やれやれ、此処まで鈍いとは。お主も大変だな」
凪を趙雲さんが慰めている。でもなんで、みんなして俺の方を見ているんだろうか。
「そういえば、三人はどうしてこの街に来たんだ?」
前から気になっていたので聞いてみる。決して、話を変えて凪の怒りがぶり返さない様にした訳じゃない。
「その前に、この近くに黄巾党の砦があるのはご存知ですか?」
「あぁ、知ってる。そのせいでたまに奴らが襲いかかって来るんだ。でも、兵の数が違いすぎて街を守るだけで精一杯なんだよね」
一週間に一回くらいの頻度で襲われるが、なかなか手強くて危ない時もある。
「逆に、数の差がありながら守りきっていることがすごいと思いますよ」
驚いた、という顔で戯志才さんに言われた。周りの二人も目を見開いている。
「そんなもんかな」
褒められると、普通に嬉しい。みんなで頑張っているからそれも一塩に感じる。
「ええ、黄巾党の中でもかなりの質という噂ですので、自信を持っても良いと思います」
「稟ちゃん、話が逸れてしまってますよ~」
「そうでした。それでですね、その砦の黄巾党を討つために巴郡の太守の厳顔様とその盟友の黄忠様が軍を派遣しなさったんです。私たちは今お仕えすべき方を探す旅の途中ですので、名将の呼び声高いお二人の軍に参加できればと思い、ここまで来たのです」
凪の方を見て、俺はある考えを口にした。
「なぁ、凪。俺たちもその討伐に参加しないか? ここの土地を守ることを人任せにするのはいけないと思うんだ。それに、俺らの方がこの辺に詳しいから、それが役に立つかもしれない」
「私もそう考えていたところです。個人的にもお二人の戦いを見たいですし」
さっきの一件もあり、少し凪は好戦的になってるのかもしれない。それを俺にぶつけてほしくないけど。
「みなさんはいつこの街を出るつもりかな?」
「えっと、明後日になると思うのですよ。まだ、厳顔様たちの軍は出陣したばかりで到着していませんし、風たちも旅の疲れが溜まっていますから~」
「そっか。なら、俺らと一緒に行かないか? 明後日なら戦の支度も何とかなるし、一応、軍としての体裁は保てるくらいの人数はいるから厳顔さんたちと面会する機会があるかもしれない」
戯志才さんに提案してみる。
「よろしいのですか?」
「うん。さっき助けてもらっちゃったし、これくらいはさせてよ」
ご飯を奢ったくらいでは俺の気が済まない。あとは、こんなすごい人たちとこれで別れるのは少し惜しいと思ったのも事実だ。
「そうですか。ならば私は賛成ですが、星殿はどうですか?」
「せっかくだ。ご厚意に甘えさせてもらおう」
「風は?」
戯志才さんが程立さんに声をかける。
「ぐぅ・・・・・・」
まぁ、やっぱり寝ていた。まだ会って少ししか経っていないのに、絶対寝ていると分かってしまった。
「「寝るな!!」」
「おおっ、稟ちゃんと星ちゃん二人につっこまれるとは予想外でした。風も賛成ですよ~」
全員の賛成を得たところで、不意に宝譿がしゃべりだした。
「おいおい、兄ちゃん。やるねぇ。これで三人の心を鷲掴みか?」
「これこれ、宝譿。せっかくのお誘いをそんな風に言うものじゃないですよ~。お兄さんが稟ちゃんの太ももにくぎ付けになっていても、そんなやましい考えで誘ったわけではないのですから」
「た~い~ちょ~う~?」
背後から凪さんの声がする。氣があまりにも禍々しくて、後ろを振り向くことが出来ない。
「いやいやいや。み、見てない見てない。か、勘違いだって」
声がどもってしまった。こうなったら、本人に言質をとるしかない。
戯志才さんに声をかけようとしたが、どこか様子がおかしかった。
「出会ったばかりの男性に欲情され、そしてそのまま誘いに乗って手籠にされてしまう・・・・・・、その後は・・・・・・、ぶはっ」
真っ赤な水が戯志才さんから綺麗な弧を描きながら、吹き出ている。これは鼻血!? いやいや、鼻血ってもんじゃないって、あれ。学校の校庭に水を撒くあれ位の勢いあるんじゃないか?
そして、戯志才さんもその勢いに押されるかのように、倒れてしまった。
「ちょっ、戯志才さん! 大丈夫!?」
心配する俺たちをよそに、程立さんがやれやれといった様子で戯志才さんの後ろに回っている。後ろから何をするのだろうか。
「ほら~、稟ちゃん。鼻血を止めるためにとんとんしますよ~。ほら、とんと~ん」
首筋に手刀を打ち込むを、鼻血の勢いが弱まってきた。秘孔でも突いているのかな。流石、中国。
「ふがふが」
「稟ちゃんは妄想がたいへん激しくてですね、ささいなことでも、妄想が始まると自分の世界に入ってしまうのです。そして、それが最高潮に達すると、さっき見たいに鼻血がでてしまうのですよ~」
「そ、そうなんだ。大変だね・・・・・・」
街を出発して半刻。今は街道を移動している。
「そろそろ合流地点に着きますね」
凪が明るく声をかけてくれたのだが、
「「・・・・・・」」
何故か俺たちの周囲だけは重苦しい空気が場に存在していた。
「なぁ、二人とも機嫌をなおしてくれよ。悪かったって」
この空気を発生しているのは真桜、沙和の二人。これから戦闘になるってのに勘弁してもらいたい。
「じゃあ、隊長。何が悪かったと思っとるん?」
真桜が不満げな目で俺を見据える。
「えっ? う~ん、勝手に派兵を決めちゃったことかな?」
正直、俺にはこれくらいしか何かをやらかした自覚は無い。
その他って言ったら、趙雲さんとか程立さんとか見ず知らずの人と一緒に行軍してることぐらいかなぁ。
「「全然分かっとらんわ(てないの)!!」」
すごい剣幕で怒られた。
「ちっ、違うのか?」
予想外の展開に馬から落ちそうになるけど、なんとかこらえる。
真桜がやれやれといった風情で口を開いた。
「まったくと言っていいほどちゃうわ。ええか、まず一個目は、凪だけご飯を奢ってウチらにはしてくれへんかったことや」
「へっ?」
間抜けな声が出てしまった。
飯? 奢り? 怒りの度合いと内容の軽さがあまりにも差がありすぎるでしょ。
「そうなの~。凪ちゃんばっかりずるいの。そして2個目はそこで女の子といちゃいちゃしてたことなの。ご飯を奢るだけならいざ知らず、見知らぬ女の子にも、っていうのは有り得ないの~」
我が意を得たりと言わんばかりに、沙和が追い打ちをかけてくる
「そ、そんなことで今まで怒ってたの?」
俺のここまでのつらい思いはなんだったんだろう。
しかし、俺の言葉に反応して、更に真桜は声を荒げてきた。
「そんなこととちゃうわ! ええか、街から帰ってきたと思いきや、派兵の準備。まぁこれはえぇ。黄巾党を倒すんはウチも賛成やからな。んで、必死こいて準備してきたらいい女3人もはべらせてるって、なんやねん!! そらぁ機嫌も悪くなるわ!」
右から真桜。
「そうなのそうなの! 隊長が女たらしなのはわかるけど、この仕打ちは無いの!!」
左から沙和。
「え? ・・・・・・、えっと、すみません。以後気をつけます」
もう、謝るしかなかった。どう考えても俺に非がある様には思えなかったが、反抗するなんて選択肢はもはや無い。
「「で!?」」
「で? って何?」
まだ俺なんかすることあるのか!?
真桜の方を見ると顔が妖しく光っている。
「謝るだけで済ます気かいな?」
その瞬間、沙和の顔も悪代官の様になっていた。
「誠意をみせる必要があると思うの!!」
「「さぁ、どうするの(どうすんねや)、隊長?」」
こういうときの二人の押しは異常に強い気がする。
「あ、ああっ、今度は二人にも奢らせていただきます」
はっきり言って嵌められた感がしないでもないが、仕方ない。
「沙和~、何処に行くことにする?」
「私、良いお店知ってるの。この前の阿蘇阿蘇に載ってたお店なんだけど、ちょっと高いから行けなかったの~」
「ホンマか!? ええやん、ええやん。そこにしよか~」
不穏な会話が交わされているが、男の甲斐性だと思って堪える。堪えるしかない。
「ちょっと、前方の兵の様子を見てくる」
気分転換を兼ねて、この場を離れることにする。
「あいよ~」
「わかったの~」
隊を離れると、趙雲さんに声をかけられた。
「はっはっは、北郷殿、人気者ですな」
悪戯好きな趙雲さんのことだ。格好の的になってしまったかもしれない。
「趙雲さん。皮肉はいいって」
辟易とした声で返事をする。
すると、飄々とした態度ではなく、いつになく真面目な表情の趙雲さんがいた。
「いやいや、何を仰る。彼女たちが少なからず貴方に思うところがあるから、ああやって絡んできてくれるのですよ。特に何とも思わない人には話もしませぬし、付き従うことなどないですからな。派兵に関して文句が無いのは、貴方に全幅の信頼を置いているからでしょう。この重大な要件を反対もせずに、あのような軽口で済ますなどなかなか出来ることではありませぬよ。」
そうかもしれない、のか?
「俺には単に、食い意地が張ってるだけにしか見えないんだけど」
残念ながら、さっきの二人の表情を見た後ではなかなか信じられない。
「やれやれ、殊に鈍感なお方だ。よいですかな、女というものは「隊長、前方で既に戦闘が始まっているようです!!」
趙雲さんの言葉を遮って、斥候させていた兵士が駆けこんできた。
「なんだって!?」
「いかがいたしましょうか?」
「俺たちも参戦しよう。俺らが上手く動けば被害も小さくなるし、敵の虚を突ける。趙雲さんは程立さん達を呼んできてくれ。君は凪たちを此処へ」
「はっ」
「心得た」
「早く厳顔軍の救援に行かなくては!」
「とは言うても、ここの黄巾党は強いからなぁ。まともにやったら痛い目見るわ」
「でもでも、もたもたしてたら厳顔さん達まで危険になっちゃうの」
「ふむ。いかが致しますか、北郷殿?」
うちの軍の三人の後を引き取って、趙雲さんが話を振ってくる。
「みんな落ち着いて。ここは戯志才さんと程立さんの意見を聞きたい」
二人を見据える。戯志才さんと視線が合った。
「私たちですか?」
戯志才さんは言葉とは裏腹に驚いた素振りなどない。
「うん、駄目かな?」
「・・・・・・一刀殿、一つ聞かせていただきたい。出会ったばかり、かつ、星殿とは違い、貴方の前では私と風は何もしていない。それなのになぜ、ここで私たちに意見を聞かれるのか」
話している間も目は逸らされていない。まるで俺を試す様な視線だった。
「う~ん、何故と言われると難しいな。こじつけて言えば、趙雲さんの性格・力量からして自分と大きな力の差がある人と旅をするっていうのは考えにくい。そして、この状況でも焦る様子は全くないし、もう戦場を把握し始めようとしている様にも見えるんだ。今俺が話を振った時もすごい冷静だったしね」
まだ戯志才さんは腑に落ちていないらしく、納得の表情ではない。
「ほ~う。じゃあ、こじつけじゃない理由って何ですか~、お兄さん」
「ここに来るまで二人には行軍の方法、隊形について助言をもらったけど、そのどれもが俺たちに出来ない水準のものじゃない。今の俺たちの状態を見てどの程度かを一瞬で見抜いて、使いこなせそうなものを見繕って話してくれたんじゃないかな? もっと高度なものもあると思うんだけど、混乱するからあえて言わないでいたと思うんだ。そこまでのことをやれる人っていうのは相当頭が切れないと出来ないはず。少なくとも、ここにいる将よりは数段上をいっている。どうかな?」
二人が目を丸くしていた。
「お見通しだったとは思いませんでしたね~」
「すみません。ですが決して、一刀殿を低く見ていた訳ではありませんよ。」
「良いんだ。実際、さっきくらいの案が今の俺たちにはちょうど良いし、あれ以上は完成に時間がかかりすぎるからね」
低い水準の案しか出さない、と怒るやつは普通いないだろう。その状況に合った案こそが、最良の案となりうるのだから。
「しかし、この短時間でそれだけ感じられたとは北郷殿もなかなかやりますな」
趙雲さんから称賛の声を受けるが、
「いや、実際はこれも後付けでさ」
思わず言ってしまった。やっぱり、今は自分の思ったことをしっかり口にするべきだ。
「?」
漫画なら、頭に『?』が2~3個乗っているであろう顔を全員がしている。ちょっと面白い。
「じゃあ、なんでお兄さんは風たちに軍を預ける気になったのですか?」
「あぁ、単純にね。信じてるんだ、二人を。確かに会ってからほんの少しの時間しか経っていないし、まだ知らないことのほうが多いけどさ。この短い時間でも、俺は君たちを信じるに足る人たちだと思ったんだ。失敗してその責任を負っても構わない。全責任は俺がとる。だから、俺たちに作戦を示してほしい。そう思った、ただそれだけだよ」
きっちり伝えなくてはいけないと感じた。
さっき話した口先の理由なんてどうでもいい。俺のほんとに伝えたいことは今言わなくては。
前の戦いの様に、二度と会えなくなってしまう人もいるかもしれないのだから。
「全く根拠になっていませんが、信じてるってそこまで力強く言われるのは、悪い気はしませんねぇ~」
程立さんが微笑みながらそう応えてくれた。
「ですね。では、その信頼に応えてみせましょう」
戯志才さんも先程とは違う強い眼差しで俺を見ている。
「お願いするよ。もう思いついてるのかい?」
何か胸の奥が熱くなっていた。
「えぇ、勿論」
「ぐぅ・・・・・・」
盛り上がってきたのに、寝息が聞こえる?
「寝るな!!」
「おおっ、お兄さんの期待に応えようと思っていたらいつの間にか寝てしまったのですよ。」
軍師の二人が漫才をしていると、後ろから真桜が近づいてきた。
「なぁ、たいちょ。ウチは信じられとるん?」
「へ? あぁ、勿論。当然だろ?」
なんで今更そんなことを聞くんだろうか? 信じてないはず無いのにな。
「へへ、さよか」
妙に嬉しそうにしている真桜。よく分からん。
「隊長~、沙和はどうなの~?」
沙和も聞いてきた。
「沙和だって信頼してるさ。いつも助けてもらってるしな」
「やった、嬉しいの~」
まったく、うちの将達は何をしてるんだか。
「やれやれ、北郷隊長はまた、わかってないみたいだな」
「あぁ、俺あんなに鈍感な人見たことないぜ。人の気持ちはすごくよく分かるのに、なんで自分への好意には気付かんのかね」
「ほんとだよな。まぁそこに女たら、いや、人たらしと言われる所以があるんだろうな。俺もあの人の下で働けて良かったと思ってるしな」
「確かに、同感だ」
俺たちの周りに居た兵が何か話している。
遠いからよく聞こえないが、多分俺のことだろうな。前もいろいろ言われてたし。
「あの、たいちょ「さて、じゃあ戯志才さん、説明を」
そろそろ話を戻さないと、戦場に着いちゃうな。まずいまずい。
「はい、分かりました。まずは・・・・・・」
「うぅ、隊長に聞けなかった。私は隊長にどう思われているのだろうか・・・・・・」
戯志才と程立の話の間、妙に暗い空気を醸し出していた凪がいたことは秘密である。
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全然更新できてません、ようやく完成した、第四話です
いや、ホントに浮かばなくて詰まってました
これから登場人物が増えていくことを思うと、不安いっぱいです(主に口調がwww)
絡ませてみたいメンバーは沢山いるんですが、全く思いつかない方も沢山・・・・・
今月中にもう一話上げたいと思います
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