「あぁ~あ、いつまであのお子ちゃまの下で働かなきゃいけないのかしらねぇ・・・。」
私は深く溜息をついた。
「しょうがないだろう?文台様がお亡くなりになって早二年。あれからいろんなことがあったが、今はこうして袁術の客将としてやっているんだ。あの頃と比べればまだマシさ。」
隣では、冥琳が周りをキョロキョロしながら言ってきた。
「それはそうなんだけどねぇ・・・。だけどあのお子ちゃまに毎回会うたびに頭を下げなきゃいけないのよ?ホント疲れるわ・・・」
「まぁ、それはそうだろうな。」
私の母様、孫文台は私が十五歳のとき、盗賊討伐の際に受けた流れ矢によって死んでしまった。
私はすぐに母様の跡を継いだのだが、母様の仲間たちは揃いも揃って手の平を返し、袁術の方へと寝返ってしまったのだ。
そのお陰で母様が築き上げた領土と富は大半が失われてしまい、孫家はその輝きを失ったのだ。
・・・あれから四年が経った。
私たち孫家は、袁術の客将として迎え入れられたが、実際はただの雑用としてか受け取られていない。
だがいつかこの屈辱は晴らさせてもらう。たとえこの命が消えたとしても・・・
(・・・なんだか思い出したら、段々とムカついてきたわね・・・。)
私が考えていることが伝わったのか、冥琳は苦笑した。
「雪蓮、そろそろ戻りましょう。あの噂が本当かどうかも怪しいのに、これ以上探し続けるのは良くないと思うのだが・・・。」
「・・・もうちょっとだけ、探してみない?」
「・・・またいつもの『勘』か?」
冥琳は溜息をつきながら言った。
「そうよ、いつもの『勘』♪ なんだか感じるのよ、この森から。」
「全く、これで『天の御使い』が見つからなかったら帰るからな?」
「はいはい、わかったわよ~。」
私達は暗くなった森へと入って行った・・・
「・・・冥琳、もしかしてあれ・・・。」
「・・・行ってみよう。」
森に入って数分が経った頃、少し開けた場所で誰かが仰向けで倒れていた。
近寄ってみると腰にはかなりの業物だと思われる剣が二本差してあり、近くの木には乗ってきたと思われる馬が佇んでいた。
「・・・起きてくる気配はなさそうね。」
「そうみたいだな。とりあえず、念のため腰の剣を取り上げてくれ。」
「りょーかい」
近くで見てみると、倒れている人物は男のようだった。
歳は私たちと同じくらいで、外套を羽織っていたけど、その隙間から見える服は見たことも無い物だった。
「・・・もしかして、この人が『天の御使い』何のかしら?」
「さぁ?それは本人に聞いて確かめてみないと分からないな。」
「それもそうね。それじゃあ、一旦この人を屋敷に連れて帰りましょうか。・・・なんだか少し興味もあるしね。」
私は二本の剣を見た。
見れば見るほど美しく、見事な剣だった。
「雪蓮?見惚れてる場合じゃないわ。さっさと行こう。」
「はいはい。」
私達は青年を止めてあった馬に乗せると、屋敷に向かって走り出した。
『劉邦!!貴様に俺の何が分かる!!愛するものをこの手にかけるしかなかったこの苦しみが!!』
『項羽、君は自分の才能が彼女を追い詰めたことにまだ気付いていないのか・・・』
なんだ?この夢・・・
『黙れ!!力が無い愚かな敗北者がっ!!』
『その敗北者に・・・君は負けたんだ。』
『!!!』
『大切なものは力なんかじゃない。仲間を信じる心とそれに答えようとする気持ちなんだ・・・』
この場面・・・なんだか知っている気がする・・・
俺はゆっくりとまた意識が無くなっていった・・・
「おや?目が覚めたかい。」
俺が薄らぼんやりと目を開けると、近くで女の人の声が聞こえてきた。
「・・・ここは・・・どこ・・・?」
「あぁ、ここは孫家の屋敷じゃ。お主は森で倒れていたらしくて、ここに運ばれたんじゃ。」
「・・・・・・。」
・・・だんだんと頭が醒めてきた。
「って、えぇ!!孫家って、あの孫策の!?」
「おう、そうじゃが?」
なんてこった・・・。今度は本人の家に来てしまったのか・・・!!
あれ?そういえば、『紅蓮』と『蒼天』は・・・?
「すみません、あの俺の剣を知りませんか?」
「お主の剣?・・・ああ、あの見事な剣か。あれなら策殿が持っていたはずじゃが。」
「・・・そうですか。」
ということは、俺は今丸腰って事か・・・。
「さて、客人も起きたことじゃし、策殿を呼んでくるかの。」
女の人は立ち上がると、扉の方へ歩いていった。
「おぉ、そうじゃそうじゃ。お主、ここから出るでないぞ?出ようとすれば、外にいる衛兵が問答無用で切り捨てるからの。」
そう一言残すと、さっさと出て行ってしまった。
(も、問答無用って・・・)
仕方なく、俺はまた寝ることにした。
しばらくすると、扉を叩く音が聞こえた。
「もしも~し?起きてる?」
そう言いながら女の子が二人が入ってきた。
俺はベッドから起きて扉のほうを見ると、そこには俺と同じぐらいの歳の女の子がいた。
片方は眼鏡をかけていて、黒い長髪を靡かせていた。
方やもう一方はピンク色の長髪をしていて、勝気な目、そして肌が若干アジア系統のものだった。
「どうだ?気分の方は?」
「ああ、それには言うに及ばずって所かな。とりあえず、拾ってくれてありがとう・・・なのかな?」
「いいえ、それはどういたしまして。困ったときはお互い様だしね?」
(別に俺は困っていなかったんだけどな・・・)
俺は心の中でそう呟いた。
「それより、キミの名前を教えてくれないかな?」
ピンク色の髪をした女の子が聞いてきた。
「あぁ、そうだったね。俺の名前は北郷一刀。一人諸国を周っている男だよ。キミ達は?」
「私の名は孫策、字は伯符よ。」
「私の名は周瑜、字は公謹だ。」
・・・またこのパターンか。いい加減もうなれたけどさ。
俺はまたもや三国志の英雄が女の子化していることに少し戸惑ったが、気を改めて二人に話しかけた。
「それで、一つ疑問なんだけどさ。どうして俺はここから出ちゃいけないんだ?」
「それは貴方がこれから質問することの答え方によっては変わるわよ?」
「・・・どういうことだ?」
「単刀直入に言おう。私達は貴方が『天の御使い』なのではないかと疑っている。」
ここでも『天の御使い』か・・・
「見たところによると、その着ている服はこの国のものではなさそうだし、貴方が持っていた剣も今まで見たことが無い形だったわ。」
「それに、最近巷ではこう噂を耳にしているのだ。
『天の御使いは二十歳前後の容姿で、最近諸国を巡っているみたいだ』とな。」
(誰だよそんな噂流しているヤツはっ!!てか全部俺当てはまってるじゃんっ!!)
俺は背中が変な汗で濡れていることに気がついた。
「さて、一刀、早速質問するわね?」
ニヤリと孫策が笑った。
「貴方は『天の御使い』なのかしら?」
「・・・・・・。」
俺は押し黙ったまま、孫策を見た。
「あぁ、一つ言うとだな北郷。我らに嘘はつかない方が身のためだ。我々は嘘を見抜くのが得意でな?隠していることがあれば一目でわかるのだよ。」
更に追い討ちをかけるように周瑜が言ってきた。
孫策の目は青い翡翠色で、見ているとなんだか自分が見透かされているような感じがしてくる。
(言っていることは本当なのかもしれないな・・・。)
「それで?答えはどうなの?」
「・・・『天の御使い』かどうかは分からない。でも俺はここの住人じゃないって事だけは言えるよ。」
俺は諦めてそれに答えた。
「・・・冗談を言っている風には見えないわね。」
「当たり前だろ?本当の事を言わなきゃばれるって言ってたじゃないか。」
「え?あれを本気で信じてたの?」
孫策は目を真ん丸くして驚いていた。
周瑜は少し苦笑して、
「あれは冗談のつもりだったのだが・・・まさか本当に引っかかるとはな・・・。」
笑いを堪えていた孫策だったが、遂には笑い出した。
「あ~、『天の御使い』って、結構堅い感じかと思ってたけど、こんなもんだったとはねぇ~。」
その言葉にカチンと来た俺は、
「こんなもんってなんだよ、こんなもんって!!俺を嵌めたな!!)」
「騙される方が悪いのよ。あ~久しぶりに笑ったわ。」
「・・・・・・。」
悪女め・・・。
「それで?これから俺をどうする気なんだ?」
「とりあえず、しばらくはここにいてもらう形かしらね。何か問題でもあるのかしら?」
「ああ、あんた達には悪いけど、俺には待ってくれてる人達がいるんだ。だから、帰らなきゃいけないんだ・・・。」
「へ~、もう先客がいたのか・・・。なるほどね。」
孫策は少し手を顎に当てて考えた後、何か思いついたらしく、手を叩いた。
「冥淋、ちょっと一刀と勝負してもいいかしら?」
「・・・どうしてだ?」
「今から私と一刀が勝負して、私が勝ったらここに残ってもらうことにするわ。逆に一刀が勝った場合、ここから出してあげるのよ。」
「なんで俺と勝負がしたいんだよ?」
「だって一刀強そうだし、それに最近退屈してたのよ。だからか・・・な?」
孫策は笑いながら話していたが、俺は気付いた。
一瞬だが、誰かがいなくて寂しい風な目をしたのを・・・
「私は別に構わんが、北郷?お前はどうだ?」
「・・・受けて立つよ、その勝負。ただし、此方も条件がある。」
俺が二人に条件を話したら、二人は驚いていたがすぐに承諾した。
「それじゃあ、俺の武器は・・・っと、そういえば取り上げられてたんだっけ。」
「それならここにあるわよ?」
孫策が『紅蓮』と『蒼天』を投げて寄越してきた。
「さて、それじゃあ中庭にいきましょうか。」
俺達三人は、中庭に向かって歩き出した。
俺が二人に出した条件、それは・・・
「俺が勝った場合、二人の真名を教えて欲しい。俺が負けたら、この『紅蓮』と『蒼天』を君達にあげるよ。」
そういうと、二人は驚いたみたいだった。
「私達の・・・真名を?」
「うん。もちろん教えたくなかったら別にいいけど。」
二人は顔を見合わせながら話し合っていたが、すぐに結論が出たのか此方を向くと、
「いいわ、その条件を飲みましょう。」
と言って来た。
(でも、まさか本当に承諾してくれるとはね・・・。)
俺は『紅蓮』と『蒼天』を構えながら前を向いた。
既に孫策は名刀『南海覇王』抜き、此方に構えていた。
「いつでもかかってきてもいいわよ?」
「それはこっちも同じさ。」
「・・・それじゃ遠慮なく!!」
そういうや否や、孫策は素早い動きで此方に切りかかってきた。
「・・・ッフ!!」
俺はその太刀筋を見切った後、右の『紅蓮』を下に、左の『蒼天』を上に構えた。
「・・・二刀流奥義が一つ、炎上蒼霞ッ!!」
二刀流奥義、『炎上蒼霞』とは上段に『蒼天』、下段に『紅蓮』を構えて使う奥義である。
一対一を想定して編み出された奥義の一つで、相手が間合いに入ったとき、まず下から『紅蓮』で切り上げ相手の剣を打ち払った後、すかさず『蒼天』を振り下ろす。そして最後に高速に回転し、『紅蓮』、『蒼天』の二本で相手の胴体を真っ二つにする。防御した後のカウンターが早いこの奥義なのだが、この奥義は体に負担がかかる為、あまり多用すべき技ではない。
俺はまず頭上から振り下ろされた『南海覇王』を『紅蓮』で弾いた後、すかさず『蒼天』を振り
下ろした。が、
「っく!!」
と孫策は俺が打ち払った衝撃を利用して後ろに下がろうとしていた。
(させるかっ!!)
俺は『蒼天』を振り下ろすのを止めて、一気に間合いを詰めようとした。
だが、
「甘いわね!!一刀!!」
孫策はそれを読んでいたらしく、大勢を整え、此方に『南海覇王』を突き出してきた。
(仕方ないな・・・)
「!?」
俺がそのまま突っ込んでいたら、孫策の読み通り突き刺さっていただろう。
だが俺は咄嗟に『蒼天』を地面に突き刺し勢いを小さくした後、そのまま『南海覇王』を避けながら開いた左手で孫策の懐に技を叩き込んだ。
「無刀流、一点突破!!」
勝負は俺の勝ちだった。
一点突破は本来岩をも砕く剣技なのだが、俺は独自にそれを素手で出来ないだろうかと考えて、完成させた技の一つだ。
まぁ、人間相手に使う技じゃなかったんだけど、本気を出さないなら少し強い掌挺程度の強さだから、骨折はしないだろう。
「立てるか?」
「げほっ、げほ!!・・・ッ痛、ちょっと無理っぽい・・・。」
「まぁ、無理も無いか。いかに軽くやったとしてもキツいものはキツいしな・・・っと。」
「ちょ、一刀!?」
「はいはい、動けない人は暴れない暴れない。」
俺は孫策をいわゆるお姫様抱っこすると、周瑜の元に歩いていった。
「あの雪蓮が負けたなんて・・・。文台様以来だな。」
「文台って、孫堅の事?」
「ああ、今はもう亡くなられてしまったが、それはとても強かったのだ。雪蓮は文台様に鍛えてもらっていたのだが・・・。」
「あ~、久しぶりに少し本気だしたなぁ。まさか一刀があんなに強いだなんて思わなかった~。」
「それ、どういう意味だよ・・・。」
「どうって、もちろんそのままの意味だけど?」
「お前なぁ・・・。」
気付けば、俺達は何年も一緒だった友達のように話していた。
俺は孫策を下に下ろした。
「なんだか、一刀ってずっと昔から友達だったような感じがするなぁ・・・。」
「私も同じだ。」
「なんだ、二人もか。実は俺もなんだよ。」
そういいあうと、俺達は噴出した。
「それじゃあ、約束どおり私の真名を預けるわね。」
「・・・無理して教えなくてもいいんだぞ?」
「何を言ってるんだ?北郷。これは私達の意志だ。」
「そうなのか?・・・まぁそれなら別にいいけど。」
「私の真名は雪蓮よ。」
「私の真名は冥琳だ。」
二人は俺に視線を向けてきた。
「一刀の真名は?」
「あぁ~、実は俺真名無いんだよ。だから、こちら側で言うなら一刀ってのが真名といえるかもしれないな。」
そういった途端、二人は目を真ん丸くした。
「そ、それじゃあ初対面の相手にもう真名を許しているのか・・・?」
「信じられない・・・。」
「まぁ、俺はそういうの気にしないしな。別に。」
そして俺はポケットからあるものを取り出した。
「一刀、何それ?」
「これは、俺の世界で言うお守り・・・かな。ほら、手を出して。」
俺の言うとおりに二人は手を差し出した。
「俺が向こうの世界にいた時、手作りしたお守りだよ。このお守りに俺は、「無事でありますように」って念じながら作ったんだ。本当は爺ちゃんと婆ちゃんにやるつもりだったけど、二人に持っていて欲しいんだ。俺の始めての友達として・・・。」
俺は初めて出来た友人二人の手にお守りを渡した。
「一刀・・・」
「北郷・・・」
「俺はもう帰らなくちゃいけないけど、きっとまたそのお守りが俺達を合わせてくれるさ。」
桃香達や華琳達とは違う、この始めての感覚はきっと初めて友達が出来たものだと思いたい。
「ってことは、私たち三人は親友ってことだね♪」
「そうだな。雪蓮の言う通りだ。たとえ道が違っても、きっとまた巡り合わせてくれるのだろう、北郷?」
「ああ、もちろん。」
俺は親友二人に笑顔で答えた。
「それじゃあ、行くのね。」
「ああ、雪蓮と冥琳には悪いけど、行かなくちゃ。」
俺達は屋敷の出口の前にいた。
「北郷、次に会う時は戦場じゃなければいいな。」
「そうだな、冥淋。お互いそう願おう。」
「一刀さん、もう行っちゃうんですかぁ~?」
「ごめん、穏。あんまり話せなかったけど、今度はいろんな話をしような。」
「北郷、お主と一回打ち合ってみたかったのじゃがのぉ。」
「祭さん、それも今度あった時にお相手お願いします。」
穏と祭という人は、あの後で雪蓮と冥琳に紹介された陸遜、黄蓋の二人の事だ。
穏は冥琳の一番弟子で、祭さんは雪蓮の母さん、孫堅の代からいる宿臣だ。
二人とも、俺達が仲良くしているのを見てとても不思議がっていたが、今ではそんな事は無くなったみたいだった。
「それじゃあ、皆。また会おう!!」
「道中気をつけてな。」
俺は皆に送り出されながら、桃香達がいる幽州へと馬を走らせた・・・
あとがき
どうでしたか?三連休ということで、かなり時間をかけて書いてみました。
執筆途中に書いていた文面が吹っ飛んでしまったときは、挫折しそうになりましたけどね・・・
さて、今回から文が見やすいように一行開けて書いてみました。
これは、友人が「見難いから間空けたほうが見やすいぞ」と言ってきてくれたので、早速やってみました。
それと、あとがきも今回から書き始めたいと思います。
出来る限り三日以内に更新したいと思っていますが、出来ない日もあるかも知れません。
まぁ、過度な期待はしないほうがいいと思います。
それでは、長くなりましたがお疲れ様でした!!
※追伸 今までうpしたものも一行開けて更新します。こんなどうしもようもない二次創作作品を見てくださる方々に今までの見づらさのお詫びと、支援してくださる方々、コメントしてくださる方々に感謝し、より一層頑張って行きたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願いします。
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第六話目です。
他の作品を見ていると、勉強になるところが沢山ありますね。