No.158223

『舞い踊る季節の中で』 第66話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

孫策の南海覇王が、袁術と張勲に向かう。
二人の望みに孫策は応えるのか、それとも……、

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2010-07-16 21:33:21 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:19422   閲覧ユーザー数:12371

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -寿春城編-

   第66話 ~ 籠より飛び出した鳥は、最後の舞いを踊る ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術

  (今後順次公開)

 

七乃視点:

 

 

美音様、

 

空羽様、

 

私と美羽様は、御二人の処には行けません。 …きっと地獄に落ちるでしょう。

力足りずに、こう言う手段を取らざる得なかった事、心より謝りたく思います。

せめて美羽様だけでも、そちらに行かせる事が出来ればと、願うばかりです。

 

そんな、想いを浮かべながら、

せめて、美羽様を抱きしめながら、

この愛らしい義妹と一緒に逝けるよう、

美羽様の前に、私の体投げ出し、

最後の時を待ちます。

 

「…!」

 

ひゅっ

がっ!

 

 

 

雪蓮視点:

 

 

南海覇王を袁術の喉元に突き込もうと、動く私の前に、

張勲が、袁術を庇おうと、……いいえ、せめて一緒に逝こうと、

体を袁術を抱きしめるように投げ出してくる。

 

(そう、なら一緒にそのまま逝かせてあげる)

 

そう思った。

剣先の軌道を変える気もなかった。

だけど、私の目に映った袁術の顔を見た瞬間、

 

私はとっさに、剣先を逸らし、

剣は、二人のすぐ横を通り過ぎ、壁に突き刺さる。

 

袁術の最期の最期で見せた、彼女の本心。

安らかな笑みを、

自分がやり遂げた事に、満足した笑みを、

もう終われるのだと、安心した笑みを、

それを見た瞬間、私は考えるより先に体が動いた。

 

……この娘、そこまで……、

 

そう、そう言う事。 ……なら、話は別ね。

私は、これから起きる事を考えた上で、その事に対して腹をくくり。

 

「な~んてね」

「…え?」「…ほぇ?」

 

いつもの調子でおどけて見せる。

そんな私に、二人は一瞬目を丸くさせているのを、確認しながら、

私は壁に突き刺さった南海覇王を抜き取り、鞘に納め、

 

「殺る気失せたわ」

「えっ…えーと、首を刎ねないんですか?

 そ・それとも公開処刑に変更ですか?

 できれば武人の情けと言うか、苦しまずに死ぬ方法の方が良いんのですが…」

「そうじゃ、そうじゃ! それとも、孫策はその胸の大きさと同じで、陰険さも人一倍大きいのか」

 

ぎろっ

 

「…ぴっ! 七乃、孫策が怖いのじゃ、助けてたもれ」

「あらあら、孫策さんは怖い人なんですから、安全な所で罵ってあげなければいけませんよ」

「おぉー、そうじゃそうじゃった。 で七乃、安全な所とはどこじゃ?」

「それはですね・」

「いい加減、芝居はやめなさい。 私を無暗に怒らせようたって、芝居とばれている以上無駄よ」

 

 

 

 

ぴくっ

 

二人は、私の言葉に小さく肩を震わした後、

先程と違って、酷く疲れた表情、

……いいえ、生気を失くした袁術の髪を、一度撫でるように優しく梳いた張勲が、

何時もと何も変わらない表情と口調で、

 

「だとしたら、何だと言うんですか?

 どうしてそう思ったかは知りませんが、孫策さん達には、私達を討つ必要があるはずですよ。

 私達の頸を刎ねる理由はあっても、刎ねない理由は無いはずです。

 なら・私達が・」

「黙れ」

 

張勲の口を、私は本気で殺気を込めた言葉で黙らせる。

 

「確かに私にとって、貴女達を生かしておく理由は何一つなかったわ。

 正直、機会があれば、殺したいとさえ思っていた。

 でもね、殺して喜ぶような人間を、わざわざ殺してあげるほど、私はお人よしのつもりはないわ」

「いったい何を・」

「黙れと言ったはずよ。 次は、袁術ちゃんの手首か足首辺りを落としてあげるから、気をつけなさい」

 

また何か言おうとする張勲を、そう脅して黙らせる。

正直、今の張勲の話を聞く気はない。

死にたがっている人間の話など、腹が立つだけ。

折角の決意が鈍る前に、話に決着をつけるわ。

 

「死んで楽になんてさせない。

 死んで楽になるような人間を殺したところで、死んだ者は浮かばれたりしないもの」

 

この二人は、一刀の言うとおり、進んで民を苦しめていたわけじゃない。

もし、その事に何も感じていないのなら、あんな顔は出来ないし、

死の瞬間まで、あんな演技をする事なんてできないわ。

民を苦しめてしまった事に、そこまで悔いているのなら、裏切る可能性は、まずない。

問題は、この二人が、生きて償う気になるかだけど……、私がこれ以上言っても、話しがこじれるだけね。

 

「一刀、この二人の事は貴方に任せたわ。

 貴方が二人を助けろと言い出したのだから、文句は聞かないわよ」

「ああ、分かった」

「細かい事は後で決めて知らせるから、そのつもりでいなさい」

 

ズキッ

 

無理に剣先の軌道を逸らしたせいか、壁を突き刺したせいなのか分からないけど、手首が痛む。

だけど、私はその痛みを無視して、一刀に二人が落ち着いたら合流するように告げ、

本当の敵である老人達を捜しに行く。

 

……一刻も早く、この戦を終わらせなくちゃね。

 

 

 

美羽視点:

 

 

予想以上に早く、勝敗がついてしまったが、

それ故に、あの者達の慌て振りは酷く、結果的には七乃の思惑通り事が運んだのじゃ。

後は、仕上げに妾の本当の日記を見つけやすくしておけば、

妾達が死んだ後、孫策達があの日記を見つけ、あの者達と、それに関わる者達の逃げ道を塞ぐ事が出来るはずじゃ。

 

そして、こんな事に巻き込んでしまった多くの民と孫策に、

妾達の命を持って、償うだけじゃ。

少しでも気が晴れるよう、最後まで馬鹿な君主を演じてみせるのじゃ。

……もっとも、もう妾自身、どちらが本当の自分か分からぬ故、演技とは言えぬかもしれないがのぉ。

 

そして、七乃の言う通り、孫策は直接妾を討ちに来たのじゃ。

妾達は、部屋の隠し棚に潜みながら、頃合いを見て、孫策の前を逃げて見せたのじゃ、

そして孫策は、妾達に詰め寄り、その剣を抜き放ち、妾達の命を刈り取りに来たのじゃ。

 

その剣の前に、泣き叫んでみせる妾達に、妾達の望み通り、その剣をまっすぐと突き込んできたのじゃ。

七乃に、抱きしめてもらいながら、最後の時を迎えようとする妾は、

その剣を見つめながら、

 

 

もう…誰も傷つけずに済む……、

 

 

そう、心から安心したのじゃ、

母様と姉様のように、民に笑顔を取り戻させる事は出来なんじゃったが、

きっと孫策なら、民に笑顔を取り戻させる事が出来るのじゃ、

これでやっと、民に笑顔を取り戻させる事が出来るのじゃ、

なのに、

 

「…!」

 

ひゅっ

がっ!

 

剣は、妾達の体を突かず、横に逸れ壁に突き刺さったのじゃ。

そして、

 

「な~んてね」

「…え?」

「…ほぇ?」

 

孫策は、そんなおどけた風に、言ってみせるのじゃ。

なぜ剣を逸らすのじゃ、妾を恨んでいるはずではないのか?

だから、妾は七乃と共に、もう一度孫策にその気にさせようとしたのじゃが、

 

 

 

 

「いい加減、芝居はやめなさい」

 

ぴくっ

 

孫策のその一言が、妾を絶望に落としたのじゃ。

妾達の悲願が、失敗に終わったのだと言ったのじゃ、

あの者達と共に、袁家をこの地上から消すと言う悲願が、

終わったのじゃ………、

 

……妾は、いったい今まで、何のために……、

民を苦しめると知っていながら、

その先に母様と姉様が願う民の笑顔があると信じて、

全てを掛けて来たと言うのに、………それが終わってしもうたのじゃ。

 

悲しみと嘆きで、

怒りと復讐心で、

狂ってしまいそうな心を、

あの幸せだった時間を糧に、

幼き時見た民の笑顔を糧に、

狂った仮面を被り続ける事で、

此処まで歩んできたと言うのに、

孫策の言葉は、妾の仮面を叩き割ったのじゃ、

妾など、仮面を被らねば、もう何も残っていないと言うのに、

 

 

 

 

 

……もうよい、

 

 

 

 

 

………疲れたのじゃ。

 

 

 

 

孫策が立ち去った後、

見知らぬ男が、妾達の前に立つ、

 

「私達を慰み物にでもするつも・」

「そんな気はないよ」

 

七乃の言葉を、その男の否定の言葉が遮り、

そして、座り込む妾の達に合わせて、腰を落としてくる。

妾は…もう、どうして良いだか分からぬ。

 

ぽんっ

 

何を思うたのか、その男は妾の頭に気安く手を置き、

 

「頑張ったね」

「……っ」

 

そんな事を言ってくる。

 

「もう、誰かを傷つける必要はないんだよ」

(なんで・・・、)

 頭の置かれた手から伝わるように、

 

「もう、仮面を被って生きる必要はないんだよ」

(なんでじゃ・・・、)

 この男の優しげな声色と共に、

 

「もう、みんなの笑顔を望んでも良いんだよ」

(そんな事を、なんで・・・、)

 妾の中に、何か温かなものが入ってくるのじゃ、

 

「もう、君が本当に望んだとおり生きて良いんだ」

(そんな事を今言われたら、妾は……、)

 どこかで感じた事のある温かみに、自然と視界が滲むのじゃ

 

「きっと、君を見守っている人達もそれを望んでいる」

(あの日から、我慢してきたと言うのに・・・、)

 何かが頬を伝い落ちて行くのじゃ、

 

「本当に、今まで良く頑張ったね」

(だめじゃ・・・もう、我慢できない・・・・・・のじゃ、)

 妾は、……妾は……、

 

「うぐっ、うっ・・ううわぁぁぁぁぁぁ-------ん」

 

何かが崩れ落ちるように、

 

妾は、見知らぬ男に向かって、

 

何年も貯めた泥を全てを吐き出すように、

 

心の底から、

 

吐き出したのじゃ、

 

 

 

視界は真っ白で、何もわからぬ。

 

じゃが、それでも、

 

確かに伝わるこの男の温もりに、

 

妾は、力の限り泣き喚いたのじゃ。

 

 

 

七乃視点:

 

 

「…………」

 

私は、目の前の光景に、呆然としていました。

あの美羽お嬢様が、

あの時以来、本当に泣く事などしなかったお嬢様が、

今、……心の底から泣かれています。

 

この見知らぬ人間の胸で、

幼子のように、優しく頭に手を置かれて、

見た目通りの子供の様に泣かれています。

 

この何の変哲もない人間に、

もし、お嬢様に何か良からぬ事をすれば、

隠し持った短刀で、直ぐにその喉元を掻き斬るつもりでいた人間に、

お嬢様は無防備に、泣きつかれます。

 

確かに、この人の言葉は、私の心に不思議と入ってきました。

あの程度の甘い言葉なんて、いくらでも聞いてきたと言うのに、

この人の言葉は、まるで私の身体を、優しく包み込みます。

なぜ、こんなに、……こんなに、心を穏やかにさせるのでしょうか。

 

そんな風に呆然する私を、

この人は、どこか酷く疲れた顔なのに、どこか安心させる表情をした顔を私に向け、

事もあろうに、空いている手で、私の頭にまで手を置いてきます。

でも、不思議と嫌悪感は湧かず。

頭に伝わる僅かな重みと感触に、

私は、まるで子供の頃の気分になります。

まるで、両親に、……そして、美音様にされた時の事を思い出します。

 

「もう、誰もこの娘を、そして君を傷つけたりしない」

「……っ」

 

「誰にも、君達を傷つけさせたりしないから」

「………」

 

「今までお疲れ様。 もう大丈夫だから」

「………」

 

そう言って、どこか辛そうな、だけど温かな笑顔を浮かべてきます。

……そうなんですね。

……この人は、今までの優しい言葉だけを言う人達とは違うんですね。

心が潰されてしまいそうな悲しみも、

張り裂けそうな心の叫びも、

辛くても、歩み続けなければいけない苦しみも、

私達の想いと同じモノを知っている人なんですね。

 

そして、私達のそんな想いを知ったうえで、

私達を想って、その想いを言葉にしてくれていたのですね。

 

……だから、

 

  ……だから、こんなに、

 

      ……心に染み渡ってゆくんですね。

 

 

 

 

その後の事は良く覚えていません。

ただ、気が付けば、

私は目を腫らして、この人の肩に、額を付けていました。

この人の肩の不思議な布は、何かで濡れつつも、

その下の温もりは、しかっりと私に伝わって来ました。

 

 

 

一刀視点:

 

 

俺は二人の頭を優しく撫でながら、

二人が今まで頑張った事を褒めるように、

二人が今まで堪えてきた事を少しでも解してあげれる様に

二人が心行くまで、その貯めた想いを吐き出せるように、

俺が翡翠にしてもらったように、ゆっくりと二人の頭を撫でてゆく。

 

孫策には無理を言ったし、理屈っぽい事も言った。

だけど、こうして、二人を助ける事が出来て良かったと思う。

あれだけ人を殺した俺に、そんな事を言う資格は無いと分かっている。

それでも、この二人が、悲しい誤解を受けたまま死なずに済んだ事が、

ほんの少しだけ、俺の心を軽くした。

 

 

 

 

やがて四半刻もした頃、

俺の肩に顔を隠すようにしていた七乃が、顔をゴシゴシ拭いた後、

泣き付かれて寝ていた美羽を抱き起しながら、俺からそそくさと離れ、

 

「えーと、どちら様ですか?」

 

等と、今更ながらに警戒したように聞いてくる。

だいたい、どちら様も何も………あーっ、そう言えば、あの時とは格好が違うし、

そもそも一度しか会っていないんだから、分からないのも無理ないかもしれない。

俺は、頬を掻きながら、どうしようかと迷いはしたが、ここで嘘をつくのは良くない気がしたので、

 

「俺は北郷一刀、信じられないかもしれないけど、君達には『 大喬 』って言った方が分かるかな」

「んな゛っ」「えっ」

 

俺の言葉に、後半の部分に二人は驚きの声を上げる。

……まぁ、考えてみたら当然かもしれない。

普通男の俺が、女性と同一人物だと言っても信じられないよな。

だから、声の調子を確かめながら、

 

「あの時は、姿を偽ってしまい、申し訳ございませぬ。

 ですがこの大喬、あの時御二方と共に舞を楽しめた事、何の偽りもございませぬ」

 

と、あの時の声と調子で話しかけてみたのだが、

 

ぺたぺた

むにっ

 

と、俺の言葉を聞くなり、何故か無遠慮に俺の胸に触れてみたり、頬を摘まんできたりしながら、

 

「なぁ七乃、この者はこう言っておるが、妾には嘘を言っておるようには思えぬ。

 だが、この者は男じゃし、大喬とは……まったく似てないとは言わぬが、別人にしか見えぬ

 おぉ、意外に伸びるのじゃ」

 

むにむに、

 

「でも、背格好は同じくらいですよ。

 それに先程の声は確かに大喬さんのものですし、嘘をつくなら、もう少しまともな嘘をつくでしょう。

 信じたくないですが、化粧次第で何とかなるのかもしれませんねぇ。

 ……それにしても、この肌の潤いとすべすべさ、うらやましい限りですね~」

 

むに~っ、

 

……まぁ、とりあえず、納得してくれたようだし、

多分、これがこの人達の、この人達らしさなんだろうけど………

確認のためとは言え、玩具にされて喜ぶ趣味は俺には無いので、

 

むにっ

 

「ほがっ」

 

むにむにっ

 

「はひほふる、ほのふれひほのめっ」

 

とりあえず目の前の美羽の頬を摘まんでみたのだが、

 

「おぉー、たしかに、よく伸びるなぁ」

「ははふほひゃ」

 

それに、もちもちして柔らかい。

俺は少し調子に乗って、美羽の両頬をあまり痛くない程度に、引っ張って遊んでみたのだけど、

 

「まぁお嬢様、とっても愉快なお顔ですよ」

 

と、美羽の頬をつかんだ瞬間、俺から距離を取った七乃が、面白げにこちらを眺めながらそんな事を言ってくる。………なるほど、見定め中と言う訳ね。

 

「ははの、はんほはふるほじゃ」

「お嬢様、命令はきちんと言ってくれないと、私は何をしてよいのか分かりません。

 あぁ、変顔でうっすらと涙ぐむお嬢様、可愛いです」

 

………趣味も入っているのね。

 

 

 

 

まぁこれ以上やって、本当に泣かれても困るので、美羽を開放すると、

七乃の所に逃げ込むと思ったのだが、美羽は俺の顔を見つめながら、

 

「なぜじゃ?」

「?」

「お嬢様は、何故助けたのかと言っているのです」

 

俺が美羽の言葉に、一瞬戸惑っていると、七乃が美羽の言いたい事を補足してくれたのだけど……、

はぁ~~、まだそんな事言っているのか、と俺は心の中で小さくため息をつきながら、

 

「まぁ理由を付けようとしたら幾らでもあるけど、

 このまま死なす訳には行かない、と思ったからかな」

「そんな事で妾達の願・」

「死んだ所で、誰も浮かばれないよ。

 生きる選択があるなら、生きて償うべきだ。

 そしてその上で、君達の本当の望みを、君の家族が望んだ願いを叶えるべきじゃないかな」

「何を言う。 その様な事許される事では無い事ぐらい、妾とて分かるのじゃ」

「じゃあ、一つ賭けようか、 孫策がこのまま君を生かし、償いの道を要求した場合、

 君達は死ぬ事など望まず、民の笑顔のために生涯尽くす事を」

 

俺の言葉に、美羽は一瞬驚きの顔を見せたものの、

七乃の顔色など伺わずに、毅然とした顔で俺を見つめ、

 

「分かったのじゃ、我が真名に掛けて誓おう。

 じゃが、もう一つ聞かせるのじゃ、何故妾の家族の望みを知っておるのじゃ?」

 

ギクッ

 

……美羽の言葉に、俺は心の中で冷や汗を垂らしながら、

 

「…さっきの賭けに、これから言う事を許す、と言うのも入らない?」

「いいから言うのじゃ」

「えーと…非常に言いにくいんだけど……棚の奥の日記を読ませてもらった」

「…………」

 

俺の言葉に固まっていた美羽だが、

やがてその硬直も解け、

 

 

「ん゛な゛ぁーーーーーーっ!!」

 

 

そう、驚きの声を上げる。

 

 

 

 

城中に響き渡りそうな美羽の驚声が、辺りに響き渡った。

だけどそれは、この娘本来の心が発したものだと思う。

いつも仮面を被り続けていたこの娘が、

この小さな背中に、潰れそうな想いを載せて生きてきたこの娘が、

何のしがらみも関係なく、

『 美羽 』と言うただ一人の少女としての言葉、

例え、それが驚きや羞恥心、そして怒りだったとしても、

この娘自身、本来持つ心の一端だと思う。

 

今はそんな小さな事でも、

そのうち、心行くまで、その純粋な心のままに生きていてほしい。

生きていれば、辛い事もあるだろうけど、

きっとそれは、後から思い出せば、『そんな事もあったな』と笑い飛ばせると思う。

この娘達は、民を想い。

民の幸福を願ってきた。

この娘達を恨む人間も多いだろうけど、

それは誤解で、そうせざる得なかった理由があった。

それでも、その中で、民の為に力の限り生きてきた事には違いない。

 

だから、きっと幸せになる資格があるはずだし、

孫策や皆も、直ぐには無理かもしれないけど、きっといつか分かってくれる。

 

 

俺は涙を浮かべながら、羞恥心のあまりに、怒ってくる美羽を、

見た目姿通りの力の無い握り拳で、俺の胸元を叩いてくる美羽を宥めながら、

そんな美羽を、どこか嬉しそうな顔で見つめている七乃に、目で助けを求めるも、笑顔で黙殺される。

仕方なかったとは言え、女の娘の日記を、勝手に覗き見た罰がこれなら、

まぁ仕方ないかと、美羽の気が済むまでやらせてあげようと思いながら、

俺は、二人のこれからの人生に、幸在らん事を天に祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

 第66話 ~ 籠より飛び出した鳥は、最後の舞いを踊る ~  を此処にお送りしました。

 

お詫び、

 前回の更新から大分間が開いてしまい、待っていた読者様達(居るのか?)には、大変ご迷惑とご心配をおかけいたしました事をお詫びいたします。

ある程度予想ついては居たのですが、忙しくなる季節の上に、私事の方でも色々事件があり、執筆所かTINAMIの他の方々の作品を見る事すら儘ならない状態でした。

実はまだ忙しい真っ最中なのですが、ぽっかり空いた空間と言いますか、この連休は少しは執筆できる時間が出来た次第で、やっと投稿する事が出来ました。(実を言うと、今回の作品の9割は、忙しくなる前に出来ていたものです)これからも執筆を頑張っていきたいと思って居ますが、こう言う事もありますので、その辺りは、どうかご理解の程をお願いいたします。

 

さて本来は、今話で『寿春城編』に大方のケリをつけるつもりでしたが、……すみません、書きたい事を書いていたら長文になってしまい、また話が伸びてしまいました(汗

とりあえず、美羽と七乃の一幕で今回は終わりです。

次回は終戦処理となりますが、まだ見つかっていない『袁家の老人』達、そして一刀の心の傷へと話を持っていきたいと思います。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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